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叶えたい願い (28)


こんばんは!
来週以降、ちょっとペースが落ちるかもです…





「どうなってやがんだよ…」
イライラと歩き回りながら独り言をつぶやいたのは廊下に閉め出された形となった尚だった。
やたらとでかい男がどこからともなく現れたかと思ったら、あっさりとキョーコの部屋のドアを開けて中に入り、その後は室内からの音も全く聞こえなくなったしドア自体が自分を拒むかのようにぴくりとも動かなくなった。

しかし男が部屋に入る前に聞こえたキョーコの声は明らかに誰かに対して発せられた、しかも怒りに満ちたものだった。
それがぴたっとやんだことも不意に現れた男のことも全て、尚は気になってなかなか立ち去れないでいる。幸いにもアパートの廊下は他に人も無く、尚はサングラスを直すと もう一度だけ、とキョーコの部屋のドアノブに手を伸ばそうとした。

すると急に、気が抜けたかのように「かち」と小さな音を立ててドアが開いた。尚は驚いて出しかけた手を引っ込めたが、ドアはゆっくりゆっくりと開いて半開きの状態で止まる。その様はまるで今まで受けた衝撃にようやく今気がつきました、と言っているようだ。
尚は10秒ほどそのままの姿勢で固まっていたが、やがて意を決すると音を立てないようにこっそりとドアが開いた方へと体を移動させ、ゆっくりドアの隙間に頭を入れた。

思ったより近い距離、玄関を上がってすぐのダイニングに誰かがいるのを確認し、尚は慌てて頭を引っ込めた。
ふう、と息を吐いて気持ちを落ち着かせて、再度注意深く辺りをうかがいつつ半開きの玄関ドアから中を覗きこむ。

そこに立っているのは1人ではなかった。
背中が見えているのは先ほど尚を押しのけて部屋に入っていった長身の男。そしてその腕の中にはしっかりと抱え込まれている女性。茶髪の女性の両腕は中途半端に男の背中の途中まで回されて遠慮がちにシャツをつかみ。
男は少し背中を丸めてかがむような姿勢で、その腕の中の女性は反対に伸び上がるようにして…

尚は目を疑った。
位置関係からしてみて2人の顔は接触している。男の頭に邪魔されて肝心の部分が見えはしないのだが、それは明らかに…


尚は目を閉じてドアの隙間から頭を抜くとそのままずるずると後退して廊下の手すりにぶつかった。

「うそだろ」
声に出さず呟いてみるが、もう一度覗く勇気は出てこない。
いやしかし、と頭を動かそうとした瞬間、下から早足で階段を上る音が響いてきて尚は飛び上がった。周りを見回してみるものの、体を隠すようなところは何もなく間に合いそうにない。尚はなすすべなくそのまま廊下の手すりにもたれかかって階段へと目をやった。
階段から姿を現したのはメガネをかけたスーツの青年だった。
ぜいぜいと息を荒らげた青年は尚を気に止めるでもなく足音高く半開きのドアに突進し、中に入ると大きな声を上げた。
「れん~~ お前ちょっとは考えろって!」
中から男性が答える声が聞こえたが、その内容はよく聞き取れない。尚はしばらくそのまま凍りついたように立ちすくんでいたが、やがて我に返るとずるずると後ずさりしながら階段までたどり着き、転げるように、それでも極力足音を殺しながら階段を駆け下り、後ろを振り返ることなく早足でその場を後にしたのだった。


「この間もそうだったけど、見られたらどうすんだよ!」
まだ息が収まらない社はハンカチで額の汗を拭きながらがみがみと蓮にお説教をしている。
それを聞く蓮はごく穏やかな表情でダイニングテーブルに寄りかかり、その腕の中にいたはずのキョーコは少し離れたところでおろおろと2人を見守っていた。
「大丈夫ですよ、ちょっと目の端を掠めたくらいじゃ誰だって見間違いだと思いますから」
「だからってなぁ、スタジオの廊下で翼を出すなと、この間も言ったばかりだぞ!何でお前は反省しないんだ!」
「反省はしますが次も必要があれば躊躇はしません」
「お前なあ…」

「あ、あの!」
キョーコはついに口を挟んだ。
「ごめんなさい、社さん、敦賀さん私のためにここに来て下さって…」
社は温厚な笑顔をキョーコに向けてぶるぶると手を横に振る。
「ああ、いいんだよキョーコちゃん。こいつを呼ぶのはもうむしろ、積極的にしてくれてOKなんだ。こいつの翼ならこれくらいの距離、瞬時に飛べるし」
「でも…」
「今日は特にひとつの現場が終わった後だったしね。けどもう、蓮は後先考えずにその場で飛ぼうとするから…」
「ちゃんと周りに人がいないことくらい確認しましたよ」
「お前が派手に羽根をまき散らしてったから、直後に通った人が何事かと目をこすってたんだよ。前回は一瞬見られたろうに」
「構いませんよそれくらい。間に合わない方が問題です」
「ったくもう…」

社はやれやれと首を振ってから腕時計に目をやった。
「もう少しで移動しないと、次の現場だ」
「分かってますよ」
テーブルから体を起こした蓮に、キョーコは「あの!」と話しかけた。

「来て下さってありがとうございました。…けど私、今日は呼ばなかったのになぜ…?」
蓮と社は一瞬視線を交わす。
「こんなこともあろうかとね、社さんに検知器をつけてもらってた」
「穴の開きやすいところは分かってたからね。誰かが通ったら分かるようにしてあったんだよ。けど、俺が気が付いたときにはもう蓮は飛び出してたからなあ」
蓮と社の説明を受け、キョーコは深々と頭を下げた。
「本当にすみません、ありがとうございます」
「いや、他の悪魔を呼び寄せちゃってるのはこいつのせいだからさ。お礼言うことじゃないんだよ」
社は軽く若い飛ばしたが、蓮はすいとキョーコに近づくと、その頬をそっと片手で包んだ。
「だから、早く部屋を移ろう。そうしたらもう、邪魔はされないから」
「じゃじゃじゃ、邪魔って…?」

蓮は質問には答えずにニッコリ笑うと、素早くキョーコにキスをした。
「じゃあ、行ってくる。あいつはもう当分来られないから大丈夫だよ」
「…い、行ってらっしゃいませ」
真っ赤な顔で口を押さえてキョーコは返事をする。社は咄嗟に顔を背けると玄関に向かいながら大きな声を上げた。
「ほら蓮、行くぞ!」
「飛びますからつかまってください、社さん」
蓮はしれっと真顔で答えて手を差し伸べる。背中には大きな4枚の翼が現れた。

「着地場所、ちゃんと考えろよ」
「大丈夫です」
社が蓮の腕をつかみ、蓮の翼が大きく打ち下ろされると、風が巻き起こって2人の姿は消えた。キョーコは風がおさまり舞った羽根が消えると自分の頬を両手で押さえてずるずると座り込む。

「やだなに…ずっと一緒って…約束って……」
顔も、耳までも赤くなっているのは自覚しているが、顔が崩れてにやけてしまう。キョーコはそっと唇に触れた。
「もう…敦賀さん……伴侶って…」
キョーコによる荷造りはしばらく中断した後、猛烈な勢いで再開されたのだった。


「お前、いつの間にキョーコちゃんと…」
「何がですか?」
「…とぼけるなよな。俺の目の前でキスまでしちゃってさ」
「ああ。いや、おかげさまでようやく自分の気持ちも分かりましたしキョーコちゃんの気持ちも聞けました…あの悪魔にも感謝しないといけませんね」
「その割には魔界の底の凍土に叩き込んだだろう。あれ自力で抜けられるのか?」
「それは全く別問題です。警告はしましたからね。消されなかっただけ感謝してほしいですよ」
「お前…キョーコちゃんに会ってからだいぶ変わったかと思ったけど、その辺りは変わってないな」
「……」
「わぁ、変な顔するなよ。まあいいんじゃないのか。火の粉は振り払うんだろう?特にキョーコちゃんに降りかかりそうなものは念入りに」
「…まあ、そうですね」
「さて、気を取り直して仕事だ仕事。お前キョーコちゃんと付き合い始めたんなら、社長が止めてたドラマの仕事、取るぞ」
「社さんはだいぶ変わりましたね。こちらの社会になじみ過ぎです」
「そう?俺もともとこっちで社長の手伝いしてることが多いからこんなもんだよ」
「そうですかね」
「あっ、そういえば思い出した。さっきキョーコちゃんの部屋に着いたとき、廊下にあの例のミュージシャンがいたぞ」
「…確かに俺が着いた時からいましたね」
「大丈夫か?見られてないか?」
「俺が部屋に入ると同時に結界を張りましたから大丈夫でしょう」
「…ん~、でも、俺が着いたときドア開いてたぞ?」
「勘のいい人間には結界の違和感に勘付かれますから、あまり長時間はよくないでしょう。あの悪魔を送り返した後に解除しましたよ」
「…ふぅん。なんかあの男、キョーコちゃんの幼馴染だっけ?妙に慌ててたみたいだけど、だったら何見たんだろうな」
「さあ?俺は気がつきませんでしたが…」
「まあ、お前が力使うところ見られてなきゃいいや」
「それは大丈夫ですよ」
控え室から出た見目麗しい悪魔たちは尖った尻尾と角は綺麗に隠し、そ知らぬ顔で撮影のスタジオへと向かっていった。

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コメントコメント


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いいですね‼︎

更新ありがとうございます。

お互いの気持ちが通じて甘い雰囲気の
蓮様キョコさん。
覗き見して打ちのめされてる尚
相変わらずな役回りのヤッシー
この後はどんな展開になるのでしょうか
続き楽しみにお待ちしています!

ponkichibay | URL | 2014/08/31 (Sun) 15:47 [編集]


Re: いいですね‼︎

> @onkichibay様

コメントありがとうございます!
そう、なぜだか社さんはやっぱり世話焼きお兄さんの役割で、尚はおバカで後悔先に立たずなお子様なのですよね~。
この後はやっぱりますます2人の絆が深まってほしいですよね!

ぞうはな | URL | 2014/09/01 (Mon) 18:43 [編集]