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叶えたい願い (22)


こんばんは!ぞうはなです。
ううっと、なかなか進まないぞー。





「ふう…今日はだるまやだけだし…一度帰ろうっと」
独り言を呟きながら、キョーコは学校の駐輪場へ向かっていた。

蓮がキョーコの部屋に戻ってからから1ヶ月近くが経過し、二人の同居は続いている。
蓮は前回契約でキョーコの部屋にいたときと同じように十分すぎる額の生活費をキョーコに渡し、「折角行きたくて学校に行ってるんだからちゃんと学校に全力を傾けないと」と窘められ、ファーストフード店でのバイトを半分以下に減らしていた。

おかげで十分すぎるほどの自由時間が取れて精神的にも楽になっている。
慣れているとはいえ、毎日時間に追われ、どこかでずっと生活費のやり繰りを考えている生活はそれなりにストレスが溜まるものなのだ。

それでもキョーコはバイトを完全に止めることはできずにいた。
蓮がまたいつ帰ってしまうのか、キョーコには全く分からない。蓮がいなくなれば蓮がくれる生活費だってなくなるのだから、すぐにでも稼げる体制は整えておかなければいけない。かといって「どれくらいこちらにいるんですか」などと言う事はキョーコには聞けなかった。


言って変な風に取られても嫌だし……かといって私の都合でとどめる訳にも……


煮え切らない思考も、自分が蓮を思い出して呼んでしまったことが原因だと考えるキョーコにとっては仕方のないことだった。

蓮が居る生活はものすごく楽しい。
素直にキョーコはそう思える。あの優しい眼差しも、気を遣ってくれる心配りも、たまにちくりと刺さるようなことを言う毒舌さだって、全部キョーコにとっては生きる糧になるものだ。

反面、キョーコは自分に対して戒めるように考えてしまうこともあった。
「あの人の存在が全てになってしまうのは過去の過ちの繰り返し」と、痛いほどに心に刻む。
あれだけ依存していた(と、今はちゃんと分析が出来ている)幼馴染に裏切られたとき、自分に何が起こったのか。蓮は裏切るような人ではないだろうが、それ以上の覆すことが出来ない大前提がある。『蓮は悪魔』なのだ。

「結局私は…どうしたいのかな……」

最近蓮は「こちらでの仕事が」と言っていた通り、キョーコが戻っても部屋にいないことが増えている。朝も早く出て行くことがあるし、帰る時間もまちまちだ。
連日のキョーコの献身によってようやく蓮の傷は見えないほどにまでなったが、傷が癒えるまではモデルの仕事は出来なかっただろうし、そうだとすればこちらでの仕事とはなんなのか。結局のところ蓮のことは分からないことの方が多い。
ただの友達や恋人ではないしキョーコは素直にあれこれ聞くことも出来ず、ぐるぐると心の中で悩み続けるしかできていなかった。

今日は敦賀さんお仕事かな…?

あれこれと考えながらも体は自然と家への道をたどり、その角を曲がればアパートが見える、と言うところまでキョーコはやってくる。そしてぼんやりと考えながら角を曲がり、キョーコは目の中に長い長いリムジンの姿を入れて思わずめいいっぱいブレーキレバーを握りしめてしまった。



「どうだね、最近は」
「おかげさまで学校も順調です」
「そうか、それはよかった」

ローリィはいつも通りの仮装に近いゴージャスな服装でくつろいでいる。これくらいでないと豪華なリムジンの車内には逆に釣り合わないのではないかと錯覚するくらいの堂々っぷりだ。対するキョーコは高校の制服だし、豪華な革張りのシートはいささか居心地が悪いのだが、車外から中は見えないため半分以上開き直って座っていた。

「蓮との生活はどうだ?」
ずばりと聞かれ、キョーコは口の中の紅茶を気管に入れかけて目を白黒させる。ようやく返事が出来る体勢を整えてなんとか返事をした。
「どう、と言われましても…その、特に変わりもなく……」
「あいつは相変わらずか?」
にやりと笑ったローリィに、キョーコは返答に詰まった。考えてみれば蓮はローリィのことを「主」と言うくらいなのだ。おそらく以前からの経緯も全て、目の前のエネルギッシュな中年男性は知っているに違いない。そう考えるとキョーコは肩の力を抜いた。

「相変わらず、と言いますか…はい、まあそうですね…」
ローリィはキョーコの顔をじぃっと観察していたが、その表情にはいくらかの疑問と戸惑いしかないのを見て取ると大きくため息をついた。
「なんだ、つまらんな」
ぽつりと呟いたローリィのセリフはキョーコの耳にも届く。
「??」
予想外の呟きに、キョーコは疑問を顔に貼り付けてローリィを見たが、ローリィはぶちぶちと1人で何事かを呟いていてその内容はキョーコには聞こえなかった。

「いや、なんでもない。まあ特に問題がないならいいんだが、ひとつ俺から最上君に頼みたいことがあってな」
「頼みたいこと?なんでしょう、私に出来ることでしたら」
「そうか。その前に聞きたいが、君は俺の事を蓮から聞いたかね」
う、とキョーコは若干頭を後ろに引いた。目の前のローリィの表情は全く変わらず少し笑顔ですらあるので、咎められているわけではなさそうだ。

「はい、伺いました。魔界の王様で、敦賀さんが仕えてる方だと…すみません、私そんなこととも知らずあれこれしていただいて」
「いや、いい。あいつはまだ俺に仕えてるつもりか。まったく…」
キョーコは首をかしげて渋い表情のローリィを見た。

「仕えるも何もねーんだがな。あいつは自由なのに全く頑固なもんだ」
「でもあの、宝田さんは命の恩人だと、敦賀さんが」
キョーコの言葉にローリィは おや、という表情を作ってキョーコを覗き込んだ。
「あいつは君にどこまで話したんだ?」
そこでキョーコはレイノが部屋に来たことから蓮に聞いた事情までをローリィに説明した。

「ふむそうか、そこまで知ったか」
ローリィは顎をなでながらキョーコの顔をしげしげと見つめる。
「いやしかし、それなら話は早い。君に頼みたいことも話しやすいな」
「で、その、頼みと言うのは…」
「ああ簡単なことだ。蓮がこっちに居る時に君に世話を頼みたい」
「お世話ですか?」
それならば今も、とキョーコは思うが、ローリィはそれをキョーコの表情から汲み取って笑った。
「単純に飯とか風呂とかだけじゃなくてな。君が知っての通りあいつは元天使の現悪魔だ。こちらに来ることも多いが、契約の遂行くらいにしか興味がなくてな。簡単に言えばこの世界の事情に疎い」
「はあ…?」
「あいつには今、色々とこちらの仕事をやらせてるんだがな。その内分からんことも出てくるだろう。そのときに君からこっちの事情を教えてやってほしいんだ」
「それは…構いませんけど、私も単なる高校生ですよ?」
「ただの高校生よりずっと世間の荒波を知っているだろう。ガキみてえなあいつの先生としちゃあ十分だ」
「そうでしょうか?」
「ああ、それに事情を知ってる人間がそばにつくのが一番都合がいい。頼めるかな?」
「は、はい!もちろん、微力ながら全力でお世話させていただきます!」
「あいつがこっちにいる間ずっとだが、構わんか?」
「問題ありません!」
「よし、では頼んだ。うまくやってくれるなら、俺は最上君が社会に出るまで全面的にサポートしよう」
「いえあの!」
ローリィの口から飛び出た好条件を遮るようにキョーコは少し大きな声を出した。

「敦賀さんは私にとって、恩人なんです。今こうやって充実した生活を送れているのは敦賀さんのおかげで…だからその、見返りとかそんなの関係なく、私はあの人の役に立てることだったら何でも…」
少し顔を赤らめてごにゃごにゃと語尾を濁したキョーコに、ローリィは笑いかけた。
「そうだな…君は自力で蓮の事を思い出したんだったな。そうかそうか、うむ、よく分かった。あいつも喜ぶだろうよ」

「…あの、宝田さんは敦賀さんと私のことで賭けをなさってたと伺いましたが……」
満足そうに頷くローリィにキョーコは恐る恐る問いかけた。その賭けの内容が少し気になっていたのだ。
「ああ、あいつは頑固だからな。俺がたまに背中を蹴飛ばしてやらんとどうにも動かん。まあその一環だ。悪いな、勝手に賭けの材料にして」
「いえそれは構わないんですが……宝田さんは敦賀さんのこと色々考えてらっしゃるんですね」
ローリィはキョーコの言葉ににやりと笑った。

「あいつは人間と一緒で、観察してるとおもしれーんだ」


ローリィの車を降り、キョーコはアパートの階段を上がりながら考えた。

うん、宝田さんにもお願いされたんだし、やっぱり敦賀さんがこっちにいる間は気持ちよく過ごせるように頑張ろう!
ああでもそうよね、敦賀さんが迷惑しちゃいけないから…
でもご飯と掃除と洗濯と、そう今までどおり頑張れるはずよ!
少しでも快適に過ごせるように!!
……でも、敦賀さんってこっちのことすごくよく知ってるわよね…私が教えることなんて、あるのかしら??

首をかしげながらキョーコはドアの鍵を開け、部屋に戻っていった。


道を走るリムジンの中では肘をついたローリィが1人思案にふけっている。ローリィは誰に言うでもなくふと思い出したように呟いた。

「おおいかんいかん、蓮がこっちに期限を設けず滞在するって話をあの子にし忘れたな…まあいいか、両方の様子を見てると不都合はなさそうだな」

ローリィの向かいの座席、端っこに座った浅黒い肌の秘書は無表情のまま無言で主の様子を見守っていた。



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