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まどろみから覚めて(40)


こんばんはー!ぞうはなです。
「まどろみから覚めて」、ようやく完結です。長かった…。
最後はいつもよりちょっとだけ長めでお届けします。

ところで今さらですがねここ様からのリクエストは『不眠気味のキョコさんがますます眠れなくなり、偶然遭遇した蓮さんと一緒にいるとなぜか「ウッカリ」よく眠れてしまう』という内容でした!
ねここ様、とっても楽しいリクエストをありがとうございましたーー!!





「1人暮らし?」
「うん」
「なんでまた今更?」

会話は会社員でにぎわうカジュアルなレストランの一角でされている。
さすがに梅雨が明けるとじりじりと照りつける太陽が暑すぎるので、キョーコと奏江は公園でのランチは諦めて昼はリーズナブルな価格のこの店に昼食を取りに来ていた。

「今更って…だって、だるまやさんの下宿は無理やり空いてる部屋を使わせてもらってるようなものだし」
ランチセットについているサラダのキュウリをフォークで突き刺して、キョーコは当然でしょ、と言いたげに答える。
「いや、下宿を出るのは別にいいと思うわよ。色々不自由だろうし」
奏江はミネストローネをすくい、左手で髪を耳にかけながらちろりとキョーコを伺った。

「下宿出たら部屋借りないと住むところ無いじゃない」
「あんたの場合あるじゃない、喜んで受け入れてくれるところが」
え?とキョーコは首をかしげたが、すぐに思い当たったらしく顔を赤くしてわたわたと慌てる。
「何言ってるのよモー子さん!」
「あらそんなおかしなことじゃないでしょ。あんたの彼氏、絶対喜ぶわよ」
「ちょちょちょっと、誰が聞いてるかわかんないんだから…!」
「私名前は出してないわよ」
奏江は澄ました顔できっぱりと言い切った。キョーコは赤かった顔を青くして周りを伺っているが、何を今更、と奏江は呆れの心境だ。

奏江はすでに「絶対内緒よ!」という前置き付きでキョーコから交際の事実を聞いていたが、どうやらキョーコはそれ以外の人には秘密にしておきたいらしい。
蓮はキョーコと約束した通り、キョーコと付き合っていることを公言はしていない。聞かれても「さあ?」ととぼけて決して肯定はしないし、会社ではそもそも接触が少ないのだが、たまに受付に座るキョーコに会ったとしても蓮は仕事の顔を崩さない。
だが少なくとも奏江が見ている範囲に限っても、サークルの練習やそのあとの飲み会ではあからさまにキョーコにだけ態度が違うし、キョーコもいちいち蓮のほのめかしに過剰に反応してしまっている。休日に2人で仲良く歩いていたという目撃談だってある。

その結果、サークル内においては、キョーコの前では誰も口には出さないが蓮とキョーコの交際は事実として受け入れられている状態だ。
2人が自然にいい雰囲気をかもし出していることや、今まで女性に対しては当たり障りなく接してきた蓮が今まで見せたことが無いような幸せそうな笑顔をキョーコに向けていることもあり、羨ましがる女性はいるもののキョーコに対する中傷などは起こる気配がない。
もっとも愛華は「公言していないからまだ決まったわけじゃないもん!」と意地を張ってはいるが、最近少し蓮へのべったりが減ってきた気もしなくもない。いや、やっぱり気のせいかもしれない。

「まあいいわよ、けじめがつかないのが嫌なんでしょ」
「けじめ、というか…色々とね……」
キョーコは言葉を濁した。

蓮もはっきりは言わないが、一緒に住みたいというプレッシャーをじわじわと受けているのは感じている。一人暮らしの話をしたときもやや不満げだった気がする。
だが、海外出張中の親戚から任されているというあの部屋に自分が住むのはやはりまずいと思うし、「外ではしないよ」と宣言している蓮からの愛情表現が2人きりの部屋の中では全開になるのをまだ平然と受け止めることが出来ないので、一緒に暮らすのはあれこれと不安がある。

「まああんたが決めることだからそれでいいと思うけど。部屋は決まったの?」
「うん、隣の駅にね、かなりお得な物件が見つかったの。週末契約してきた」
「よかったじゃない。引越しの日が決まったら教えて。手伝えると思うから」
「ありがとうモー子さん!!あ、でもね、なんだか敦賀さんが…」
「ああ、それなら彼氏に甘えなさい。全部やってもらいなさい。あっちを断ったりして私が恨まれても困るのよ」
「う…ありがと」

奏江はため息をつきながらも、幸せそうにニコニコとしている親友の顔を見つめた。
のろけにしか聞こえない悩みを少しだけ打ち明けてくるキョーコだが、やはり蓮といるときは嬉しそうなので仲はうまくいっているのだろう。幸せならばそれにケチをつける気もない。

「そういえば最近は眠れてるのね?」
「うん、一睡もできないってことはなくなったかな」
尚からの電話は相変わらず突発的にかかってくるのだが、あれほど気にしていた幼馴染の言葉が右から左へ受け流せるようになっていた。適当にいなしたり、蓮と一緒にいるときは電話を奪われたりしていたら、最近だいぶ尚の勢いは落ちてきている。
「でも相変わらずあの人の隣にいると寝ちゃうの?」
「…さすがに飲み会とか通勤電車で寝ることはなくなったけど…まあ相変わらずといえばそうね…気がついたら寝ちゃってる感じ」
「何も言われないの?」
「え…?うん、べつに…?」
何か言われることあるのかな?と顔に貼り付けて首をかしげたキョーコに、「ならいいわよ」とさらりと流して奏江は食べる方に注力した。スプーンでオムライスをすくいながら、こみ上げてくる笑いを逃して無表情を取り繕う。

…この子本当に何も考えずに無邪気に寝こけそうよね。
週末は敦賀さんの部屋に泊まってるって聞いたけど、ホントに寝てるだけなのね…キョーコに先に寝られちゃったら敦賀さんってどんな気持ちなのかしら?眠ってるのに無理やり襲ったりはしなさそうだし。
ふふふふふ…キョーコのこと引っ張ってるように見えるけど、実は案外振り回されてるのって敦賀さんなのね。ああだめ、午後に顔見たら吹き出さないように気をつけなくちゃ…

キョーコは奏江の考えなど想像できるわけもなく、しかしたまに歪む奏江の表情を見ながら不思議そうにパスタを口に運んでいた。


そして暑い季節を過ぎ、朝晩に涼しい風が吹き始める頃。
休日の河川敷はかなりにぎわっていた。ゆったりと流れる大きな河の河川敷にはテニスコートが並び、この日は地域のテニス大会が行われているためにいつもよりたくさんの人がコートの外と中に集まっている。

「えーっと、蓮はシングルスとダブルス両方勝ち残ってるんだよな。両方勝ち上がったら4試合こなさないといけないけど大丈夫か?」
トーナメント表に午前中の結果を書き込みながら社が尋ねた。
「条件は他の人も同じですからね、1セットマッチですしなんとかなるでしょう」
「準決までだいぶ間があるから、休んどいてくれよ。逸美ちゃんもダブルス、と。お昼は?」
「私はさっき買ってきたので大丈夫です」
「そうか、ならいいな。あれ?貴島は?」
「あそこでさっきの相手チームのマネージャーとしゃべってますよ」
「あいつ…次の準決は蓮とだろうに…」

社達 サークルメンバーはコートの脇の斜面で集まって話している。サークルから大会に参加したメンバーは今年はなかなか強く、数人が勝ち残って午後に準決勝を控えていた。

「じゃあ、各自時間に遅れないように」
社が声をかけてその場は解散となった。キョーコの姿を探してきょろきょろと辺りを見回す蓮に、先ほどまで女の子と話していたはずの貴島が声をかけてくる。
「敦賀君、準決勝では手加減しないからよろしくね」
「ああ、こちらこそ」
土手の上の遠方からこちらに向かってくる恋人の姿を認めて蓮の顔が一瞬緩んだのを、貴島は見逃してはいなかった。

「まったく嬉しそうな顔しちゃってさ」
「何が?」
蓮は瞬時に表情を正すとしれっと答える。
「でも聞いたよ。キョーコちゃん相変わらず敦賀君の隣にいるとあっという間に寝るんだって?」
「……ああ、そうだけど」
「可哀想に、隣で無防備に寝られて手も出せないなんてなあ。付き合って何ヶ月経つんだよ、生殺しは体に悪いと思うけど」
にやりと笑った貴島に、蓮は涼しい顔でさらりと言い返した。
「別に寝る前と決まってる訳でもないだろう」
「え?」
「ぐっすり寝た後だったら、俺の隣にいたって起きてるんだよ?」

しばらく黙って貴島は蓮の顔を見ていたが、すぐに意味を理解して少し大きな声を上げる。
「わー。敦賀君ってそんな顔してて案外スケ」
「君が先に言い出したんだろう」
ぴしゃりと言葉を遮ると、蓮は「また後で」と言い残して大股に土手を上がっていく。その先には嬉しそうな顔で蓮に駆け寄るキョーコの姿。
「試合だけは負けらんないよなあ…」
キョーコの荷物を受け取って仲良く歩き出した男の後姿を眺めながら、貴島はぽつりと呟いた。


蓮とキョーコはコートから少し離れた土手の斜面の木陰にレジャーシートを広げ、昼食を取り始めた。
「胃がもたれないように少し軽めで、炭水化物が中心の方がいいですよね!」とキョーコが心を込めて握ったおにぎりを食べながら、蓮は目の前の広場で遊ぶ子供たちの姿を眺める。
「子供がいたら、家族でお弁当持ってこうやってのんびり遊ぶのもいいね」
「そうですね、どこか遠くに出かけなくてもそういうのも楽しそうです」
「いつか君と…そうしたいな」
「え…?」
「まだキョーコも20歳だし、子供を持つことなんて考えられないかもしれないけど。家族になるなら君がいい」
「ちょ、あの、敦賀さん!そういうこと軽々しく…」
「軽々しくなんて言ってないけど。子供がいてもいなくても、とにかく君と一緒に生きていきたいと思ってるよ。ゆっくりでいい。考えておいてくれたら嬉しいな」
「は、はい!あの…ありがとうございます」

キョーコは顔を真っ赤にしてどぎまぎとしたが、すぐに立て直して蓮におにぎりを差し出す。
「でもあの、まずは午後の試合ですよ!食べたらちゃんと休息取りましょう!」
「なんだ、急に現実に戻されたな」
蓮は苦笑しながらおにぎりを受け取った。
「い、いいんです。試合頑張ってくださいね!あ、でも、怪我したら大変なので無理はしないでください」
「ありがとう。頑張るよ。来年はキョーコも出られるね、試合」
「出られるように練習頑張ります!」
ふむ、と握りこぶしに力を入れたキョーコに、蓮は笑って「うん、頑張ろう」と頷いた。


「あーーーーー……」
社の口から漏れたのは、なんともいえない心情が乗ったため息のようなものだった。
自分は試合会場からちょっと離れたところにあるドラッグストアに湿布を買いにいこうと思っただけだ。河を眺めながら河川敷の歩道を歩いていて、ふと視線を移したら勝手に目に飛び込んできてしまったのだ。

立ち止まった社の視線の先には芝生の斜面に広げられたレジャーシート。
と、そこに寝っころがって目を閉じている2人の男女の姿。

2人は寄り添っているわけではないが、お互いの方を向くように横向きで、女性の頭は男性の腕に乗っている。女性の手はやんわりと男性のシャツの脇の部分をつかんでいるようだ。

「貴島が見たら…またブツブツ言うよな。全く、隠したいんだか見せびらかしたいんだかよく分かんないよ俺には」
腰に手を当ててため息をついた社だったが、その顔には笑みが浮かんでしまう。

全く…なんて幸せそうに眠るんだ、2人とも?

社はちらりと腕時計を見た。まだ午後の試合開始までには余裕がある。蓮の体のすぐ横に携帯電話が転がっているのを確認し、社は無言でその場を離れた。
時間が来ても起きなかったら携帯鳴らせばいいんだし、あえて邪魔することもないな、と歩き始めた社はふとある単語を思いつく。
「リア充ってのはああいうのを言うのかなぁ?」
そうに違いない、と社は1人納得してすっきりした。

残された2人は髪をくすぐる風に少し身じろぎしたが、すぐ隣にあるぬくもりをなんとなく認識してまた心地よい波間に漂う。
まどろみから覚めたら、きっと目の前には愛しい人の優しい笑顔が。


(おしまい)

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コメントコメント


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祝・完結

長期連載お疲れ様でした。
毎日こちらに更新チェックにくるのが楽しみでした。
キョコさんに安眠が戻り安心しました。
どうせなら一緒に住んで激甘展開も
見たかったです。(すみません、かっさかっさの生活送ってますので)

蓮様のご親戚はやはり派手なあの方ですかね?まだまだ色々妄想できちゃいます。
楽しいお話しをありがとうございました。次回作も期待してお待ちしてます。

ponkichibay | URL | 2014/05/24 (Sat) 05:54 [編集]


おめでとうございますー!!

完結おめでとうございます!!!!
一つの話ごとに確実に完結に持っていけるぞうはなさんを尊敬します(≧∇≦)
今回のお話もめちゃくちゃ面白かったですよー!!
二人が自然と纏まってホッとしました!!

これからも素敵作品楽しみにしてますね(≧∇≦)

風月 | URL | 2014/05/24 (Sat) 10:03 [編集]


ありがとうございました!!

40話の長編、お疲れ様でした。ホントに楽しませて頂きました。
まったり、ゆっくり流れていく二人の時間、微笑ましい限りでした。
日常生活の中での蓮キョ、普通ぽいところが新鮮でした。
出会いの通勤電車の中とか、同じ会社とか。
普通に、時間をかけてお互いに惹かれていく過程の心境が丁寧に描かれていて、「流石、ぞうはな様!!」って感じでした。
「まどろみから覚めて」目の前に愛しい人の顔があったら、ホント幸せですよね(蓮様であり、キョーコちゃんであり、リアルじゃない場合ですけど
笑 )
また、素敵なお話待っていますね。
ありがとうございました!!\(^o^)/

しゃけ | URL | 2014/05/24 (Sat) 15:19 [編集]


Re: 祝・完結

> ponkichibay様

最後までお付き合いいただきありがとうございました!

嬉しいコメントをたくさんいただいて、本当に励みになりました。ありがとうございます。
激甘……はですね、もうキョコさんが翻弄される姿しか想像できず…あとは皆様の想像(妄想)にお任せしちゃおうかなあ、なんて。

実は話中には出てきませんでしたが、蓮さんの住むあの部屋は蓮さんの父親が持っている部屋の一つで、可愛い息子のために格安家賃で提供していると言うものでした。
それを素直に言うのもはばかられて、蓮さんは海外出張中の親戚を持ちだしてきているのですが、実際はあの部屋は蓮さん用に確保されたものなので追い出されることはない、と。きっと蓮さんはそれを素直にキョコさんに言いだせず、同棲もあまり強く要求できないのでしょう…

次の話もまたお付き合いいただけたら嬉しいです!

ぞうはな | URL | 2014/05/25 (Sun) 21:59 [編集]


Re: おめでとうございますー!!

> 風月様

ありがとうございます!
いえ、私はなぜでしょうか、複数の話を同時に並行して進めるのがものすごく苦手と言うか出来なくて…(話が混ざっちゃいそうになる)。
ひとつ書き始めると終わるまで次に取りかかれないのですよね。

嬉しいお言葉ありがとうございますー!
またなんとか次につなげたいと思います。よろしくお願いいたします!!

ぞうはな | URL | 2014/05/25 (Sun) 22:04 [編集]


Re: ありがとうございました!!

> しゃけ様

ありがとうございます。長い話へのお付き合い、ありがとうございました。
今回は本当にハラハラとかズキズキよりも「まったり」をモットーに行きたかったので、微笑ましく思っていただけたらとても嬉しいです。

2人が普通に勤めてたらこんなかなぁ、なんて思いながら書かせていただきました。
もっとも、蓮さんのビジュアルで普通の会社員と言うのは逆に怪しいですが。

一番好きな人と一緒に眠れて目覚められる喜び、(リアルでは難しいですけど)幸せだと思います。

また次の話にもお付き合いいただけたら幸いですー。

ぞうはな | URL | 2014/05/25 (Sun) 22:07 [編集]


完結おめでとうございます~!

たっぷり40話、ありがとうございました!
日常な蓮キョのやり取りが微笑ましく、キョコさんが気になると自覚してからは、ドキドキしつつも隣で寝られちゃう蓮さんはちょっと不憫??なんて思いきや…w貴島さんのあしらいはさすがです~。

しめくくりは幸せそうに眠る2人で、タイトルでもある『まどろみ』がとても素敵に描かれてて、読んでてほっこりさせていただきました~!
素敵なお話をありがとうございました

霜月さうら | URL | 2014/05/26 (Mon) 14:39 [編集]


Re: 完結おめでとうございます~!

> 霜月さうら様

コメントありがとうございます!
お返事が遅くなりまして申し訳ありません。

蓮さん最初はやきもきな感じでしたが、キョコさん本人ではなく貴島さん相手ならさらりとちくりとあしらえるようです。
のんびり展開(話の進みではなく)を目指していましたのでほっこりしていただけたら本当に嬉しいですー!
最後までお付き合いいただきましてありがとうございました!

ぞうはな | URL | 2014/05/28 (Wed) 22:44 [編集]