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まどろみから覚めて(29)


こんばんはー!ぞうはなです。
うわーん。そろそろ30話と言うのにまだこんな2人…




くしゅん。

無言の十数分が過ぎた後、キョーコの口から小さな音が漏れ出た。蓮はかさりと音を立ててキョーコのほうに体を向ける。
「眠れない?」
「あ、いえ…少し眠くなってきました」
キョーコはこしこしと鼻の下をこすると、小さな声で蓮の問いに答えた。目が慣れて、お互いにお互いの表情がなんとなく分かる。

「寒くはない?」
「大丈夫です」

またしばらくの沈黙の後、ようやく蓮は再び口を開いた。
「ごめんね。なんだか余計なこと色々と…最上さんは頭痛いのに眠れなくなるようなこと言って」
「あ、いえ!頭痛はお薬のおかげかだいぶいいですし、さすがにさっきぐっすり寝ちゃったのでそうすぐには眠れないみたいです」
蓮はキョーコの言葉に申し訳ない気持ちと少しの安心感を抱く。

「ああ、そうか。俺の隣ですぐに寝るのって寝不足だからだね」
「そうすると…寝不足じゃなければ眠らないってことでしょうか?」
「どうなんだろうね。大体なんで、俺の隣だと最上さんは寝ちゃうの?」
「う…分かりません……」
戸惑ったような申し訳なさそうな声に、蓮は少し笑顔になった。
「けど…不思議なんですけど、敦賀さんが隣にいると安心するって言うか、居心地がいいって言うか、とにかくこう、気持ちが楽になる気がするんです」
「そうなのか」
言いながら蓮は腕を伸ばすとキョーコの髪に触れた。ゆっくりと頭をなでるとキョーコが少し体の力を抜いた気がする。
2人の間に少し静かな時間が過ぎ、やがてキョーコがぽつりと口を開いた。

「最初は、敦賀さんのつけてる香水の香りかと思ったんです」
「…ああ、あれか」
「だけど合宿の時はあの香りはなかったのに…」
「そうだね、でも君はあっという間に寝ちゃったね」
「だから…わかんないんです……」
蓮の手の平の感触が心地よいのか、少しキョーコの声がぼんやりとしてくる。

「いいんだ、理由は何でも。ゆっくりお休み」
「はい…んん、でもだめです……」
「何がダメなの?」
キョーコの目はもう閉じてしまった。けれど、聞かれたことにぽそりと答える。
「だって…こんな気持ちいいの……だめです……ないと眠れなく………」
キョーコの呼吸音が段々と深くなり、やがて寝息になった。

まったく君は…本当、どうしてくれようという気になるな…

自分としては気持ちを少しずつ出しているつもりだ。キョーコも少し照れたり慌てたりしてくれたように思えたのに、結局ものの20分で気持ちよさそうに眠ってしまっている。つまるところ、やはりあまり意識されていないのだろう。いっそ清々しいその空振りっぷりに、どうにか振り向かせたい気持ちが蓮の心にもくもくと湧きだしてくる。

それもまた煽りのテクニックなのか。
いや。意図的なものではないだろう。全てが無意識、無自覚で繰り出されているあたりが蓮には恐ろしく感じられる。これ以上無意識で煽られて誘われて、自分はこれ以上の衝動に駆られずに済むのだろうか。

だけど最上さんが俺の横じゃないと眠れないって言ってくれたんだからな…

それでも懲りない色男は、なんとか今後も泊りに来てもらう算段をつけようと、暗闇の中であれこれと考えながらキョーコの寝顔を見つめた。


あったかい…起きたくないな~……

瞼越しの明るい光を感じてそう思ったキョーコは、さすがに慣れたのか次の瞬間には自分が置かれた状況を思い出していた。

ダメよキョーコ!
まずは敦賀さんに起こされる前に起きなくちゃ!

布団をのけようとして、自分の体にかかっている布団が思ったより重くてのけられない事に気がつく。

あれ?これ…布団じゃない?

重い瞼をなんとかこじ開けてみたら、キョーコの視界いっぱいに広がるのは先輩の美しい寝顔だ。近い。まつげの一本一本が見えるほどの距離はさすがに近すぎる。
なんとか叫びそうなのを我慢して自分の体の上の重たいものを確かめてみれば、それはがっちりとたくましい腕。

何が…どうなってるの?

勢いよく回転し始めた頭で考えて、自分と置かれた状況を俯瞰で把握しようと試み、その結果キョーコは全身に力を入れて固まった。

だ、抱き寄せられてる…?

なんとか蓮の腕から脱出しようと少し体をずらしてみたら、ぴくりと体の上の腕が動いて蓮のまぶたが持ち上がった。

「ん…おはよう」
気だるげな声がかけられると、なぜだか腕に力がこもって蓮の胸元へと引き寄せられる。
「おはようございます…!じゃなくて敦賀さん!ちょっと寝ぼけてないですか」
「寝ぼけてないよ。俺寝起きはいいんだ」
「で、でもあの、どなたかと間違えてますよ」

蓮は少し腕を緩めるとまじまじとキョーコの顔を覗き込んだ。
「間違ってないよ。だって君、最上さんだよね」
「へっ?あ、いやそうですけど」
「ほら間違ってない」
「や、やっぱり寝ぼけてますよーーー!」
再び力強く引き寄せられて、今度は抑えようもなくキョーコの口から悲鳴がほとばしった。


ああもう、ダメだわ…

キョーコは手を止めて「はふう」と情けなくため息を漏らした。
ふと顔を上げれば隣のコートで軽快なステップを踏みながらラケットを振りぬく蓮の姿が目に飛び込んできて、キョーコは慌てて目をそらしてフルフルと頭を振り、散らばったボールを拾う作業に戻る。
「キョーコちゃん、手伝うよー」
声をかけてきたのはさっきまで練習を見てくれていた逸美だ。蓮の部屋に泊らされた翌週の平日、キョーコは会社帰りにサークルの練習に参加していた。

「あ、ありがとうございます」
頭を下げたキョーコに笑いかけると、逸美はてきぱきとボールを拾ってラケットに積み上げ、かごに戻していく。キョーコも慌ててすべてのボールを拾い集めると、逸美の足元に置かれたかごにごろごろと投げ入れた。

「ナイスショッ!」
隣のコートから響く声に逸美とキョーコが目をやると、蓮が声に対して軽く手を上げ、シャツで顔の汗をぬぐいながら自分のポジションへと戻っていくところだ。
キョーコは無意識にぼんやりと蓮の姿を目で追い続ける。

なんでこんな…気にしちゃうのよ?
一緒のベッドに寝たからって…気にしすぎよ、キョーコ?

普通は十分気にしていいところだが、キョーコは必死に「あれは単純に自分が眠れるようにと親切にしてくれたこと」と自分に言い聞かせていた。実際には蓮も気にしてくれた方が嬉しいのだが、その気持ちはキョーコには伝わっていない。むしろ逆に自分が蓮のことを意識してしまうことを、恩であだを返すかのように考えてしまっているのだ。

だけど…だけどやっぱり……気になっちゃうんだもん…馬鹿ね本当、懲りてるはずなのに…

サーブを打つ蓮の姿を視界に入れたままため息をついたキョーコに、逸美が話しかけてきた。
「敦賀さんって本当にうまいよね」
「そ!そうですね!敦賀さんって本当に会社に入ってから始めたんですか?」
キョーコは焦りながらも必死に逸美に話を合わせる。

「本当らしいよ~。でももう去年私が入ったときはかなり上手だったからなあ」
「そうなんですか…すごいですね」
「聞いたら、テニスだけじゃないんだって。スポーツ全般なんでも出来ちゃうらしいのよ」
「ええっ…運動神経がいいんですね……」
鍛えられたあの体では、確かに何のスポーツでもこなしそうだ。内容が見た目を裏切らないんだ、とキョーコが深く納得していると、逸美は少し口を尖らせて更に言い募った。
「仕事だって成績いいらしいし、それであの見た目だもの。それでいて結構謙虚だし。天は二物も三物も与えるんだってちょっと悔しいよね」
「も、百瀬さん…」
びっくりして逸美の顔を見ると、逸美はにこりと笑ってみせた。

「そういえばキョーコちゃんって最近敦賀さんと仲いいよね」
「そ、そんなことないですよ?」
心外だ、という顔をしてみたが、うまくできただろうか。脳裏にベッドで間近に見た蓮の顔がよみがえり、必死で打ち消しながらキョーコは返事をした。
「うん。聞いたよーー。先週会社から一緒に帰ったんだって?」
「ひゃい?ど、どなたがそんなこと…」
「え、貴島さん」
キョーコはがっくりとうなだれた。


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コメントコメント


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次のお泊まりは...

こんばんは。朝一緒に目を覚ましても爽やかなお二人。こういうのも、いっそすっきりしていいですね。しかし、半端に意識しちゃったとなると次の約束をどう取り付けるのか蓮様の策はが気になるところです。まだまだ話が展開しそうで楽しみです。どうもありがとうございました!

genki | URL | 2014/04/24 (Thu) 00:38 [編集]


Re: 次のお泊まりは...

> genki様

コメントありがとうございます!
朝のさわやかな空気が、キョコさんには似合う気がします。夜の帝王もキョコさんの前ではやはりちょっと遠慮するのかもです。

でも変に意識したり期待したりすると…かえって次の約束、難しそうですね…。

ぞうはな | URL | 2014/04/25 (Fri) 21:36 [編集]