SkipSkip Box

まどろみから覚めて(35)


こんばんはー。ぞうはなです。
まさかの連続更新。さて、サッサと参りましょう。





「疲れた~…」
終業時刻を告げるチャイムを耳にして、キョーコは思わず呟きながらがくりとうなだれてしまった。
「今日はそれほどお客様多くなかったのにキョーコさんがそんなこと言うの珍しいわね」
隣の千織に不思議そうに言われ、キョーコは曖昧に笑って誤魔化したが、千織がふっと表情を変えた。
「ああそうか、貴島さんのせいね。あの人仕事にかこつけて何かとキョーコさんにまとわりつくもんね。来たらどう対応するかって考えただけでも神経使うわよ全く。今日は来なかったけど」
「いや…まあそれは大丈夫なんですけど……」
「そうなの?って…噂をすればなんとやら」
千織にぼそりと言われてふと顔を上げれば、向こうから笑顔を浮かべた貴島が歩いてくる。今日はカバンではなくノートPCを抱えているところを見ると、会議か何かの帰りに受付を覗いたと言ったところだろうか。

「やー、キョーコちゃん千織ちゃんお疲れー」
「お疲れ様です」
キョーコも千織も頭を下げて挨拶を返す。
「キョーコちゃん、今日のメイクいいねぇ」
「えっ?あ、ありがとうございます…」
「うん、俺それくらいはっきりしてるの好みだなぁ。キョーコちゃん似合ってるよ」
「はあ……」
「ねえねえ、今週はどこか暇な日はある?あ、サークルの練習のあと2人でこっそり抜け出しちゃおうか」

カウンターに肘をついてキョーコに話しかける貴島を横目で見て、また始まった、と千織はうんざり顔で片づけを始める。
「あの…」
おずおずとキョーコから切り出された言葉に貴島は敏感に反応した。
「なに?」
「どうして貴島さんは私なんかを誘ってくださるんですか?」
「え?」
予想外の問いに貴島は一瞬目をぱちくりとさせたが、すぐにカウンター上に身を乗り出してきた。
「そりゃあ決まってるじゃん」

キョーコは少し勢いに気圧されつつ、それでもしっかりと聞く体勢を整える。
「だって俺、キョーコちゃんと仲良くなりたいもん」
「仲良く?」
「うん。単に仲良くなりたいって言うよりは、親密な関係になりたいっていうの?ぶっちゃけて言えば、キョーコちゃんと付き合いたいな」
軽く繰り出される言葉に、キョーコは困惑する他ない。蓮から同じ言葉を聞いたが、そちらはもっと気持ちがこもって心に響いたというのに。
「お、お付き合いですか?」
「そうだよ!俺と付き合ったら楽しいと思うよー。だからさ、お試しでいいから一緒に遊びに行こうよ」
「お試しって…」
「隣にいて寝ちゃうような退屈な男より、刺激があっていいよ?」
伺うような笑みで含みのある事を言われてキョーコはどきりとした。しかし同時に、これまでもやもやとしていた心の中の霧が一気にぱあっと晴れる。

ああ…そうか。全然違うんだ!
確かに敦賀さんの横にいると寝ちゃうかもしれないけど。それって…退屈なんかじゃない。
それに、今こうやってこの距離で貴島さんのことを見てても…ぜんぜん違う。

キョーコは無意識に避けていた自分の気持ちに強制的に向き合わされていた。

貴島からのしつこい誘いに困っているとはいえ、貴島と会っていない時にまで悩むことはない。ましてや1人布団に入っているときに思い起こすこともない。
貴島が馴れ馴れしく別の女性と話している姿を見ても胸が痛くなることはない。
微笑みかけられて嬉しくも苦しくなるなんてこともないのだ。

いや、貴島だけではない。蓮以外の誰に対してもそんな想い、微かにだって抱いたりしない。
もう忘れたい記憶の中にそんな想いの断片が残ってはいるが、これほど強烈ではなかったと思う。


どうしよう…私……もしかしてここのところずっと、敦賀さんのことしか考えてないの?

キョーコはふと思い当たって衝撃を受けた。
気がついてみれば、あれほどずっと頭を悩ませていた幼馴染への復讐のことだって、この週末には思い出すことすらほとんどなかった。
蓮を思い出すだけで動悸が激しくなる。けれど、会えれば切ない喜びで胸がいっぱいになる。


蓮に会いたい。さっき少しだけ顔を見たけど、直視できなかった。ちゃんと会いたい。
会ってこの気持ちを伝えたら、どうなるんだろう?
ああでも、私と敦賀さんとじゃ…

考え込んでいたキョーコはふと顔を上げる。
「相手に自分が釣り合わないときって…どうしたらいいんでしょう?」
真剣な顔で問うキョーコに、貴島はさらに身を乗り出して即座に返事をした。
「キョーコちゃんだったら相手が誰だって釣り合わないなんてことないだろ~。そもそもそんなこと関係ないと思うな、俺は。自分が相手を好きで相手が自分を好き。結局は気持ちがつながってればいいんだよ」
それに、俺とキョーコちゃんは絶対お似合いだと思うよ、と浮かれた声で続ける貴島の言葉はもうキョーコの耳には入らない。

いいの…かな?
本当に?

数日前に見た蓮の照れくさそうな笑顔とさっきの少し辛そうな笑顔。
自分の気持ちを正直に言ってみようかという微かな想いがキョーコの胸に灯ると、妙にうずうずと気持ちが急いてくる。
「あの貴島さん!」
「うん、なに?」
「ありがとうございました。私、色々と勉強になりました」
にこやかだった貴島の顔に疑問符が浮かんだ。何の話だ?と一瞬考え込むが、とりあえず自分のいいように捉えようとすぐに貴島は立て直す。
「勉強…?うん、それはよかったよ。だからさぁ…」
「私、ちょっと用事がありますので失礼しまぁす!」
ぺこりとキョーコは頭を下げると、猛スピードで受付と玄関の片づけを済ませ、呆気に取られた貴島と千織に挨拶をして風のように走り去った。

「あれ…?……キョーコちゃん、どうしたの…?」
事態が把握できずになんとなくそこにいた千織に尋ねた貴島に、千織はにやりと笑ってみせる。
「さあ?でも貴島さんのアドバイス、キョーコさんの役に立ったみたいですよ?今日は1日難しい顔してたのに、すごくすっきりしたみたい。よかったですね」
「え…えぇぇ?なんか…あれえ?」
どこでしくじったのか分からないが、どうやらキョーコは貴島の意図には乗ってくれなかったようだ。何やら全く明後日の方向への開眼を促してしまったのだろうか。
「おっかしいなぁ…?」
ぶつぶつと呟きながら自分のオフィスへと戻っていく貴島を、千織は冷ややかな表情で眺めていた。


勢い込んで着替えを終えたキョーコだったが、オフィスの自分の席に戻ると「ううん」と考え込んでしまった。

どうしよう…
きっと敦賀さんはまだお仕事中だろうし…いきなり呼び出すのもおかしいわよね。
だ、大体なんて言って会えばいいの?どうやって切り出せばいいのかしら?

内線をかけるのも社内メールを送るのも、用件が用件だけにかなり後ろめたくはばかられる。
キョーコは蓮の予定などこれっぽっちも知らないのだ。いきなり都合も聞かずに会いたいとも言いにくいし、とにかく一歩を踏み出す勇気が出ない。
ここでようやくキョーコは1つの事実を知った。

告白への返事の保留はその後が大変だと。

こんなところでそんなことを知ったからってなんの役に立つのよ!

キョーコは半ば八つ当たり気味に心の中で吐き捨てる。こんなことなら告白されたあの場で返事をするのがベストだったのだろうが、かといって即答できるような精神状態でもなかったのだからしょうがない。

め、メール…そうよ。携帯にメールして、お返事を待てばいい…わよね…


だいぶ最初の勢いはそがれ、キョーコは無難な結論にたどり着いた。
それでも文面は難しい。うんうん唸りながら何回も書いては消しを繰り返し、やっとの思いで「都合のいいときに連絡をください」という必要最低限の内容だけを含んだメールを作り上げるとキョーコは震える手で送信ボタンを押した。

よし、これで…あとはお返事を待つのよキョーコ!

少しドキドキしながら携帯を閉じ、周りに挨拶をして部屋を出たキョーコは少し緊張がほぐれた気分でエレベータホールへと向かった。
しかし、カバンにしまおうと思った矢先に震えだした携帯のバイブにより、一度落ち着いた心拍数はまた跳ね上がる。
恐る恐る見たディスプレイに表示された名前は、先ほどメールを送ったばかりの先輩社員その人のものだった。


関連記事

PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する
 

ぞうはな様~、連連続更新を~!

こんにちは。えーっ!というところで切れましたね。また紆余曲折あるのかしら、とヤキモキしています。ご無理なのは分かりますが、連連続更新を切に希望します~!宜しくお願いします!!ありがとうございました!

genki | URL | 2014/05/10 (Sat) 14:56 [編集]


Re: ぞうはな様~、連連続更新を~!

> genki様

お返事も次の更新も大変遅くなりまして申し訳ありませーーん。
紆余曲折と言うよりは、とうとうキョコさんも気がついてしまいました!の巻、ですね。
どうにも鈍いキョコさんは、あて馬がいないとやっぱりだめなのですね。貴島さんはちょっと可哀想ですが。

ぞうはな | URL | 2014/05/13 (Tue) 21:59 [編集]