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まどろみから覚めて(31)


こんばんは!ぞうはなです。
GW狭間ですがしっかり仕事してましたーー。(いや、しっかりかどうかは…?)

ではでは続きをどうぞ。





その日の営業部は定時を過ぎても残っている人間が多く、ざわざわとしていた。

「戻りましたー」
上着を腕にかけた社が自分の席に戻りながら同僚に声をかける。隣の席の蓮も仕事を続けながら社に声をかけた。
「お疲れ様です」
「おー、お疲れー」

社は椅子に上着をかけてカバンを足元に置くと気持ちネクタイをゆるめながら首をかしげて蓮を見た。なんとなく視線を感じた蓮が社を見上げると、社は何か言いたげに蓮を見ている。
「どうしました?」
蓮に問われて、社は一度口を開け、閉じる。少し考えてから再び口を開いたが、その口からは歯切れの悪いうめきのようなものしか出ない。
「いや…うーーん」
「なんですか」
蓮は社の分かりやすい躊躇の仕方に少し笑って尋ねた。

「いや…蓮お前、今日のキョーコちゃんの予定って知ってる?」
「知りませんよ、そんなの」
何でおれに聞くんだ、と思いつつも蓮はさらりと答えた。もちろん実際キョーコの予定など知る訳がない。サークルの練習でキョーコに会った時、なぜだか目が合うなり逸らされてしまい、先週寝起きに寝ぼけた振りをして抱きしめたのがまずかったかと少し反省しているところだ。全く表には出さず余裕があるように振る舞ったのだが、キョーコの反応に密かにショックを受けている。
なんとか挽回したくて会う口実を探しているのだが、今日まで電話も出来ていない。

「いやぁ…さっき見かけたの、キョーコちゃんだと思うんだよね」
蓮は自信なさげに吐かれる社の呟きに似た言葉に、ちらりと時計に目を走らせた。
「もう定時過ぎてますし、見掛けてもおかしくはないでしょう」
言いながら、何かあったのかと心の中で身構える。

「そうだけどな……いや俺さ、今駅から会社まで歩いてきたんだけどさ?」
社はようやく椅子に座り、真剣な顔で話しだした。蓮も無言でうなずいて社の話に耳を傾ける。
「会社のそばで車道の方を向いてキョーコちゃんが難しい顔をして立っててさ。ちょっと離れてたんだけど声かけようと思ってたら、車がさ、キョーコちゃんの前に止まったんだよ」
「はあ」
何やら雲行きが怪しい気がする。蓮は少しいやな気持ちを抱えながらも相槌だけ打った。
「そしたら、なんか金髪の若い男が降りて来て。キョーコちゃんとちょっとだけ話して、結局キョーコちゃんその車に乗ってったんだけど」
「何か気になる事があったんですか?」
気になっているのはむしろ自分だが、蓮はそれはおくびにも出さずに尋ねる。

「うん…いやなんだかキョーコちゃんさ、いつも笑ってるイメージだったんだけど…すごい怖い顔してて。車にも自分で乗ったは乗ったんだけどな。最初男に腕つかまれて、それを振り払って何か言い合いしてたみたいだからなんかちょっと気になったんだよね」
「金髪の男ですか…」
「うん。蓮何か聞いてる?金髪で細身で結構若くてイケメンだったぞ。それでなんていうの?ロックな感じの格好だったな」

そこまで聞けば間違いはない。
先日ちょっとだけ姿を見たキョーコの幼馴染。あの男に違いない。

「いや、俺も知りませんけど。でも無理やり連れて行かれたってことではないんですね?」
「ああ、それは違う感じだった。そうだったら俺だって落ち着いてはいないけど。でもなんか、渋々って感じかなあ。ほらその、恋人って感じではなかったんだよ!その、知り合いではありそうだったけど…」
全くの無表情の蓮に気づき、社は慌てて弁解をした。蓮がキョーコにアプローチしている、というのは前回の練習時に皆が認めるところとなっているのだ。今さらキョーコに別の相手がいるなどと、社自身も思いたくはない。

「そうですか。まあ最上さんが自分で行動したんだったら心配することもないでしょう」
「うん、そうは思うけどな」

社の心配をよそに蓮はあっさりと返事をする。社は蓮の気持ちを読もうとしたが失敗し、別の社員に話しかけられてしまったために2人の会話はそこで終わった。
社には練習での貴島の暴露以来、それまで以上にキョーコの事であれこれ言われる事が増えてはいるが、からかいはしながらもあれこれ心配して気にかけてくれていると蓮は感じる。今この場で感情を露わにする訳にも行かずすっとぼけてみせたが、重要な情報をもたらしてくれたことに感謝した。

あとで…電話してみるか?

無理やり連れ去られたと言うならば緊急度は高いが、キョーコにも何か考えがあっての行動なのだろう。
それでも真夜中にしつこく電話を鳴らしキョーコと怒鳴り合う相手だ。そして憎悪とはいえまだキョーコの心のかなりの割合を占める男。またキョーコが眠れなくなる事が増えるのでは、と落ち着かない気分になり、蓮は急いで仕事を片づけることを決めた。


「ありがとうございました」
運転手にお礼を言うとキョーコはタクシーから降りた。手に握られたお釣りを見おろしてからため息をついて、ごそごそとしまいこんで重い足取りでとぼとぼと歩きだす。
「遅くなっちゃったな…」
はあ、と息を一気に吐き出してからしばらく難しい顔で考え込み、よし、と顔を上げてキョーコは力強く歩き出したのだが。

「最上さん」
いきなり背後から声がかかってキョーコは足を止めた。空耳?と思うがもう一度名前を呼ばれて思わず振り返る。そしてわが目を疑って思わず大きな声を出した。
「敦賀さん!?な、なんでここに…?」
「ごめん。でもちょっとね…」
ガードレールによっかかっていた蓮がゆっくりと体を起こして近づいてくる。蓮はスーツを着ているが、手ぶらだ。キョーコは金縛りにあったように身動きできず、蓮がすぐそばまで来るのを見守ってしまった。
「ちょっと気になる事があって君に電話したんだけど…ずっと電源が入ってなくて通じなくて」
「あっ!」
キョーコは慌ててバッグから携帯を取りだした。そういえば電源を切ってそのままだった。電源の切れた携帯を握りしめ、蓮へと視線を移す。
「すみません…ご迷惑を……」
「いや」
頭を下げかけたキョーコを蓮は止めた。
「俺が勝手に来ただけだから。いいんだ、ごめんね」
「いえ、敦賀さんこそ謝らないでください。でもどうして…?」

うん、と小声で頷いてから蓮は口を開いた。
「実は今日…社さんが会社に戻る時に最上さんを見たって聞いてね」
「社さんが?」
「そう。君が金髪の男と一緒だったって」
「あっ…」
キョーコは思わず口を押さえた。見られていたのだ、退社後のあれこれを。
「…ごめんね、ちょっと気になっちゃったんだ」
「す、すみません…」
「いや、君の行動に俺が口を出すべきじゃないって…そんなのは分かってるんだけど。でももしまた、眠れないような事があったらって思ったら……けど、大丈夫だったらそれでいいんだ」
「敦賀さん…」

キョーコはかなり驚いていた。
蓮が自分の不眠を気にかけてくれているとは感じていたが、こんなところで帰りを待たれるほどとは思っていなかった。申し訳なさ以上にくすぐったい嬉しい気持ちがわいてきて、表情が崩れてしまいそうで慌てて顔の筋肉に力を入れる。
「あの、ご迷惑かけてすみません。それに…ありがとうございます」
「いや…あの本当に迷惑だったらごめん」
「迷惑だなんて…そんなこと!私もお話したかったので嬉しいんです…ありがとうございます」
「ほんとに?」
「はい!」
笑顔のキョーコを見てようやく蓮の表情が緩んだ。

「よかった…ほんとは君が帰ってくるのを見届けるだけでもと思ったんだけど……って、俺なんだかストーカーみたいだな」
「そんな!」
申し訳なさそうに頭をかいて少し肩を落とす蓮を、キョーコは慌てて否定してなだめる羽目に陥った。


「ショータローの…お父様が急にこっちにいらしたんです」
ようやく蓮が落ち着いたところでぽつりとキョーコが話し出した。蓮からは何も今日のことを尋ねるようなことを言われてはいないが、ここで会ったからにはきちんと説明がしたかった。
「お父さんが?」
「はい…京都の旅館を経営されてるんですけど、あいつがデビューすることが伝わったらしくて…それで、こっちに来るから私にも会いたいと」
「彼のお父さんは君と彼との関係は…」
「一緒に住んでるってことはご存じでした。だけど今は違うって知って、私がどうしているのか気にしてくださったみたいなんです。私にとっても父親代わりのような存在ですし」
「なるほどね…」
「それで…デビュー前の大事な時期に親からの反対があると色々と問題があるから、てことで私も強引に呼び出されまして」
「君に口添えしろと?」
「いえ、ただ余計なことを言わずに適当に頷いて黙っていろって言われました」
蓮はちらりとしか見たことがない金髪の男に対して呆れた。もともといい感情を抱けるはずもないが、どこまでも勝手な男だと軽蔑の念が湧き上がって来る。

「昼に電話でそう言われて…復讐のチャンスだって思ったんです。おじ様はあいつに旅館を継がせたがっていました。あいつはそれを嫌がって、家を飛び出す形で東京に来てたんです。だからきっと、こちらでのあいつの悪行をばらせば、強引にでも連れ戻されるかもって。そうでなくても、少しでもあいつに痛手を与えられればって」
思いつめたようなキョーコの表情に、蓮は思わず尋ねていた。
「それで…彼のお父さんはなんて?」
キョーコは答える代わりにふう、と大きく息を吐いた。それから少し苦笑いのような複雑な表情で蓮を見上げる。

「結局私…おじさまには何も言わなかったんです」


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コメントコメント


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ううっ、続きが気になります。

こんばんは。キョーコちゃんの態度が少し柔らかくなって、どーなるの?!ってところで切れましたね。続きがとても読みたいです。仲睦まじい、しかし爽やかなお二人が読みたいです。更新をとても楽しみにしています。どうもありがとうございました。

genki | URL | 2014/04/29 (Tue) 21:09 [編集]


Re: ううっ、続きが気になります。

> genki様

いつもコメントありがとうございますー!
キョコさんびっくり、ですけどちょっと嬉しくなっているって感じです。
仲睦まじい二人、早くお見せしたいところですがさて、蓮さんがへたれずに済むのか…

ぞうはな | URL | 2014/04/30 (Wed) 18:20 [編集]