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まどろみから覚めて(30)


こんばんはー!ぞうはなです。

さて、そろそろ開き直ってきた(←いつもだ)、30話でーす。





「サークルメンバーみんな知ってるんじゃないかな?」
「そう…ですか……」
キョーコはめまいを覚えた。だから蓮と並んで歩くのは嫌だったのだ。ありもない事をあれこれ噂されたら下手すればお互いの仕事にだって影響が出る。こんなことならば、今日は先輩の仕事を手伝うなんて事をせずに練習の始めから参加していればよかった。そうすれば、下手な誤解を招かないようその場で弁解できたのに。…というより、貴島が暴露したと言うその場には蓮はいたのだろうか……?

キョーコがもやもやと考え込んでいることには気づかず、逸美は楽しげに言う。
「愛華ちゃんとかさ、すんごい羨ましがってたよ」

ああ、だからさっき会った時ちょっと見られてた気がしたんだ…あれは気のせいじゃなかったのね…

「でもね、キョーコちゃんがここに着いた時の敦賀さんの顔見て、なんか黙っちゃったみたい」
「は…い?え、なんでですか?」
「ふふふ、なんでだろうね」
逸美は少しはぐらかすように答えると、かごを持って再度キョーコにコートに立つよう促した。


「敦賀君」
「うん?」
蓮と貴島は練習に一区切りつけてコートサイドで休憩を取っていた。貴島はペットボトルから口を離すと蓮に話しかけ、蓮はタオルで顔を拭きながら答える。

「ほんと、どういうつもりなんだよ?」
「…何が?」
「わかってんだろ~~。キョーコちゃんの事だよ」
「……」
蓮はタオルをベンチに投げると無言で貴島の顔をまっすぐに見た。
「先週と言い今日と言い、どういう風の吹きまわしだよ?」
貴島はどっかりとベンチに腰をおろし、ラケットのガットをパキパキと鳴らしながら立ったままの蓮をちらりと見上げる。
「どういうって…別に、どうってこともないけど」
やだやだ、しらばっくれちゃってさ、と貴島は首を振った。
「今までどんな子に言い寄られたってなびかなかったのにさ。キョーコちゃんに対してはやけに積極的に見えるんだけど」
「…それが何か?悪い事かな」

「悪くはないけどさ。なんで人が目をつけた子をわざわざ?もしかして俺に対抗心燃やしちゃってる?」
貴島は蓮が否定しなかったことに内心驚きながらもわざとからかうような声を出した。今まで貴島がサークル内の女性にちょっかいをかけた時には蓮は我関せずを貫いていた。それがキョーコの時だけは蓮の反応が今まで見た事のないものになってきている。それもここ最近急に。蓮の真意を知りたい気持ちが貴島にはあった。

「別に対抗心なんて抱いた事ないけど」
「かーーーーっ。余裕な男は嫌味だねえ」
蓮は黙ったまま貴島を見おろした。
「じゃあ何、この間の俺への牽制とかは無意識?」
「牽制をしたつもりもないよ」
「ほんとに?俺、キョーコちゃんに近づくなって言われてるような気分になったけど」
「いや…それは貴島君の自由だ。俺が最上さんに対してどんな感情を抱いてようが、俺と最上さんがどんな関係だろうが」
「お、てことは付き合ってんの?」
「いや?」
「なんだよぉーー」
貴島はどかりとベンチの背もたれに背中を当てると、すぐにすくりと立ち上がった。手にしたラケットを蓮の胸につきつけるように当てる。
「でも余裕なところを見ると、俺よりリードしてるって自覚があるんだろ」

蓮は肩をすくめて少し笑った。
「リードとかなんとかって、関係ないだろう?別に俺は貴島君と競争してる訳じゃない」
「それはそうだけど」
「誰かが勝つとか負けるとか、そんなものでもない…ただ俺は……」
蓮は隣のコートで逸美とラリーを続けるキョーコを見た。キョーコは真剣な顔でボールを追いかけ打ち返している。蓮の目から見ると、やはり一球一球を全力で叩き返しているように見える。
「彼女が一番居心地がいいと思ってくれる、そんな居場所になりたいだけだ」
「それだけでいいの?」
「まあ、まずはそこから。当面の目標、だよ」
「ふぅん……やっぱり敦賀君が有利だよな」
「なぜ?」
素直に聞き返した蓮に、貴島は呆れたように言葉を吐きだした。
「分かってるだろー。キョーコちゃんは敦賀君の隣でだけ寝るんだろ?なんでだろな、まったくさー」
「さあね」
蓮はうっすらと笑みを浮かべてまたキョーコの方へ視線を移す。その表情をまじまじと眺め、貴島は確信していた。

こいつ、本気だよな。本気と言うか…なんだろう、完全にはまってるよな。

蓮がこんなに柔らかく慈しむような瞳をするのを、貴島は見た事がなかった。

こいつが本気になったら…う~ん、どうなるのかなぁ。
けどなー。キョーコちゃんがどう思ってるか、さっぱり分かんないんだよなぁ…あの子も男に甘えないと言うか、そういう目で男の事を見ないんだもん。


ぼけっと考えながら貴島がキョーコと逸美のラリーを見ていると、キョーコが打ち損じたボールが2人の方にぼてぼてと飛んできた。

「あ、すみません!」
キョーコが謝りながら小走りでボールを追いかけてコートの縁までやってくると、いち早く反応した蓮がボールを拾ってキョーコの方へと近づく。

「グリップをもう少し深くした方がいいかもしれないね」
蓮はキョーコのラケットを持つ手を支え、グリップを持つ角度を少し変えた。蓮に触れられてキョーコは内心ドキリとしたが、必死に平静を装う。
「ほら、こうすると少し面が下を向くだろう?最上さんの打ち方だったら真っ直ぐ当てるよりコントロールしやすいと思うよ」
「は、はい、なるほど!あ、ありがとうございます!」
手を支えられたままラケットの軌道を指示されて、キョーコも頷きながら意識をラケットに集中させた。

蓮がキョーコのラケットを離してボールを持った手を差し出したのでキョーコは慌ててボールを受け取ろうと左手を出した。しかし蓮はボールを持ったまま止まり、キョーコは不思議に思ってその顔を見上げる。
「敦賀さん…?」
「ああ。…うん、かなり上手になってきたね。あとで一緒に試合形式の練習しようか」
「え、そんな…大丈夫でしょうか」
「うん平気だよ。出来る事はどんどんやってみた方が上達も早いから」
「ありがとうございます、ぜひお願いします」
蓮からボールを受け取ると、キョーコは笑顔でお礼を言った。ぺこりと頭を下げると、逸美の待つコートへと走って戻って行く。


「……ずるいな」
「何が?」
思わずこぼれた貴島の言葉に蓮が反応する。しかし貴島は答えずにラケットを一振りするとコートに戻った。

みんなに2人の事をオーバーに言っときゃ、敦賀君はちょっと人前では自重するかと思ったのにさ…
なんだよ、完全に逆効果か?つーか…人の目なんて気にせず口説きにかかってんのか?

でもまだ決まった訳じゃないし、と貴島は腹に力を込めるとその日一番の鋭いサーブを打ち込んだ。



っはーーー。なんだろう…なんか疲れた…

社員食堂から戻ったキョーコは自席に辿り着くと力が抜けたように机に肘をついた。
昼休み、オフィスの中は昼寝をしている社員もいて少し静かだ。

部署の先輩達といつも通りに昼食を取りに行ったはずなのに、なぜか食堂の入口で貴島に捕まった。そして更になぜか、先輩たちも心得たように遠慮してくれて、キョーコは貴島と2人で食事を取る羽目に陥ったのだ。

貴島さん…嫌いじゃないし悪い人だとも思わないんだけど…
なんでこんなに気力を持って行かれるのかしら?

とりあえず会社帰りにご飯、の具体的な約束は取り付けられずに済んだ。自分の事をよく知ってから考えてくれ、という貴島の言葉は確かにそうだと頷けるものの、なぜか気持ちがついていかずになかなか了承する事が出来ない。
どうしたものかとため息をついたところで、机の下からかすかな振動が伝わってきている事にキョーコは気がついた。

電話…?

仕事中は自分の携帯電話はバッグに入れたままになっている。キョーコは引き出しを開けると慌ててバッグの中から携帯を取りだしたが、同時に電話は切れてしまった。

誰からだろう、と着信履歴を表示させて「げ」という声が出た。
そこにはずらりと「非通知設定」の文字が並び、5分から10分おきに、昼休みに入る前からかなりの着信があった事が分かる。

な、なんなの?誰、こんな…

一瞬脳裏に金髪の男の顔が浮かび、急いでそれを打ち消そうとした瞬間、再び携帯が震え始めた。
ちょうど携帯を操作していたためにキョーコは電話を取ってしまい、「非通知」の文字を見ながらキョーコは恐る恐る携帯を耳へと当てた。


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コメントコメント


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キター

更新ありがとうございます

非通知キター!!!!
誰?まさかの蓮様?貴島さんいるの知って先にお昼のお誘いしたかったとか?
それとも尚?次が気になります

ponkichibay | URL | 2014/04/26 (Sat) 18:10 [編集]


Re: キター

> ponkichibay様

コメントありがとうございます。
ふふふ、やはり「非通知」のしつこい着信と言えば…あの人なのですー。

ぞうはな | URL | 2014/04/27 (Sun) 07:27 [編集]