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Frantic Chasing (前編)


おこんばんは!
ぞうはなです。

えらく忙しい週だったのに結構順調に更新出来てます。

さて今日はまだ残っていた!5まんひっとのリクエスト。
花様からいただきました!リクエストのお題は『全速力で逃げる。』。
花様、リクエスト送られたことを忘れるほどの時間が空いてしまいまして申し訳ありません。

前後編か前中後編か、ちょっとまだ定まりませんが見切り発車で前編でございますー。
ちなみにこのお話は原作沿い、成立していない前提です。





「やあ京子ちゃん、おはよう」
「おはようございます、丹羽さん」

撮影スタジオの一角でキョーコが深々と頭を下げた相手は、現在女優京子が出演中のドラマのプロデューサーである丹羽と言う男だった。
丹羽はプロデューサーとしてはまだ若いがかなりのやり手と噂で、カジュアルなファッション、背が高くがっちりとした体格と日焼けした肌はスポーツマンらしい雰囲気だ。現場にもまめに足を運び、俳優陣ともかなり仲がいい気さくな人物だとキョーコは聞いている。

「どう?この現場は」
「はい、とても楽しいですし、それ以上にすごく勉強になります!」
ゴールデンタイムの連続ドラマ。主演は敦賀蓮、というだけで一定の視聴率は稼げるのだが、脇を固める俳優陣も実力派ぞろい、先が読めないストーリーも話題となって、まだ序盤ではあるものの回を追うごとに数字は伸びている。

キョーコは蓮の腹違いの妹を演じ、兄への複雑な想いを抱えながらも既婚者である兄の親友に惹かれてしまう、という心理描写が難しい役柄をうまくこなしていた。

「いや~、今更だけど京子ちゃんを抜擢して大正解だったなー。『Dark Moon』見て、なんか光るものを感じたんだよね」
「ありがとうございます」
キョーコは照れ照れとはにかんだ。自分では女優としてはまだまだヒヨッコ、駆け出しだと思っているのだが、撮影が始まる前から丹羽にはその実力を賞賛されていて素直に嬉しい。難しい役をこなせると期待されての抜擢に、キョーコはしっかり応えなければと燃えているのだ。

キョーコはハキハキと笑顔で丹羽と会話を交わしていたが、スタジオの入り口が賑やかになったのに気づいて振り返った。
入り口からは穏やかな笑みを浮かべた蓮が社と共に入ってくるところだ。スタッフや共演者たちと挨拶を交わしていた蓮は丹羽とキョーコに気がついたようで、真っ直ぐこちらに向かってくる。
「おはようございます」
声をかけられた丹羽は上機嫌で蓮の肩を叩いた。
「よう、おはよう蓮。調子はどうだ?」
「ええ、おかげさまで」
「今度さ、一緒にコースまわんねえ?って、蓮はゴルフしないんだっけ」
「打ったことはありますが…」
「そうか~。京子ちゃんは?」
いきなり話題を振られてキョーコは驚きつつも返事をした。
「はっ?いえ、私はゴルフやったことないです」
「楽しいよー。今度やってみる?教えてあげるよ、案外すぐ打てるようになるぜ」
「はあ…ではその内……」

曖昧に返事を返すと、蓮が時計を見てキョーコを促した。
「さて、そろそろリハだ」
「あ、はい!今日もよろしくお願いします」
「うん、こちらこそ」
顔を見合わせて蓮とキョーコは笑う。では、と頭を下げたキョーコに、丹羽は手を伸ばすとキョーコの頭を撫でた。
「おう、今日も頑張ってな!」

仲良く並んでセットへと歩み去る2人の姿を、丹羽は顎に手を当てながらじっと見守っていた。


次のドラマ撮影日、キョーコは早めにスタジオ入りしてまたそこで丹羽の姿を見つけた。
どうやら向こうはキョーコが入るのを待っていたようだ。すぐに手を上げながら近づいてきて、「ちょっといい?」とキョーコをスタジオの外へと連れ出した。

丹羽はすれ違うADなどとも機嫌よく挨拶を交わしながら1つの部屋へとキョーコを導きいれ、椅子に座らせる。考え込むように少し黙っていた丹羽だったが、「あの…?」と声を出したキョーコに対して両肘を突いて身を乗り出してきた。
「なあ、ぶっちゃけて聞いちゃうけどさ、京子ちゃんって敦賀君と仲いいんだよな?」
「ひぇっ?な、仲がいいなんておこがましい!いえ、敦賀さんは私の尊敬する先輩です!ふがいない後輩を気にかけてくださってはいると思いますが、そんな仲がいいとかそういう…!」
「ああ、まあ、そうか。分かった分かった。それはいいからさ」
「はあ」

手を振ってキョーコの言葉を遮った丹羽に、キョーコは口をつぐむと少し体を小さくして次の言葉を待った。
「いやね?どうもスタッフから2人が怪しいって噂を聞いてさ?」
「そそそそんなこと!とんでもない!!」
再びキョーコは青い顔で慌てて否定する。丹羽はがりがりと頭をかいた。
「なんもないならいいんだけどさ。ちょっと今、スキャンダルは困るんだよね」
「わ、私と敦賀さんにですか?何もないです!!」
「こないださ、蓮の車に京子ちゃんが乗るの見た奴がいて。ちょっとした騒ぎになったらしいんだわ。まあ分かるよ、同じ事務所だし、京子ちゃんはマネージャーがついてないんだよな?そうすると足も困るんだろうしさ」
「す、すみません…敦賀さんがご好意で時間と方向が合った時に送ってくださることが」
「いや俺もね、事情は分かるよ、そんなこったろうなって思ってたからさ!京子ちゃんそんな軽い子じゃないし、蓮もチャラチャラした奴じゃないしな」
「はあ、ありがとうございます…」
キョーコはすっかりしょぼしょぼと小さくなってしまった。ただでさえも自分は蓮に想いを抱いてしまっていると言う引け目がある。表には出さずに心に秘めているつもりなのに、もしかしたらどこかから漏れ出してしまっているのだろうか、すこぶる自信がなくなってくる。

丹羽はやさしく笑顔を作ると少しキョーコのほうへ身を乗り出した。
「ほら、このドラマって主役同士の恋愛がどうなるのかってのが結構軸だろう?だからね、イメージ崩れるのも変な話題になるのも嫌だから、ちっとだけ気をつけてくれる?」
「は、はい!」
「スタッフの中には疑ってる奴もいるから、ここの現場であんまり近づき過ぎないように。あと、車に乗ったりもちょっとね…」
「すみません、軽率でした…気をつけます」
キョーコは深々と頭を下げた。何がどうって、現場でそんなに浮かれた気分でいるなどと、そんな風に見られるのは本意ではない。それに、そんなことで人に迷惑をかけるとは申し訳なくていたたまれなかった。

しかし丹羽は嬉しそうな声を出した。
「いや、やっぱり京子ちゃんはいい子だよな!」
ええ?とキョーコが顔を上げると丹羽は満面の笑みだ。
「いや、最近の子はさぁ、そんなの誤解です!とかプライベートは勝手でしょ!なんて言い訳ばっかでさ、まあ言う事聞いてなんてくれないからなぁ~。京子ちゃんは素直だし理解が早いし、いや俺本当助かっちゃうよ」
「いえそんな」
「じゃあ、頼むね!別に、蓮としゃべるなって言ってるわけじゃないから!」
丹羽は立ち上がり、キョーコも後に続く。丹羽はドアに手をかけたところでぴたりと止まり、振り返った。

「ああそうだ、この話、蓮には内緒にしといてくれる?あいつもさ、役者としてのプライドがあるだろうし怒られたら困っちゃうからさ」
「はい、分かりました。私が気をつければいいってことですよね」
「さすが京子ちゃん!すまないね、今度、飯食いに行こうぜ!」
丹羽はキョーコの頭をわしわしと撫でると、大またで歩き去った。


自分の恋心を差し引いて考えても、職場である撮影現場で噂になるような行動は控えなければならないし、根も葉もないスキャンダルでドラマの評判が汚れるなど考えただけで恐ろしい。
キョーコは素直に丹羽の要望を聞き入れるつもりだった。

それにしてもちょっと気を引き締めないといけないわよね。
そうよ、この想いは敦賀さん本人にだって誰にだって、決して気づかれちゃいけないんだから!


頭に「バカ」がつくほどの素直さで、キョーコは決意を固めた。そして撮影現場へと戻ったのだが。
すぐにキョーコは丹羽からの要望に応える困難さを認識した。そして同時に、自分と蓮との距離について気がついてしまったのだ。

つ、敦賀さん、近い、近いです…!
なんで今まで気がつかなかったんだろう…


蓮は普通に先輩としてキョーコに接していると思っていた。自分に対する態度は他の共演者やスタッフに対するものと同じだと。今までそう信じていたのだ。
なにせ、役とはいえ兄妹として過ごしていた時は何かとスキンシップが激しかったのだ。蓮とキョーコの距離はカインと雪花の距離の数倍である(いや、正確には0はいくつかけても0だ)。キョーコがそのギャップで麻痺していたのも無理はない。

だけど丹羽に言われたことを意識の上において撮影に臨んでみればどうだろう。
気がついてみればかなりの頻度で蓮はキョーコのそばにいるし、キョーコに対してするようなからかいの言動は他の共演者に対しては出ない。演技で疑問があって聞けばくっつきそうな距離で台本を覗き込んでくるし、ちょっと離れていても目が合ってしまう頻度は他の誰よりも高い。

キョーコ落ち着くのよ!
きっとこれは私が敦賀さんを意識しちゃってるだけで、敦賀さんはなんとも思ってないんだから!

キョーコは必死に動揺を隠して振る舞ったのだが、とにかく誤解をされてはいけない、という意識が少しだけ挙動に出てしまったようだ。蓮と話している最中にふと髪の毛がくっつくほどの距離に気がついたキョーコは、あからさまに一歩下がってしまった。

「最上さん…どうしたの?」
いきなり遠のいたキョーコに蓮は率直な疑問を述べる。
「いえ、どうもしません!」
キョーコはややこわばった表情で答えるが、とった距離を元に戻そうとはしなかった。

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