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まどろみから覚めて(38)

こんばんは!
早速つづきー。



「お互いに仕事に支障が出るのもよくないですし、何より私が社内を歩けなくなります」

蓮が何かを言い出す前に、キョーコから"交際は内緒"と釘を刺されてしまった。
自分としても誰彼構わず言って回りたいわけではないが、キョーコの周りをぶんぶん飛び交う鬱陶しい男どもには匂わせる程度でも知らしめておきたいのが本音だ。しかしキョーコは「敦賀さんについての話なんて、一度1人に話せば絶対広く伝わってしまいますから」と青い顔をして止める始末なのでそれを無視して泣かせるのも可哀想だ。


結局は惚れた弱みって所だな…

そんなことを思ってとりあえずキョーコの"お願い"を了承したものの、2人で会ったり話したりしているのを目撃されたら仕方がないし、と考えてしまうのはやはり、蓮の方が経験がある分余裕もあるのかもしれない。


2人が付き合い始めた翌週のサークル練習日。
蓮にべたべたとまとわりついていた愛華がなんとか引き剥がされて隣のコートに連れられて行ったのを見計らったように、貴島が蓮に話しかけてきた。
「相変わらず愛華ちゃんは敦賀君しか見てないなあ。よく敦賀君も相手するよね」
「はは…まあ本人にも悪気がある訳じゃないからね」
にっこりと笑顔を作った蓮の顔を、貴島は「そうですかい」と少し顔をゆがめて見た。

コートサイドに立ったまま練習を見守る蓮の隣に、貴島は同じ方向を向いてしゃがみこむ。

「…今日はキョーコちゃん来ないの?」
コートでラリーをしている奏江の姿を視界に入れながら貴島がぼそりと口にした。
「今日は休みみたいだね」
「なんで?」
蓮の返事にかぶせるように貴島は聞く。

「部署の歓送迎会があるらしいよ」
「ふぅん…で、なんでその情報を敦賀君が知ってるの?」
貴島は立てたラケットをつっかえ棒のようにして両手をつき、ぐりんと頭を蓮の方に向けた。蓮はそんな貴島をちらりと見下ろしながらも表情を変えない。
「別に。たまたま本人から聞いただけだよ」
「たまたまねぇ」
「そう、たまたま」
2人は口を閉じ、ボールを打つ音とコート内の声が響く。

「昨日キョーコちゃん受付にいてさ」
しばらくの沈黙の後、再び蓮を見上げながら貴島が口を開いた。
「ああ」
「帰りにご飯食べようって誘ったんだよ」
「うん」
「だけど断られてさ」
「そうなんだ」

再び会話は途切れる。

「なんか言うことはない?」
沈黙に焦れたのはやはり貴島だった。すくりと立ち上がるとラケットを逆さまに持ってグリップをマイクのように蓮に突きつける。
「言うことって?」
涼しい顔で蓮が問い返すと貴島はいらいらと言い募った。
「今までキョーコちゃんを誘っててもさ、大体は『予定があるので』なんて言葉濁されてたんだよ?それがどうだよ、昨日は『2人で行くのは控えさせてください』だって。大勢で行ったって意味ないんだけどさ。どういうこと?」
「俺に聞かれてもね」
「なんで2人じゃダメなのかって聞いたら、ちょっと恥ずかしそうに『誤解されると困るので』とかなんとか。なあ、それってどういうこと?」
「だから、なんで俺に聞くのかな」
「敦賀君なら知ってると思ってるからに決まってんだろ」
貴島のラケットはごつごつと蓮の胸にぶつけられるが蓮はうっすらと浮かべた笑みを動かさない。

「もうぶっちゃけて聞いちゃうけどさ、キョーコちゃんと付き合い始めたの?」
「うーーん…それは答えられないな」
「なんでだよぉ!否定じゃなくて答えられないって…?」
「約束してるんだよ、内緒だって。だから、答えられないな」
「約束って…キョーコちゃんと?」
「ああ」
「敦賀君、それ、内緒にするつもりないな?」
「そんなこともないよ。…ただ、無駄な努力をさせちゃ悪いかなと思ってね」
「…無駄って言いきったな」

憮然とした表情を作った貴島を見て、ああいや、と蓮は首を横に振った。その表情は相変わらず穏やかだ。
「ああ、悪い、無駄って訳じゃないな。別にやめてほしいってことでもない。ただまあ、前にそんな話をした事があったから、一応伝えておいた方がいいかなと思って。だからこの話をするのは貴島君にだけだ。内密に頼むね」
「なんだよもう…その余裕のセリフ、感じ悪いぜ」
「そう?そうだったら謝るよ。悪いね、ちょっと今浮かれてるのかもしれない」
蓮の言葉を聞いて思わず貴島はその顔をまじまじと見てしまった。蓮の顔に浮かんでいる笑みは、確かに先ほどとは違い幸せに浮かされているもので、貴島は思わず自分が赤面してしまい、「やだやだ、ったくよう!」と吐き捨てて蓮の傍を離れたのだった。


「内緒だって言ったじゃないですか」
会社帰りに会うなり、キョーコは挨拶もそこそこに唇をとがらせる。

怒った顔もこれはこれで可愛くていいな、と思ったなんて素直に言ったらもっと怒られるので言わないが、蓮はキョーコの膨らんだほっぺたをつつきながらにこりと笑った。
「何の話?」
「何のって…!貴島さんに話しちゃったんですか?」
「貴島君になんか言われたの?」
「……なんで俺じゃないのって、敦賀さんでで本当にいいのかってこそっと言われました」
「で、なんて答えたの?」
「…内緒です!」

ぷい、と顔をそむけるキョーコは耳が赤いので、怒っているのではなく照れているようだ。思わず抱きしめたくなるのを我慢して、蓮はキョーコに話しかけた。
「そんなに頑なに内緒にしなくてもいいと思うんだけど」
「だめですよ!」
「どうして?」
どうしてって…とキョーコは少し言葉に詰まったが、ややうつむき加減でぼそぼそと答える。
「この間も言ったじゃないですか。…私が敦賀さんとお付き合いしてるなんて……笑われますもん」
「笑われる訳ないだろう」
「だって…」
「地味だとか色気がないとか、なんでそう思ってるのかな…」
蓮はがりがりと頭をかいたが、ふと思いついて頭から手を離した。
「もしかして…あの幼馴染か」
キョーコの肩がぴくりと震える。

「あの男に言われて、それをバカ正直に信じてるんだね?」
キョーコは右手で左手の指をぎゅっと握りしめた。
「でも…ほんとのことです。私見た目も地味ですし、何の取り柄もないですし…敦賀さんがこうして一緒にいてくださるのはすごく嬉しいですけど、やっぱりいいのかなってどうしても思っちゃうんです」
「やれやれ…そんなにあの男の言葉の方が信じられるのかな。最上さんが信じられるまで何回でも言うけど、俺は他の誰でもなく君と一緒にいたいよ。最上さんはすごく可愛いと思う」
「ありがとうございます…」

ほにゃほにゃと視線をさまよわせて照れるキョーコは文句なしに可愛い。
フェロモンむんむんの大人の色気はないかもしれないが、20歳の女性としては十分すぎるほど守ってあげたい可愛さがあるのだ。
それにばっちりメイクをすれば…

そういえば、と蓮は先日思いついたことを再度思い出した。

「最上さん、あの幼馴染の住んでるところって知ってる?」
「え…あ、はい、変わってなければ多分マネージャーさんのマンションです」
「呼び出したりできるかな?一度彼に会ってみてほしいんだけど」
「え……あ、でも、この間のお店のすぐ近くのライブハウスに出てるので…金曜日だったらいるかもしれませんけど」
「金曜日、今日だね。いるかどうかって分かる?」
「あ、はい、ホームページを見れば…。でも、どうしてですか?」
「うん、ちょっとね。君の思い込みを覆すことができそうだなと思ってね」

ちょうどこの日、尚のバンドがライブをやっている事が分かると、蓮はキョーコを促して歩き始めた。
蓮の顔には笑みが浮かんでいたが、なぜかそれを見たキョーコは背中がざわりとして落ち着かない気分になってしまったのだった。



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コメントコメント


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貴島さん(笑)

こんばんは
更新ありがとうございます。

貴島様W
蓮様は浮かれすぎで貴島さんがかわいそう
貴島様キョコさんにハッキリ振られて蓮様に確認行くあたり、まあわかってたんでしょうね?
貴島様きらいじゃないからかわいそうかも(^^)
次回はライブハウスであのバカやっちまって下さいませ。

ponkichibay | URL | 2014/05/20 (Tue) 21:03 [編集]


こんばんは!!

更新楽しみに待っていました!! ありがとうございます!!

隠す気ない蓮様が可愛いです~。「内緒にするってキョーコちゃんと約束している」って、それ言っちゃってますから~(笑)
貴島さん、ご愁傷様です。これで、馬の骨1号は潰せましたね。

後は、キョーコちゃんにトラウマ植え付けたショータローですね。
蓮様、どんな手を使うのでしょうか⁈ 「ぎゃふん」って言わせちゃってくださいね。
続きも楽しみに待ってます~!!\(^o^)/

しゃけ | URL | 2014/05/20 (Tue) 21:38 [編集]


Re: 貴島さん(笑)

> ponkichibay様

コメントありがとうございます!
返事が遅くなりまして申し訳ありません…。

貴島さんちょっと可哀想ですよね~~…
何回誘ってもなかなかなびいてくれなくてちょっと焦ったのですが、撃沈でした。
でもきっと惚れっぽいお人なのですぐに他にターゲットを見つけそうな気も。
良くも悪くも軽いですよね。本編でもキョコさんにどこまで本気なのか???

ぞうはな | URL | 2014/05/21 (Wed) 18:14 [編集]


Re: こんばんは!!

> しゃけ様

お待ちいただいてありがとうございます!

蓮さん全く隠す気なくてむしろ「聞いてくれ」オーラが漏れていたものと。
貴島さんはなんとなく予感はしていたのでしょうが、やはり面白くはないでしょうね。でもしつこく恨んだりはしなさそう。

次で一番ぶっとい馬の骨登場でございます~~~

ぞうはな | URL | 2014/05/21 (Wed) 18:17 [編集]