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叶えたい願い (11)


こんばんは!ぞうはなです。
ちょっとバタバタしているので推敲甘いですができたところまでー。
拍手お礼記事は明日あげさせてくださーーい。





「どうしたの?」
キョーコのぎこちない笑みはすぐに蓮に分かってしまったらしい。少し心配そうな顔で近づいた蓮に、キョーコは慌ててもう一度笑顔を作って首をふるふると振った。
「いえ、どうもしませんよ!」
蓮はキョーコのすぐ横に立つとじっとその顔を見つめた。
「彼に会ったね?辛いことがあるんだったらそう言えばいい。俺の前で無理して笑わなくていいよ」
「いえ、あのバカに会ったって別になんてことはありません!本当に何でもありませんよ?」
「だけど、今の君はすごく辛そうだ」
静かに何気ない調子で吐かれたセリフに、キョーコの表情が凍りつく。キョーコは驚いたように蓮の顔を一瞬見つめ、それからその視線は落ち着きなくあちこちをさまよった。


不意にキョーコの視界が急に暗くなり、全身が温かいもので包まれる。キョーコの体は蓮の懐にすっぽりと収まっていた。

「きゃ…!な、なんですかいきなり!」
身じろぎするがその拘束は解けず、キョーコは焦って抗議の声を上げる。
「話す気になった?」
少しバカにするような、毒舌なセリフをはくときの口調の声が上から降ってきて、普段だったらカチンと来るのになぜかキョーコは鼻の奥がつんとするのを感じる。自分の不思議な感情に驚きながらも、しばらくキョーコは無言で立て直しを図った。ようやく気持ちを何とか落ち着けて、蓮の腕の中から逃れながら努めて明るい声を出す。
「ホントになんでもないですから!もう、敦賀さんって悪魔のくせに優しいんですね」
「優しい?そんなことはないな」
「優しいですよ。…優しすぎます」
ぽつりとこぼすと、キョーコはニッコリ笑って蓮から離れてキッチンへ向かう。買ってきた材料をがさがさと取り出しながら、蓮の方を向かずに話しかけた。
「ご飯を食べたら、お話聞いてもらってもいいですか?」


その夜の食卓は音がなく、まるで会話を禁じられているかのようだった。キョーコは緊張して機械的に箸を口に運び、もともと無口な蓮は何か考え込むような表情でこちらも黙々と食事を進める。
食事が終わるとキョーコは机の上を綺麗に片づけ、背筋を伸ばして椅子にピシリと座った。
「話、とは?」
口をきゅうと結んで緊張気味のキョーコを促すように蓮は口を開く。
「はい。…あの、こんなに長い間、こんな窮屈なところですみません。私がなかなか契約の話をしなくて」
ああ、と蓮は軽く頷いた。
「それは俺もしなかったからね。君のせいじゃないよ」
「だけどその、ずっとこうして待っててもらう訳にも…だからその」
「俺もちょうど、今日はその話をしようと思ってたんだ」

キョーコの話を遮るように蓮はにっこりと笑った。その笑顔はどこかひんやりとさせる空気をまとっている。
「実はすぐにでも向こうに戻らなくてはいけない急用ができてね」
「それでは…」
「うん。俺は向こうに帰る。それで、君との契約なんだが…すまないが、このまま解除させてほしい」

キョーコはぽかんと口を開けた。解除?
「え…どうしてですか?」
すぐにでも呪いをかけてもらって、と思っていたキョーコは蓮の言っている事がうまく理解できない。
「君にはもう、悪魔の呪いなんて必要ないからだよ」
「必要ないって…!そんな、私はまだあいつに復讐をしてません!」
「じきに叶うよ。君の願いは、君の力で」

蓮の笑顔はいつになく作り物めいていてその感情は一切読めない。
普段から喜怒哀楽を見せない蓮の感情など分からないのだが、それでもたまに見せる笑顔は優しくて、キョーコはその笑顔に安心感を覚えることもあった。それなのに今は、冷たい笑顔があるだけだ。

「仰ってる意味が分からないのですが」
キョーコの表情と口調は無意識のうちに固くなる。
「君は今日、あの男に会っただろう」
「……会いました」
「約束もなしに君の通う高校に押し掛けてきた、違うかな?」
「見てたんですか?」
「いいや。でも、彼が君の高校を調べてた事は知ってるよ」
「でも、それがなぜ?」

蓮は机の上で両手の指を組んだ。自分の指を見つめながら蓮はゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
「彼は昨夜、ここに来たんだ。下の通りからこの部屋を見ていた。そしてこの部屋に君だけではなく俺がいることにも気がついた」
「…車で通りかかった、と奴は言ってましたけど」
「まさか、そんなんじゃ部屋の様子は見えないだろう?彼は確かに車で来たけどちゃんと降りてしばらく下に立ってたんだ」
「なんでわざわざ…?」

訝しげな表情になるキョーコに、蓮はきっぱりと言った。
「君は彼に捨てられて、復讐したいと言った。けれどどう?わざわざこの部屋の様子を見に来て、知らない男がいると分かっただけで君のところに押しかける。君の事を気にしているとしか考えられないだろう」
「あのバカは…人の事どこまでバカにすれば気が済むんでしょうか!勝手すぎます!」
「確かに勝手だけどね。だからもうすぐ君の願いは叶うんだ」
「…やっぱり意味が分かりませんけど?」
ふ、と蓮は鼻で笑った。
「君には難しい話だったかな。でも大丈夫。その内分かるよ」

むむう、とふくれたキョーコに、更に蓮は続ける。
「それに…悪魔に願い事をしてそれが叶ったとしても、叶えた人間は幸せにはなれない」
「…それは……知ってます」
「うん。呪いには副作用があるからね。恨みや憎しみを晴らしたつもりでも…違う形で不幸が訪れる」
「それでも私は…」
「俺がね。嫌なんだよ」

再びキョーコの表情は唖然とする。
「何がですか?」
「君には不幸になってほしくない」
「……???」

困惑してしまったキョーコに言い聞かせるように蓮は話す。
「普通悪魔を呼び出す人間は憎しみや恨みに押しつぶされてる。他のことなんて見えないし、望まないし、とにかくひたすらにただ呪いの気持ちだけを抱くんだ。…君に呼び出された時、最初は君もそう言う人間と同じだと思った」
キョーコは黙って蓮を見つめた。
「だけど君は…押しつぶされてはいなかった。押しつぶされそうだけどなんとかもがいている事が分かった。少し手を差し伸べれば、きっかけだけつかめれば、君は自分の力で立てるって思ったんだ」
「どうして…?敦賀さんは悪魔でしょう?なんでわざわざそんなこと?」
「悪魔だよ…悪魔は、きまぐれなんだ」


キョーコは暗闇の中で寝がえりをうった。

「明日帰るよ」

ほぼ強制的に話を打ち切った後、さらりと蓮は言った。
契約を解除して、と言うのがやや引っかかるし、そのままでも願いは叶う、というのが納得できないが、蓮が帰ると言うならそれを留めることはできない。呪いはかけられないと言われたが、もう十分、自分が今の生活を送るための援助をしてもらっているとも思う。

うん…仕方ないわよ。わかってたことだから。わかってるもん。
…分かってるけど……

キョーコは再度ごろりと寝がえりを打って仰向けになると、腕で目を覆った。

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