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まどろみから覚めて(26)


こんばんはー!
うーー。遅くなってしまった…。前からの感覚も更新の時刻も。
てことで、ちょいと推敲が甘いですが、続きですー。
この話一体何話まで行くのーーー。





「頭痛じゃ歩くのも辛いだろう。タクシーの方がいいよ」
2人は会社の前の通りに出てきていた。途中で思わず立ち止まり、険しい顔でこめかみを押さえたキョーコに蓮が提案するが、キョーコは弱々しく首を横に振った。
「いえそんな…大丈夫です、帰れますから」

キョーコの少し潤んだような瞳を見た蓮はいきなりその大きな手をひたりとキョーコのおでこに当てた。
「やっぱり…さっきから少し顔が赤いと思ったんだ。熱があるみたいだよ」
「え?そんなはずは…」
ずっと睡眠不足を押して勤務してきたが、決定的に体調を崩したことは就職してから一度もなかった。そのためキョーコは自分の体力に少し自信を持っていたところだったのだ。それなのにまさか発熱など、ちょっと認めたくはない。

自分で思わずおでこを触ってみるが、手も熱くなっているのか熱があるのかどうかは良く分からない。
でも言われてみれば全身も結構だるいし頭痛もどんどんひどくなっていく。キョーコは蓮に頼りたくなる気持ちを必死に抑えて言葉を絞り出した。
「熱ってほどでもないですし、すぐに帰って寝てれば大丈夫です。明日はお休みですし」
「眠れるんだったらそうだろうけどね」
あっさりと否定の返答が返ってきて、キョーコは少しむっとして更に答える。
「横になってるだけだっていいんです!」

意外なことに蓮はふっと穏やかな笑みを浮かべると、もう一度キョーコのおでこに手を当てた。
「言い返せる元気があるならまだ大丈夫かな。悪化する前に移動してしまおう」
そしてすっと車道に向かって手を上げると、ちょうど通りかかったタクシーがするりと寄ってきて目の前に止まった。
「君の下宿先は居酒屋って言ったよね。金曜の夜は忙しいはずだから手は借りられないだろう。ここからもうちの方が近いし、一度うちに行くよ」
お伺いではなく宣言だ。蓮の言うことは正しいかもしれないが、またもや蓮の部屋に来いと言われるとは思わなかった。キョーコはびっくりしたが、開いたタクシーの後部座席のドアの方に促され、タクシーを待たせるわけにもいかず何も言えずに乗り込む。あとから蓮が乗り込んで運転手に行き先を告げた。

「あの……」
タクシーが走り出してから、キョーコは小声でこそりと蓮に話しかけた。
「なに?」
キョーコのほうに顔を向けた蓮の表情から感情を伺うことは難しい。
「こんなご迷惑・・・」
「迷惑じゃないよ。君は今は余計なこと考えなくていいから、ゆっくり休んでて」
「……」
キョーコはあれこれ言いたいことがあったが、蓮の口調は柔らかくもきっぱりとしていてキョーコの反論を許さない。すぐ前には運転手もいて言い合いをするのも恥ずかしい。キョーコは諦めてシートにもたれかかると流れる景色をぼんやりと眺めた。


蓮のマンションに到着した時刻にはまだ空は明るかった。
蓮はさっさとカードで支払いを済ませると、キョーコの手を取ってタクシーの外へと導き、そのままマンションのエントランスへと進む。どうにも慣れたエスコートで、気がつけばキョーコはエレベーターの中だ。

ちらりと見上げた蓮の表情はやっぱりいつもと同じ穏やかなもので、考えていることは分からない。頭を使うと頭痛が気になるし、体もぐったりとしているし、キョーコは半ば投げやりに成り行きに任せることにした。

部屋に入ったキョーコがソファに座ると、すぐに蓮から体温計が渡される。
「ちょっと買い物に行ってくるから、熱測っておいて。辛いようだったらベッドに入ってていいから」
言い残して蓮はさっさと玄関から出て行った。


ベッドになんて入れる訳ないじゃない!敦賀さんって…思ってたより強引よね……

ぶつぶつと考えながらもキョーコは素直に体温計を脇にはさんだ。ソファにもたれ掛かって天井を見上げると、この景色はつい最近見たばっかり、ということが嫌でも意識に上がってくる。
キョーコ自身、蓮が自分のことを気にかけて世話を焼いてくれることを嫌だと思っていないのが不思議になる。同じことを貴島にされたら、タクシーに乗るのを断固として拒んだかもしれない。

敦賀さんの横ならよく寝られるから?

自分で自分に尋ねてみるが、尋ねる前からそれは違うと分かっている。けれど、もう一度蓮の横で幸せな気分で眠りたい、という気持ちがあるのも確かだった。


「ごめんね、自分で看病するって言っといてこんなもので」
「いえそんな!本当に大丈夫なんです、熱もそれほどでもないですし」
「それほどでもって、38度近くあるよ」
「それくらい微熱です!それにこれ、初めて食べましたけど美味しいです」
「ほんとに?」
蓮とキョーコはダイニングテーブルに向かい合わせで座っていた。2人の前にはそれぞれアルミ鍋が置かれ、暖かいうどんが湯気を立てている。コンビニって何でもありますよね、と笑顔で言うキョーコに、蓮も微笑みながら食事を続けた。

コンビニから帰ってきた蓮はキョーコの熱と食欲を尋ねると、あれこれ買い込んだ袋の中からうどんを引っ張り出して調理したのだ。キョーコも手伝おうかとキッチンまでついて行ったのだが、やんわりと追い出されて結局ソファでぼーっと待つことになった。

なんだろう…男の人にこういうことしてもらうのって慣れてないから落ち着かないわよね…
あのバカは私が熱出したって何もしてくれなかったし……ううん、私が熱があるって言わなかったんだっけ。
そうよね、考えてみればあいつの前では…私はいっつも辛いこととか苦しいこととか素直に出せなかった…見せたら失望されるかもって、怖かったのかな、あの時は。それに比べると…


キョーコがふと視線を感じて蓮の方を見ると、蓮は箸を置いて肘をつき、じっと自分の方を見ている。
「な、なんですか…?は、もしかしてネギがついてますか?」

慌てて口の周りをごしごしとこするキョーコに、「ああ」と蓮は気がついたように肘を外して目をそらした。しかし再度キョーコの顔をじっと見つめると口を開く。
「やっぱり不思議だね。それほど濃いメイクじゃないと思うのに、随分と変わるんだな」

言われて初めて、キョーコは自分が受付メイクのままでうどんを食べていることを思い出した。普段は業務終了後にできるだけ落としてから帰るのだが、今日は蓮を待たせていたためにそんなことをしている時間はなかった。
「う…分かってますよ、メイクの魔法の威力だって事くらい」
ふいと目をそらしたキョーコに、蓮は驚いたような表情を作った。
「いや、そんなことを言ったんじゃないんだ。ただ、雰囲気が違うから驚いただけだよ」
「そりゃ…自分でもこんなに変わるって思ってませんでしたけど」
「前にも言ったけど、俺は普段の最上さんのナチュラルなのも好きだよ」

唐突にさらりと放たれた『好き』という言葉を聞いてキョーコの心臓はなぜだかどきんと跳ねあがった。誤魔化すように少し大きな声を上げる。
「ご、御馳走様でした。美味しかったです」
「俺がしたのは温めただけだけどね」
蓮は笑いながら片づけようとするキョーコを制し、キョーコの顔を少し覗き込んだ。
「頭痛はどう?辛かったら横になってて」
「いえ!座って休ませていただいたおかげか、すこしおさまってきました」
「そう?それならいいんだけど…受付は気を遣うし大変だよね」
「緊張はしますけどだいぶ慣れました。……そういえば」
キョーコは今日貴島と一緒にいるところに来た蓮の言動を思い出して不思議そうな顔になった。

「なんで頭が痛いって、敦賀さんは気がついてたんですか?」
立ち上がって机の上の片づけを始めていた蓮は一瞬動きを止めて顔を上げた。
「…見たからだよ」
「何をですか?」
「今日の午後、たまたま受付の横の通路を通ったんだ。そうしたら、ちょうど君だけがカウンターに立ってた。笑顔で客を送り出して頭を下げた後…辛そうな顔でこめかみを押さえてたからね」

そんなの…見られてたの?

キョーコは驚いてしまった。
確かに午後、訪問客を案内するために千織がカウンターを離れた事があった。お客も途切れたそのタイミングでふと緊張が緩んで頭痛に顔をしかめてしまったのだ。そんなところを見られていたとは。

対する蓮も何気ない風を装っていたが、キョーコには言っていないことがあった。
通りかかったのは確かにたまたまだった。
けれど"いるのかな"とカウンターを伺ってしまったのはいつもの蓮の行動にはないことだった。そして、ついキョーコの所作に見惚れて立ち止まってしまったためにキョーコがこめかみを押さえるところを見ていたのだ。

蓮にとっては幸いなことに、キョーコは見られていた驚きと恥ずかしさで、「そんなに長い間見ていたんですか」というごく当たり前のことを思いつく余裕はなかった。


「さて、少し休んでたらいいよ」
蓮は手早く机の上を片付けてキョーコをソファへと促した。
「少し寝たら頭痛も軽くなるかもしれないし」
「いえあの、本当に大丈夫ですから…これ以上は」
「頭痛薬あったはずだからちょっと待ってて」
有無を言わさずキョーコを置いてリビングを出て行く蓮の後ろ姿を見送って、キョーコはソファに倒れ込むように座る。

なんだろう…本当に今日は敦賀さん…なんて強引なの?

そんな強引さについ甘えたくなるのは調子が悪いからだろうか。
ふとそんな思いにとらわれながらも、「いえいえだめよ!」とキョーコは痛む頭を振ってしっかりと自分の気持ちに喝を入れたのだった。


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コメントコメント


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キョーコちゃんの自覚はいつ芽生えるの??

こんばんわ。本日も楽しく拝読させていただきました。このお話、十五分単位の連ドラみたいな清々しさですね。蓮様、強引になってきましたが、キョーコちゃんの頑固と言うか頑なな姿勢はまだなかなか解けない氷河級ですね。二人でまったりマンションにいても何も起こらない。いっそ安心な気持ちで読めてしまうほどです。ぞうはな様のオフィスものパラレルは蓮様がかなり大人度高めで硬質な萌えがあります。←ちょっと意味不明…。次回もほのぼの展開を楽しみにしております。ありがとうございました。

Genki | URL | 2014/04/15 (Tue) 23:51 [編集]


まずは…

更新ありがとうございます。

先ずはキョコさんのお持ち帰り?に成功ですね。蓮様、気になって受付チェックするくらいならそれは恋でしょう?(鶏
添い寝前に甘くなる事希望(≧∇≦)
次回更新楽しみにお待ちしてます

ponkichibay | URL | 2014/04/17 (Thu) 05:28 [編集]


Re: キョーコちゃんの自覚はいつ芽生えるの??

> Genki様

お返事遅くなりました!
ベッドルームが出てくるのにすがすがしい話、というのも我ながら変な感じです…。
蓮さんは表にあまり子供っぽいところを出さない人ですよね。特にオフィスになんていたら、まず隙を見せないんだろうなぁ…などと妄想すると、こんな蓮さんになります。
ほのぼの展開も舞台が舞台だとあやしいか?いや、きっとキョコさんがすがすがしさを維持してくれる…はず?

ぞうはな | URL | 2014/04/18 (Fri) 20:10 [編集]


Re: まずは…

> ponkichibay様

コメントありがとうございます。

ほんと、つい気になって見ちゃう、とか姿を目で追っちゃう、てのは、それは恋だよ(キリ)
添い寝前どころかこの子らは添い寝しても甘くならないという…あれれれれ。

ぞうはな | URL | 2014/04/18 (Fri) 20:12 [編集]