SkipSkip Box

まどろみから覚めて(27)


やっとこさー、書けたーーーー。
なんとか更新して今週を終われます。





すう、すう、すう、すう

文字にすればまさにそんな感じだろう。
蓮はソファで隣に座ったままくたりと首を横にかしげて眠るキョーコの呼吸音を聞きながらそう思う。

しかしこの子は本当に俺の隣にいると条件反射のように寝るんだな…面白いくらいに。

残念ながら、いや何が残念なのかは置いておいて、キョーコは蓮の腕にもたれることはせず、ソファの背もたれに体を預けてぐっすりと眠っている。どうやら少し離れて座れば眠くなるのを防げるだろうと踏んだのだろう、蓮との距離も人一人分くらい空いているのだが、その努力は実らなかったようだ。

キョーコの前には半分も飲まれていないミルクティーがまだ微かに湯気を立てている。蓮は自分のカップからゆっくりと冷めかけたコーヒーをすすりながら眠り込んだキョーコの顔を見た。
キョーコの伏せられたまぶたを縁取るまつげはしっかりとマスカラが乗せられて普段よりも存在感が増して見える。幼びて見えるはずの寝顔が、メイクのせいか今日は違う人のようだ。

寝るときはメイクは落とすものだったっけ?

蓮はコーヒーをすすりながらも時計にちらりと目をやり、ゆっくりとまたキョーコの寝顔を眺めた。


「最上さん、最上さん」
軽く揺さぶられてキョーコは重いまぶたを上げる。意識がはっきりした瞬間、決意に反して眠ってしまったことに気がついてキョーコは飛び起きた。
「はっ!す、すみません!」
「いや、こちらこそせっかく寝てるところを起こしてごめん。メイクを落としてベッドで寝た方がいいと思うけど」
「え…?」
キョーコは寝起きの頭でぼんやりと言われたことを検証したが、すぐにふるふると頭を振り、頭が痛むことに気がついて顔をしかめた。
「いえあの…そう何回もお世話には…ちゃんと帰ります、すみません」
「まだ頭痛いんだろう?」
「ですけど…」
「うちは大丈夫だよ、気を遣う必要はない。それにもう結構遅い時間だから、移動するよりそのまま休んだ方がいいよ」
「え…?」
キョーコは反射的に腕時計に視線を落とした。確かに時刻は23時に近く、かなり深夜の時間帯になっている。
「も…もう11時なんですか?すみません、私そんなに寝てて…!」
「本当は朝まで寝かせておいてあげたかったんだけど…下宿先にも連絡が必要だろうし、やっぱりちゃんと寝る体勢は整えた方が体にもいいと思って」
「お、お気遣いいただいてすみません。でも…」
泊まる準備は何もしていないし、それを理由に今日はとにかく帰ろう、とキョーコが思ったところで蓮がテーブルに置かれていたコンビニのビニール袋をキョーコに差し出した。
「化粧落しとか化粧水とか、この間最上さんが買ってたのは一応揃えてあるけど、足りるかな?」
ビニール袋を覗き込んだキョーコはそのままこくりと頷くしかなかった。


あの紳士の笑顔で強引にされると…断れないものなのかしら?

キョーコは洗面所の大きい鏡に映る自分の顔をぼんやり眺めながら歯を磨いていた。メイクはすっかり落とされ、いつもの地味な自分がだぼだぼのTシャツを着て戸惑ったような目で自分を見返してくる。
強硬に断れば、蓮も折れるのだろうと思う。けれどなんだか断りにくい状況を作られ、受け入れた場合のキョーコのメリットを理論的に説明されると何となく"NO"とはいえない雰囲気になる。

営業の資質満点よね。

遅い時間まで寝こけてしまった自分が一番の原因ではあると知りつつも半ば諦め気味に蓮のせいだと決め付けて、キョーコは支度を終えると寝室へ向かった。何やら妙に緊張しながらノックをしてドアを開けると、スエットに身を包んでベッドの端に腰掛けた蓮が顔を上げる。

「ああ、支度終わった?」
「はい…」
「下宿先にも連絡できたかな?」
「はい、やっぱり忙しそうでした」
電話にはおかみさんが出たが、閉店間近にも関わらずお店がにぎわっている雰囲気が伝わってきたためにキョーコは泊りの報告だけして早々に電話を切った。もちろん「泊めてもらう先輩」が異性だとは前回同様言えはしない。

「あれ、歯ブラシ置いておいてよかったのに」
言われてキョーコは自分の手の中の歯ブラシを見おろした。先ほど新しい歯ブラシを手渡されながら、「洗面所に置いといていいよ」と言われたのだが、さすがに恐れ多くてそんなことはできない。
「そんな…!そんな図々しいことは…」
「来ていいんだよ。眠りたい時はいつでもね」
微笑まれてドキリとしたキョーコは何も言い返せない。蓮の隣でしか眠れない事はもうすっかり本人にばれているのだ。

「まあでも」
キョーコの様子を気にしていないように蓮は続けた。
「不眠の原因を取り除く方が根本的な解決策としては正しいね。さあ、こっちにどうぞ」
ベッドの空いている側を指し示されて、かなり躊躇しながらも結局キョーコは蓮と同じベッドに横たわる事になった。

ほんとに…なんでこんなに強引なのかしら…

キョーコがベッドにもぞもぞ入りながら考えていると、蓮から声がかかった。
「俺のこと強引だって思ってるだろう?」
「いえ、そんなことは!」
「実際強引にしてるんだから思ってて当たり前だよ」
心を読まれたのかと驚いて否定するが、笑顔で更に言葉を返されてキョーコは言葉に詰まってしまう。

蓮はベッドに寝たまま、天井を見上げて言葉を継いだ。キョーコも枕に頭をあずけてそれを聞く。
「不快にさせてたらごめんね…でもね……まだ最上さんが囚われてるんだと思ったら、ちょっと放っておけなくて」
「囚われてるって…何にですか?」
キョーコがきょとりと聞き返したら、蓮は半分困ったような表情を作ってキョーコを見た。
「あの幼馴染の彼…それ以外に君が囚われるものってあるの?」
「べ、別に囚われてるわけでは!」
「でも、復讐を考えると眠れなくなって…それが高じてひどい頭痛と発熱まで起こすくらいだろう」
「……」
「それが『囚われてる』んじゃなかったら、何なのかな」

キョーコは再び言葉に詰まった。
確かに蓮に不眠の原因として訴えたのは、幼馴染への復讐心と自分への怒り。けれど、それは今日の頭痛の原因ではない。いや、全くない訳ではないが、ここ一週間眠れない理由の半分は幼馴染ではなく今隣にいるこの男性なんじゃないかと思うくらい、暗い部屋で布団に入ると連のことを考える比率が増えているのだ。

けど。

そんなこと、本人を目の前にして言えるかといえば。


無理に決まってるじゃないの!
なによその、「敦賀さんがいないと寂しくて」…じゃなくて!「あなたのことを考えて」…じゃなくてぇ!!!
なんなのよ、まるで告白みたいなフレーズじゃないのよそれーー!!


「君は…嘘をつくのが下手だろう」
唐突に言われて、キョーコはびっくり顔で蓮を見た。
「なん…ですか?いきなり」
「顔に書いてあるんだよ。考えていることが」
「そんなことありませんよ!一体なんて書いてあるって…!」

蓮はおもむろにゆっくりと上半身を起こすとキョーコのほうに向いた。
それから何故か、キョーコの肩のすぐ横に肘をつくと、ぐいと顔を近づけてくる。反射的にキョーコは下がりそうになったが「それって失礼よね?」となんとか踏みとどまった。けれど至近距離で上から覗き込まれると、逃げ出したくなる迫力が蓮にはある。

「なんて書いてあるか…?当てたら理由を教えてくれるかな。……君の顔には、『眠れない理由は他にある』って書いてあるけど…?」

キョーコは心臓が喉から飛び出すのではないかと思うくらいの激しい鼓動を聞いた。


関連記事

PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する
 

こんなにいいところで切れた~

こんばんは。更新を楽しみにしていました。しかし、こんなにいいところで切れると更なる更新がもっと待ちどおしい気持ちにさせられてしまいました。蓮様がとうとう決壊中…しかし、避難しないキョーコちゃん。どうなるんだー?!ワクワクしてしまいます。夜の空気が少しだけ艶めいた、今回のお話、とても面白いかったです。ありがとうございました!

genki | URL | 2014/04/19 (Sat) 02:03 [編集]


きゃあ~!

おはようございます! 更新ありがとうございます。 お待ちしておりました! 蓮様積極的ですね~。強引ですか?オッケーでしょー。
キョーコちゃんの考えが顔にでるのか?蓮様がスゴいのか? う~ん、両方ですかね~。で、キョーコちゃんはなんて答えるんだろう…
ああ、来週が楽しみです!次も楽しみにお待ちしております!!

しゃけ | URL | 2014/04/19 (Sat) 08:25 [編集]


Re: こんなにいいところで切れた~

> genki様

いつもコメントありがとうございます!
すみませんー。またお話の区切りと分量の関係でぶつりと切れちゃいました。(てへ)
蓮さんの決壊理由ははっきりしているのですが、キョコさんは全くそれには気づかず、2人の温度差が半端ないのです。鈍いキョコさんでもベッド上で距離を縮められたらさすがに「なんか変」くらいは思いそうですが、蓮さんの気持ちには気がつかないでしょうね…。

ぞうはな | URL | 2014/04/20 (Sun) 07:34 [編集]


Re: きゃあ~!

> しゃけ様

コメントありがとうございますー!
いつになく強引な蓮さんですが、強引でも拒否させないあたりが上級テクニックですね。
キョコさんは原作通り、考えている事が顔に書いてある…分かりやすい女の子なのです。その割には相手の気持ちに鈍感なのですよね~~。

ぞうはな | URL | 2014/04/20 (Sun) 07:41 [編集]