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叶えたい願い (19)


こんばんはー。ぞうはなです。
やっとこ更新!





「賭けは俺の勝ちだな」
ふふん、と見下した顔でローリィは蓮に言い放った。蓮は無表情にローリィを見つめ返し、それから小さくため息をつく。
「そうですね。まさか、と思っていましたが…」
「俺の勘は当たるんだ。お前もよく知ってると思ってたがなあ」
「……」
無言で返した蓮に、ローリィはにやりと笑って畳み掛ける。
「てことで、勝負は勝負だ。約束どおり俺の言う事に従ってもらうぞ」

賭けなんてなくたってあなたの言う事に背くことなんてできませんけど…

蓮は言っても無駄な抗議を胸の奥にとどめる。
「しかし本当に、俺がこっちに留まって大丈夫なんですか?」
「ああん?何寝言言ってやがる」
「大王の力が強いのは俺だって十分に分かってます。ですが、あっちには隙をつこうと狙っている輩がいくらでも…」
「お前が叩き潰したじゃねーか」
怪訝な顔で自分を見返してくる蓮を見て、ローリィは声を立てて笑った。笑いを収めてから「こっちでは"社長"だ」と忘れず釘を刺す。

「何だお前、あっちに帰るなり何人も消滅させたこと覚えてねーのか」
「覚えてますけど…」
「あの数日間で俺の縄張りを狙ってる主要な奴は大方いなくなっただろうが」
「そうでしたか?」
「お前もしかして誰が襲ってきたのかわからんまま返り討ちにしてたのか?」
ローリィの表情は呆れたようなものになった。蓮と並ぶほどの力の強い悪魔が何人も、蓮があちらに戻って数日のうちに次々と消えたという噂はあっという間に尾ひれをつけて広がっていた。蓮がやったということに間違いはないのだが、ここまで自覚がないとは笑えてくる。

「相手の顔なんていちいち見てませんよ。大体向こうだって不意打ちだの闇討ちだの、顔見せずに来ましたし」
「機嫌は悪いし傷はうずくし手加減なんぞできん、か?」
じとりと自分をにらむ蓮に全く動じることもなく、ローリィは葉巻に火をつける。
「そこまでして守った相手にこれだけ想われるたあ、よかったじゃねーか。こっちにずっと居られて喜ぶならともかく、なんでそう不満げなんだ」
「不満なわけではありません……それに、最上さんにとって俺は呪いのために呼び出した悪魔ですよ」
「そんな単純なもんじゃねーだろ。単なる恨みを晴らす道具だったら、記憶を封じられてなお思い出すなんてことはないと、お前だって分かってるだろうが」
「ですが…」
「ああ、なるほどな。不満じゃなくて不安なのか。最上君が自分のことをどう思ってるのかわかんねえから」
「……」
口を閉ざした蓮に、ローリィは『図星か』と少しおかしく思う。このルックスと力で、あっちでは大量の女性にまとわり付かれてより取り見取りだったというのに、蓮は常にどこか一線を置いて人と深く付き合うことを避けてきたという事をローリィは知っている。

まあ、生まれと今までの経緯を考えたらそれも仕方ねえか。

しかし淡々と日々を過ごしてきた蓮なのに、どうにもキョーコに対しては過去に誰に対してもないほどの感情を抱いていることはローリィの目には誤魔化しようがない。

「不満でも不安でもいいがな。賭けの条件は絶対だ。難しくても自分で何とかしろ」
「…いつになく強引ですね」
「お前が拒否するからだ。…さて、ついたな。早速だが蓮、条件の一つ目だ。今日からしっかり働いてもらうぞ」
車はすでにLME本社の車寄せへと止まっている。助手席から降り立った執事が絶妙のタイミングで外から静かにドアを開け放った。


「帰ってないのかぁ…」
キョーコはアパートの駐輪場に自転車を停めながら自分の部屋を見上げて少し肩を落とした。蓮と再会したことにウキウキとして、気分よく学校とバイトをこなした反動がちょっとだけ出る。

あれこれ勢い込んで買い込んでしまった食材をぶら下げて、キョーコは部屋へと戻った。
蓮が何時に帰ってくるのかは分からないが、とりあえず下ごしらえだけはしてしまおうと制服から部屋着に着替え、ふとフローリングの部屋を覗く。

相変わらずがらんとした空間。
蓮は前にもこの部屋に私物は何も置いていなかった。毎日着ている服はどこから出てきているのか不思議だったのだが、今回も同じなのだろうか。
見回してみれば蓮のいる痕跡は部屋の中にはなく、キョーコは思わずぶるっと身震いする。慌ててキョーコは考えるのを辞めるとまな板の前に立った。

そうよね…
思い出せて顔見られて嬉しかったけど…敦賀さんは魔界の人だもの。
またいついなくなっちゃうか分からないし…そうしたらまた、私敦賀さんのこと忘れちゃうのかな?

しばらく考え込んでから、キョーコは思いっきり頭を振った。

ああもう、考えるのはやめよ!
折角ここに戻って来てくれたんだから、短い間だって敦賀さんが快適に暮らせることだけ考えないと…!

それから軽快な音がキッチンから響き、やがて美味しそうな匂いが換気扇から流れ出てきた。


キョーコが大体の調理を終えるころ、ガチャリと音を立てて鍵が開き、ドアから蓮が顔を覗かせた。

「お帰りなさい!」
笑顔で出迎えるキョーコに対して蓮も笑顔で答える。
「ただいま。ああ今日は俺の方が遅くなっちゃったね」
「もうご飯できますよ」
「ありがとう」

蓮はダイニングテーブルの上にちらりと目をやって、2人分の食器が並べられている事に少し表情を崩した。殺伐とした向こうの世界から戻ってきた直後は、やはりキョーコが作り出す暖かい空気にじんわりと癒される気がしてしまう。

「最上さん」
「はい!」
呼びかけられてキョーコはくるりと振り返った。視線の先には少し緊張した面持ちの蓮がいる。
「仕事の都合もあってしばらくこっちにいることになったんだけど……」
「お仕事って、どなたかとご契約を…?」
「ああいや、その仕事じゃなくて、こっちでの仕事のことで」
「あ、そうなんですか!」
「それで…しばらくここに居させてもらうのは迷惑、かな?」
「へ?」

キョーコはきょとんと蓮を見返した。蓮は取り繕うように慌てて言葉を足す。
「いや迷惑だったらいいんだ、すぐに住むところは探せるから」
「…ここに居てくださっていいに決まってるじゃないですか!私が敦賀さんのこと呼んでしまって申し訳ないって思ってたんです。もちろん、いつまでだってここにいらして下さい」

『いつまでだって』

2人同時にそこに気が付いた。
途端にキョーコはぼふんと赤くなり、わたわたと両手を振り回す。
「いえあの!その、こちらにいらしてる間はってことで…!そ、そのためにこの部屋に…って、いやえーっと!」
「もしかして、俺が戻るかもしれないから引っ越さなかったの?」
「は……」
キョーコはぴきんと固まった。誤魔化したつもりがしっかり聞かれてしまってもう言い訳がたたない。観念して少し俯きながら小声で返事をする。
「……はい。その、忘れてたのに変なんですけどその、引っ越したら何か無くなってしまいそうって、誰かを待っているはずだって、ただそれだけ思ってて……」
「そうか……」

蓮は一歩キョーコに近づくと、その俯き加減の頭をわしわしと撫でた。
「ありがとう。実はこっちの滞在が長くなりそうなんだけど、本当に大丈夫?」
「もちろんですよ!」
「それはいい事を聞いたな」
キョーコの弾んだ声に、もう1つ別の声が重なった。

蓮とキョーコははじかれたように振り返った。

「全然気が付かないとは…やはり魔王といえど、不名誉な傷の影響は避けがたいか」
いつの間にか、部屋の角には1人の男が腕組みをしたまま寄りかかっていた。男は白い肌と美しい顔を持ち、暑い季節だと言うのにロングコートをまとって冷たい笑みを浮かべている。

「魔界に帰らないと言うのなら、好都合。そして俺にとってはここであんたに会えたことが幸運なことだ」

体を起こして一歩進み出た男に対し、蓮は無表情のままキョーコを後ろにかばうように正対した。


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