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叶えたい願い (30)


こんばんはー!ぞうはなです。
最近続き物は長くなる傾向ですが、「叶えたい願い」も今回で完結ですーー。
長々とお付き合いありがとうございました!
ねここ様、素敵なリクエストをありがとうございましたー。
では最終話、どうぞー。





「ったく…ポチリの奴、しっつこいんだよな…」

ぶつぶつと文句を言いながらテレビ局の廊下を歩くのは、人気ミュージシャンの不破尚だ。
音楽番組の収録前、早めに楽屋に入っていたらどこでどう嗅ぎ付けたのか、同じ事務所の尚を慕うタレント七倉美森が押しかけてきてしまった。
弁当を作ってきただのなんだのと世話を焼きたがり、あれこれべらべらと話しかけてきて五月蝿い事この上ない。尚は早々にギブアップして適当な理由をつけて抜け出してきたのだ。

「どうしてこう、女ってのはうるせーんだ?」
"大人の女"であるマネージャーの祥子やプロデューサーの麻生春樹などは年のせいか落ち着いていて、やかましいと思ったことはない。けれど尚にまとわりついてくる同年代の少女たちは尚の機嫌などお構いなしであるかのようにキンキンまくし立ててきて、イライラすることの方が多い。

あいつは…そうじゃなかったかな。

ふと尚は、幼馴染の少女を思い出した。
どこか遠慮するように、尚が曲作りに集中しているときなどは話しかけることもせず、黙って見守っていたような気がする。話題もどうでもいいファッションのことではなく、尚の賛辞ばかりで気分を上向かせてくれて…

って!
だから何で俺はバカみてーにあいつのこと考えてんだよ!

キョーコのアパートで良く分からない光景を目撃した後。
自分なりの論理を脳内に展開させ、結果的にキョーコに対しての怒りをつのらせた尚は数日後にアパートを再度訪ねたのだが、部屋は既に引き払われてもぬけの殻だった。
どこに引っ越したのかを聞き出そうとバイト先にも行ってみたが、ファーストフード店にはキョーコの姿は見えず、だるまやではバイト終わりを暗がりで待ち構えていたと言うのに、キョーコは駅に向かうのとは逆の道へと進むとそこに停まっていた流線型の車に乗り込んであっという間に去ってしまった。

ったく、キョーコのクセに何訳のわかんねーことしてるんだよ!

その叫びをキョーコが聞いたなら、「訳が分かんないのはあんたの方よ」とずばりと言っただろうが、イライラと思考を飛ばす尚は自分がストーカーチックなことをしているとは全く気がついていない。

尚はそこらへんの壁を蹴飛ばす勢いでぶつぶつと文句を言いながら歩を進めていく。周りに人気はなく、誰かに話しかけられる心配もないだろうと使われていないスタジオへの通路に入ると、前方から男の声が聞こえてきた。

「んだよ、先客か」

1人分の声しかしないのでどうやらそこにいる人物は電話をしているらしい。通路の角まで来たものの顔をあわせるのも嫌だ、と戻ろうとした瞬間、微かに聞こえる男の声の中から尚は1つの単語を聞き取った。

キョーコ?今キョーコって聞こえなかったか?

はっとしてから尚は自分の思考にやれやれと首を振る。
「きょうこ」などと言う名前、珍しくはないありふれたものだ。まさか最上キョーコに関係のある話の訳がない。しかしそう思いながらも尚は通路の角にしゃがみこむとそっと耳を澄ました。

「…うん。…大丈夫、無理はしてないよ。社さんがうまく予定を空けてくれただけ。俺もたまにはキョーコと1日ゆっくり過ごしたいし」

柔らかい低音の声が甘い響きで聞こえてくる。
角のこちら側に身を潜めているため電話をしている男がどんな人物なのかは分からないが、話している内容から推測するに、電話の向こうにいるのは恋人なのだろう。
そして端はしにはさまれるその恋人の名前。尚は気になりつつも関係ないはずだ、と気持ちを落ち着かせるが、裏腹に嫌な予感は高まる一方だ。

「そういえば今日はバイトだよね……うん。時間もいつも通り?……じゃあ、迎えに行ってもいいかな。今日その前には上がれそうなんだ」
「…いや全然それは気にしなくていいよ、俺が行きたいだけだから。……うん分かった。じゃあ、10時過ぎに"だるまや"のそばで待ってる。……ありがとう、また後で。うん、愛してるよキョーコ」


蓮は通話を切ると笑みを浮かべてしばし携帯電話を見ていたが、ふと顔を上げるとゆっくりと振り返った。通路の角にはいつの間に現れたのか、金髪の男が自分を睨みつけたまま仁王立ちしている。
「おはようございます」
蓮は穏やかな笑みを浮かべて軽く頭を下げた。それでも無言で睨み続ける尚に構わず、その横を抜けて立ち去ろうと足を踏み出す。
蓮が近づいたとき、尚が唸るような声を上げた。
「お前の電話の相手は誰だ?」

蓮は尚の顔を見て足を止める。
「誰って…一緒に暮らしている彼女だけど」
「キョーコって呼んでたけど、苗字は」
「…どうしてそんなことを聞くんだ?」
蓮の声は穏やかだが、ひやりとした空気を尚は感じる。

「"最上キョーコ"って奴がいて、人に黙って住んでた部屋を引き払っていなくなりやがったんだ。まさかそいつじゃないよな?」
相変わらず蓮を睨んだままの尚に、くすりと笑いながら蓮は答えた。
「おや、奇遇だね。俺の彼女も"最上キョーコ"というよ。最近引っ越したってところまで一緒だね」
「しらばっくれんなよ」
尚は少し声のボリュームを上げた。
とっくに気がついていた。"だるまや"の名前に反応して思わず通路に飛び出して目に飛び込んできた後姿。それは間違いなく、キョーコの部屋で覗き見たでかい男の後姿と同じだ。

「彼女は自分の意思であの部屋を出た。今彼女がどこでどうしてようが、君には関わりがないよ」
「てめえ、キョーコに何しやがった?」
敵対心をむき出しに吠える尚に、蓮は両手を広げて肩をすくめてみせた。オーバーなリアクションが妙にはまって尚の苛立ちを煽る。
「何も?したことといえば…いや、していることと言えば、愛してるだけだ」
さらりと吐かれた言葉に尚は目を見開いた。
「キョーコの作る食事は美味しいし、献身的に尽くしてくれるのはすごく嬉しい。けど、そんなのは無くても俺は彼女が隣にいてくれるだけでいい」
黙ったままの尚を眺めると、蓮は止めた足を再び踏み出した。
「君の役目は終わったんだ。彼女は今の生活を楽しんでる。過去の嫌なことを思い出させたくないから、これからは彼女の前に姿を現さないでほしい」
「なっ……!て、てめえに指図されることじゃ…」
横を通り過ぎた蓮を振り返った尚の声は途中で止まった。ちらりと振り返った蓮の笑顔が、先ほどとは違う蔑むような冷たいものに変わっている。
「キョーコに土下座して今までのことを懺悔したいと言うなら賛成だ。それが少し前までの彼女の望みでもあったからね」

尚は何も答えなかった。
いや、答えられなかった。
今の一言二言で、キョーコと尚の関係をこの男が知っていることがはっきりと分かった。ただそれだけなら、普段の尚であれば構わずに反論していたかもしれない。
けれど尚は口を開くどころか指の一本すら動かせなかった。まるで蛇に睨まれたカエルのように、蓮の冷たい光をたたえた瞳と視線があってしまっただけで全身が竦む思いだ。

「じゃあ、失礼する」
にっこりと笑顔を作って背中を向けた蓮を見送って、ようやく尚は金縛りから解放された。
「…なんだ、あの男……?」
全身全霊をかけて殺意を向けられた気がする。相手は確かに尚もテレビで見たことがある、最近デビューして一気に話題を掻っ攫った俳優の敦賀蓮に違いない。その日本人離れしたルックスと穏やかな物腰で女性ファンが急増したはずだ。けれど今見せた表情はテレビの画面を通して見せるものとは全く違っていて…
もう一度蓮の表情を思い出してしまった尚はぶるりと身震いした。「けっ、知るかよキョーコなんて!」と恐怖を振り払うように吐き捨てると、またずんずんと来た道を戻って行ったのだった。


「すみません敦賀さん、ありがとうございます」
キョーコは運転席の蓮によって開けられたドアから車内に入りながら丁寧に礼を言った。相変わらず礼儀正しいキョーコに、もう少し気さくに甘えてくれてもいいのに、と蓮は思うが、座ったキョーコが嬉しそうな笑顔を作るのを見てつられて表情をほころばせる。
「お疲れ様、キョーコ」
言いながら隣のシートに座る少女の頭を引き寄せてこめかみと頬に軽いキスを贈る。
「ちょっ!敦賀さん、見られたら…」
「別に見られても構わないよ、俺は」
「ダメですよっ!」
眉間にしわを寄せてから、それでもキョーコは表情を和らげるとシートベルトを締めた。
「でも日曜日は楽しみです。1日お休みなんて、よく取れましたね」
「俺がストレスたまってるって社さんに心配されてね。うまく隙間を開けてくれた」
蓮はギアを入れるとサイドブレーキを下ろして静かに車を発進させる。

「ストレス?お仕事大変なんですか?」
心配そうに覗きこんだキョーコに、蓮はいたずらっぽい笑顔を向けた。
「全然キョーコと一緒にいられないからストレスが溜まるんだ」
またもう!と恥ずかしそうに顔をそむけたキョーコに、ほんとだよ、と蓮は追い打ちをかける。
「ああそういえば、俺と君の事、君の幼馴染にはばれちゃったみたいだ」
「えっ!?敦賀さん、ショータローに会ったんですか?」
「ああ、偶然だけどね。さっきの電話を聞かれてた。文句を言いたそうだったけど、土下座して謝れるならキョーコに会わせてもいい、と言っておいたよ」

キョーコは渋い顔でため息をついた。
「あいつはどうせそんな気もないでしょうし、もう謝ってもらわなくていいです」
「いいの?あんなに呪いをかけたいって言ってたのに」
「いいんです。敦賀さんが最初に言ってた通りですね。自分の人生が充実してきたら、そんな願い、本当にどうでもよくなっちゃいました。私にはもっと大切な事がいっぱいありますし!」
「そうだね、その方が生産的だ。…ところで、そのキョーコの大切な事の中に俺は入ってる?」
「当たり前じゃないですか!敦賀さんと一緒にいたいって言うのが一番のお願い事だって、それはずっとそうです」
「ならよかった。キョーコの一番の願いが変わらないように、叶え続けられるように俺も頑張るよ」
「変わりませんよ。敦賀さんこそ…」
「俺だって同じだ」
赤信号で止まった車の中で、2人は顔を見合わせて笑いあった。

「でもあの男、キョーコに逆恨みするかもしれないな」
「あいつもいい加減、捨てた女のことなんて忘れればいいんですよ」
そう言う感じじゃなかったな、と蓮は思い返した。むしろ日に日にキョーコの存在が膨らんでいるのではないだろうか。もっとも脅しをかけておいたからそうそう接触を図れはしないだろうが。

「キョーコに復讐、なんて考えられて悪魔なんて呼び出されたら困るかな?」
「やめてください怖い話するの」
「大丈夫、俺がいるんだから」
「敦賀さん、こっちではもう力は使わないんじゃなかったんですか?」

蓮は右腕を伸ばして不思議そうに自分を見るキョーコの頭をぽんぽんと撫でる。
「君を守るためなら何でもするよ。悪魔にだって天使にだって何にでもなる」
キョーコは蓮の顔をじっと見つめると、にっこりと笑った。
「ありがとうございます。ふふ、でもいいんです、敦賀さんがいてくれたらそれだけで」
「大丈夫、ずっといるから」
「約束ですよ」
「うん、約束。キョーコもね?」
「もちろんです!」
楽しげに日曜日の予定を話し合う2人を乗せて、車は夜の街を駆け抜けていった。

(おしまい)

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コメントコメント


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読み応えがありました。

天使やら悪魔やら凄いパラレル感満載なのに、最終話に近づくにつれて原作に近付いていて、とても上手にまとまってるなぁ〜と感動しました‼︎偉そうにすみません(^_^;)
原作を読む時、蓮さまの何でも出来るのは天使でもあり悪魔でもあるからなのね、と思ってしまうかもしれません(笑)
楽しかったです(^^)

ケロ | URL | 2014/10/01 (Wed) 17:06 [編集]


Re: 読み応えがありました。

> ケロ様

おお、まとまってますか?
結構途中発散しかけて慌てたのですが、原作に近付けようと頑張ったのでそれを感じていただけたなら嬉しいです♪
ほんと蓮さんて天使?悪魔?神様?ばりに何でもできちゃいますよね。
実はやっぱり妖精の血が…なんて。

私はコミックス派なのですが、35巻で「呪い」だの「悪魔」「天使」だの出て来てちょっとワクワクしちゃいました。

ぞうはな | URL | 2014/10/01 (Wed) 22:15 [編集]