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君の魔法 (5)

パラレルです。
ちなみに時代とか地方とかはおとぎ話として考えていただければ幸いです…




レンとヤシロは並んで石畳の緩やかな坂道を下っていた。
城門を抜けてすぐに貴族たちの別邸である屋敷が並び、屋敷町を抜けると市民たちが暮らす生活感があふれた町並みへと続いていく。目的地であるパブはもう少し先の繁華街の中にある。二人は歩きながら小隊の隊員たちのスキルなどについての情報交換をしていたが、唐突にヤシロが話題を振った。

「お前さ、ほんとにキョーコちゃんのことなんとも思ってないのか?」
「ヤシロさん、妙にしつこいですね今日は」
「だって~~、キョーコちゃんに対してはお前の態度が違うんだもん」

違うんだもんって… レンは呆れ顔でヤシロを見た。

「違わないですよ。大体、部下として女性と接したことなんてありませんから、比較対象が無いじゃないですか」
「相手が男だって、部下や同僚のプライベートを知りたがることなんて無かっただろうに」
「俺は彼女のプライベートを知りたがってなんてないですよ。ヤシロさんが勝手に話したんじゃないですか」
「あ、ひどいな。お前が知りたそうな顔してたから教えてやったのに。言っとくけど、キョーコちゃん狙ってるやつ、結構いるんだからな」
「ああ、今日もいましたね、少なくとも2人は」
「やっぱりよく見てるじゃないか…あの子なぁ、じわじわ来るんだよ」
「じわじわ?」
「そう!飛びきり美人ってわけでもないだろ?でもな、なんでも一所懸命で、世話焼きで、親身になってくれるからな。徐々に惹かれるヤツが増えてんだよ」
「はあ…」
「まあ、ほつれたボタンをさり気なくつけてくれたり、食生活の心配してくれたりしたら、男はぐらっと来るよな」
「…貴族のお嬢様にしては珍しいタイプですね」
貴族の若い女性の中には花嫁修業と称して稽古事に精を出す者は多いが、生活に必要な雑事については召使がやるのが当たり前のため、家事が出来る女性は少なかった。レンの周りにやってくる女性たちも、お菓子は作るが食事は作れないタイプが多かった気がする。
「そうなんだよ!だから、お前も気をつけろよ」
「何に気をつけるんですか?」
「お前、華やかな美人タイプは扱いなれてるだろ?逆にああいう普段と違うタイプに堕ちたりするかもしれないぞ」
レンは思わず鼻で笑った。
「それはありえませんよ」
「そうかぁ~~?」

二人は繁華街の入り口に差し掛かっていた。通りの突き当たりに大きめのパブの建物が見えている。パブに向かって進んでいくと、途中の道に立つ呼び込みの女性たちがレンたちを見て興奮してなにやら囁きあう。「ツルガ様~!久しぶりに寄っていってよ~~」という声も聞こえるが、レンは顔に笑顔を貼り付けて軽く手を上げると、そのまま通り過ぎた。

パブの入り口のウエスタンドアを開けると、レンとヤシロは店内をぐるっと見渡す。
ひときわ賑やかな大きい集団が目に飛び込んできて、目指す場所はすぐに知れた。人数からすると、他の小隊やらも混ざっていそうだ。そちらに向かおうとしたところで、目の前に女性が飛び出してきた。
「レン様!本当に戻ってきてくれたのねー!!」
パブのウエイトレスがレンの首に飛びついてくる。
「やあ、ルリコちゃん久しぶり。またよろしくね」
レンは嫌がるでもなくにこやかな笑顔を浮かべてウエイトレスを見た。途端にルリコの顔はとろんと溶けて目はハートマークだ。その隙にレンはするりとルリコの腕を解いて、またね、と挨拶をしている。

ほら、普通はこうなんだよな。紳士の笑顔でレンが女の子を見て、相手がメロメロになるんだよ…なんでキョーコちゃん相手だとぜんぜん違うんだろう?

二人の様子を眺めながら、ヤシロは本気で首をかしげていた。

レンとヤシロが仲間の元へ着くと、すでに先着隊はかなり盛り上がっていた。すぐに席に引き入れられ、目の前にグラスがどんと置かれる。そして、「新しい小隊長に敬意をこめてー!かんぱーーーい!!」と、全く敬意のこもらない音頭とともにグラスやジョッキが上げられた。
レンはにこやかに調子を合わせながら、ぐるりと一同を見渡した。非番の隊員たちはほとんど揃っているように見える。明朝早くからの警備当番の者には、すでにヤシロから「飲みすぎるなよ!」と柔らかい注意が飛んでいるので、こっちは任せておいて大丈夫だろう。自分がいるテーブルからだいぶ離れたグループの反対の端の方に、小柄なキョーコと思われる頭がチラリと見える。

まだかなり若そうに見えるが、飲んで大丈夫なのか?
レンは少しの懸念を抱いたが、いちいち自分が口を出してまたヤシロにからかわれたくもなく、その場はそのまま流すことにしてグラスを傾けた。

レンとヤシロの周りにはボトルやデカンタを持った男たちが次々とやってくる。
大体新入りが来ると、周りからの洗礼を受けて酔い潰されるのは軍の男たちの恒例行事のようになっており、それが上司であろうと例外はなかった。新入りでもないのに巻き添えをくったヤシロの方はだいぶ怪しくなってきているようだったが、レンは全く顔色を変えずに杯を受けている。むしろ、返杯を受けた者の方から先につぶれていっているようにも見えた。

小隊長はいろんな意味で化け物だ…

男たちの胸中にそんな思いがよぎる。そんな感想を知ってか知らずか、レンはまたけろりとグラスを空けて、柔らかい笑みを崩すことなく周りの連中と話をしていた。



ガタン!!ガシャーーン!

酔いつぶれるものがだいぶ出始めた頃。レンから少し離れたテーブルから大きな物音がした。
店内の視線が集まる。そこには、お互いに胸倉をつかみ合ってもみ合う二人の男がいた。二人とも少し足元がおぼつかないため、テーブルと椅子に突っ込んでグラスが割れたようだ。注目を集めていることを気にせず小競り合いは続いていた。

全く…とレンが立ち上がると、もみ合う二人の向こうに机に突っ伏している人の姿が見えた。小柄なその人物は間違いなくキョーコだ。キョーコの隣では、ヒカルがつかみ合う男たちの様子を伺いながら、心配そうな顔でキョーコの肩をゆすって水の入ったコップを渡そうとしている。
レンはとりあえずつかみ合う二人へと向かった。よく見ると、一人は稽古でレンに突っかかってきたムラサメだ。

こいつは血の気が多いのか?
レンはため息をつくと、二人の掴み合いを難なく解き、双方の腕をぎりりと捻りあげた。
「いてててててっ!」
「何を無粋なことをやっている?ここは楽しく酒を飲むところだ」

「だってこいつがっ…!」
「なんだよ、おまえだって!」
二人はレンに腕をつかまれたまま、まだドタバタと暴れている。相当酒が回っていて、冷静な話は出来なさそうだ。レンは二人の膝裏を順に蹴飛ばして二人を転がすように床に座らせる。そして上から冷ややかな声で一喝を浴びせた。

「それほど血の気が余ってるんだったら、明日早朝から稽古場に来い。真剣で100本ほど打ち合えば血の気も抜けるだろう」

「「す、すみませんでした」」
二人は尻の痛さと怒気をはらんだ冷たい声に一気に酔いを覚まし、青い顔でレンに謝罪の言葉を吐く。さすがに酔っていても、レンとやりあう気にはならなかったようだ。

「仲間同士でつまらない諍いを起こすな。不満があるなら俺が聞くが…」
レンがじろりと二人の顔を見ると、二人は慌てたように、バツの悪そうな顔で目線を背けた。すると、隣のテーブルから冷やかすような声が飛ぶ。
「違うんですよ、レン様。そいつら、どっちがキョーコちゃんを連れて帰るかでもめてたんです」
レンは思わず後ろを振り返った。キョーコは相変わらずぐったりとテーブルに伏せている。

~~まったく、どいつもこいつも何をやってるんだ!

レンは心の中で悪態をつくが、表面上はごく冷静に問い返した。
「なぜ連れて帰る必要があるんだ?彼女の部屋に放り込んでおけば済む話だろう」
「キョーコちゃんの部屋は兵舎には無いんですよ。宮殿の女官たちの宿舎に住んでるんです」
他の男が返答を返した。
なるほどね、とレンは納得した。確かに血の気の多い男どもと同じ宿舎に女性を入れるわけには行かないだろう。そして、女官の宿舎はその敷地一帯が男子禁制だ。破ったものにはそれはそれはきつい罰が待っている。

レンは改めて床に転がした二人の顔をじろりとにらみつける。
「…それで、お前たちは意識のない酔いつぶれた女性を部屋に連れて帰ってどうしようと言うんだ?兵舎の個室はベッドが一つと机くらいしかなかったはずだが」
いやまあそれは…介抱しようかと…などと言葉を濁す二人に、レンはわざとらしく大きなため息をこぼす。
「まったく情けない…意識を失った女性を部屋に連れ込んで何が楽しいんだ?……ああ、なんだ、お前らは意識があるときは彼女に歯牙にもかけてもらえないのか」

ムラサメは何か言いたげに顔を上げたが、キョーコに男として意識されていないのはひしひしと感じていたため、言い返すことは出来なかった。
(うう、でもこいつに言われると何か…何かすごく負けてる気がしてむかつく!!!)
ギリリと奥歯を噛み締めるが、今日の訓練中のことも思い出されて下を向いて黙ってしまう。なぜか、ムラサメとその喧嘩相手だけではなく周りにもレンの言葉にダメージを受けている男どもがいるようだ。ヒカルも微妙な顔で天を仰いでいた。

レンはキョーコの顔を覗き込んだ。顔色は悪くないし、呼吸も落ち着いている。
「それほど大量に飲んだ訳でもないんです。キョーコちゃん、前に飲んだときもそんなに弱くもなかったですし」
ヒカルが心配そうにキョーコの顔を見つめながらレンに説明をする。
「ただ、なんか今日は思いつめた顔してて、ペースが速かったんですよね…」

レンはしばらくキョーコの顔を見つめた後、ズボンのポケットから小さな皮袋を取り出してヒカルに渡した。それはジャラリと音を立ててずっしりとヒカルの手の平に収まる。
「みんなの酒代と割ったグラス代だ。足りなければ俺に請求するように言っておいてくれ」
そういうと、キョーコの背中を腕で支えて体を起こす。自分のマントをキョーコの体にかけると、膝裏に腕を差し込んで横抱きに抱き上げた。
「キョーコ・モガミは俺の部屋で休ませる。寝込んでいるだけのようだから心配は要らないだろう」
周りの男たちは無言で見守った。何か言いたげに口を開閉させるムラサメと目が合うと、レンはニコリと笑った。
「ああ、そういう心配も無用だ。俺の部屋は広いし、俺も、それほど不自由してるわけじゃないからな」

レンはそのままヤシロに後を託すと颯爽とパブを出て行った。

「あぁんんのぉきざおとこぉ~~~。む、むかつくぅ~~~~」
残されたムラサメの遠吠えが響く。

周りの男たちはムラサメに同情しながらも負けを認めるしかなかった。
(顔も、スタイルも、剣も、勝てないよなあ)
(そりゃあんだけ女たちが群がれば不自由どころか…う、うらやましいなー)
(言ってる事はすげー嫌味だけど、真実だよな)
(うう…やっぱりキョーコちゃんも落とされちゃうのかな)
残された男たちの群れは、その後はやや苦い酒をあおったのだった。





当たり前ですが、お酒は二十歳になってから!!
ヨーロッパでは16で飲める国もあるんですね~

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