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叶えたい願い (2)


こんばんは!ぞうはなです。
2話目、いきますよー。さて、このお話どんな風に転げていく事やら…。





「あの、敦賀さん?」
「ん?何?」
キョーコは片付けた和室に布団を引きながらおずおずと尋ねる。悪魔に日本人っぽい名前で話しかけるのはえらく躊躇われるが、そう呼べと言われれば仕方がない。話しかけられた相手は出窓の窓台に座り、暗い外を眺めているようだ。

「ずっとここにいらっしゃるんですか?」
最初に蓮がキョーコの部屋に現れたときに力関係は決まってしまったらしい。キョーコは無意識のうちにかなり丁寧な敬語で蓮に接している。
「そりゃあ、君の願いをかなえるまではね。当たり前だろう」
「そうですか…でも……」
蓮はキョーコが敷いている布団が少し部屋の隅によっているのを目の端でちらりと捕らえた。
「ん?ああ、布団は必要ないよ。俺はこういう風には眠らない。俺がいることは気にしなくていい」
「ですけど…」
「見た感じこの部屋は日本の住宅事情を考えると君1人で使うには大きいサイズだよね。誰かと一緒に暮らしてるの?」
「…暮らしてましたけど」
過去形と "けど" で大体の事情は知れる。

「だったら別に俺がいたって気にすることはないだろう」
「気にしますよ」
「何を?」
「何をって…その、着替えたりとか色々と!」

蓮はきょとんとキョーコの顔を見つめてから、しばらくして「ああ」と声を出した。
「そうか、全然意識してなかったな。俺が気がつかなかったら遠慮なく言って」
ふっと鼻で笑ってから立ち上がって部屋から出ようとする蓮に、キョーコはぼそりと呟いた。
「どーせ私の裸なんて見られても何の価値もありませんけど」
「まあ価値って言うのは人それぞれだ」
さらりと言い返され、ふすまがパシリとしまる。

「……悪魔ってのはいい性格してんのね、やっぱり…!」
憤慨しながらキョーコは着替え、ぷりぷりと怒ったまま布団に入ったのだった。


翌朝、キョーコが身支度を整えて部屋から出ると、小さなダイニングテーブルには蓮の姿があった。蓮はどこから調達してきたのか新聞を広げ、肘をついて眺めている。白い長袖Tシャツとカーキ色のワークパンツが妙に似合っていて、朝の空気の中におさまったその姿は闇の住人のものとは思えない。

「おはようございます…」
「……おはよう」
キョーコはそれ以上話しかける言葉が見つからず、とりあえずバスルームに入って顔を洗った。鏡に写る自分の顔はどこか疲れているがいつも通りで、昨日の夜から起こった、いや起こっている出来事が悪い夢のように思える。

しかしそれは確かに現実で、戻ったダイニングの大男の姿が消えているようなことはなかった。
「お腹すいてますか?」
「いや別に」
短いやり取りにため息をつくと、キョーコは夕べタイマーをかけておいた炊飯器を確認して炊き上がっていたご飯をほぐし、手早く朝食の準備を整える。

「机の上、どけてください」
声をかけられて蓮が素直に新聞をよけると、キョーコはテーブルの上に2人分の朝食を並べた。
「俺の分もあるの?」
「ありますよ」
箸と箸置をぴたりと並べると、キョーコは蓮の向かいに腰を下ろして「いただきます」と手を合わせる。蓮はしばらく新聞を片手に持ったまま黙々と食事を進めるキョーコを眺めていたが、新聞をおろすと箸を取ってだし巻きに手をつけた。

「へぇ…」
「なんですか?あ、お口にあいません?悪魔っていつもは何食べるんですか?」
「いや。甘すぎなくてちょうどいい」
キョーコは箸をぴたりと止めて何か考えているように蓮の顔を見つめていたが、蓮が首を傾げてみせるとまた何もなかったかのように食事を再開する。
「洗濯物あったら出してください。洗いますから…って、服も魔法みたいに出したり消したり出来るんですか?」
「いや…こっちで着る服は普通のものだけど」

蓮はゆっくりと食事を進めていたが、やがて肘をついてクスクスと笑い始めた。
「何がおかしいんですか?」
じろりと蓮を見てキョーコは少し怒ったような口調で問う。
「いや、なるほどと思ってね」
「何が?」
「まだ君の口からは聞いてないけど、呪いをかけたい相手はこの部屋で一緒に住んでた男だね。おそらく金髪の…あのゴミ箱にぐしゃぐしゃに放り込まれたポスターと写真に写ってる男だ」
キョーコは手を止めて蓮の顔を見つめた。
「呪いたい理由は…まあ有り体に言えば捨てられたから?君は尽くして貢いですべてにおいて彼を優先させてきただろう。なのに、裏切られた」

がん、とでっかいタライが頭に落ちてきたような気がする。キョーコは険しい顔でぎゅっと蓮を睨みつけた。
「頼まれなくても先回りして世話を焼き、なんでも二つ返事で引き受けてやってやる。何を言われようと文句も言わずに従ってるからそのうち空気みたいになるんだな。男に弄ばれて都合のいい女になりさがる。まあ珍しくもないパターンか」
「そんな決め付け…!」
「ちがうの?」
ふぐ、とキョーコは言葉に詰まった。蓮がぽんぽんと発した言葉は遠慮の一かけらもなく厳しくキョーコに突き刺さるが、反芻してみれば事実だ。いや一点を除けば。
「都合のいい女ではありません、あいつにとって私は財布で家政婦だったんです」
「…なるほどね。弄ばれたんじゃなくていいように利用された訳か」
「……」

タライのあとは槍で突かれてぐりぐりねじ回された感じか。いいように傷をえぐってくる辺り、さすが悪魔だ。
「まあでも、どうやったって過去は変えられない。目を背けたくたってちゃんと向き合わないとね。また同じことを繰り返さないためにも」
「へ?」
キョーコは呆けた顔で蓮を見た。先ほどまではバカにするような口調だった蓮は穏やかな表情でこちらを見ている。
「それに、弄ばれなかっただけでも傷は相当軽いよ。君は今いくつ?」
「え…16……ですけど」
「30過ぎても40過ぎても同じような思いをしてる人間はたくさんいる。年を重ねた分、稼いで貯めたお金を全部つぎ込んだ挙句捨てられても、現実を見つめられない事だってある。そう考えたら今そこから立ち直れることはどちらかといえばラッキーだ」
「そう…なんですか……?」
「そうだよ。とはいえ、許す気はないんだろう?」
「そりゃもちろんです!」
キョーコの表情は再び引き締まった。

「さて、そこでビジネスの話だ」
蓮はゆっくりと両手を組んで肘をつくとキョーコを正面から見据えた。その瞳の奥に黒い炎がゆらりと揺らめいたような気がして、キョーコは瞬間的に昨夜の蓮の姿を思い出して小さく身震いする。
「その君の心と献身を踏みにじった男に…どんな罰を与えたい?まだ情けが残っているなら、たとえばトラックが真正面から突っ込んで即死、なんてのもいいだろうけど、じわじわいたぶってゆっくり衰弱させ、苦しみぬいた挙句に命を絶つって手もたくさんある」
「え…いやあの……」
「もちろん君が直接手を下す必要はないし、息絶えていく様を見せてあげることも出来るよ」

旅行ツアーの観光オプションを説明するような気軽さで繰り出されるのはとんでもない提案だ。キョーコは顔から血の気が引くのを感じた。
「ちょ、ちょっと待ってください!確かに私はあいつが憎いし呪ってやると思ってますけど、その、殺したいとは…」
「…随分と優しいんだな。まだ情が残ってる?」
「情なんてとっくに無くなってますけど…私はあいつに一生後悔させたいんです。私のことを見下してるあいつを、踏みつけて跪かせてやるんです!けちょんけちょんに叩き潰してやる!!」
ぐぐぐ、と握りこぶしに力を込めてキョーコは力説した。蓮はそれを眺めるとのんびりとお椀を手にとって味噌汁をすする。
「まあ、俺は何でもいいけどね…そのけちょんけちょんというのが具体的にどうしたいのか決まったら、教えてくれればいい」
「はあ…」
キョーコは勢いをそがれて微妙に答えると食事を再開した。

なんだろう…悪魔と言われれば確かに色々納得なんだけど……本物の悪魔ってこんななの?
なんかこう、怖いんだけど拍子抜けすると言うか…

「ご馳走様」
ふと見ると蓮は食べ終わって箸を置いている。それほど急いで食べている風でもなかったのにいつの間にか皿や椀は綺麗に空だ。
「美味しかった。久しぶりに美味しい和食を食べたな。君は料理が上手だね」
「え……あ、はい…あの、お粗末さまでした」

かちゃかちゃと皿を流しに運ぼうとする蓮に、キョーコは声をかける。
「あ、いいですよそのままで。やりますから」
「それがダメなんだよ」
「へ?」
いきなりダメだしを食らってキョーコはびっくり顔になった。
「なんでもかんでも世話を焼くから、相手もそれにあぐらをかいてやらなくなるんだ。少し男との付き合い方を考え直した方がいいな」
さっさと皿を洗って水切り籠に入れていく蓮を眺めながら、キョーコは呆気に取られるしかなかった。


「ち、遅刻……!」
イレギュラーなことがあったせいか、いつもより遅くなってキョーコは慌てた。
「学校?」
「いえ、バイトです!」
「ああ、なるほど」
「えっと、私もう出ちゃいますけど敦賀さんは?」
「んー、俺も出るよ」
「えっと、あ、じゃあ!」
キョーコはそばの小物入れをあさると小さなキーホルダーがついた鍵を蓮に渡した。
「私今日バイトの掛け持ちで遅くなるので、これ渡しときます」
「あ、ああ…」
「あ、閉めますよ!」
キョーコは蓮を部屋の外へ連れ出すと部屋のドアに鍵をかけ、ものすごい勢いでアパートの階段を駆け降りる。蓮が下に着くころにはキョーコは自転車を発進させ、猛スピードで通りの向こうへと消えていった。

「なるほど、しばらく退屈はしなさそうだな」
蓮はくすくすと笑うとそれからおもむろにゆっくりと歩き出した。


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コメントコメント


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始まりましたね

更新ありがとうございます。

またまた新しい展開でスタートですね。
不思議設定の蓮様素敵です。
男に尽くすダメダメキョコさんを
是非改造してもらいたいですw
続き楽しみにお待ちしています。

ponkichibay | URL | 2014/06/14 (Sat) 23:16 [編集]


Re: 始まりましたね

> ponkichibay様

コメントありがとうございます!
蓮さん今回は悪魔なので腹黒毒舌キャラが全開です。
もともと紳士面をかぶらなければ毒舌な方だと思われますので…
さてキョコさん改造なるか、ゆっくりお付き合いくださいー。

ぞうはな | URL | 2014/06/15 (Sun) 15:56 [編集]