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叶えたい願い (6)


こんにちは。ぞうはなです。
ふらりと、ゲリラ的更新です。どうぞ…





深夜になり、蓮はバスルームから出るとつけっぱなしになっていたダイニングの電気を消した。部屋が暗くなると和室のふすまの隙間から明かりが漏れてきていることに気がつく。そっとふすまを開けてみると、部屋の隅っこに寄せて敷かれている布団と、その横で座卓に突っ伏して眠る少女の姿が目に入ってきた。

キョーコの頭の下には広げられた数学の教科書とノート。どうやらこの少女は早速編入試験に向けた勉強を始めたようだ。

「頑張るのはいいんだけど、頑張り過ぎて疲れて失速したら意味がないと思うけど」
キョーコの横にしゃがみこんだ蓮がぼそりと呟くが、キョーコは気持ちよさそうにすやすやと眠っている。蓮は少し微笑むと、キョーコの髪を一筋すくって軽く引っ張った。
「お嬢さん、お嬢さん」
「…んー?」
むにゃむにゃと声を発したキョーコの眠りは浅かったようだ。すぐにぱちりと目を覚まし、隣にある蓮の顔に気がついた。
「はれ?私……」
「布団で眠らないと疲れが取れないよ」
「は…い……って、きゃあ!敦賀さん、何て格好してるんですか!」
ん?と微笑む蓮は上半身は何も着ていない。下はちゃんとスエットを履いているのだが、キョーコは耳まで真っ赤になって目をそらす。
「裸って、ちゃんと下は履いてるし俺は気にしないけど」
「私が気になるんです!ちょっとあの、何か着てください!」
「男と暮らしてたのに、たかが上を着ていないだけで君は不思議な反応するね」
「暮らしてたからって平気な訳じゃないです!大体私と奴はそんな関係じゃありませんでしたし!!」
「でも俺の下着は洗濯してくれてるよね」
「服は服です、それとも違います!」

キョーコは相変わらずそっぽを向いたままだ。
「ふぅん、なるほどね。本当に一緒の部屋に暮らしてたってだけなんだな。彼はまったく手を出そうとしなかったの?」
キョーコはまだ蓮が相変わらず上半身に何もまとっていないことを忘れて、ストレートすぎる問いに対してじとりと蓮の顔を睨んだ。「どうせ私はひとつ屋根の下に暮らしててもそう言う気にもなれない地味で色気のない女です」
「そうは言ってないけど…」
「いいんです分かってますから。別に気にしてもいませんし今後も恋愛なんてする気もありませんから関係ないです」
ずらずらと口から並べられる言葉には黒いオーラがちりばめられ、それだけで呪詛の効果がありそうだ。

蓮は黙ってキョーコのふてくされた横顔を見つめると、ゆっくりと持っていたTシャツを着る。キョーコはちらりとその様子を伺ったが、半ば感心したように半ばあきれたように呟いた。
「鍛えてるんですか?」
「おや、目をそむけてる割にはしっかり見てるじゃないか」
「見えちゃったんです!というより、敦賀さんが見せびらかしてるんじゃないんですか!」
「そういうつもりもないけどね。まあある意味商売道具だから見られることに抵抗はないよ」
「商売道具?悪魔って肉体仕事なんですか?」
「いや、こっちの世界での話」
「あ、そういえば今朝も仰ってましたよね。敦賀さん、悪魔なのに人間の世界でお仕事してるんですか?」
キョーコは思い出して尋ねた。朝はなんとなくはぐらかされてしまったが、悪魔が何を副業としているのか興味がある。

「うん。こっちの知り合いに、ここで動きやすいように戸籍だのなんだのと色々と手配してもらってるからね。その見返りとして労働力を提供してる」
「そんな…ものなんですか…?でも一体なんのお仕事を?」
戸籍だとか仕事だとか。悪魔なんて現実離れした存在だと思うのに、実際会ってみると現実とがっちり融合してしまって逆に違和感を感じてしまう。根っからのファンタジーと言うのは現実にはありえないのだろうか。

「説明するより見てもらう方が早いな」
蓮はそう言うと一度ふすまから姿を消し、すぐに戻ってきた。その手には男性向けのファッション雑誌がある。
「ほらこれ」
ぱらぱらとページをめくった蓮は雑誌を開いてキョーコへ渡した。見せられたページにあったのはジーンズの全面見開き広告で、真中に男性が写ったモノクローム写真だ。男性の顔は下半分しか写っていないが、上半身裸の男性はジーンズを履き、胸も腕もがっちりとした筋肉に覆われ腹筋は割れ…。
「これまさか、敦賀さん?」
「そう」
「も、モデルさんなんですかー?」
キョーコは驚いたが、改めて考えてみればそれもそうだ。
キョーコ自身は蓮がこの部屋に現れたときから『蓮=悪魔』と思ってそういう目で見ていた。しかしそのフィルタを一度外して見てみれば、蓮は驚くほど背が高く驚くほど足が長く、驚くほど美しい顔を持っている。そして今しがた確認した通り、脱げばこれまたビックリの肉体美だ。

なんだ、結局普通の人間だとしても普通じゃないってことよね。

分かったのか分からないのかよく分からない結論にたどり着いてまじまじと蓮を見てしまったキョーコだが、確かにこの男がモデルをやらなくて誰がやれるか、と深く納得した。

「確かに…向いてますね。敦賀さん格好いいですし、悪魔よりそっちの方がしっくりきます」
「そう?ありがとう」
うんうんと頷くキョーコを見て蓮はお礼を言ったが、胡坐をかいて座り込むとくすくすと笑い始めた。
「なんですか…また何か私のことバカにしてます?」
「またって…別に俺は一度も君の事をバカになんてしてないよ」

嘘ばっかり!とキョーコは一瞬腹を立てたが、あまりに蓮がおかしそうなので怪訝な顔になる。
「じゃあなんで人の顔見てそんなに笑うんですか」
「いや…面白いなと思ってね」
「何が?」
「だって……君ってもしかして、バカ正直に人のことを信じるタイプ?」
「はあ?」
やっぱりバカにしてる!キョーコはややけんか腰に聞き返した。

「だって俺のこと全く疑ってないよね。普通いきなり現れて悪魔だって言われたって信じないだろう」
「な…あんな現れ方しておいてなんてことを」
「いや、どんな現れ方だって皆一度は疑うんだよ。なんかのトリックだろうってね」
言われてふとキョーコは考えた。確かに自分は蓮の存在を疑いはしなかった。だってそれは……でもそのことをこの悪魔に話してもいいのだろうか。
じい、とキョーコは蓮の顔を見つめた。

ま、昔のことだから大丈夫よね…

「信じますよ。だって私、天使にだって会ったことありますもん」
「天使?」
蓮の顔から笑みが消えた。訝しげな顔になったので今度はキョーコが少しバカにするような口調になる。
「ご自分が悪魔なのに天使なんていない、なんて思ってないでしょうね」
「いや…そうは言わないけど。悪魔に比べるとこの世界で天使に会う確率の方がべらぼうに低いから」
案外悪魔はたくさん暮らしてるもんだけど、と蓮は両手を広げた。

「でも、そう仰るって事は天使は存在するってことですよね?」
「ああ、まあね…」
蓮は歯切れ悪く頷いたがキョーコは鼻息も荒く胸を張る。
「私本物の天使に会ったんです。まだ小さい頃だけど。ほら、ここに証拠だって…」
キョーコは言いながら手を伸ばすと普段使っているトートバッグを引き寄せた。そして小さいがま口を取り出して中から何かをつまみ出した。

「これ、天使にもらった天国の石です!部屋の中じゃ分かりにくいですけど、日に透かすと色が変わるんですよ」
「…ちょっと見せてもらってもいい?」
キョーコは少したじろいだ。蓮は真剣な顔で手を出しているが、天国のものを悪魔に渡しても大丈夫だろうか。
「砕けちゃったりしません?」
「いや、平気なはずだ」
恐る恐る差し出された小さな石を蓮は受け取った。小さい紫色に光る石は蓮の手の平で一瞬輝いたように見える。

「…ふぅん、ありがとう」
しばらく無言で手の中の石を眺めてから、蓮はキョーコにそれを返した。
「天使なんて、いつどこで会ったの?」
「まだ小さかった頃、もう10年位前ですね。私1年ちょっと前までは京都にいたんですけど、実家のそばの川原で会いました」
「京都の川原で天使とねぇ…」
「あ、やっぱり疑ってますね!」
「まあその石はこの世界で採れるものだし」
「えっ。うそっ?」
「その会った天使には羽はあったの?」
「いえ……」
キョーコは石を見つめながらしょぼりと俯く。

「人間の世界では羽が壊れちゃうから出せないって、そう言ってました」
「へえ」
「でもほんとなんですよ!透き通るような白い肌に輝く金髪の男の子の天使だったんですから!!コーンっていう名前の!」
「はいはい、否定はしないよ」
「ああもう、バカにして、ひどいです~!」

ぷりぷりとキョーコは顔を真っ赤にしたまま石をがま口に戻す。
「やっぱり悪魔なんかに話すんじゃなかった」とぶちぶち言うキョーコの背中を見つめる蓮の表情は、いつになく真剣でどこか悲しそうだった。


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コメントコメント


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うん?

更新ありがとうございます。

蓮様はやはり蓮様なんですね。
悪魔なのにやたら良い人(?)ですね。キョコさんに学校紹介してお礼言って生活費入れてジェントルマン過ぎでしょう?
キョコさんのやさぐれた心を癒やしてあげてくださいね。

蓮様もまだまだ謎だらけですね。何故キョコさんの思い出話で悲しそうなのか?悪魔なのか天使なのか人間なのか?
続きが気になります。


ponkichibay | URL | 2014/06/22 (Sun) 21:19 [編集]


Re: うん?

> ponkichibay様

コメントありがとうございます!

そう、蓮様は悪魔になっても紳士みたいです。
でも悪魔なのによい人すぎますよね…。
毒舌ではあるものの。やってることは悪魔らしからぬ…

そういうところに気がつかないキョコさんはちょっと天然の度合いが過ぎるかもしれません。

ぞうはな | URL | 2014/06/23 (Mon) 21:13 [編集]