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叶えたい願い (24)


こんばんは!ぞうはなです。
お待たせいたしてしまいましたが(え、待ってない?)続きでございます。





その日の夕食はキョーコにとって緊張感に溢れたものだった。以前もこんな食卓の空気があったと、キョーコは思い起こしていた。
会話は多少あるものの、蓮は『話がしたい』と言っていた内容には触れようとしない。味もまともに感じられず、機械的に箸を運ぶような状態で食事は進む。蓮は何かを考え込むように時折箸を止め、キョーコもそれが気になるものの聞くことが出来ずに食事は終わった。
片づけが終わったあと、呼ばれて和室に入ると蓮は部屋に胡坐をかいて座っている。キョーコがその斜め前に腰を下ろすと、ようやく蓮は口を開いた。

「実はね、自分で部屋を借りようと思っているんだ。社さんにも手伝ってもらって、今候補を絞ってる」
キョーコはいつも通りの穏やかな口調で繰り出された言葉に、背中に冷たい水をかけられた気分になった。それは、この部屋を出て行くという事を意味するのだろうか。

いつかは来ると予想していた、自分に言い聞かせていた、蓮との再度の別離。
けれど今訪れようとしているのは、自分が考えていたのとは違う形だ。違う世界に帰ってしまうのではなく、同じ空の下にいるというのにここを出て行く。なぜだろうか。嫌われてしまったのか。そういえばさっき、蓮が廊下に現れたとき、一緒に社がいた。

キョーコは思考能力の限界を超えてパニックになってしまった。
「あの…!」
震える声でなんとか言葉を絞り出す。

話を続けようとしていた蓮は口を閉じてキョーコを見た。そしてその表情にギョッとする。キョーコの顔色は悪く、唇はふるりと震えていた。
「あの、ここを…ここを出て行っても…もし二度と会えなくても……今度は、今回は、私の記憶を消さないでいてくれませんか?たとえ会えなくても、嫌われてても、私、私もう敦賀さんのことを忘れたくなくて…!」
目にはいっぱいに涙が溜まるが、キョーコは必死に涙を流すのをこらえた。伝えたいことはたくさんあるのだが、蓮の行動を縛る権利は自分にはない。たまたま蓮をそうとは知らず呼び出してしまっただけの自分には。

「ちょっと待って、最上さん。なんでそういう…」
「お願いです、迷惑はかけませんから」
「落ち着いて。何か、誤解をしてない?」
まだ涙目で、キョーコは呆けたように蓮を見た。少しぼやけた視線の先には困ったような蓮の顔が見える。
「誤解…ですか?」
「うん。まだ俺の話は続きがある。それに、ちょっと気になったんだけど、なんで俺が君の記憶を消すと…?」
「だって…」
だって、とキョーコは思う。

「だって今日社さんが一緒にいらっしゃいました」
蓮のことを思い出してその名前を呼んでしまってから今まで、一度も社の姿を見たことはなかったのに、彼は今日久しぶりにキョーコの前に現れたのだ。そしてその直後のこの蓮の話。キョーコが真っ先にそのことを考えてしまったのも仕方がなかった。

「ああ…」
ぽつりとこぼされたキョーコの答えに蓮は額に手を当ててうめくような声を上げた。しばらくその体勢でじっとした後に手を下ろし、真っ直ぐにキョーコを見つめる。
「ごめん、誤解を避けるためにも俺は君にちゃんと説明しなくちゃいけないことがたくさんあるんだ。聞いてくれる?そしてそれを聞いた上で、考えてくれると嬉しい」
「考える…?何をですか?」
「それはその、全部話をしてから…」
ふいと目をそらして蓮は口ごもったが、キョーコは「分かりました」と答え、ぴしりと正座して蓮に向きあった。

蓮はそんなキョーコを横目で確認するとふっと口元に笑みを浮かべた。ちらりと見たキョーコの目にはもう涙も迷いもない。蓮はふうっと息を吐き出し、少し足をずらすとぽつぽつと話し出した。

「まず俺は…君にきちんと告白して謝っておかなくちゃいけないことがある」
「告白?」
「うん。大事なことを黙っていた。どうしても言い出せなくて、けど、これを言っておかないと話が進まない」
「それは…なんでしょうか」
ごくり、とつばを飲み込んでキョーコは蓮を見つめた。

「君は昔、天使に会ったことがあるって言ってたよね」
「あ、はい!」
「俺も昔まだ天使だったとき、たまたまこっちの世界を訪れて…一人の人間の女の子と知り合ったんだ」
「え……?」
キョーコの胸がどきんと鳴った。
「たぶん10年位前、場所は日本という国の、情緒が残る古都。その子は髪の毛を2つに結んで、俺が降りた川原に1人でいた」
「………そ…れは…?」
「その女の子は最初は俺のこと妖精だと思ってたけど、びっくりしてうっかりホントのことを教えてしまった。けどその子はすごく喜んで…それから数日の間、俺たちは他の人には内緒で会ってたんだ」
キョーコはぽかりと口を開けたまま、遠くを見ながらゆっくりと語る蓮を呆然と見つめている。

「天使の俺は、そんなに長い間こちらには滞在できない。帰らなくちゃいけないその当日、別れを悲しむ女の子に1つの石を渡した。天界の石だよって言ってね。本当は…天界のものは持ち出すことなんて出来なかったからそれは俺がついた嘘だったんだけど」
「そんな…そんな……?」
「天界から堕ちて以来、天使だったころの俺の記憶は部分的に抜け落ちているんだけど…あの短い間のことは今でもよく覚えているよ。女の子が『キョーコ』ちゃんっていう名前だったって事も」
「そんな…!じゃあ、あなたは…コーン?本当に…?」

蓮がかつては天使だったと聞いて、キョーコはまずそのことを考えたのだ。けれどそんな都合のいい偶然がある訳はないと、それ以上を追求するのは止めていた。もちろん、本人にだってそんなことを聞ける訳もなかった。だって蓮は既に、コーンの石を手に取って眺めていたのだから。
しかしキョーコはハッと思い出した。キョーコがこの部屋で封じられた記憶の中から蓮を思い出したきっかけ。それはコーンの石だった。なぜかあの石を見ていたら、少年だったコーンの姿が成長して蓮の姿と重なった。あの直感は間違っていなかったのだ。

キョーコの問いに対し静かに頷いた蓮に、キョーコは震える声で尋ねた。
「なんで…なんで石を見せたときに教えてくれなかったんですか?…私、知ってたら…」
蓮の表情が少し険しくなる。蓮はキョーコから視線を外したまま首を振った。
「言える訳なかった。あのときのキョーコちゃんは、俺が天使だって事をものすごく喜んでくれたし、立派な天使になれるって励ましてくれた。それなのに俺の羽は汚れてもう二度と元には戻らない。あまりに変わり果てたこの姿を見て…俺があの時の天使だって知ったら君がどれほどがっかりするか。そう思ったら…」

キョーコはじっと蓮の顔を見つめた。
きっと蓮も苦しんだのだ。天使でなくなったことも、悪魔として生きなければならないことも。もしかしたらこうして自分と再会した事が、より蓮の傷を痛める原因になっているのかもしれない。

けど…

「過去の辛いことを思い出させてしまってごめんなさい。けど、私は敦賀さんがコーンだって聞けて、教えてもらって、すごく嬉しいです」
「最上さん…だけど俺は」
「天使じゃなくたって、悪魔だってなんだって関係ないです。こうやって立派になってまた私を助けてくれたじゃないですか。それに、もし敦賀さんが天使のままだったら、私はこうして敦賀さんと会えなかったかもしれない。だからその、天使じゃなくなってよかった、ていう訳じゃないですけど、私はこうやってまた会えたのがすごく嬉しいです」
キョーコは晴れ晴れとした笑顔を浮かべる。
「敦賀さんが謝ることなんて何もないです。敦賀さんは敦賀さんですもん。私にとっては恩人で、それから幼いころの一番大事な思い出を作ってくれた天使です。それは…何も変わらないです」

蓮はようやくキョーコに視線をしっかりと合わせた。
「本当に…?俺に気を遣う必要なんて何もない。正直に言ってくれていいんだ」
「さっきから私は正直な気持ちしか言ってません!」
キョーコは腕を組んで少し怒ったような顔をし、それから何かに気がついたようにしょぼりと肩を落とす。

「すみません、私偉そうに…考えてみたら私だって、あの時みたいな素直な気持ちなんてどこかに行っちゃって、今は人を呪おうと思うくらいになっちゃって……敦賀さんこそ、私に幻滅しませんか?」
蓮はきょとんとキョーコを見つめ、それからおかしそうに笑った。
「まさか…!君はあの時のまま全然変わってないよ。何事にも一所懸命で、他人の事でも真剣に取り組んで、いつも元気いっぱいで。あの時のキョーコちゃんのままだ」

『キョーコちゃん』と言われて、瞬時にキョーコの頬が赤く染まる。コーンと同一人物だと分かっていても、目の前の立派な男性から『キョーコちゃん』と呼ばれるとなぜか顔じゅうの筋肉がむず痒くなって不細工な顔になりそうだ。

「それで…話を戻すんだけど」
キョーコは緩む顔を必死に抑えていたが、蓮の真剣な声にはっと顔を上げた。
「俺がこっちにいる間は、契約を途中で切ってしまった君の願いを…君の望むことを叶えるために俺は君をサポートしたいと思ってる。悪魔としてではなく、敦賀蓮と言う人間として…。だからその、君の記憶を消したりとか、そんなことは全く考えていないんだ」

キョーコはほうっと体に入っていた力を抜いた。
どうやら蓮が自分と縁を切ろうとしている訳ではない事が分かって少し安心する。けれど、そうだとしたらなぜ蓮はこの部屋を出ていくと言うのだろうか。やはり一緒に住むのは息苦しい?

キョーコの顔に浮かんだ疑問符を読みとって蓮は少し苦笑気味に笑う。
「俺が部屋を借りようと思っているのは、この場所がトラブルの元になりかねないから。この部屋のこの地点は…俺が何回もあちらの世界とつなげてしまったから、穴があきやすいんだ」
「穴?」
「そう。さっきのレイノみたいな悪魔が、簡単に君や俺の居場所を辿れてしまう。本来人間からの召喚もなく自力でこちらに来るのは難しい事なんだけど、ここはそれが比較的簡単に出来てしまう場所になってる」
「はあ…」
そう言うものなのだろうか、説明されて納得はするがよく分からない。
「あのレイノと言う男がまた来るかもしれない。だからここから少し離れた方がいい、というのが一つ目の理由」

キョーコは分からないなりにもこくりと頷いた。
「もうひとつの理由は…」
言いながら蓮は机に置かれた時計で時間を確認すると、立ちあがってダイニングへと足を踏み入れた。そこに置かれたテレビの電源を入れ、キョーコに向かって手招きする。

キョーコが立ちあがってダイニングに入りテレビの画面に目をやると、そこには今目の前にいる男が映っている。
「え…?敦賀さんテレビに…」
深夜のトーク番組のゲストとして出演しているらしい蓮は笑顔でMCと談笑し、テレビドラマの宣伝をしているようだ。
「めどがついたら君にも言おうと思ってたんだけど。社長との賭けの条件の一つでね。モデルだけじゃなくて俳優をやれ、という命令を受けて、すでにいくつかの番組に出させてもらってるんだ。君はあんまりテレビを見ないみたいだから知らないと思うけど…」
「まったく…知りませんでした……」
キョーコは呆然と画面を見つめる。画面の中の蓮は実物の迫力には負けるが、十分すぎるほどテレビ映えするルックスで、まるでベテラン俳優のような落ち着いた雰囲気と強いオーラを放っている。

「それで、なんとか仕事も軌道に乗りそうなんだ。マネージャーは社さんが請け負ってくれてる。さっき社さんが一緒だったのはそういう訳だよ」
「え…社さんもご一緒にこっちに?」
「そう」
「………」
キョーコの頭はだいぶ一杯になっている。それでもなんとか理解をしようと努力した。
「俺の仕事が軌道に乗ると、それは世間に俺の顔を知られるってことになる。そうすると住むところも少し気をつけなくちゃいけなくて、それで部屋を探し始めたんだ」
「なる…ほど……」
キョーコの脳みそは相変わらずフル回転で思考を続ける。俳優の仕事については、今テレビ画面に映っているものを見ることで割と理解はあっさりと済みそうだ。しかし、さらにキョーコをオーバーヒートさせる一言が蓮から投下された。

「それで、ここからが本題。もし君が嫌じゃなかったら…一緒に俺が借りる部屋に住んでくれないかな」

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コメントコメント


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お待ちしていました!

夏休みはゆっくりできましたか?
私は更新がないあいだ、ぞうはな様の全作品リピートいたしました(^^)
定期的にリピートするのもありますが久しぶりに読んだものもあり新しい発見もあり楽しかったです。

こちらも蓮様の過去暴露がありお話が動いてきましたね。蓮様からの同居?同棲?話ぜひキョコさんにはOKして貰いたいです。

これからの展開が楽しみです(≧∇≦)

ponkichibay | URL | 2014/08/20 (Wed) 07:50 [編集]


Re: お待ちしていました!

> ponkichibay様

返信が遅くなりました!コメントありがとうございます。

おかげ様で久しぶりの長い休みをいただきましたー。
リピートありがとうございます。繰り返し読んでいただけるのはとても嬉しいです~~。
自分で読み返すとやや恥ずかしいのですが…(誤字脱字等々…)

蓮さん、素知らぬ顔して結構思いを募らせていたようです。
さて、キョコさんの反応や…

ぞうはな | URL | 2014/08/22 (Fri) 20:13 [編集]