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叶えたい願い (25)


こんばんは!ぞうはなです。
ううむ、間が空き気味ですが、なんとかぼつぼついきますよー。





「へあ?」
なんとも間抜けな声を出したものだが、キョーコはそれには気づかずにまん丸に目を見開いて蓮を見つめてしまった。

"一緒に住んでくれないかな"

聞き間違いでなければ、蓮はそう言ったらしい。
すっかり蓮が自分から離れてここを出て行く、という頭でいたし、次々と告げられる事情でいっぱいいっぱいでもう半分溢れかかっている。

「その、無理にとは言わないんだけど、君が1人でここに残ったらそれこそレイノの思う壺だし…」
頭をかきながら理由を述べ始めた蓮だったが、途中でぴたりと口を閉じた。
「いや、こんなのは単なる言い訳だな。俺が、君と一緒に暮らしたいと思ってる。それが一番の理由だ。もちろんまだ部屋を決めたわけじゃないし…今結論を出さなくてもいいんだ」

キョーコはまだぽかんと蓮を見つめている。
蓮はしばらく口を閉じて、キョーコの頭の中の処理が終わるのを待った。
「私と…ですか?」
「うん」
「なんで…?」
「なんでって…説明したとおり、俺は今みたいに君といたいと思ってるから。契約なんかは関係なしにね」
「は……」

キョーコは言葉を継げずに口だけ開けた。だがその頬が段々に染まってきたところを見ると、もしかしたら悲観はしなくてもいいのかもしれない。そう蓮は考え、確認のセリフを口にする。
「だけど君が嫌だと、困ると言うなら、無理強いはしないよ。だけどここに居続けることは勧められないから別に部屋を用意する」
「いえそんな」
「とにかく、君にとっても…軽々しく決められることじゃないと思うんだ。なんて、もうすでに君の部屋に転がり込んでる身で言えることじゃないけど」

しばらく考えてから、キョーコは静かに言葉を口にした。
「私も…私も敦賀さんと一緒に…一緒がいいです」
下げていた目線をふと上げると笑みを浮かべた蓮と目が合って、瞬時に真っ赤になって目をそらす。

な、なんて顔で見るのよ…!!

その笑みは甘く、キョーコを包み込んでしまうような優しさに満ちていた。これまでも蓮の笑顔は優しいと思っていたが、これは別格だ。キョーコは慌てて付け加える。
「いえその!あの!た、宝田さんにもお、お願いされてますし…!」
言ってしまってから先ほどの蓮と同じ事に気がつく。

ううん、それは単なる言い訳で…ほんとは……

「いえ…宝田さんにお願いされてなくても……です。敦賀さんがここを出ていくかもって思ったら、いつかはそういう事になるって分かってたのに自分でもびっくりするくらい寂しくて悲しくて。だから私も、その、敦賀さんが魔界に帰るまでは一緒にいさせてください」
「よかった、ありがとう」
蓮は笑顔のまま照れくさそうに頭をかいた。その笑顔は神々しさを感じるものの、悪魔の暗さはどこにも見当たらない。
「君に軽蔑されて拒否されたらと思ったらなかなか言い出せなくて…」
「な、なんで軽蔑なんてするんですか」
「俺が今はこんな姿で天使でなくなったから」
「だから、そんなことで軽蔑なんてしませんよ。…でもそういえば、悪魔になると見た目以外も変わるんですか?その、性格とか」
キョーコの素朴な疑問に蓮はふと考え込んだ。

キョーコ自身不思議だったのだ。蓮は確かに毒舌だが、悪魔だと言う割には非常に優しいし親身になってくれるし言っている事は真っ当だし正直あまり悪魔らしくないと思う。最初に会ったときは偉く残酷な復讐方法の提案を受けたりもしたが、それを強要されることも実行されることもなかった。もっとも、キョーコは悪魔がどういうものなのか知っているわけではないが。

「考えたことないけど……変わったって言う自覚はないかな」
「ですよね。私ずっと思ってたんです。敦賀さんって悪魔ぽくないって。天使って言われた方がしっくりきます。あ、でも、もしかしてズバズバ言うのは悪魔になってから?」
「いや、それも変わってないと思う」
ということは毒舌な天使だったのか。金髪碧眼の真っ白な翼の天使が口が悪いのはあまりよろしくない。蓮はもしかしたら悪魔になってちょうどよかったのではないかと、キョーコはちらりとそんなことを思ってしまったのだった。



「敦賀さん…なんなんですか、この部屋は?」
「何って、俺が借りようと思ってる部屋だけど」

2人の声はがらんとした部屋に少し反響したように思える。蓮が身の上を打ち明けた数週間後。2人は蓮が選んだ部屋を見に訪れていた。
「敦賀さんが必要な条件が揃った部屋なら私はどこでも」と一度は遠慮したキョーコを「君も住む場所なんだから」と蓮は説得したのだが、キョーコは事前に連れてきてもらってよかったとしみじみと思った。

都心の高級住宅街の一角に立つマンション。しかも最上階。
エレベーターを降りたら重厚な廊下に迎えられ、しかもそのフロアには住宅のドアが1つしかないと言う時点でキョーコは嫌な予感がしていたのだけれど。ドアを開けたらそれはぴたりと的中してしまったのだ。
こんなところ、事前知識もなく"今日から住め"と言われたら、喜ぶどころか困惑してしまう。

「あるところにはある」
つくづくそう思える、どこもかしこも高級感に満ち溢れた内装や建具。トイレのドアすらキョーコの住むアパートの玄関ドアより頑丈そうだ。
何人で住むのだ、と疑問に思うほどの居住面積。なぜか家具まで置かれていて、それらはどれもいくらするのかキョーコには分からないが、分からないまでも自分で買おうと思ったら一生かかってもその内の1つを買うのも難しいだろうと思える物たちだ。

「敦賀さん…ここ、家具まで付いてますけどお家賃はおいくらなんですか」
「それは君が気にしなくていいよ。と言っても、実はここは社長の持ち物だから、かなり格安にしてもらえるんだ」
「社長さんの…」
なるほど、確かに豪奢な内装や家具たちはローリィが好みそうな匂いがする。
「もともとゲストハウスとして使っていたらしいんだけどね。社長自身がゲストハウスつきの家に住み始めたから、今はあんまり必要がないそうだ」
「……」
芸能事務所の社長と言うのはそれほど儲かるものなのか。キョーコの頭をそんな考えがよぎったが、そんなことを考えても何の役にも立たないと諦めて、キョーコは蓮の案内に従って室内を見て回った。
「寝室が二つと、もう一部屋がある。部屋の広さはこれほどいらなかったんだけど、ここは警備が厳重でコンシェルジュが24時間いるからと、社長にすすめられたんだ」
「はあ…」
管理人さんじゃないんですか、コンシェルジュってホテルじゃあるまいし、とキョーコは遠い目をする。

サブの寝室だと開けられたドアの向こうには、キョーコが今住んでいるアパートの一部屋分を超えるくらいの空間が広がっていて、キョーコはもう何も言葉が出ない。
「どうかな?ここを借りるので、君は問題ない?」
「どう文句を付けろって言うんでしょうか…?」
「いや、気に入る気に入らないもあるだろう」
「いえ、ないです」
「そうか…もうここはいつでも使っていいと言われてるから、次のオフにでも君の荷物を運んでしまおう。君の部屋はこっちの寝室でいいかな?」
「もちろんです。なんだったら廊下の一角でだって十分暮らせます」
「そんなこと言わないで」
蓮は笑いながら部屋のドアを閉めるとダイニングキッチンへと向かった。

「キッチンも広くて…ほんと、隅から隅まで豪華すぎるほどですね」
「嫌かな?」
「嫌ではないですけど、世界が違いすぎてちょっと驚いちゃってます」
「住めば慣れるよ」
蓮はキョーコの頭をぽんぽんと優しくたたくと、そのまま頬をするすると撫でた。
「まだここは誰も住んでないからちょっと殺風景だけど、キョーコちゃんと暮らし始めたら居心地のいい空間になりそうだな」

やっぱり…気のせいじゃないわよね?

キョーコは緩みそうになる頬を必死に意志の力で押さえながら心の中で確認する。
蓮がキョーコと一緒に住みたい、と過去のことを告白してくれてから、キョーコの呼び方は『最上さん』から『キョーコちゃん』になった。かつてのコーンを思い出す呼ばれ方は決して嫌ではないが、大人になった蓮にそう呼ばれるとまた少し違った印象を受けてしまう。

そして、呼び方が変わると同時に、なんだか蓮との距離がかなり近づいたような気がするのだ。
さりげないスキンシップも多いし、照れてしまうような褒め言葉や『一緒にいることが嬉しい』という意味の言葉がふとしたタイミングで表現を変えつつポロリと蓮の口からこぼれる。

慣れないキョーコは思わず赤面してしまったり絶句してしまったりすることも多いのだが、決してそれらの言動は嫌ではなく、むしろ日増しに嬉しさが募っていってしまうくらいだ。
強引だったり優しかったり、かと思えば急に意地悪な物言いをしてみたり。
すっかり蓮に振り回されてそれを喜ぶ辺り、自分はだいぶ悪魔の気まぐれにはまっているも同然ではないかと自戒してもみる。

けれどその戒めもほとんど効果がなさそうで、キョーコは過去の尚に対するよりも育ちそうな蓮への想いの危険を自覚しつつも、新しい部屋での蓮との生活に少し沸き立つ心をとめることができなかった。

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