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まどろみから覚めて(24)


こんばんは!ぞうはなです。
さて今日ものんびりな更新ですーーー。




「でも…別に何もないのよ?」
キョーコは少し戸惑いながら返事をした。自分にとっては途方もなく"なんかあった"のだが、蓮の立場から考えたらあれは何もなかったという事だろうと思う。
しかしそんなキョーコの気持ちを知ってか知らずか奏江はあっさりと言い返す。
「やあね、2人で出かけたってだけで十分なんかあるのよ、周りの女から見ればね」
「けど…」

まあ分かってるわよ、と奏江は眉間に皺を寄せたキョーコをとどめて笑った。
「けどやっぱり思うのよねー。敦賀さんって、あんたのこと他の人とは違う風に扱ってるんじゃない?」
「そうかな…?」
「そうよ。あの人は…周りと深く関わり過ぎないように距離を置いてるようにみえるもの。けど、あんたに対してはちょっと近いような…」
「それはきっと敦賀さんが私のこと意識してないからよ」

急に真顔できっぱりと言い切ったキョーコに、奏江は少し驚いた顔をする。
「どういうこと?」
「今日ね、敦賀さんにお客さんが来たの」
キョーコは受付で見た取引先の女性の話と、それに対する蓮の反応を簡単に奏江に説明した。

「まあそうでしょうね…あの柔らかい物腰で対応されたら、落ちちゃう人が大量に出てもおかしくはないわね」
ちょうど注文した食事が運ばれてきて、2人は箸を取りながら話を続ける。
「でしょ?でも敦賀さんは仕事として対応してるから、困ることもあるんだって」
「そりゃそうよね。敦賀さん自身がそんな気ないなら、かえって煩わしいわよね」
「でもそれに対して私は隣で寝ちゃうくらい緊張感がないから楽みたい」

ぶふ、と吹き出しそうになって奏江は慌てて口を押さえた。
「そうね、確かにあんたは敦賀さんの隣で寝こけるわね」
「別に好きでやってるわけじゃ…」
「反射的なんでしょ?」
キョーコも自分がどうして寝てしまうのか分からない。答える代わりにふう、と恥ずかしそうにため息をついた。
「そういう飾らないところがいいんじゃないの?どうせあの人の周りに寄ってくる女なんて、自分の見た目にある程度自信があって、自分をよく見せよう、相手を自分の方に向かせようって人ばっかりだろうし。そういう状況にいたら、あんたみたいのは新鮮なのよ」
「物珍しいってだけじゃない」
「最初はそうかもしれないけどね」
奏江は意味ありげに呟くとじっとキョーコを覗き込んだ。

「まああんたは今まで通り普通に接してればいいと思うけど。別に敦賀さんのこと嫌いじゃないんでしょ?」
「もちろん!すごくいい人だと思うし、嫌う理由なんて無いわよ。…たまにちょっと意地悪だけど」
「意地悪?」
「うん」
奏江はしばらくまじまじとキョーコの顔を見てから「ふーーーん」と呟くと、そのあとはもう蓮の話題に触れることはなかった。



そうよ、やっぱり私が他のきれいな人と違って、女性として意識したり誤解されないように気を遣ったりする必要がないからやりやすいだけよ。

キョーコは奏江と別れてだるまやに帰り着き、布団に入って考えていた。
あれこれと思いを馳せたが、そう思うのが一番しっくりくる。そうでなかったら、一緒のベッドで眠るなど(そして本当に眠るだけなど)、普通の男性はしないだろうと思う。あまり男性の気持ちや行動を知っている訳ではないので断言はできないのだが。

それにしてもなかなか寝付けない。
蓮のおかげなのか、蓮のせいなのか、最近尚への復讐の事を考えてはらわたが煮えくりかえって眠れないことは減っているが、もっと切ない気持ちでため息をついてしまってやっぱり眠れない。

ばかよね…さっき、なんて言おうとしたのよ…

蓮と同時に話し始めてしまったあの時。
すんでのところで飲み込んだが、心の中で訴えてしまったのは「敦賀さんが隣にいないと寂しくて眠れないんです」という言葉。

ほんとバカ…親切にしてくれるからって調子に乗り過ぎよ。

キョーコはころりと寝がえりを打つと丸くなってぎゅうと目をつぶった。


その頃の広々としたマンションの一室では。
バスルームから出てきた蓮はそのまま寝室へと向かった。ベッドの端に腰掛け、いつも通りにアラームをセットして寝ようと広いベッドに視線を向けて、ふと思い出す。

キョーコと一緒に会社の廊下を歩いた短いひと時。キョーコと同時に口を開いてしまったために危うく口に出しかけてしまった一言を飲み込む事が出来た。

「まだ眠れないんだったらいつでもうちにおいで」

その内容はどうだろうと思うが、本当にキョーコのためを考えて出そうになった言葉ならばそれでもよかっただろう。
けれど今日は違った。キョーコのあの見た目に貴島の前のめりな姿勢。放っておいたらキョーコがからめとられて、貴島を満足させる結果になりかねないという焦燥感が現実のものとなって襲ってきた。

単純な事だ。自分はそれを受け入れる訳にはいかなかった。理屈ではない。考えて論理だてた結論ではない。単純にその状況を目にして心の底から湧きあがってきた単純な感情そのもの。

一気に湧いた想いが自分でよく分からなくなって、残業中は無理やり思考の外に押し出した。そして帰り道ひとりで冷静に考えた結果がこれだ。

結局俺は…最上さんの意識を自分に向けたかったんだな。貴島じゃなくて、俺に。


そうではない、と何回も否定してみたものの自分の言動のつじつまが合わず、自分の気持ちを認めざるを得なかった。その上で蓮はぼんやりとベッドの上のキョーコの幻影を追いながらも考え続ける。

男にひどい目にあわされたキョーコの心を癒してあげる事が自分なら出来るのではないか。そんな自負がむくむくと首をもたげてくるのだ。自分の隣でだけキョーコが眠る、ということが何かの特権のように思える。しかしある意味それはキョーコの傷や弱みに付け込む事になるのではないか。それは卑怯な真似なのだろうか。

かといって…俺が最上さんから距離をとれば……ほかの男に掻っ攫われることにもなりかねないしな…大体、彼女があの男のせいで眠れないという事は多少なりとも気持ちがあるという事で……

蓮にとってもしばらくは、ぐっすりと眠れる夜は訪れそうになかった。


2人の眠れない想いをよそに日々は淡々と過ぎ、また週末がやってくる。
受付業務を担当していた1人の女性が妊娠初期の悪阻で休みがちになり、急な事で欠員補充もままならず、キョーコは受付に駆り出される事が増えてしまっていた。新人であるが故、まだキョーコがやらなくてはならない重要な仕事は少ないし、来客応対はそこらのベテランよりもこなれている。キョーコにお鉢が回ってくるのも当然と言えた。

「ご案内いたしますのでしばらくお待ちください」
カウンターから出て来客を応接室まで案内すると、後ろから無遠慮な視線が突き刺さる事もあるし、客の応対が終わった社員から話しかけられる事も増えている。しかしキョーコ自身はそんな状況をかなり冷静に受け止めていた。

「コスメデマジックって威力すごいのね…世の中の男性は単純な人ばっかりだわ…」
自分の見た目は地味で色気がないと頑なに思いこんでいるキョーコは、受付業務の時だけ話しかけられるのは完全にメイクのせいだと思い込んでいた。

今週に入って受付業務のシフトに入る事が増えたため、キョーコは先輩である愛理にまずメイクのやり方のレクチャーを受けていた。もう半分以上は制服に合うから、という建前からはみ出して、すっかりキョーコは愛理のおもちゃになっているのだ。

「今日は月末のせいかな…お客様が多かったわね」
隣に立つ千織が客足の途絶えた夕方にキョーコに話しかけてきた。こめかみに指を当てて下を向いていたキョーコははっと気がついて振り返る。
「そうですね…でも今日はそろそろ終わりですね」
「そうね!やっぱり金曜日だと終業時刻間近は誰も働きたくないわよね」
話している間に終業のチャイムが鳴り、千織とキョーコは片付け作業に入った。

「キョーコさん、とっととここ離れた方がいいわよ」
「え、どうして?」
受付業務終了の看板を玄関前に運んでいたキョーコは不思議そうに千織を振り返った。千織は嫌そうな顔つきで片手をしっしと振ってみせる。
「さっき貴島さんが横の通路からこっち見てたもの。チャイム鳴ったから飛んでくるわ」
「えぇ…」
さすがのキョーコも貴島のしつこさには少し困っていた。どうせ一時の気の迷いだろうと思っていたのだが、たまたま外国人の訪問客に流暢な英語で対応しているところを見られてから、貴島の熱は一段と高まってしまったようなのだ。更に、キョーコに目をつけた他の男性社員がキョーコにアプローチをしているのに気づいて、競争心まで燃やしてしまっているらしい。

「でも…まだ片付け終わってないですし」
「そんなこと言ってると帰れなくなるわよ。もうあとちょっとだから私がやっとくわ」
普段はそれでも、と頑張るキョーコだったが、この日はあっさりと引き下がった。
「じゃあごめんなさい、お願いしてもいいですか?」
「もちろん。お疲れ様」
「お疲れ様でした」

キョーコは足早に受付ロビーからオフィスへ向かう廊下へ向かった。開けたロビーから細い廊下に入ると足を緩め、ふう、と息をつく。しかし、数歩歩くと足を止め、こめかみを押さえて下を向いた。


いたたたた…今日はなんだか頭、痛いな…

「あー、キョーコちゃんお疲れ!」
後ろからはずんだような聞きなれた声が聞こえ、キョーコは頭痛が増してしまったような気分になった。



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コメントコメント


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ウザい⁈

初めましてぞうはな様
いつも更新楽しみにしております。
作品全て読ませていただきました。

このお話も大好きです。
貴島さん嫌いじゃないけどこれはウザいですね(笑)
蓮様には早く行動して貰いたいです。
続き楽しみにお待ちしています。

ponkichibay | URL | 2014/04/09 (Wed) 20:29 [編集]


Re: ウザい⁈

> ponkichibay様

はじめましてー!ご訪問&コメントありがとうございます。

貴島さん、ちょっとうざくなっちゃいました。
でも彼は毎日会える環境だったらとりあえず押せそうだったら押すんじゃないかなーと思いまして…。
キョコさん戸惑っちゃってますので、蓮さんは早いとこなんとかしないとですね。
しかしなんでキョコさんは自分に向けられる好意にここまで疎いんでしょうねーーー。

ぞうはな | URL | 2014/04/10 (Thu) 20:14 [編集]