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まどろみから覚めて(23)


こんばんは!ぞうはなです。
明日更新のつもりだったのですが、ちょっと気がめいる事があったので気分転換に更新です。
次はまた来週ーー。





は…どうしよう…な、何かしゃべらないと…?

「あの…!」
「最上さん…」
沈黙に耐えかねたキョーコが口を開いたのと、蓮が話し始めたのは同時だった。


「あ、ごめんなさい!」
「ごめん、何?」
また同時に声を発してしまい、キョーコは口をつぐんで手の平を向けて"どうぞ"と蓮を促す。

「あ、いやごめん…今日はラケットを引き取りに行くの?」
「はい!そのつもりです」
「1人で?」
「あ、いえ…モー子さ…じゃなくて…琴南さんがお店を見てみたいって言うので、一緒に…」
「ああそうなんだ。そうか、琴南さんもひいきにしてくれたら椹さんが喜ぶよ」
「そうですね…」
キョーコはじっと蓮の顔を見つめてしまった。なぜかカウンター越しに顔を見ているだけで安心感が湧いてきてしまう。さきほどは取引先の女性と話しているのを見ただけで無性にもやりとしたというのに。

「総務に戻るの?それなら途中まで一緒に行こうか」
「あ、はい!」

簡単に片づけをしてカウンターから出てきたキョーコの全身を蓮は気づかれないようにそっと眺める。キョーコの私服は柔らかい印象のものがほとんどなので、かっちりと女らしい制服はちょっと新鮮だ。蓮は視線を外し正面を向いて小さくコホンと咳払いをすると廊下を並んで歩き出しながらキョーコに話しかけた。

「受付の制服着てそういうヘアメイクだと…一瞬誰だか分からないね」
「すっすみません…!」
肩をすくめて小さくなるキョーコに、蓮は思わず笑ってしまった。
「なんで謝るの」
「いえだって…このメイクしてくれたの部署の先輩なんですけど、その方にも最初はすごく驚かれちゃって。でもなぜか私が受付に入るときは必ずこうされちゃうんです」
「そうなんだ。でもすごく似合ってるよ」
「え」
「ほんと、すごくきれいだ」
急にキョーコの動きがぎくしゃくとぎこちなくなるのが分かる。普通照れるとか喜ぶとかしないか、と思いながらも蓮はあえてそれには触れずに言葉を継いだ。
「でも、俺は普段の最上さんもいいと思うな」
「は…はい?」
キョーコの声は完全に裏返る。

「きれいで人目を引くその感じももちろんいいんだけどね。俺は真剣な顔でラケット振ってる最上さんの方がいいかな」
「真剣な顔って仰いましたが、それはひどい形相だってことですよね」
「あ、分かっちゃった?」
ひどいです!とむくれたキョーコを見て蓮は声を立てて笑った。
「冗談だよ。正直、見た目はどっちもいいから気にならないよ」
「敦賀さんにそう言われてもぜんぜん説得力がありません!」
さりげなく褒めたつもりがそこはスルーで即座に言い返されて、蓮はおや、と目を丸くする。
「敦賀さんの見た目は整いすぎててずるいですもん。さっきの村上さんって方だって…」
言いかけてキョーコは口をつぐんだ。

「村上さんがどうかしたの?」
取引先の担当者がどんな目で蓮を見ようが、蓮のせいではないはずだ。蓮は仕事であの女性と会っていたのだ。静かに問われてキョーコは気まずい思いを抱きながら答える。
「いえ…ごめんなさい、なんでもありません」
蓮は少し俯き加減になってしまったキョーコの顔をしばらく見つめると、ふ、と息を吐き出して口を開いた。
「言いたいことは分かるよ。俺もね、この見た目で色々と苦労してることもある。正直、わずらわしいこともね。…なんていうとすごく自慢してるみたいだけど」
「い、いいえ!だってそれは本当の…」
「だから、最上さんみたいに緊張せずに隣でウトウトしてくれる方が嬉しいかな」
「……!やっぱりひどいです!」
キョーコが再びむくれたところで2人は総務部の入り口にたどり着いた。

「じゃあ最上さん、お疲れ様」
「お疲れ様でした」
深々と頭を下げたキョーコが顔を上げると、また蓮と目が合った。

「あの」
「あのさ」
同時に話し出し、はっと口をつぐむと2人は笑い合う。今度はどうぞと蓮がキョーコを促した。
「いえあの…残業大変そうですけど、頑張ってください」
「ああ、ありがとう。最上さんも気をつけて行ってきてね。…帰って部屋の中で素振りなんかして、壁壊さないように」
しません!とキョーコが眉を吊り上げて反論し、2人はその場で別れた。

蓮は自分のオフィスに向かいながら先ほどのキョーコの姿を思い起こす。

驚いたな…あんなになるとは予想外だ…

受付のキョーコは一目見ただけでは分からなかった。胸のネームプレートを見て、変わらぬ強い光の瞳を見て、それでようやく「最上さんか」と声が出た。あんな姿で座っていれば、貴島のターゲットにならない訳が無い。

むしろやめておいて欲しかったな…

キョーコに分かりやすい色気なんていらない。
せっかく自分が理解したキョーコのよさがむしろ覆い隠されてしまう気がする。その上、どうでもいい男たちをいたずらに引きつけてしまうことも厄介だ。

厄介?

自分で考えておきながらその単語にびっくりする。
嫌な予感が湧き上がってくる。そういえば確かにロビーで客対応しながらも、目の端にはキョーコに馴れ馴れしく言い寄る貴島の姿が入って目障りだった。なんとか押しの強さに負けずにキョーコが断ったことが分かった時はほっとしてしまったくらいだ。

途端にロビーからの去り際の社のにやけ顔が思い出される。
もしかして、自分じゃなんともないと思ってたつもりだったのが、社には何かを察知されていたのだろうか。

ああ、だめだ。ちゃんと自分で整理してから…いや、それでも遊ばれるのはごめんだ!

蓮は頭の後ろをこつこつと叩き、1つ咳払いをして自分のオフィスへと入っていった。



ビルの狭い階段から目の前の通りに出ようとして、キョーコは一度立ち止まると注意深く辺りを見回した。

ん、大丈夫ね。というか今日は月曜日だし…あいつはメジャーデビュー決まったはずだし…そうそう会う訳ないわよね。

自分に言い聞かせてからもう一度「よし」と確認していると、後ろから声がかかった。

「ちょっと、何で止まるのよ」
「あ、ごめんモー子さん」

キョーコと奏江は会社の帰りにテニスショップに立ち寄っていた。キョーコはガットが張られた新品のラケットが引き取れてうきうきだったが、ビルから出るときに前回の嫌な奴との遭遇を思い出していたのだ。

慌てて歩き出したキョーコに、奏江はその挙動を気にするでもなく話しかける。
「どうする?なんか食べて帰る?」
「うん、そうしようか」
「何がいいかしらね。あ、近くにピザが美味しいお店があるらしいけど」
「ピザ…!えっと、きょ、今日は和食の気分かなあ」
ピザの店といえば前回蓮といったところだろうか。なにやら色々思い出してしまいそうでそれは嬉しくない。キョーコは慌ててお店の候補を挙げて2人は女性向きの和食の店へと入った。


「それにしてもほんとに敦賀さんと2人であの店行ったのね」
「うん、そうよ?」
席について注文を済ませてから奏江に聞かれ、キョーコはなぜそんなことを確認されるのかと首をかしげた。

「敦賀さんってさ、あの見た目だからすごくもてるらしいのよね」
奏江は蓮や社と同じ部署にいるため、自分自身は蓮にそれほど興味がないというのに噂話だけは嫌でも耳に入ってくる。
「そりゃそうでしょうね…」
「だけどまあ、アタックした人はことごとく振られて、浮いた噂1つないらしいの」
「そうなの?」
「そうよ。サークルでもそうじゃない?特定の人と仲良くしたりしないって」
「ああ…」
キョーコはサークルの練習や合宿中の蓮の言動を思い出してみた。確かに誰に対しても穏やかに接するが、馴れ馴れしい態度を取ったりしているのを見たことはない。蓮にまとわりつく愛華に対してだって、決して怒ったり嫌がったりはしないが一定の距離を持って対応しているようだ。

「だからあんたと2人であの店に行ったからちょっと驚いたのよね」
キョーコは奏江の言葉に、静かに考え込んだ。


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コメントコメント


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滅入ることがあると更新ならば…

こんにちは。滅入ることがあると更新ならば…もっと…なんて意地悪なことを考えてしまいました。すみません、人非人でした。私も昨日とても理解しがたい他人の反応に接することがあり、いつにも増して読みに力が入ってしまいました。しかし、他人を変えることは井戸に桶を下ろしてワインを汲み上げることを期待するようなもの、ていう言葉を読んだことがあります。ぞうはな様は別にそういうことで滅入ったわけではないかもしれませんね。蓮様が、キョーコちゃんもいやなこと一杯あったというキャラクターですが、元気一杯…見習いたいです。

お話の方は相変わらず明るくて楽しいムード一杯ですね。いやなことを三分の二くらい忘れました。ありがとうございました。

genki | URL | 2014/04/04 (Fri) 12:57 [編集]


Re: 滅入ることがあると更新ならば…

> Genki様

おおっと。そうきましたね(^^)
そう、ストレスたまるとお話書きに走るのであながち間違ってはいないのです。ですが最近は絶対的な時間不足が…。
本当、他人を変えることを望んではいけませんね。蓮さんのように自分にとって適度な距離を保ちたいと思っています。
気分転換になればこれ以上嬉しい事はありません!
のんびりな2人をお楽しみいただければと思いますー。

ぞうはな | URL | 2014/04/04 (Fri) 21:44 [編集]