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叶えたい願い (14)


こんばんは!ぞうはなです。
ちょっとバタバタしておりますがなんとか暇を見つけて更新!
ごめんなさい、拍手お礼記事はまた後日あらためてー。




「どうだね?学校は」
ローリィに尋ねられてキョーコははきはきと笑顔で答える。
「はい、おかげさまで楽しく通っています」
「先日理事の友人に会ったが…中間テストでいい成績だったらしいな。順調に行けば今年度中に奨学生になれるかもしれない、と聞いたぞ」
「本当ですか?嬉しいです、気を緩めず勉強頑張ります!」

握りこぶしを作って前のめりなキョーコに、ローリィは少し苦笑をこぼした。
「まあ、足長おじさんとしては奨学金と言わずもう少し頼って欲しいとこだがな」
途端にキョーコはぶるぶるとものすごい勢いで頭を横に振る。
「とんでもない!学校の編入試験も手配していただきましたし、制服だって結局夏服まで送ってくださって…これ以上何かお願いするなんてもう心苦しくて!!」
「だが、学校とバイトの両立は大変だろう」
「いえ!学校に通う前のことを考えたらなんてことはありません!」
「ほほう、頼もしいな。そうか、学校に通う前は1日中バイトだったと言ってたかな」
「はい…今は、楽しいんです。時間的には暇がなくて大変かもしれませんけど、自分のためにお金を稼いで、自分のために使って。ようやく私、自分が自分であるために前を向けているような気がします」

本当に嬉しそうに語るキョーコを、ローリィはじっと見つめてから頷いた。
「君がそういう人間だから…俺は手を差し伸べたいと思うんだな。ふむ、よろしい。ちゃんとやっていかれると言うのであれば俺は君を信用しよう」
「ありがとうございます」
「礼を言われるのも変だがな。ただ、厳しいときは素直に頼るようにな」
「はい!」


やがて車はキョーコの通う高校の正門脇にぴたりと止まった。恭しく開けられたドアからキョーコはコソコソと下り、車に向かって深くお辞儀をして走り去るのを見送る。
車が見えなくなってからキョーコはくるりと向きを変えて門に向かって歩き出した。

社によるキョーコの中の蓮に関する記憶の封印は、キョーコの中で矛盾をなくすために記憶を少々いじることと並行して行われていた。
そのため、高校入学を勧めてくれたり制服を購入してくれたのは『足長おじさん』ことローリィ宝田であると、現在のキョーコにはインプットされている。

うん…そうよね…確かに毎日大変だけど、辛いとかやめたいとかって思ったりはしないのよね。
ずーっとあのバカのためだけに働いていたのもあれはあれでやりがいがあったけど……当時は、よ?今ではバカみたいな時間だったと思ってるわよ?うん。…楽しかったけど自分のためにはならなかったもの。


高校に通い始めてキョーコは真剣に自分の今後を考えるようになっていた。
「尚ちゃんのお嫁さんになるの」なんてふわふわした夢は尚が出て行った直後にビリビリに破り捨てて踏みにじって燃やして灰にした。けれど、その分ぽっかりと開いてしまった穴は自分で埋めるしかない。
最初はその深く大きい穴がもたらす喪失感を尚への怒りや憎しみで埋めるしかなかったが、ローリィのおかげでようやく前を向いて歩けるようになってきたと思う。


まずは高校…大学までは無理だと思うけど……3年間でちゃんと今後のことも考えて…


自分で決めた道を自分の足で歩けるのは素晴らしいことだと思う。けれどキョーコはそのことを考え出すと、ものすごく不思議な感覚に囚われるのだ。


あ……まただ。
やっぱり私何か、大事なことを忘れてる…?
なんだろう。なんだか分からないけど、すごく大事で……絶対に忘れちゃいけないこと……


校門を入ってしばらく進んだところでキョーコは無意識に立ち止まって考え込んでしまった。
この感覚に囚われると、キョーコは奇妙な焦燥感に駆られ、どきどきと心拍数が上がってしまう。思い出さなくちゃ、と思うものの、何を思い出さなくてはいけないのかきっかけすらつかめないのだ。

「あんた何してんの。チャイム鳴るわよ?」
後ろから声をかけられてキョーコはびくっと飛び上がった。呆れた顔で立っているのはクラスメイトの琴南奏江だった。

「あ、モー子さん!おはよう」
「おはよう。…あんた大丈夫?」
「え…?う、うん。大丈夫大丈夫」
「なんか顔色悪いわよ」
「そんなことないわよ、元気元気!」
キョーコは先ほどまでの考えを無理やり向こう側に押しやるとまた足を踏み出した。

「あんたさっきものすごいリムジンから降りてきてなかった?」
「あ…うん……その、色々相談に乗ってくれてる人が送ってくれて」
「パトロン?」
「そ!そんなんじゃなくって!ほんとに親切な人なの。足長おじさんだって言ってこの学校も紹介してもらって」
「へぇ~。お金持ちってすごいわね。何やってる人よ?」
「LMEって芸能事務所あるでしょ?あの社長さんだって」

感心した顔で奏江はキョーコの顔を見つめた。
「なんでまた、そんな人とお知り合いになれたの?」
「え?」
キョーコは目をぱちくりして奏江の顔を見返した。

なんだっけ…?えーっと、あ、そうそう。

「うん、バイト先のお店のお客さんなの」
「…あんたのバイト先ってファーストフードと居酒屋じゃなかったっけ?」
「うんそう。その居酒屋の方」
「あんなリムジン乗ってる大金持ちが、そんな庶民的なお店に行くのね…金持ちってやっぱり変わってるわ」
「言われてみればそうね。…でもいつも豪華な食事してると、たまには庶民の味ってのも食べたくなるんじゃない?」
「そうかもしれないけど…理解は出来ないわね」

2人は教室に入るとそれぞれ席に着いた。

そうよね…確かに宝田さんがあの格好でだるまやに来たらものすごく目立つけど…なんでだろう?お店に来てくれた時のこと、なんでこんなに忘れちゃってるのかなぁ…?確かに…お店で会った筈なのに?

キョーコは不思議な違和感に考え込んでしまったが、やがてチャイムが鳴り授業が始まったことでその違和感は棚上げすることにしたのだった。


「本当に不破君は若いのに、カリスマ性があるのかね」
「さあ…俺自身はよく分からないですけど」

当たり前じゃねーか、不破尚と書いて"カリスマ"と読むくらいだ、と内心では思いながら、尚は口先では謙遜してみせた。

尚はマネージャーの安芸祥子と共に高級なイタリア料理店の個室にいた。向かいには上機嫌でワイングラスを傾けるテレビ局のプロデューサーが座っている。
尚はこのプロデューサーにかなり気に入られて食事に誘われたのだった。複数の音楽番組に関わる人物のため、つながりは深めておいた方がいいという祥子の判断でこの会は開催されている。


「不破君は出身はどこだい?」
「…京都です」
「へぇ、では東京へは親元を離れて?やっぱり反対されたかい」
「まあ…そうですね」

尚は言葉を濁した。
テレビ番組や雑誌の取材だけではなく、仕事で関わる人間にも過去や生活に関する話は一切しない。それが不破尚の戦略だ。謎が多い方がミュージシャンとしてのカリスマ性を高められると事務所は考えているし、実際にファンはそこに魅力を感じている面もかなり大きい。

「1人で東京出て来て成功するのは難しいんだよなあ。俺は挫折した奴をたくさん知ってるよ。才能あるのに芽が出ない奴もいっぱいいる」

そりゃあ、本当に才能がある奴じゃなかったんだろ?

尚は思いながらも真剣に頷きながら話を聞くふりをした。俺は潰されるような半端な才能じゃねーんだ、と自分に更に自信を持つ。
プロデューサーは尚が内心鼻で笑っていることなど気付かず、語りつづけた。
「音楽活動を続けながら生活を成り立たせるのは大変だからなあ。君の事は世間知らずのお坊ちゃんだと思ってたんだけど、いやいや、ちゃんと苦労してきてるんだな」

苦労?

尚はプロデューサーの言葉に耳を止めた。
東京に出てきてからデビューまでの間、レコード会社にデモCDを送ったりライブハウスに出たりとそれなりの努力はしてきた。まあすぐに自分の才能に気付いたレコード会社がいたためその期間は1年もかからなかったのだが。

「バイトの掛け持ちとか、したんだろう?大体みんな、バイトに明け暮れてさ、それで終わっちゃうんだよな。なんて偉そうに言う俺も若い時は俳優目指しててなあ。けど貧乏学生で学費稼ぎながらバイトして、4畳半のじめっとしたアパートに住んで。それでも食うに困るくらいで…」

バイト?

尚はふと気がついた。
東京に出てきてからバイトなどしたことがない。毎日作曲とデモ音源作りに明け暮れて。
それで、食うに困ったか?いや、困ってはいなかった。毎日朝も夜も温かい栄養バランスが考えられた食事が用意されていた。アパートはそこそこ快適で広さも2人で住むに困る事はなく。

そこで初めて尚は気がついた。
自分は東京に来てからずっと、洗濯も掃除も炊事も、生活に必要な事は何もした事がなかった。



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