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しゅうちの事実 (中編)


こんばんはー!ぞうはなです。
前回の続きなのですが、うむ、予想されていた方もいらっしゃるでしょう、中編です。

…次で終わらせる予定!そしてまだ花様のリクエスト内容には届かず…





喧噪の翌朝はとても静かに始まった。
空はたれ込める雲でどんよりと重く、湿り気を含んだ空気が漂っている。

高級マンションの最上階の部屋で、蓮はソファに座りこんだまま何度目か分からないため息をついた。
頭が重く痛いのはきっと昨夜の酒のせいではない。いや、間接的には酒のせいとも言えるかもしれないが、蓮は自分の一連の行動を思い出しては深く落ち込んでいた。

蓮は部屋の時計にちらりと目をやった。
それから、ずっと手の中に握りしめていた携帯を見つめ、観念したように小さく頷くと操作し、ゆっくりと耳に当てる。

ルルルルルル…

呼び出し音が聞こえ始めると体が緊張でこわばり、蓮は音を聞きながら唾を飲み込んだ。



キョーコは制服を着て自室にいた。
あまり眠れなかったが、せっかく登校できるスケジュールなのにサボることはできない。鞄に携帯を入れようとして手に取り、キョーコはため息をついた。

『君が好きだからに決まってる』

昨夜の蓮の言葉がまだ耳の奥に残っている。
聞き間違えたのでなければ昨日自分は告白をされた。のだと思う。
けれどキョーコには自分が告白をされるなんてことはまったく予想も予感もできなかったし、蓮が自分を好きな要素はどこを探してもかけらも見当たらない。

そして何より気になったのは蓮が信じられないセリフを投下した直後の行動だ。
まるで蓮は、自分の"失言"に気がついて我に返ったようだった。自分から慌てて身を離し、タクシーを呼びとめて強制的に帰らされた。

あれって…なかった事にしたいってこと?
酔っ払ってて誰かと間違えて言っちゃってから、気がついて慌てたの?

抱きしめられてドキドキして、でもやっぱりこの温もりは安心する、なんて思った自分がバカだったんだ。
最高点まで持ち上げられて突き落とされて。
どういうつもりなのか聞きたい気もあるが、なかったことにしたいのならば自分が蒸し返すことなんてできない。むしろ、蓮が昨日の事をさっぱり覚えてなかったらいいとすら思う。


そうよ…敦賀さん、見たことないくらい酔っぱらってた…足元がふらついてるのなんて今まで一度も…。
うん、忘れてるわよねきっと。

けれどモヤモヤと溜まってしまう引っ掛かりはいくら自分に言い聞かせてもなくなりそうにない。
何も知らない振りをして、単純に体調を心配する後輩として電話をかけてみようか。でも万が一蓮が覚えていたら、自分からの電話は昨日の言葉の真意を聞きたいと蓮に言っているようなものになってしまう。

やっぱりやめておこう。
敦賀さんきっと忘れてる…誰に言ったのか分からないあんなセリフ、聞かなかった事にしておくのが一番よね。


そう自分に言い聞かせた瞬間、手に持ったままだった携帯が震え始めてキョーコは飛び上がった。携帯を放り投げそうになって慌ててキャッチし、画面を見てみると「敦賀さん」の文字。

一気に全身から汗が吹き出し頭がかっと熱くなる。
どうしようかとおろおろ辺りを見回してしまうが、震え続ける携帯を無視することもできない。キョーコはひとつ深呼吸をすると通話ボタンを押した。


『はい、お待たせしました最上です』
「おはよう…俺だけど」
『おはようございます』
蓮は相手が電話に出てくれた事に少し安堵をしたが、その全くいつも通りの声に少しだけ不安を抱く。

「あの…昨日は大丈夫だった?ちゃんと帰れたかな」
探りを入れるようにびくびくと遠回しに伺う自分が滑稽だが、こうなってはどうにもならない。極力普段通りの調子を保つように蓮は細心の注意を払った。

『はい、大丈夫です!あの、タクシー代ありがとうございました。お釣りをお返しいたしますから…』
「いや、それは昨日も言ったけど取っておいて貰っていいよ。結構距離があったからさほど余らなかっただろう」
『は…い……』

はきはきとしたキョーコの調子が急に戸惑ったような歯切れの悪い返事に変わる。蓮は首をかしげたが向こうはすぐに普段の調子にもどったようだ。
『敦賀さんは大丈夫でしたか?少し辛そうでしたけど』
「あ、ああ、俺は大丈夫だよ。心配かけてごめん。俺もあの後すぐ帰ったんだ」
『そうですか…』

「それでね」
蓮は思い切って切り出した。
一度口から出た言葉は撤回できない。キョーコは自分から言われた言葉を一晩で変にねじまげて解釈している可能性もある。きちんと自分の意志を伝えることが、今出来る唯一のことだと蓮は心を決めていた。
「一度会って…最上さんと話をしたいんだ」
『え?あ、はい!』
びっくりしたような返事が返ってくるが、蓮は構わず続ける。
「電話じゃなくてちゃんと顔を見て話したい。けど今日はどうしても時間が空けられないから…明日の収録の時に少し時間を作ってもらえないかな?」
『明日…ですね。はい、私は大丈夫です』
「ありがとう。じゃあ明日、よろしく」
『はい。では失礼します』
電話を切って、蓮は大きく息を吐き出した。まだ朝の仕事前だと言うのに1日分の精神力を全部使い切ってしまった気がする。

明日、明日だ。

蓮は自分に言い聞かせるように呟くと仕事に向かうために勢いよく立ち上がった。


翌日の収録はトーク番組だった。芸人たちに囲まれるこの番組は司会者の鋭い突っ込みでゲストの素顔がよく見えると人気も高い。蓮とキョーコは主演の加藤と共に、最終回が近いドラマの宣伝のためにこの番組の生放送スペシャルへの出演が決まっていたのだった。
そして早めに局に入ったキョーコは蓮と廊下で遭遇し、収録前の時間に蓮の楽屋を訪れている。


やっぱり社さんは席外しちゃうんだ…

むしろ居てほしかったかも、といつになく弱気なキョーコだが、「俺ちょっと電話してくるね」といつも通りに笑顔でそそくさと出て行く社を見送ることしか出来なかった。
全く普段と変わらない様子の社を見ると、先日の蓮のことは知らないようだ。蓮もさすがにそんなことを話してはいないのだろう。

蓮とキョーコは少し間を空けてソファに座っている。ややキョーコの腰が引けているように見えるのが蓮には気になっていた。

「あの…この間、別れ際に俺が言ったことだけど」
蓮はいきなり本題を切り出した。収録までそれほど時間がある訳ではないし、無駄に長引かせても結果は同じだ。
「は、はい!あの……敦賀さん、全部…覚えてらっしゃるんですか」

蓮は虚を突かれて無言でキョーコを見つめてしまった。
「覚えて…るけど?確かに俺は酔ってたけど、記憶は飛んでないよ」
「……」
怯えたように自分を見るキョーコが内心で何を考えているのかさっぱり想像がつかない。しかし少なくともあのセリフを好意的に捉えてもらっていないことだけは痛いほど分かる。蓮はへこみそうな気持ちを鼓舞してなんとか口を開いた。
「だから、君になんて言ったかもはっきり覚えてる。すごくタイミングは悪かったけどあれは…」
「分かってますから!」
大声で遮られて蓮はまたもや目を丸くした。先輩が話している最中にその話を遮るなど、初めてのことだ。もちろんふざけているときや蓮が意地悪をするときなどは別だが、普通に話をするときにはキョーコはいつも真剣に耳を傾けてくれる。

驚いて見つめたキョーコの表情は笑顔だかどこか引きつっているように見えた。
「ちゃんと分かってます。私だって、たくさんお酒を召し上がってふらふらしている方の言葉を真面目に受けるほど、バカでもありませんから。大丈夫です、ちゃんと分かってます。あの時のことはもう私も忘れますから!」
一気に言い終わるとキョーコはすくりと立ち上がった。

「ちょっとまって、最上さん。俺は忘れてほしい訳じゃない」
蓮も思わず立ち上がって出て行こうとするキョーコに手を伸ばすが、相手はするりと身を引いた。
「いいえ敦賀さん!ダメですよ、敦賀さんはちゃんとご自身の気持ちを大切にしてください。勢いとか酔いで心にもないこと言ったって、ちゃんとあとで取り下げていただければいいだけなんですから」
「最上さん?一体君は何を…」
「責任とか同情とか、そういうのは逆に…辛いだけですから」
いざと言うときのキョーコの足の速さと身のこなしは舌を巻くしかない。あっという間に戸口にたどり着いたキョーコは呟くように言うとぺこりと頭を下げ、部屋を出て行った。

なす術もなく蓮は楽屋に立ち尽くす。

なんなんだ…?
断られるとか嫌がられるとかそれ以前に、俺が言ったことをなかった事にしたいって?
どういうことだ?俺のあのときの言葉は信じられないと、最上さんはそう言うのか?
あの子は本当に…!

あまりの受け止められ方に蓮はめまいを感じる。ぐるぐると渦に巻き込まれそうで、蓮は慌てて呼吸を落ち着けて冷静さを呼び戻した。
蓮は先ほどのキョーコの様子を改めて思い起こす。部屋にはいってから作り続けていた笑顔はどこか嘘臭く、頭を下げてからドアを開ける前の一瞬に見えたキョーコの顔は辛そうで、今にも泣き出しそうだった。

もしかして、そうなのか?…それでも俺の真意を疑うって言うなら、こっちにも考えはあるんだ…


蓮はぎゅうっと握りこぶしに力を込めた。


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コメントコメント


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蓮様の「考え」って?

こんばんは。またしても、気になるところで切れていますね。オフィスラブから一転、少し幼いキョーコちゃんの妄想・現実逃避炸裂ですね。この明るいお話がどうオチがつくのか楽しみです。

どうもありがとうございました。

genki | URL | 2014/06/03 (Tue) 01:13 [編集]


しゃべ〇り7!

芸人たちに囲まれるトーク番組というと…『しゃべ〇り7』的なアレですね?(笑)
それにしてもキョコちゃんの湾曲解釈、切なくなるなぁ…(;ェ;`)グス
そして最後の蓮さんの決意(という名の開き直り)がどう後編につながるのか!
うわぁ楽しみだぁ~♪ヽ(^◇^*)/ ワーイ

花 | URL | 2014/06/03 (Tue) 02:03 [編集]


Re: 蓮様の「考え」って?

> genki様

いつもコメントありがとうございます!!
かなり長いところ会社員蓮さん&キョコさんをいじくっていたので、逆に新鮮に思ってます。
なぜか原作沿いのお話の方がキョコさんの曲解がすごくなっちゃいますね。
蓮さん、次でどうふっきれるのか。。。お楽しみいただければ嬉しいです。

ぞうはな | URL | 2014/06/04 (Wed) 06:09 [編集]


Re: しゃべ〇り7!

> 花様

そうですそうです、まさしくそれ的なアレって捉えていただければ!
キョコさんはとにかく解釈がすさまじくひねくれていますよね…その中には「うっかり変な期待してあとで突き落とされるのは嫌だしそもそももう恋愛なんて」という意識的にも無意識的にも否定する心理が働いているんでしょうね…
次回、振りきれた蓮さんをお楽しみくださいー。

ぞうはな | URL | 2014/06/04 (Wed) 06:13 [編集]