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大体吉日(後編)


こんばんは!ぞうはなです。
本日はcocoa様リクエスト後編!

さっそくまいりましょーー。
なお、本日PC争奪戦の状況により、拍手お礼記事が明日になるかもしれません。





女優 京子を加えたグアムでのドラマ撮影は順調に進んだ。
限られた日程の中で決まったシーンの撮影をすべてこなさなければならないため、現場にはいい意味での緊張感が張り詰め、キョーコが合流した翌日には予定通りすべての予定をこなして撮影は無事に終了した。

そして控え室として借りている施設の一室で、キョーコはきょとんとしたまま内藤から大き目の紙袋を受け取っていた。
「なんですか?これ」
「これに着替えて、すぐに行ってほしいところがあるの」
「もしかして別の仕事ですか?」
いつも通りのビジネス口調で指示を出す内藤に、キョーコは首をかしげながら尋ねた。ここでの仕事はドラマ撮影だけと聞いている。終わったら夜中の便で日本に帰るのではなかったか。

「仕事、というか私からの依頼よ」
「はあ…」
「そこに行けば全部分かるから。とにかくすぐにお願い」
「分かりました」
キョーコは内藤の真剣な口調から何かを察すると、あっさりと答えてそれ以上は追及せずに身支度を始めた。
キョーコのこういうある意味潔く意図を酌んでくれるところがマネージャーとしてはありがたく感心するところだ。もっとも、長らくあの社長と付き合えば、理不尽な要求や意味の分からない指示にも従う癖がつくのは、LMEに所属するものの宿命なのかもしれない。
そんなことを考えながらキョーコをぼんやりと眺めている内藤の顔には、これからのことを考えて笑みが浮かんでいた。


そしてキョーコは身支度を整えてぽつりと日が落ちかけた浜辺に立っている。
渡された紙袋に入っていたのは白いベアトップのマキシワンピースだった。ふわふわと薄い生地が折り重なって優しいラインを作るワンピースは、キョーコが動くたびひらり、ふわりと動き、風にも優雅になびく。
足元の白いサンダルまでもが紙袋に入っていたので、キョーコは何か写真の撮影があるのかと思って指定された場所にやってきたのだが、ビーチは散歩やジョギングをする人々がたくさん通るものの撮影班らしき姿はない。

その辺りを散歩しているカップルや遊んでいる小さな子供を眺めながら、キョーコはゆっくりと波打ち際を歩き出した。
指定されたのはビーチサイドのあるホテルのプライベートビーチ。ずらりと並ぶチェアとパラソルのこちらから向こうまでずっとがその場所なので、どこにいても構わないだろう。

こんなとこ…綺麗だけど1人で歩くとちょっと寂しいわよね。

前までなら景色の綺麗さにだけ感動してあれこれと妄想を飛ばすぐらいしかしなかったはずだ。なのにいつからだろう、1人で歩いているとふと隣に誰もいないことに寂しさを感じてしまうことがある。

ずっと1人で構わないって本気で思ってたのになぁ…

キョーコは左手を持ち上げて目の前にかざした。薬指のリングが太陽を反射してきらりと光る。

今頃蓮さん、何してるかな?
えっと、時差は1時間しかないから…

左手を下ろしてふと気がつくと、1人の男性がこちらに近づいてきていた。キョーコよりは明らかに年上の欧米系らしき外国人。格好はTシャツにハーフパンツと、その辺の観光客と変わらない。
お仕事の人?とキョーコが立ち止まって待つと、男性はにこにこと英語で話しかけてきた。

『やあこんにちは。君は日本人?1人かな?』
その言葉で、キョーコは相手が仕事の関係者ではなく単純に自分に声をかけてきただけだと悟った。
『こんにちは。いえ、人と待ち合わせをしてます』
『そうなの?でもさっきから退屈そうにここにいるよね。待ち合わせの相手が来るまで少し話をしない?』
キョーコは断ろうと思った。しかし断ってもここを離れるわけにもいかず、この様子だと相手は少し粘りそうだ。懸命にうまい理由を探して頭を回転させているところに、自分の後ろから唐突に別の声が聞こえた。
『失礼。彼女は俺を待っていたんですよ。お待たせ、キョーコ』

キョーコがぎょっとして振り返ると、目に入ってきたのは長身の青年だった。切れ長の瞳は緑色で髪は金髪、整った顔立ちは彫刻のようだ。カジュアルな白いシャツとズボンをさりげなく着こなしているが、立っているだけで常人と異なるオーラが見えるようだ。
『あ、ああ、そうなのか。じゃあね』
キョーコに声をかけてきた男性は青年を見て驚きの表情になり、おざなりな返事をするとそそくさと姿を消した。

「蓮さん…?蓮さんですよね?え…どうしてここに?それにその姿…!」
キョーコは一歩青年に近づくと驚いた声を上げた。青年はにっこりと笑ってキョーコの顔を覗き込む。
「あれ、もう分かっちゃった?」
「わかりますよ!だって、話だけは聞いてましたし、髪と目の色以外は全部蓮さんとまったく同じですもん!声だって、体つきだって…」
「キョーコが変装してても分かるのって俺の特技だと思ってたのにな」

3年にわたる交際の中で、蓮は自分の素性をキョーコに語っていた。
日本人以外の血が流れていて本来の見た目も日本人ではないこと。普段は目立たないように目と髪の色を変えていること。そして両親はアメリカで暮らしていることなど。蓮が本来の姿をキョーコに見せたことはなかったが、結婚前に両親を紹介されてキョーコはそれらのことを深く深く納得して受け入れたのだ。

「もしかして、パスポートの写真に合わせるために?」
「そう。さすがにいつもの姿じゃ別人だと思われて面倒だからね」
「でもどうしてここに?」
一番尋ねたかったことがキョーコの口からこぼれると、蓮はふわりと笑い、答える代わりにキョーコの手を引いて歩き出した。

キョーコは蓮の隣に並んで歩きながら蓮を見上げる。
さっきまで感じていた寂しさが、湧き上がる愛しさでぎゅうぎゅうに埋められてしまった。それに今日は蓮の見た目が普段と違って、シチュエーションとあいまって勝手に気分が高揚してドギマギしてしまう。自分の右手を引っ張る蓮の左手の指に自分とおそろいのリングがあるのを認めて、更にキョーコの表情は緩んでしまった。

「君に結婚式や披露宴を我慢させちゃったから、何か思い出になることがほしくてね」
「が、我慢なんてしてません…!」
「でも、お嫁さんって女の子の憧れじゃない?」
「そうかもしれませんけど……?」

蓮はキョーコの手を引いたままビーチの横にあるガラス張りの建物に近づいていく。三角の屋根に十字架がついていることから、それはホテルがウエディング用に設置しているチャペルだという事が分かる。躊躇なくチャペルのドアを開けてキョーコを中に通した蓮に、キョーコは不思議そうに聞いた。
「勝手に入っちゃっていいんですか?」
「大丈夫。ちゃんと許可は取ったよ」

蓮は再びキョーコの手を取ると祭壇へと近づいた。
「神に誓う訳じゃないけど、今日のこの日をちゃんと記憶に刻みたくて…いつもと違ったシチュエーションの方が、いつまでも覚えてるだろう?」
「そのために…?」
静かに頷いた蓮に、キョーコは困ったような笑い顔になる。
「ありがとうございます、蓮さん…わざわざ私の仕事にあわせて来て下さったんですね」
「俺の方があわせやすいからね。こんなの、当たり前だよ」
2人は祭壇の前で向かい合った。キョーコは手を伸ばして蓮の髪に触れる。それは色こそ違えどいつもと同じさらさらで柔らかい触り心地だ。
「忘れてほしくないから、俺の誓いを。君とずっとずっと一緒にいたいから。何があっても、いつでも、君とずっと一緒にいさせて」
「はい…私も。私も蓮さんと一緒にいたいです。それに、今日のことはずっと忘れません。こんな素敵な時間を作ってくれてありがとう」
「これくらいしかできなくてごめんね」
ふるふると首を振ったキョーコを、蓮はゆっくりやさしく抱きしめた。
「これくらいだなんて。これだけしていただいて、もう十分すぎますよ」
「でも、ドレスも着てないよ?」
そういえば自分の白いマキシワンピースはウエディングドレスの代わりなのだろう。蓮もカジュアルなシャツとパンツだが全身白だ。
「南の島だったらカッチリしすぎるよりこれくらいがちょうどです。それよりもなによりも、今ここにこうして蓮さんが来てくれてそれだけでもう十分です…大好きな人のお嫁さんになれたことが何よりも幸せなんですから」
「…ありがとう、キョーコ」
2人はそっと唇を合わせると、おでこをこつりとぶつけて微笑みあった。幸せなこの時間を心に刻み込むようにしばらくじっと抱き合うと、やがて再びドアを開けて外に出る。

太陽はすっかり水平線へと近づき、一面は赤く染まっていた。2人は手をつないだまま波の音を聞いてゆっくりと歩く。
「日が落ちたら、2人だけの結婚パーティーをしようか」
「それは楽しそうですけど…でも私今日の夜の飛行機で…」
「大丈夫。ちゃんと明日の朝に変更してくれてるから」
「えっ?もしかして内藤さんが…」
「もちろんだよ。だってその服、内藤さんから受け取ったでしょ」
「あ……そうでした。じゃあ、もしかして荷物も?」
「うん。俺が取った部屋に運んであるはずだし、明日の仕事も調整されてるはず」
「なんだぁ…蓮さんと内藤さん、グルだったんですね…」
「悪だくみしてるみたいに言わないで。でも内藤さんもキョーコを見てて、喜んで俺の提案に乗ってくれたんだよ」
「私を見て?」
「そう。公表するまでずっと指輪持ち歩いて、眺めててくれたんだろう?」
「きゃあ!そんなことまで…!」
「あれ、何で嫌なの。俺は嬉しかったけど」
「…そういうのは内緒にしておきたいんです!恥ずかしいじゃないですか!」
「恥ずかしくなんてないよ」
むしろいたたまれないほどの恥ずかしい思いをしたのは、仲良く微笑みあいじゃれ合いながら歩いていく幸せそうな美男美女をうっかり見てしまった周りの人間だったのだが、当の2人は気づかず。

そして2人は本当に忘れられないほどの幸せなひと時を南の島で過ごしたが、内藤の働きをこっそり盗み聞きして2人の意図を300%ほど酌んでしまった派手好きの某社長さんが、豪華な結婚パーティーの準備をして手ぐすね引いて日本で待っているだなんて、そんなことは今は知らない方が幸せなのかもしれない。


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コメントコメント


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素敵な結婚セレモニー

南国でカジュアルな二人だけの結婚式って素敵ですねー!!

でもこのあとのド派手パーティに唖然とする二人も目に浮かびます~。

霜月さうら | URL | 2014/06/10 (Tue) 13:22 [編集]


Re: 素敵な結婚セレモニー

> 霜月さうら様

2人だけの想い出と言う意味では、形式とかって必要なくて、やっぱりお互いの気持ちが一番なんだろうなーと思った次第です。
ド派手パーティーでそのいい思い出がつぶされなければいいのですが、人にお祝いしてもらうのも嬉しい事ですし、まあしょうがないか、と優しい2人なら受け入れそうな気がします。
お付き合いいただきありがとうございましたー!

ぞうはな | URL | 2014/06/10 (Tue) 22:33 [編集]


素敵です~(≧∇≦)

二人っきりのチャペルで、共に未来を歩いていく誓いを確認しあった二人。
幸せそうで良かったです~(≧∇≦)あり得ない一般人の蓮様はやっぱり常人離れした経歴の持ち主でしたね。思いっきり納得です!! やっぱりハーフですよね~!! 南の島の海岸が似合う二人ですよね。あ~、素敵なハピエンでした。久々に「社外恋愛」も「偏愛感情」も読み直し出来たし、良かったです~。次のお話も楽しみに待ってます~!!

しゃけ | URL | 2014/06/10 (Tue) 22:38 [編集]


いいな〜

更新ありがとうございます。

芸能人ばりのルックスで一般人の蓮様新鮮でした。南の島で二人だけの結婚式、ロマンチックですね。
週刊誌に見つかったら京子の相手は一般男性から一般外国人男性の見出しに変わっちゃいますねw
このシリーズは是非結婚後を短編でいいので読みたいです。

また素敵なお話しお待ちしています。

ponkichibay | URL | 2014/06/11 (Wed) 03:54 [編集]


Re: 素敵です~(≧∇≦)

> しゃけ様

本当、一般人としてはあり得ない蓮さん。
でもグアムの浜辺と言えばやっぱり金髪コーンですね~~
読みなおしていただいてありがとうございます!
「社外恋愛」の最初はまったく意識していなかった2人ですが、無事に永遠の愛を誓い合えてよかったです。

ぞうはな | URL | 2014/06/11 (Wed) 20:16 [編集]


Re: いいな〜

> ponkichibay様

こちらこそご訪問&コメントありがとうございます。
こんなロマンチックな結婚式を贈られたら、キョコさんでなくてもメロメロになりそう。
そして週刊誌に見つかったら新婚早々外人と不倫!なんて騒がれたりして。

結婚後…そうですね、またどこかでちょろっと書けたら…確約はできませんが~~

ぞうはな | URL | 2014/06/11 (Wed) 20:19 [編集]


きゃわわわわーー!!!

初めまして。メロキュン記念館から飛んできました。ランダムに読んでいたのですが、この大体吉日を社外恋愛を読む前に読み、激ハマリして社外恋愛→偏愛→大体吉日(最初に読んだのに再びです。)で読み漁ってしまい、気付けば明け方の4時半回ってました…。仕事が休みでも関係なく6時半に息子に起こされてしまうのに、です。でもでも!!このシチュエーション超好きです!!悶絶しながら読んでました!番外編とかも読みたいです!幸せ一杯のまま、他のお話ても手を出させて貰います…(*´ω`*)

紗姫 | URL | 2015/05/09 (Sat) 07:04 [編集]


Re: きゃわわわわーー!!!

> 紗姫様

ようこそ、お越しくださいましてありがとうございます!
気に入っていただけて嬉しいですー!
そして、まとめ読みありがとうございます。しかし、コメントいただいた時の睡眠時間は2時間半…??
お、お身体お大事にしてくださいね!
私自身もこのシリーズが一番分量として多く、また時間軸も長く取っている話なので、『好き』と言っていただけるととてもとても嬉しいのです。うふふ。
ありがとうございます、まだ新しい話も(じわじわと)載せていきますのでよろしくお願いいたします!

ぞうはな | URL | 2015/05/10 (Sun) 22:33 [編集]