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叶えたい願い (26)


こーんばんはー!ぞうはなです。
よし、更新出来たぞー。てことで続き参ります。





びいぃぃぃぃぃ

小気味いい音を立ててガムテープが伸ばされ、ぺたりとダンボールの口をふさぐ。
ダンボールの上面をぽんと軽く叩いてキョーコはふぅっと一息つき、立ち上がって腰を伸ばした。

キョーコの通う高校は夏休みに入っていた。
ぐるりと部屋の中を見回せば、部屋はほぼ空っぽになり、壁際に段ボール箱が並べられている。それほど荷物はないと思っていたが、荷造りしてみるとそれなりの量になるものだとキョーコは実感した。

「あとは…キッチンだけかぁ」
キョーコは口に出して呟くと、よし、と気合を入れた。蓮は朝早くから仕事だし、業者に任せればいいと言われたものの、時間がある自分が梱包を終わらせてしまうのが手っ取り早い。

キョーコが京都から出てきて以来住んでいたこの部屋とももうすぐお別れとなる。賃貸契約も今月末で終了し、キョーコの新しい生活はいまだ慣れない高級マンションへとその舞台を移すのだ。

新しいベッドや家具の購入は、すっかり蓮に頼ることになってしまっていた。
「俺の事情で引越しをさせるんだから当たり前だよ」と言ってくれるのは嬉しいのだが、一緒に見に行った家具屋は以前にキョーコがお世話になった格安店などではなく、輸入の高級家具を取り揃えているところだから価格を見るのも恐ろしかった。
それでも蓮の助言を受けながらなんとかベッドやドレッサーなどを選び、部屋に設置されてみれば確かにあの部屋にはぴったりしっくり馴染む。
蓮のベッドはクイーンサイズと言われる幅の広いもので、しかも日本人の規格を飛び出してしまっている蓮のために長さも通常より長い。これほど大きいベッドが必要なのか?とキョーコは驚いたのだが、蓮が試しに寝転んでみれば幅はやや余るものの長さはぴったりで、しかも巨大な寝室にちょうどいいサイズだ。しかしそのためだろうかシーツも驚くほどのお値段で、キョーコは自分の庶民感覚とこれから住む部屋がことごとくかみ合わないことをしみじみと実感してしまっていた。
周囲も高級住宅地のようだが、自分がそんなところをふらふらして場違いではないだろうか。心配の種は尽きない。

けど、今さら考えてもしょうがないもんね。

それにそれに。
キョーコはそんな不安や心配以上に、新しい蓮との生活に少しワクワクしているのだ。
今だって2人は同じ部屋に住んでいるのだが、この部屋はもともとキョーコと尚が同居するために借りた部屋だし、蓮がここに住むきっかけだってキョーコが尚への呪いを望んだために召還された蓮が契約のために居ついたことだった。

けれど今度の新しい部屋は違う。
蓮がキョーコとの生活を送るために、キョーコの希望も聞きながら整えてくれた空間。気後れはあるものの期待も大きいのは、しばらくは蓮がこっちにいるつもりだということを実感できることもある。

いつまでも続けばいいけどな…

すぐにもやっとする気持ちがわいてくるが、キョーコはぱん!と手を打って、その嫌な考えを吹き飛ばした。
「さて、溜まっちゃったし一旦ゴミを出しちゃおうっと」

玄関周りにまとめておいたゴミ袋をつかみながらドアを元気よく開けると、ドアに鼻先を掠められて慌てて後ずさる人物の姿が目に入ってキョーコはびくりと肩を震わせた。

…!だからもう、このドアの前にいきなり立ってるのはいい加減にって…?

そこに立っていたのは悪魔のレイノでもローリィの秘書でもない、意外な人物だった。金髪頭にサングラスをかけたその男はどうやら呼び鈴を鳴らそうとしていたのか右手の人差し指だけを立てた状態でキョーコを見ている。キョーコは瞬時に立て直して機嫌の悪い声を出した。

「ここには二度とくるなって言ったはずだけど」
「…お前に指図されたくねーよ」
「そこどきなさいよ、邪魔」
キョーコは押しのけるように幼馴染を追い払って廊下に出たが、尚はすばやく部屋の中を確認し、目を丸くした。
「お前、引っ越すのかよ?」
「それが何か?…勝手に人の部屋覗きこむなんて、失礼ね」

キョーコは律儀に質問に答えながらも足を止めない。階段を下りてゴミ捨て場に向かうが、後ろから尚もついてきた。
「どこに引っ越すんだ?」
「そんなの答える義務はないわよ」
どさり、とゴミ捨て場にゴミ袋を置くと、キョーコはくるりと振り返って腰に手を当て冷たい声を出した。
「あんたには関係ない」
「おまっ…」

尚はかっとなって大きな声を上げかけたが、キョーコは無視して再び部屋の方へと戻っていく。尚も慌てて追いかけた。
「なんだよ、誰かを待ってるとか何とか、言ってたじゃねーか」
「あら、覚えてたの」
「何だ結局そいつに振られたのかよ。それだったら…」
「ここにいる必要がなくなったから引っ越すだけよ」
「どういう意味だ?」
「別に」
お互いに厳しい表情と声でやり取りがなされるが、主導権はキョーコが握っている。尚は今までにないこの状況に少し焦りを覚えた。

「なあ、言ったじゃねーか。金が苦しいなら今までの分も俺が出すって」
「私も言ったわよ。あんたにお金なんか出してもらいたくないって」
「なんでそう拒否すんだよ!金があっても困ることはねーだろ。やるって言ってんだから有り難く受けとりゃいいんだよ」

ドアノブに手をかけたキョーコがふと振り返る。その冷ややかな顔を見て尚は内心たじろいだ。今まで怒りをあらわにしたキョーコは、めらめらと燃え立つオーラを背負っていたはずだ。激高し、怒鳴るように大きな声で尚に反論し。

しかし今日のキョーコは様子が全く違う。
キョーコは黒くくすぶるオーラをどろどろとまき散らしながらも、醒めた目で尚の顔をじっと見てから小さくため息をついた。
「やっぱりあんた、何も分かってないわよね。金さえ出せば今までのことはなかった事にできるとか、また前の通り言いなりになる家政婦に私が逆戻りするとか、本気で思ってるんでしょ」
100%ではないものの、少しは解決になると考えていた尚は黙り込んだ。
「バカみたいよね…少しはあんたも分かってくれるんじゃないかって、期待してたってことね、私。バカだったのはあんた以上に私なのね。はあ…もう本当、思い出したくないから帰ってくれる?」
「お、お前なあ…!」
「帰ってくれる?」
ぎん、と睨まれて不覚にも尚は言葉を失った。うっかり立ち止まった隙にキョーコは素早くドアを開けて部屋に入り、音高くドアを、ついでに鍵も閉めた。


あああ、頭にくる!
どうしてこう、あいつは人の幸せな時間をぶち壊しに来るのかしら?
いつまでもしつこくって、ホント人のこと家政婦だと思ってんのね?もうあいつに関わるのなんてゴメンだけど、やっぱり参りましたって降参させないとダメなのかしら!?

ぶつぶつ言いながらキョーコはサンダルを脱ぎ捨てて部屋の奥に視線をやり、ぎょっとして固まった。
いつの間にか、和室の中央にレイノが静かに立っている。

「なるほど、俺がうっすらと感じていたのはそのオーラだな」
呟きながら頷いたレイノに、キョーコは警戒しながら玄関から恐る恐る声をかけた。
「人の部屋に勝手に入って何してるのよ?」

今日は厄日かも、とキョーコは思う。
今まであった中で一番憎たらしい相手と一番得体の知れない相手が同時にやってくるとは。

「勝手に、と言われてもな。ここが通路なんだから仕方なかろう」
穴が開きやすい、と言った蓮の言葉は正しかったようだ。確かにこの部屋にレイノが直接来られるのなら、おちおち寝ていられもしない。しかしなぜ今までこの男はここに現れなかったのだろうか。

「用もないのに来ないでよ」
「用はある。ちょうどタイミングがよかったな。お前のそのオーラが俺には必要だ」
「な、何の話よ」
「俺と共に来い、悪いようにはしない」
「冗談じゃないわよ!」
張り上げたキョーコの声は薄いドアを通して外に聞こえたようだ。そして、そこにはまだ幼馴染がいたらしい。途端にドアが外からドンドンと叩かれた。
「何だキョーコ!中に誰かいるのか?」

うるさいな、とキョーコは思った。
尚がどうしたってこの男に敵うわけがない。対処できるのはただ1人。けれど、その人は今こちらの仕事中のはずだ。名前を呼べばすぐに駆けつけてくれるのかもしれないが、そうそう簡単に呼び出すことは出来ない。
「何が目的か知らないけど、私はあんたとは一緒に行かない。契約もしないわ。分かったらさっさと帰ってよ」
レイノは瞬間移動したかのように一気にその距離をつめた。キョーコの手首をつかむとゆっくりと顔を近づけるが、キョーコも負けじとレイノを睨み返した。
「あの男を呼ばないのか」
「必要ないわ。私はあんたの言いなりにはならない」

キョーコの後ろではどんどんとドアを叩く音が続き、がちゃがちゃとドアを開けようと試みている様子が分かるがレイノは全く気にせず妖艶な笑みを浮かべた。
「ますます気に入った。いいだろう、その強がりがどうなるのか、魔界でゆっくり聞かせてもらおうか」
「嫌だって言ってるのよ。離して!」
キョーコは真っ直ぐにレイノの顔を睨みつけて鋭く言い放った。


ドアの外では尚が1人、虚しい奮闘を続けていた。
ドアを蹴りつけてみるものの、安普請のドアと言えどその程度では少したわむだけでびくともしない。体当たりすればなんとかなるのか?と一度尚が体を引いた瞬間、後ろから突然の突風がぶつかってきて尚は思わず「うおっ?」と首をすくめた。

「失礼」
風は瞬時に止んだが、何事かと恐る恐る顔を上げた尚にいきなり低い声が掛けられて尚は思わず飛び上がってしまった。
答える間もなく体が簡単に押しのけられ、目の前に長身の男の背中がぬうっと現れる。男は尚を振り返る事もせずいとも簡単にドアを開けるとするりと室内に滑り込んだ。
尚が呆気にとられている間にドアは再び閉まり、我に返った尚が取りついたものの今度はドアノブすらピクリとも動かない。
「んだよ、ったく!!」
もう一度蹴りつけてみたドアは今度は石のように固く重く、尚は背筋に冷たいものが走るのを覚えてドアから少し離れたのだった。

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コメントコメント


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ナイスタイミング!

更新ありがとうございます!

キョコさんのピンチに颯爽と蓮様登場!すみません尚は本当どうでもイイんです。
ドアの前で好きなだけ待ってれば?
勝手にキョコさん連れて行こうとしたレイノは怒り心頭の蓮様にボコボコにされちゃうんですかねw
元天使で悪魔でナイトな蓮様に次回
期待です(≧∇≦)
続き楽しみにお待ちしています!

ponkichibay | URL | 2014/08/27 (Wed) 22:03 [編集]


Re: ナイスタイミング!

> ponkichibay様

コメントありがとうございます!
レイノはキョコさんの目があるからかぼこぼこは免れたのですが、いいところ無しですね。
ドアの前の金髪の彼はすっかり蚊帳の外。
蓮さん、ある意味圧倒的でした。
廊下のその後はまた次回ー。

ぞうはな | URL | 2014/08/29 (Fri) 06:09 [編集]