SkipSkip Box

まどろみから覚めて(36)


こんばんは!ぞうはなです。
連続更新の後のまさかのぽっかり空間!

言い訳を言ってる暇があったらとっとと更新!





「はい、最上です!」
エレベーターホールの端っこに寄ってキョーコは電話を受けた。ばくばくと高鳴る心臓で声が震える。

『…お疲れ様。今どこ?』
電話の向こうの蓮も会社にいるのだろうか。小声だが少し反響しているように聞こえるので、エレベーターホールや階段室から電話してきてくれているのかもしれない。
「お疲れ様です!えと、まだ会社にいます。出るところですけど」
『そう…今日の予定は何かある?』
「いえ何も!今日は帰るだけです」
『ええと……もし…今日時間があるなら、話がしたいんだけど』
「え?…時間は大丈夫ですけど」
『それなら、会社のそばで、いや駅の周りでもいい、どこかで少し待っててもらってもいいかな?1時間…はかからない、30分くらいで行かれるから』
「はい、大丈夫です!あの、時間はいくらでも大丈夫ですから」
『ありがとう。できるだけすぐに行く。また連絡するよ』

キョーコは通話を終えると大きく息を吐き出した。
まさかメールを送った直後に電話があるとは思っていなかったので、自分からメールしたにも関わらず心の準備が出来ずになんだかドキドキする。と緊張したままウロウロすると不審者に思われそうで、キョーコは会社から少し歩いた先にあるカフェで気持ちを落ち着けながら待つことにした。


蓮からの電話が着信したのはそれから40分後のことだった。
キョーコの所在を聞くと通話はすぐに切れ、それほど時を置かずカフェの入口に長身の男性の姿が見える。蓮は店内を一瞥するとすぐにキョーコに気が付き、足早に近づいてきた。
「ごめんね、お待たせ」
「いえ、お疲れ様です。すみません、急がせてしまったみたいで」
「いや、俺が早くここに来たかっただけだから。気にしないで」
緊張した面持ちでぴしりとつま先をそろえ、膝の上に両手を組んで背筋を真っ直ぐ伸ばしたキョーコの姿を見て、蓮の顔に笑みが浮かんだ。

俺もかなり緊張してここに来たけど…最上さんもちょっと固くなってるみたいだな…


一方のキョーコは蓮の額にうっすらと汗が浮かんでいるのに気がついていた。

敦賀さんもしかして…走ってきてくれたのかしら?
髪もちょっと乱れてるみたいだし、なんかどうしよう、すごく嬉しいかも…

自分がメールを一通入れただけですぐに反応して電話をくれたり、急いで仕事を終わらせて駆けつけてくれる。
いつもゆったりと落ち着いて自分のペースを乱さないように見える蓮がそうやって自分に会いに来てくれることに、キョーコは改めて恥ずかしさと嬉しさを覚える。

でもどうしよう、こんなところでいきなり切り出すのもおかしい…わよね。
わあぁ、どうしよう、やっぱり話のきっかけが…!

内心オロオロしだしてしまったキョーコに気づいたのかは分からないが、蓮はキョーコのカップが空になっているのを確認すると声をかける。
「ちょっと外を歩こうか?」
「は、はい!」
助かった、とキョーコはいそいそと支度をすると立ち上がった。


2人が外に出ると空はまだ明るい。ぬるい空気が漂ってはいるが、少しずつ気温が下がっていて涼しくなりそうな気配がする。
蓮はどこへ向かおうかと一瞬思案したが、ふと思いついて以前キョーコと遭遇した公園へ向かうことにした。

公園の噴水は高くしぶきを上げ、広場には鳩を追ってよちよちと歩く幼い子供や会社帰りのサラリーマンなどいろんな人が思い思いに少し涼しくなってきた夕暮れ時を過ごしている。

蓮とキョーコはなんとなく空いたベンチに並んで座った。
お互いに本題を切り出しにくいが、かといって世間話はここに来るまでの間あれこれとしてしまって話題がない。蓮はちらりと隣に座るキョーコに視線を走らせたが、キョーコはものすごく困った顔で噴水を凝視したまま微動だにしない。

急かすのもなんだけど…これじゃ埒が明かないし、やっぱりなんて返事してくれるのか気になるよな…聞きたいような、聞きたくないような…

「あのさ」
「あの!」

意を決して蓮が口を開いたのと、ずっと考えこんでいたキョーコがようやく声を出したのはまったく同じタイミングだった。
口を開くと同時にお互いに顔を相手に向けたため、視線があってしまった2人は同時に笑い出す。

「この前もこんなことありましたね」
「ホントだね…今回は最上さん、どうぞ」
「いえあのっ!」
蓮に促されてキョーコは再び顔をこわばらせてしまった。
「俺は……君の返事を聞きたいだけだから」
ふわりと笑みを浮かべられて、一瞬キョーコの表情も緩むがまたきりりと厳しい顔になる。蓮も穏やかな顔つきながら内心ではかなり緊張してキョーコの言葉を待ち構えた。

「私、その…先日はお返事を保留するなど、失礼なことをしてしまいまして申し訳ありませんでした!」

ああ、その謝罪から入るのか…

蓮はほんの少し崩れそうな体を支えてぺこりと下げられたキョーコの後頭部を見つめる。しかしここでめげては自分が欲しいキョーコの答えにはたどり着けない。蓮は表情を改めると首を横に振った。

「いやこちらこそ、いきなりあんなこと言い出してごめん。でも俺は…あの時の言葉は本気だから」
キョーコは蓮の台詞を聞いてぎゅうっと膝の上の両手に力を込めると、懸命に言葉を絞り出す。
「いえあのっ。私……あんなこと言われたの初めてで慌ててしまって…ごめんなさい」
「ううん。それで、考えてみてくれた?」
『ごめんなさい』という言葉は、それが拒絶の意味を含んでいなくても今の蓮の胸には重く響く。そんな複雑な心境をきれいに隠し、蓮は答えを引っ張り出そうと口調はあくまで柔らかく、だが核心に迫る。

「はい。あの……」
キョーコは言葉に詰まってあがいた。なんとか返事をしようと思うのだが、なんと言葉にすればいいの分からない。隣では蓮がじっと自分を見下ろしたまま静かに口を挟まずに待ってくれているというのに。
思わずキョーコは蓮を見上げた。視線が絡み、その優しい深い色の瞳に吸い込まれそうになり、なぜだか視界がぼやける。

「わ、私……敦賀さんのことが好きですっ」


うぎゃーっ!?
私よりによって何てこと言ったの?
違うのよ、今日感じたあの感じを分かりやすく伝えようと思って…!だけどこんなストレートに!!

「いや、ちがっ」
慌てて思わず口に手を当てたキョーコはうっかり否定の言葉を吐いてしまった。
じんわりと笑みが浮かんでいた蓮の表情が瞬時に少し曇る。
「違う…の?」
途端にキョーコの顔はぼふんと赤くなった。
「いえ……違いません……」
「…よかっ……た……」
息をつめたままのキョーコの前で蓮がばふぅと肺の中の空気を全部吐く。おかげでキョーコは大きく吸った息を吐くタイミングを逸したまま、両手で顔を覆って俯く蓮をきょとんと眺める羽目に陥った。

「よかったよ…ああ、すごく嬉しい、ありがとう」
「いえあの……」
蓮の照れくさそうな笑みを見ているだけで自分もものすごく胸がドキドキして嬉しいのか苦しいのか分からなくなる。なんだか蓮の耳は赤くなっているように見えるけど、きっと今の自分の顔はもっともっと真っ赤っかなんだろう。
「でもなんで、否定しかけたの?」

あいた。

自分でもやってしまったというところを的確につかれて、キョーコは目を潤ませておろおろと両手をこねくりまわす。
「ち、違うんです。本当は…敦賀さんが私にとって他の人とは違う存在なんだってことを言いたくて……一緒にいて安心するのも、会えない時に思い出して苦しくなるのも、そう感じるのは敦賀さんだけだってことを言いたかったんですけど…」
「それは『好き』とは違うの?」
「う……今気がついたんですけどきっと同じです…」
上目遣いで見上げられながらうるんだ瞳でそう言われ、蓮はしばらく固まった。

それから深く長いため息をついて、片手で目を覆い、空を見上げる。
「素でそういうこと言うのか…参ったよ……」
ぶつぶつとその唇から紡がれたつぶやき、いや、ぼやきは、幸か不幸かキョーコには聞こえなかったようだった。


関連記事

PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する
 

はー、よかった!

こんばんは。思わず蓮様と一緒にドキドキしてしまいました。キョーコちゃんはやっぱり天然で魂すすりかも…。本人に自覚がないどころか、ねじれた方向に思考が向きますもんね。だから余計に気になってしまうのでしょうか。

でも、仲睦まじい爽やかなお二人を見ることが出来てよかった~!どうもありがとうございました。

genki | URL | 2014/05/13 (Tue) 23:38 [編集]


そりゃぁやられますよ!

キョーコ可愛すぎ!
蓮がやられるの頷けます。
『特別』って言ってもらった蓮と一緒に悶えますよぉ(*^∀^*)

ゆうぼうず | URL | 2014/05/14 (Wed) 09:04 [編集]


両想い

こんにちは
更新ありがとうございます。

やっと両想いですね。素で無自覚天然たらしのキョコさんに蓮様も無表情ではいられませんね。
いよいよですか!ついにラブラブに突入ですか⁈
いえいえキョコさん相手では慎重になりますよね蓮様。
次回も楽しみに待ってます!

ponkichibay | URL | 2014/05/14 (Wed) 14:30 [編集]


Re: はー、よかった!

> genki様

いつもコメントありがとうございます!

キョコさん本当、良くも悪くも天然さんで、でもそれだけにいきなり前触れもなく嬉しい事を言っちゃったりして蓮さんをノックアウトしてしまうのだと思います。
早い段階で同衾までしたのに、やっとこさ両想いまでこぎつけましたねぇ…
(本誌だと連載10年でようやく両片想いだからそれでも早いかも??)

ぞうはな | URL | 2014/05/15 (Thu) 22:37 [編集]


Re: そりゃぁやられますよ!

> ゆうぼうず様

コメントありがとうございます!
キョコさん、素直で嘘がつけないので想ったら一途ですよね。(そこがヨイ)
そして自分の言葉がどれだけ蓮さんをぐらんぐらんさせているのか気がついていない罪作りな女です。
うふふ、もう、蓮さんにはとことんはまってもらいたいです。

ぞうはな | URL | 2014/05/15 (Thu) 22:39 [編集]


Re: 両想い

> ponkichibay様

コメントありがとうございます!!

ほんと、やっと両想いですね。
蓮さんの頭はきっとお花畑ですが、あれこれ学んだためきっと嫌われないように細心の注意を払うものと思われます。
とはいえきっと幸せだだ漏れのはず…
ああ、色男が台無しなのか色気が増すのか?

ぞうはな | URL | 2014/05/15 (Thu) 22:41 [編集]