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叶えたい願い (20)

こんばんは。ぞうはなです。
なんとか…日が変わる前に……
すみません、拍手お礼記事はまた日を改めてー!




「こちらでの闘争は禁止されているはずだが?」
蓮は落ち着いた様子で相手を観察しながら尋ねた。男はふん、とそれを鼻で笑うと言葉を返す。
「飼い犬どもの決まりなど、俺たちには関係ない」

「俺たち?」
「俺はビー・グールのレイノだ。そんな決まり、通用する訳がないだろう」
「ビー・グール…ねえ?」
蓮の顔にはうっすらと冷たい笑いが乗った。面倒くさい、と言わんばかりにため息混じりに言い返す。
「最近名乗りだけは一人前の野良犬どもが多すぎて、いちいち覚えていられないな」
「ふん、どちらにしても俺はここでお前を仕留める。お前が不在の今は他の連中がお前のご主人様の領土を奪っている頃だろう」
「そうか……」
「まあ今のお前は自分の身のことだけ考えるべきだろうがな」
言い切ると同時にレイノは懐から白い長方形の札を取り出し複数枚まとめて蓮に向かって投げつけた。札は空気を裂いて飛び、まるで生き物のように蓮の頭、胴体、手足を目指していく。

蓮は身動きもせずにそれらを受け止めた。
一度蓮に張り付いてそこから多数の触手のようなものを伸ばした札は、しかし数秒も経たない間に黒い煙を出して燃え尽きばらばらと床に散らばる。

「ほう…だが、どこまでその苦痛に耐えられるのかな?」
レイノは楽しそうに口の端をゆがめると再度多数の札を投げつけたが結果は同じだった。蓮のシャツの襟元から除く傷跡は札が燃えるのに反応するように赤く光を放って蓮の肌を焼くが、その表情は全く動かない。

「やせ我慢か…?」
ぽつりとレイノは呟くと、今度は表面に模様が刻まれた小さいダガーを取り出すと蓮の顔面めがけて放った。
その額に届く寸前で蓮は素手でダガーの刃をつかむ。直後、ダガーから稲光がほとばしり蓮の全身を包むが、これも蓮は無表情で受け流すとダガーを半分にへし折り無造作に捨てた。

「こんなものか?」
ゆったりと放られた連の言葉に、レイノの顔に少し迷いが浮かんだ。
人間との契約不履行の傷を負った悪魔は、その苦痛により魔力を使うことは出来ないはずだった。蓮に挑みかかった数多くの悪魔が跡形もなく消え去ったのも、誰か別の悪魔の手を借りてのものだとレイノや仲間は考えていたのだが、目の前の男は涼しい顔で自分より強い力を解き放っているように見える。

ふと、レイノの目に蓮に庇われるようにして立ち尽くす一人の少女が目に入る。
心配そうに蓮を見守るその少女は、それでも蓮のことを信じているのか逃げる気配もない。もっとも恐ろしさに足がすくんで逃げられないのかもしれなかったが。

「人間。お前はこいつと契約を結ぼうとしているのか?」
いきなり話しかけられてキョーコは飛び上がらんばかりに驚いた。はらはらと蓮の様子を見守っていたのだが、その微動だにしない背中に少し安心していたところだった。まさか自分に話が振られるとは。
「わっ、私?違うわ、私は…」

しゃべりかけたところですっと蓮の右手が上がってキョーコを制止する。キョーコがはっと口をつぐむと、蓮が少しだけキョーコの方に顔を向けて微かに頷いてみせた。キョーコはそれを見てこくりと頷くと、口を結んだままきっとレイノを厳しい表情でにらみつける。

「おや…」
レイノが2人の無言のやり取りを見て興味深そうに声を上げた。
「何だ人間、あんたはこいつと付き合いがあるのか?悪魔をどうやってたらしこんだ」
「黙れ」
レイノの無礼な問いにキョーコが反応する前に、蓮が冷ややかな声を出した。蓮が右腕を上げた瞬間、レイノの顔が少し苦しげに歪む。
「人に苦痛を与えるのは楽しくても、逆は慣れてない様だな」

全身が見えない細い針金でグルグル巻きにされ、容赦なく締め付けられるような苦しさがレイノを襲っていた。ほどこうとしてもそれを許さない圧迫感で押しつぶされそうになる。
「なるほど、ここまでとはな…」
脂汗を浮かべながらもレイノは口の端に笑みを浮かべた。表情には余裕があるように見えるが、予想していた以上の力の差に圧倒されていた。しかしとにかく拘束を解かなければ何も出来ない。あとの事を考えると抜け出すために全力を使う訳にもいかず、レイノはふと少女に目を留めた。
かろうじて動かせる片腕だけをゆっくりと体の後ろに回し、呼吸を整えると全身の力を集中して腕を鋭く振りぬく。レイノの右手からは多数の札が四方八方に向かって飛び出した。その内数枚がキョーコめがけて、数枚は蓮めがけて、残りはダミーと言わんばかりに天井や壁へと散って空を切る。
あわよくば反撃のチャンス、少なくとも拘束が緩むことを予想してのレイノの行動だった。

しかしレイノの行動は蓮に読まれていたのか、蓮はそこから動くことなく表情を変えることもなかった。札は1枚も目標に届くことなく叩き落とされ、ひしゃげて床に散らばる。

札を阻んだのは真っ黒な翼だった。
瞬間的に蓮の背中から飛び出した翼は4枚あった。大きく大きく開いたそれは札を阻止したと見るやばさりとひとつ羽ばたいて閉じる。周囲には黒い羽がはらりと散って消えた。

「…は。なるほど……」
レイノは相変わらず身動きが取れない状態で膝をついていたが、目を見開いて感心したように呟いた。
「なるほど。そうか、あんたが天使だったという噂は……本当なんだな。その割には不思議なほど力がどす黒いが…」

呟きは静かな室内でキョーコの元にまで届いていた。


天使…?うそ、敦賀さんって天使だったの……!?


すぐ目の前に見える翼は、黒々とした艶やかな輝きを放っている。昨日蓮が自分の声に応えて目の前に現れたときも思ったのだが、なぜか今日は更に翼の枚数が増えた事もあり、そのシルエットは確かに悪魔らしくない。

でも…天使の羽根は白いけど。敦賀さんの翼は驚くくらい真っ黒よね……
堕天使なんてお話ではよく出てくるけど、まさか…?

「弱い犬ほどよく吠えるというのは本当だな」
蓮は冷たい声で言い捨てると、手を上げて無造作に空中に円を描いた。描いた円の中央に手の平をかざしてゆっくりずらすと、そこにぽっかりと暗い穴が開く。

目の錯覚かと瞬きを繰り返しながら穴を凝視するキョーコをちらりと横目で眺め、蓮は大またで歩み寄るとレイノの胸倉をつかみ上げた。
「俺の主の地が今どうなってるか…その眼で確認してくるといい」
そのまま躊躇なくレイノの体を放るようにすると、シュルン、と音がしてレイノの体は穴に吸い込まれて消え、続いて穴も消えて元通りの空間が戻った。


しばらくの間沈黙が場を支配する。

蓮はレイノが消えた空間を眺めるように背を向けたまま。キョーコはいたたまれなくなって声をかけようとしたが、その瞬間蓮が身じろぎしたので開きかけた口を再び閉じた。
「怪我は…大丈夫?」
振り向いた蓮の声はいつも通りの優しいものだ。先ほどレイノに相対していた時は氷がちりばめられたような声だったので、どんな表情なのかとびくついていたのだが今は表情もいつも通りに見える。
「私は全然何もありませんけど…って、きゃあ!敦賀さん!」
キョーコはほっと肩の力を抜いて答えたが、ふと視線を下に移して思わず悲鳴を上げた。

蓮が振り向いたためにシャツの胸元が目に入ったのだ。よく見れば、少しまくられているシャツの袖の辺りも同じ。蓮の肌にはぶすぶすとくすぶる黒い跡がついていた。
キョーコはしっかり思い出していた。これは契約を解除したときに蓮に刻まれた傷跡。
少し時間が経っているというのにその跡はまだ残っていて、どうやら力を使うと新たな傷となって持ち主を襲うようだ。

「だ、大丈夫ですか……?」
眉を寄せて恐る恐る蓮に近づいたキョーコは戸惑いながらも両手をそっと蓮の腕に添えた。傷には触れないくらい、少し隙間があいていたのだが、蓮はある事に気がついた。
キョーコの手がかざされた箇所の傷の疼きが少しおさまった気がしたのだ。

改めて見てみると、傷となっていたその箇所の傷跡は元の茶色い跡に戻っている。
「最上さん…俺の腕の傷に触れてみてくれる?」
好奇心に負けて蓮はキョーコに問いかけた。不思議そうにキョーコは蓮の顔を見上げ、すぐに頷くとおずおずと蓮の左腕の傷に触れる。
「あっ……」
今度はキョーコも気がついたようだ。自分がそろりとなぞった場所の傷がかき消え、茶色い跡のみがそこに残る。キョーコは顔を上げて蓮を見上げた。
「君が触れてくれると…傷が消えるみたいだね」
「どうしてでしょうか?」
「さあ…?」

思わずシャツの胸元から覗く傷にも手を伸ばしてしまったキョーコだったが、ぎしりと固まった蓮の顔を見ると真っ赤になってその手を引っ込めてしまったのだった。



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コメントコメント


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凄く想像力豊かなお話ですね!

こんばんは。お話、大変面白かったです。
ハリポタと千と千尋…が混ざったようなお話ですね。新しい境地!?ですね!これまでのぞうはな様の、オフィスラブの大ファンですが、こういうお話もワクワクします。いずれ全てが収まるところに収まって、つじつまが合うクライマックスが楽しみです。どうもありがとうございました。

genki | URL | 2014/07/30 (Wed) 22:38 [編集]


Re: 凄く想像力豊かなお話ですね!

> genki様

嬉しいお言葉ありがとうございます!!

オフィスの話が多いので、たまに毛色の違う話がかけるとちょっと遊びたくなったりもします。
つじつま…合うかしら。合わなかったら…ごめんなさい……

ぞうはな | URL | 2014/08/01 (Fri) 07:06 [編集]