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叶えたい願い (9)


こんばんは!
いっちゃん最初に考えていた雰囲気とちょっとずれてきちゃったのですが、とりあえずこのまま突っ走ります。





「あれ?最上さんって、最上さんだよね」
よく分からない問いを大声で上げたのは村雨という男子大学生だ。
朝から一緒のシフトに入ってさっきから何回も顔を合わせているし、そもそも前からの顔見知りのはずなのに、ここに来てその質問は?と周りも苦笑する。

村雨から渡されたバーガーの紙包みをトレイに載せながら、キョーコは首を傾げて返事をする。
「そうですけど…?」
「ええー!びっくりしたな、俺。不覚にもこの瞬間まで全然気がつかなかったよ」
「すみません…」
「ああ、いやいやいや!最上さんが謝ることじゃなくってさ。ごめんごめん。誰も紹介してくれないからどうしようかと思ってたんだ~」

「村雨ー。口じゃなくて手ぇ動かせよ」
離れた場所からマネージャーの注意が飛び、村雨は慌てて持ち場に戻る。
キョーコはにこやかにお客にトレイを渡して深々とお辞儀をしてから、そういえば、と思いだした。村雨は以前からのバイト仲間だが、さほど親しくもなくそれほど言葉を交わした事もなかった。
キョーコが髪を切る前あたりに村雨はインド旅行に出かけ、その後キョーコは高校に入ったため平日昼間のシフトは外してもらっていた。なるほど、キョーコの外見が変わってから会うのは初めてだったのだ。


ヘアスタイルくらいでって思ったけど…案外分かんないものなのかしら?
…まあ…ずっと一緒に暮らしてたバカが分かんないくらいだから、村雨さんが分からなくても仕方ないわよね…

キョーコが休憩のために奥の小さな控室に入ると、たまたま同じ時間に休憩となったらしい村雨もやってきた。
「お疲れー。ねえ、最上さんって下の名前なんて言うの?」
「へ…?…えと…キョーコですけど……?」
「キョーコちゃんか!キョーコちゃんて高校生だったっけ?」
「はあ…まあ、はい」
正確にはつい最近なったばかりなのだが細かい事情を話しても仕方がないだろう。無難に言葉を返しているつもりなのだが、村雨の今までにない前のめりな姿勢にキョーコは対照的に少し引き気味になってしまう。

「そっかーー。うぅーーん、キョーコちゃんがこんなに変わるなんて意外意外。ねね、今度バイトの皆でどっか遊びにいかね?」
「は…?」
「ボウリングとか、カラオケとか行こうって他の子と言ってるんだけど。キョーコちゃんも一緒にさ?」
「あ、はあ…ありがとうございます。けどあの、私ここの後もバイトがあって…」
「えー、そうなんだ?でもさ、空いてる時もあるでしょ?」
「はぁ…まあ、曜日によっては」
「じゃあさ、できるだけそこにあわせるからさ!」
考えておきます、とキョーコは言葉を濁して休憩を終え部屋を出る。その後も村雨はちょこちょこキョーコに話しかけてくるし、それに影響されたのか今まであまり声をかけてこなかった他のバイトも親しげに話に入ってくるし、キョーコは戸惑ってしまった。

びっくりしたぁ…村雨さん、今までこんなに親しく話してくれたことなんてなかったのに…?
んーもしかして、私って今まで話しかけにくかったかな。
それもそうよね…いつも髪振り乱してたし、仕事中もショータローのことしか考えてなかったし…私だけがショーちゃんを支えられるの、なんて……今思えば自分で自分の世界を狭めてたのよね、きっと。


同じ世界でも、ちょっとだけ考え方を変えれば見え方は違う、ということにキョーコは改めて気がついた。
今まで当たり前だと思っていたことは実はそうでもないし、一本しかないと思っていた道も、たくさんある内のひとつ。
どの道を選ぶかは自分が決めるのだ。他人からの影響は受けるかもしれないけど、歩くのは自分。

敦賀さんはそれを教えてくれてるの?

悪魔である蓮の言動はなかなかに厳しい。
キョーコのことをずばずばと切り刻むようなことも言うし、決して甘やかしはしない。けれど、言っていることは(悪魔のクセに)すごく当然だし納得がいくし、何よりもどれだけ厳しく言われてもどこかに優しさを感じてしまう。


悪魔は甘言で人を惑わす、なんてことも本で見たけど…そういうのとはまた違う気がするし、どっちかといえば先生みたいよね。
厳しいけど生徒に対する愛情たっぷりの。
……敦賀さんって本当に悪魔なの??

最初は恐ろしい見かけと言動で、悪魔ってこわい!と震え上がったキョーコだったが、接する時間が増えるうちに違和感の方が上回ってきている。それでも左手の甲を見てみればそこにはやっぱり契約の印の模様が浮かんできて、キョーコの懸念を打ち晴らそうとたまに痛みすら与えてくるのだった。


「そろそろいいんじゃないかー?」
「まだ…だと思うんですけど……」
「でもお前悪魔としての仕事何一つしてないよな。ここからどうやって契約終了に持ち込むんだ」
「まだそれは……」

男2人が会話をしているのはカラオケボックスの狭い通路の端っこだ。蓮はポケットに手を突っ込んで、社は腕組みをして並んで壁にもたれかかっていた。2人の視線の先にある部屋の中には熱唱する村雨と、周囲のバイト仲間と笑顔で何か話をしているキョーコの姿がある。

「キョーコちゃんの願い事ってさ、こういう生活送るってこと?」
「……どうでしょう。まったく外れているとは思いませんが、単純にそれだけとは」
「なんだよお前、まだ分かってないの?」
「すみません」

2人の鼻先を、ドリンクを大量に載せたお盆を持った店員が通り過ぎていく。ここでも2人の存在は他の人々には認識されていないようだ。
「もしかしておまえ、帰りたくなくなったんじゃないだろうな」
「それはありませんよ」
「ほんとか?大体キョーコちゃんだってお前と暮らしてる時間が長くなったら情が移るって事だってあるんだぞ。あの子のこと気に入ったんだったら、その辺も考えてやれよ」

社のセリフに蓮がふっと息を漏らす。
「何が面白いんだよ」
「いや、すみません。…社さんだって、そんなことまで考えるとは悪魔らしからぬ、ですよ」
「うるさい」
「大体、契約終わったら俺の記憶なんて消しちゃうじゃないですか」
「関わりが深くなればなるほど消した後の矛盾が大きくなっちゃうだろ。お前の存在があの子の中で大きければ、その分抜ける穴も大きいんだ。違和感になって残っちゃうんだぞ」
「やっぱり優しいですね、社さんは」
蓮は壁から体を起こして少し笑う。社はそんな蓮に視線をくれてから呆れたように両手を広げた。
「話を逸らすなよ」
「大丈夫ですよ。どう転んだって俺は悪魔ですし、こうやって交友関係も広がれば」
「ほんとかなぁ?大体お前は、あの子と他の男が仲良くなるのを笑ってみてられるのか?」
「当たり前ですよ」
すたすたと歩き出した蓮の後姿に、社は納得いかない様子で首をかしげた。


「ただいま帰りました」
「お帰り、楽しかった?」
「はい、久しぶりに騒いじゃいました」
カラオケからキョーコが戻ると、蓮は和室の出窓のところに腰掛けていた。キョーコが夜遅く戻ったとき、蓮はダイニングでグラスを傾けているかそこに座って外を眺めているかどちらかのことが多い。
「何か召し上がりましたか?」
「…ああ、大丈夫」

キョーコは和室の隅にカバンを置き、腕時計を外しながら蓮の方を伺う。
「大丈夫」という曖昧な返事は食べていないという意味な気もするが、蓮は本当に食が細いので食べたい気分ではないかもしれない。

なんであれしか食べないのにこんな体が維持できるのかしら?やっぱり悪魔って体の作り違うのかな?


蓮は既にシャワーを浴びたのか、下はスウェット、上半身は裸と言う格好だ。最初は慌てふためいたキョーコだったが、蓮がちょくちょくそんな格好でいるためにいい加減慣れてきてしまった。
キョーコから見える蓮の後ろ姿は肩も腕もしっかりとした筋肉に覆われ、それでいてしなやかなシルエットを描いている。思わずじーっと見つめてしまったが、「やだ、何裸をじろじろ見てるのよ」と気がついて思わず1人で赤面する。

一方の蓮は外を眺めていたのだが、1台の車がすぐ向こうの通りをゆっくりと通り過ぎ、すぐに止まったことに気がついた。その車から降りてきたらしい人物がアパートの前の道をこちらに近づき、向こう側の道端に立ち止まる。
蓮は、というより悪魔は夜目がきく。そのため、遠い街灯の薄明かりの中でも、道端に立ち止まっている人物がこちらを見上げていること、そしてそれがつい数ヶ月前までこの部屋の住民だったことに蓮はすぐ気がついた。

「敦賀さん、いつもそこで何見ているんですか?」
蓮が外の人物を特定すると同時にキョーコから声がかかった。
「ぼーっとしてるだけだよ。でも今夜は月が赤くて綺麗だ」
答えた蓮の言葉にキョーコが反応した。
「月なんて出てましたっけ?」
「さっき雲が晴れたんだ。きてごらん」
キョーコは素直に蓮のところにやってくると、蓮のすぐ横から夜空を見上げる。
「あ、ほんと…なんでこんなに赤いんでしょうね?」
「さあ…ね?」
蓮がちらりと夜空から視線を下に移動させれば、道端の人物が身じろぎするのが分かった。



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コメントコメント


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読破しました!

ぞうはな様
お邪魔してます。\(⌒日⌒)/
この一週間で、ぞうはな様の記事全部読破させていただきました。ふ~o(^▽^)o 満足満足です。
いろんな蓮様×キョコたんにはらはら、ドキドキ、ワクワク、
キュンキュウンしちゃいました。
「叶えたい願い」は、悪魔ときましたか~その悪魔の力でショウタローをギャフんとしてもらいたいですね~
日常の色々なことを忘れてどっぷり、ぞうはな様ワールドで楽しませて頂きありがとうございます。
続き楽しみに待っております。
でも、あまり無理せず頑張ってくださいね。

ぼよぼよよん | URL | 2014/06/30 (Mon) 22:57 [編集]


Re: 読破しました!

> ぼよぼよよん様

読破ありがとうございます1
お楽しみいただけていたら嬉しいです~~。

今回の話は蓮さん悪魔なのですが、なんだかそれほど悪魔っぽくもなく…
実際は冷酷な顔もあるはずなのですがなぜかキョコさんに対しては出てこないようで。

不定期のんびりペースではありますが、ゆっくり進めていきますのでよろしくお付き合いくださいませー。

ぞうはな | URL | 2014/06/30 (Mon) 23:29 [編集]