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君の魔法 (4)



マツシマと話し込んだレンが近衛隊の詰め所に戻ってきたのは、日が暮れてからだった。
レンが部屋のドアを開けると、中で書類にペンを走らせていたヤシロが顔を上げる。
「お帰り、レン。王様からの呼び出し、なんだったんだ?」
「予想通り、マリア姫のことでした」
「ここのところ色々起こってた騒動のことか?」
「そうですね。やっと詳細が分かりましたが……まだ気は抜けなさそうですよ」
そりゃ物騒だな、とヤシロは眉間にしわを寄せた。

「どうやら誰かが仕掛けた魔法が絡んでるらしくて」
「えぇ??そんなの初耳だぞ?」
ヤシロはぽかんと口を開けた。ヤシロも近衛隊にいてその存在くらいは知っているが、普段耳にすることも無いほど縁遠い。
「最近じゃ、強い魔力持ちなんて王族くらいしかいないんだろう?」
「そうですね。俺みたいな見世物小屋レベルだったらもうちょっとごろごろいそうですけど」
そうだよなあ、と頷くヤシロもレンの魔力が強い事は知らなかった。物騒な力だけに、強大な力を持つものほどそれを隠蔽し封印することが求められているのだ。

「うぅ~~ん、そうすると、小隊の配置はどうするのがいいかな…」
ヤシロは今日の訓練を見て小隊の配置やローテーションを組んでいたのだ。剣や弓、体技の実力だけではなく、魔力も考慮しなくてはいけないとなると、ややこしい。
「一応ヒズリ様に小隊メンバーの魔力の強さや傾向も聞いてきましたが、それで役に立つかどうかは分かりませんね。魔力があれば魔法が防げるというわけでもないですから」
レンは椅子を引いてヤシロの前に座った。
ヒズリも魔力持ちではあったが、魔法を使うことよりも察知することに長けているため、魔力持ちの判定を行っていた。マリア姫の力の強さに気がついたのも『青の魔女』を除けばヒズリが一番早かったのだった。
じゃあ、今のところはこのままでいくかね、とヤシロは書類にもう一度目を通す。

「あー、それでさ、姫の側付きはキョーコちゃんを中心に考えていいんだよな?」
「はい、それはヒズリ様にも今日また念を押されましたし」
ヤシロは紙にぐりぐりと丸を書き入れながら、ちらりとレンを見た。
「なんかお前、キョーコちゃんに対して冷たいんだか買ってんだかわかんないな」
「…実力は認めてますよ」
「実力『は』って何だよ。認められないところが他にあるのか?」
レンは一瞬躊躇ったが、素直に返答した。
「動機……ですかね」

キョーコと対面したときのことをレンから聞いて、ヤシロはなるほどね、と頷いていた。
「まあそうか、この道にまい進するお前にとって、結婚したくないからってのは逃げに聞こえるかもな」
「……若干大人気なかったと反省してますよ。考えてみれば逃げ道が兵士と言うのも女性としては不自然ですし」
「確かにな。結婚がいやなら修道院に行くとか駆け落ちするとかの方がどっちかといえば普通だよなあ。ああでも、もしかしたら家の事情かもな」
「何かあるんですか?」
レンは尋ねながらも、自然とキョーコについての情報が仕入れられそうなことにホッとしていた。自分から情報をヤシロに求めたりしたら、間違いなくからかわれるに違いなかったからだ。

「キョーコちゃん、早くに父親をなくしてるんだよ。だから今はお母さんが領地の管理とか全部一人でやってるんだ。あそこは金細工が特産で、門外不出の技術があるから、領地はさほど広くない割にかなり潤ってはいるらしいけど」
「ああ、その話なら少し聞いたことがありますね。隣のフワ領の金鉱山で取れる金を使っていることもあって、つながりが強いとか」
「そうそう。キョーコちゃんは一人娘なんだよな。それで、キョーコちゃんとフワ家の跡取りが許婚らしいんだ。ショー・フワと言ったかな?いい男だって前に他の女性たちが噂してるの聞いたことあるよ。本人に会った事はないけど。結婚がいやだって事は、その許婚のことが嫌いってことなのかな?それでも、モガミ領の将来を考えると逃げるわけにもいかないとか」

あーでも、軍に入っても結婚逃れられないよな?とヤシロはぶつぶつ言いながら考えている。
「詳しいですね、ヤシロさん」
「…だって、何でか知らないけど俺がその女性たちに愚痴こぼされたんだぞ?いい男なのに許婚がいて悔しいとかって」

『フワ家』と『キョーコ』… そのキーワードに、レンは思い当たる記憶があった。まだ子どものころの記憶だ。しかし、(まさかな…そんな偶然が簡単にあるわけが無い)とその考えを頭から振り払う。

なにやら考え込んでいるレンを見て、ヤシロが茶化すように声をかけた。
「何だレン、もしかしてキョーコちゃんに許婚がいて残念とか、思ってんのか?」
「…は?何でそんなこと…俺には関係ありませんよ」
まあそうだろうけどさ、と呟いたヤシロは気にする風もなく片づけを始めた。
「ああもう今日は終わりにしよう!ほら、お前今日歓迎会って言われてただろう。行かないのか?」
レンは訓練場から抜ける際に、部下達に声をかけられたことを思い出した。
「折角歓迎してくれると言うんですから、顔くらい出しますよ。まあ、この時間だともう関係なく盛り上がっていそうですけどね」
「そりゃそうだ、乗り遅れたな」
二人はマントを羽織ると、城下町へ向かうために部屋を出て行った。


男二人が城下町へと足を向けた時刻よりさかのぼること1時間。
キョーコは城門の警備当番を終え、交代の兵と引継ぎをしていた。門を抜けて城の外へと向かう近衛隊の仲間たちが後片付けをするキョーコに次々と声をかけていく。

小隊長の歓迎会ね…

自分の歓迎会も兼ねているから絶対出席しろ、と言われたが、ほんの数日前に小規模な歓迎会をやってもらったばかりだった。そして、レンと顔を合わせるのはまだ若干気まずい気がする。なぜ初対面でレンがあれほど怒っていたのか、いまだに分からないままだ。

うぅん、でも今日の稽古場では褒められた様な気もするし…気にしているのは私だけ?
キョーコは特に予定もなかったが、行くかどうかを迷っていた。
ふと視線を感じて顔を上げると、一人の男が少し離れたところでこちらを見ている。長髪の線の細い男だ。美しいともいえる整った白い顔に泣きぼくろが妖しげな雰囲気を漂わせていた。

えと、確か近衛隊の…

キョーコが相手が誰だったか考えていると、男は声をかけてきた。
「キョーコ・モガミだな?」
「はい。あなたは近衛隊の…」
「レイノだ。小隊は違うが、よろしくな」
「はい、よろしくお願いいたします」
キョーコは律儀に挨拶を返した。なんでわざわざ声をかけてきたのだろうか?と思っていると、男は1通の手紙を差し出した。
「お前に、手紙が届いていた」
「え…」
キョーコは戸惑いながら手紙を受け取った。

手紙は詰め所で分配されるのに、わざわざ持ってきてくれたの…何のために?

手紙をひっくり返すと、差出人の名前が目に入る。予想通り、それは母親からの手紙だった。キョーコは固い表情で手紙を持つ指にギュッと力を込めた。一体今度は何が書いてあるのだろうか。どうせ自分にとって嬉しいことではないだろうと思うと、一気にドロドロとした何とも言えない感情が湧いてくる。思わず下唇を噛むが、ハッと気がついてレイノの方を振り返った。

「あ、あの、わざわざ持ってきてくれてどうもありがとうございます」
なぜかレイノはキョーコの方を見て口の端を上げて笑っていた。
「いや、俺がお前を見たくて来ただけだから礼には及ばん」
「は?…何でですか…」
レイノはぐっとキョーコの方に顔を近づけてきた。
「お前宛てのその手紙から、不思議な気が漏れていたからな。受け取った人間はどんな顔をするのか見てみたかったんだ」
キョーコは思わず一歩下がった。気って何?手紙から??訳が分からなかった。
「お前のその黒いオーラもなかなか興味深いな」
レイノはそう言い残すとそのままスタスタと去って行った。

なに、あの人…?
キョーコは呆然とレイノの後ろ姿を見送ったが、姿が見えなくなるとその場で手紙の封を開けて中身を読みだした。
手紙を読み終わっても両手でしっかりと便箋を握り締めたまま、キョーコはしばらくその場に立ち尽くしていた。

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