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まどろみから覚めて(32)


こんばんは!ぞうはなです。
早速ですが、続きですー。





「何も?君が彼にされたことを何も言わなかったってこと?」
少し意外に思った蓮の質問に、キョーコは力強く頷いた。
「はい。直前まで暴露する気満々だったんですけど…あいつの顔見たら、なんかバカらしくなっちゃって」
キョーコの声には呆れたような響きが混ざる。
「私…なんでこんなくだらないことにムキになってたんだろう、って。こんな男にこれ以上悩まされるの、自分の人生の無駄遣いなんじゃないかって。急に思っちゃったんです」
「そう…なんだ……」
蓮は少し戸惑っていた。前に聞きだしたキョーコの恨みの深さはかなりのものだったと思う。復讐を考えて眠れないほどだったのだ。それほど簡単に変わるものだろうか。

するとキョーコは一気に表情を変えた。じとりと目を細め、口調も険しくなる。
「もちろん、あのバカを許した訳じゃないですよ。あいつが私にした数々の仕打ちはそう簡単に忘れられませんし、なかったことにはしません」

やっぱりか…まあ、当然だよな…

妙に納得してしまった蓮を、少し笑みを浮かべてキョーコは見上げた。
「でも、『デビューする彼のスキャンダルになったりしてもいけませんし、私は離れて見守ります』なんてことをおじ様に話してる私を見て、あいつなんか変な顔してたんです。ちょっとは感じる事があったのかな、なんて冷静になっちゃいました」
「でもよく我慢できたね。あんなに…眠れないほど復讐したいって言ってたのに」
「それは敦賀さんのおかげなんですよ!」
「俺?」
待ってましたとばかりに嬉しそうに言われて蓮は思わず聞き返してしまった。

「そうです!敦賀さんがおっしゃったじゃないですか。あいつのことを忘れるくらい私が幸せになった方がいいって。それに確かに、まだ私があいつに未練があるなんて思われるのは絶対嫌ですから!だから」
キョーコはどこか嬉しそうに、キラキラと光る眼で蓮を見上げながら続ける。
「敦賀さんがお客さんに対して見せるあの営業スマイルを思い出して、真似しちゃいました!いつも冷静でにこやかな敦賀さんの笑顔を真似したら、なんだか気持ちまでだいぶ落ち着いちゃって」
「俺の真似…?」
「はい!それに考えてみれば…」
キョーコはふと考えるように上を見上げてみた。
「ここで恩売っとけば、あいつに大きい貸しってことですしね!」
「ああ、そうかもしれないね」

蓮はくすくすと笑い始めた。キョーコはきょとんと蓮の顔を見つめる。
「私そんなに変な事言いましたか?」
「きっと君の幼馴染も驚いただろうね。俺も見たかったな…最上さんが俺と同じような営業スマイルするところ」
「は…す、すみません…」
キョーコは勢いでべらべらと話してしまったことに気がついてしゅんと小さくなった。考えてみれば『営業スマイル』などと言いきってしまって失礼だったのではないだろうか。

「謝らなくていいよ間違ってないし。そうか、なんだか嬉しいな」
「あの…決して変な意味ではなくてですね」
「うん、分かってるよ」
蓮が浮かべた笑みは心底楽しそうな、嬉しそうなものだ。
「君が俺のことを見ていてくれたってことも、俺が言った事をちゃんと覚えていてくれたってのも嬉しい。それに、あの幼馴染の彼との場で、俺の事を思い出してくれたのが一番嬉しいかな」
「え……」
キョーコはしばし固まった後、ぼふんと顔が赤くなるのを感じた。

ウッカリにもほどがある。

確かに自分は今日尚の顔を見るなり、いや、その前にも電話で声を聞くなりなぜか蓮の事をぼんやりどこかで考えてしまっていた。
けれどそれを本人に嬉しそうに話すつもりなどなかったはずだ。単純に、尚への怒りの気持ちをある程度コントロールできた、みっともなく取り乱したりもしなかった、とそれを報告したかっただけのはずだったのだ。

だ、大体…敦賀さんがいきなりこんなところにいて、心の準備も出来ないままなのが…

軽いパニックに陥った頭の中で、キョーコは蓮に責任転嫁してみた。けれどだからと言って状況は変わらない。
嬉しいとは言ってくれたものの、自分のような後輩にこんなことを言われても迷惑ではないだろうか。そう思ってそろりと蓮の顔を見上げたら、見たことがない蓮の表情が視界に飛び込んできた。

本当に照れくさそうな、制御しきれずにやけてしまったような顔。片手で口の辺りを覆ってはいるが、その表情は隠しきれていない。
「ごめん…恥ずかしいから、あんまりじっと見ないでくれる?」
蓮に言われてキョーコははっと目をそらした。
「す…すみません!」
「いや…でも俺の営業スマイルが分かる最上さんなら分かるよね。こんなにやけちゃうの、きっと最上さんの前でだけだ」

蓮の両腕がゆっくりと伸びてきて、キョーコの背中へと回った。キョーコがびっくりして何も出来ないでいると、ゆっくりと蓮の方へと引き寄せられる。
「参ったな…ほんとに」
「何がですか……?」
ぼそっと吐かれた台詞に、動けないでいるキョーコが思わず聞くと蓮はしばらく躊躇ってから口を開いた。
「君にだよ…まったく、君には自覚がないんだろうけどね…」
蓮の恥ずかしそうな顔を見て恥ずかしそうな口調の台詞を聞くと、なぜかキョーコも胸がどきどきして落ち着かなくなる。なにかむずむずと、くすぐったいのかいたたまれないのか分からずものすごくそわそわしてしまうのだが、蓮はしばらく無言でキョーコを引き寄せたままだ。

もしかして、顔見られたくないのかしら…

ふとそんなことをキョーコは思うが、抱き寄せられた蓮の腕の中はすごく居心地がいい。そういえば先日蓮の家に泊まった朝も、そんなことを考えてしまったのだ。隣で眠るのは気持ちがいいが、その腕の中はもっと気持ちがいいことに気がついてしまった。

やだ…こんなの覚えちゃったら、あとが大変…

少し困って身じろぎすると、蓮の腕から少しだけ力が抜けた。
「ねえ最上さん。明日、何か予定はある?」
「明日ですか?」
明日は土曜日。考えてみても特に何か用事があるわけではない。1日家にいるので、おかみさんと大将のために家事に精を出すとかそんな程度だ。
「何もありませんけど…」
「じゃあさ、一緒に出かけない?」
「一緒に…?」
「うん。考えてみたら俺最上さんとどこかに出かけたのってラケット買いに行ったときだけだ」
「そういえばそうですね…」
キョーコも考えてみて頷いた。サークルの先輩と後輩と言う間柄であればそれくらいなのは普通だろうが、それなのにもう2回も蓮の部屋に泊まっているというのがなにやら不思議に思える。

「だから、俺とデートしてくれませんか?」
「で、デート!?」
「そう。なんでそんなに驚くのかな。一緒に出かけるって言ったらデートじゃないの?」
「はっ!いや…えと……」
「嫌ならもちろん、無理強いするつもりはないんだけど…」
「い、嫌だなんて!そんなことありません!」
思わず大きな声で言い切ってしまってからキョーコはまた真っ赤な顔で「だからあの…」とごにゃごにゃ呟く。

「ありがとう。じゃあ、明日よろしくね」
そう言って笑った蓮の笑顔は、今日一番の眩しさだった。



最初緊張してたけど…なんだろう、敦賀さんの隣って本当に不思議…

キョーコの髪をかなりぬるい初夏の風が揺らして吹き抜けていく。
キョーコと蓮は街中の超高層ビルの屋上にある展望台に上っていた。高い場所から見下ろす街はどことなくかすんではいるが、光にあふれていて美しい。
キョーコは金網につかまったまま隣に立つ男性の顔をそっと見上げた。何で今日誘ってくれたのだろうかと、キョーコは考えてしまう。


前日、待ち合わせの場所と時間を決めたあと。
帰りの足をキョーコは気にしたのだが、「車で来たから大丈夫」と蓮は笑い、行きかけて再度何かを思い出したように戻ってきて囁いたのだ。
「ほんとは…今日も君を連れて帰りたいけど、家の人も心配するだろうから我慢するよ」
驚きすぎて返事も出来ず口をハクハクさせるしかないキョーコににっこりと微笑み、蓮は今度こそ去っていった。

そして今日。流されるように約束をしてしまったものの、キョーコはかなり緊張して蓮を待ってしまった。
ラケットを買いにいった時に感じた緊張の比ではない。蓮がどういうつもりでキョーコを誘ったのか。蓮と並んで歩いたりしたら自分はつりあわなくて惨めなのではないか。何を話したらいいのか。
あれこれグルグルと考えて悩んで帰りたくもなったが、蓮が爽やかな笑顔とともに現れてからは自然とリラックスが出来た。
2人で入った水族館はすごく楽しかったし、ぶらぶらとモールに並ぶお店を冷やかしながらの会話では素直に自分を出せた気がする。蓮が気取らずに接してくれる分、キョーコも気負わないで済んでいるのだ。

ほんとに居心地がよくて……尚とも貴島さんとも全然違う…
はっ、だめよキョーコ!この居心地のよさに慣れちゃ!寝てるときだけじゃなくて起きてるときもだなんて!

「百面相して、どうしたの?」
笑いながら言う声が上から聞こえて、キョーコは慌てて考えを断ち切った。
「いえ!なんでもありません」
見上げたら、優しい笑顔で見下ろしてくる蓮とばっちり目が合って、キョーコの心臓は意思に反して跳ね踊り始めた。


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コメントコメント


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デート!

こんにちは
更新ありがとうございます。

一気に進展しましたね。蓮様ははっきり自覚して行動にでましたね。
後はキョコさんが新しい恋だってみとめればOKですね。
早くラブラブになってほしいです。
続き楽しみにしてます。

ponkichibay | URL | 2014/05/01 (Thu) 18:36 [編集]


Re: デート!

> ponkichibay様

お返事遅くなりました!
蓮さんは自覚すると行動は早いけど、受ける側が打っても響かないので難儀しそうですね。
ラブラブになれるまで頑張れ~。折れるな~。と、思っております!

ぞうはな | URL | 2014/05/02 (Fri) 23:43 [編集]