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まどろみから覚めて(22)


こんばんはー!
ぞうはなです。

さてさて、続きでございますー。





「れ~~ん~~~。金曜日はどうだったんだよ?」
社がそれまでの真面目な顔をふにゃりと崩して蓮に聞いたのは、その日訪問していた会社を出て駅まで歩く道中のことだった。
訪問先のビルを出たところで直帰するという課長と別れて社と蓮だけになったので、社としては「やっと聞ける!」という緩みが一気に出てしまった状態だ。

「どうって…別にどうもこうもありませんでしたけど」
やや呆れたように蓮は言葉を返したが、社は追及の手を緩めない。
「キョーコちゃんと一緒に買い物してさー。まさかそのまま別れたりしなかっただろうな?」
「まあ時間が時間でしたし、一緒に食事をしましたよ」
「それだけ?」
「それだけですよ。当たり前でしょう」
ちぇーー、とつまらなさそうにそっぽを向いた社を、蓮はため息をついてちらりと見やった。当たり前だが、この先輩にはキョーコを家に泊めた事など口が裂けても白状はできない。

「せっかく俺がお膳立てしてやったのにさあ」
「お願いもしてませんしお膳立てされても困るだけです」
「うっそだあ~~お前だって喜んで俺の話に乗ったくせに」
「乗ったんじゃなくてですね…」
反論しかけたところでスーツの内ポケットに入れた携帯が鳴りだし、蓮は言葉を切って電話に出た。

「はい、お疲れ様です。…いえ、これから戻りますが。……はい、…可能なら受け取っておいていただければ…ああ、そうですか。分かりました、20分くらいで戻るとお伝えください」
「どうしたんだ?」
電話を切った蓮に、社が不思議そうな顔で問いかけた。
「あ、いえ…T商事の村上さんが来られてるそうで」
「あー…先日の契約書か?」
「そうらしいです。営業部の部員に代理で受け取ってもらえるか聞いたんですけど、なんでも別件で話があるらしくて戻るまでロビーで待ってるそうです」

話ねぇ…
T商事の村上さんか、確かに前回の訪問の時にも彼女は俺じゃなくて蓮にばっかり話しかけてたよな。契約書も郵送でいいって言ったのに、わざわざ持ってくるとはね。そんなに蓮に会いたいか…

もて過ぎる男も色々問題だよな、と思いながらも口には出さず、社は蓮とともに急ぎ足で会社へと戻って行った。


蓮と社が会社に戻ったのは終業時刻を少し過ぎてからだった。急ぎ足で通用口から入りロビーへ向かうと、受付カウンターには女性が1人座っており、ロビー奥のソファにも女性の後ろ姿が見える。
2人の靴音に気付き、受付の女性が立ちあがって振り返る。女性は2人の姿を認めると、軽く頭を下げて話しかけてきた。
「お疲れ様です。T商事の村上さんがお見えです」
女性は視線ときれいに揃えられた指先で来客の方をさりげなく指し示す。
「ああ、ありがとうございます…」

あれ?この人はなんで俺らが村上さんの対応するって分かったんだ?

社は面識のない受付嬢からさらりと言われ、御礼を言いながらも考えてしまった。しかし、社の疑問は蓮の一言で驚きに変わる。
「もしかして最上さん?」
「えっ。えええ?」

二度見。
社は来客の方を向きかけていたのにぐるりと体を回してもう一度しっかりと受付嬢を見てしまった。自分の人生の中でもこんなコントの中のようなわざとらしい二度見は初めてだ。
「はい、そうですが…?」
キョーコはきょとりと不思議そうな顔で2人を見ている。

改めてみてみればそれは間違いなくキョーコだった。髪の長さも色も同じだがきれいに撫で付けられて耳が見えているので印象が違う。それよりも、普段より少しきつめのメイクがキョーコの顔立ちをくっきりと際立たせている。目元に入れられたラインと色味は大人っぽさを100%増しくらいにしているし、唇の少し派手かと思えるくらいのパールローズも女性らしさをさらにアップさせている。

だからか!

社はここしばらくの貴島の行動を思い出して一気に強く納得した。こんな変貌振りを見せつけられたら、「なぜ俺は気がつかなかったんだ」と貴島がいたく打ちのめされて、けれど0.1秒後にはすっかり立ち直って行動に出たんだろうことが痛いほど分かる。その上キョーコは普段の様子を見て分かるほどに恋愛経験は浅そうだ。貴島にとっては非常においしい獲物だろう。

「あ~~、やっぱりまだいた、キョーコちゃん♪」
社が立ち尽くしたままキョーコを視界に入れたまま考えを飛ばしていると、そのまさに思っていた男が姿を現した。
カバンを持った貴島がニコニコしながらカウンターに近づいてくる。
「おっつかれ~~。総務部にいないと思ったらまだここにいたんだ。ねえ、今日ご飯食べに行かない?」
「お疲れ様です!…あの、貴島さん、私まだ業務中で…」
「もう終わりだろう?受付は定時までって俺知ってるもん」
「あのでもお客様が…」

ん?と奥のソファを窺った貴島はそのまま目の前に立つ2人の男に視線を移し、にこりと笑った。
「どうせ敦賀君のお客さんだろ?対応する人間が来たらキョーコちゃんはもう離れて大丈夫だよ」
そして貴島は蓮と社に"早く客対応したら?"と視線だけで促して、べったりとカウンターに肘をつく。
「社さん、村上さんをお待たせしてますよ」
社は貴島に何か言おうと口を開きかけたが、蓮に諭されて渋々奥のソファへと向かった。

「ねえ、何食べに行く?」
「いえあの、貴島さん!お客様がまだいらっしゃいますから…」
「大丈夫だってー。敦賀君たちが応対するんだしさ。それに、どうせ彼女はこっちなんて気にしてやいないよ」
「ですがやはり…」
「大丈夫大丈夫。彼女絶対敦賀君狙いだから。ほら、見てごらんよ」
後ろを盗み見た貴島に小声で言われてキョーコはそっと蓮たちの方を伺う。ソファに近づいてきた蓮と社を見て立ち上がった女性は、確かに貴島が言う通りかなり熱っぽい目で蓮を見ている。

「あんな男に外回りなんてやらせるからさ。取引先の担当者が女性だと大抵ああなるらしいよ」
「はあ…」
笑顔で蓮の隣に立ち書類を示しながらあれこれと嬉しそうにうっすらと頬を染めて話をする女性の姿を見ていると、キョーコの胸にもやりとした何かが湧いてきた。

そんな目で敦賀さんを見上げて…お仕事じゃないんですか?

うっかりと女性に対する非難めいた考えが浮かんできてしまい、慌ててすぐにその考えを打ち消す。
「敦賀君も社内ではまったく噂聞かないけどさー。外でうまいことやってんのかな」
ニコニコ笑いながら物騒なことを言い放つ貴島の顔を、キョーコは真顔でまじまじと見てしまった。
「そう仰いましても…取引先と問題を起こす方が怖くないですか?」
おや、と貴島はカウンターにもたれ掛けさせていた体を起こしてにやりと笑う。
「あんだけ色男だとさ。ちょっと手を出したって、言いくるめるのも簡単そうじゃない?ま、確かな事は俺も知らないけど」
ちらりと振り返った貴島と、つられて顔を上げたキョーコの視線の先では、蓮が女性から書類を受け取り、いつもの穏やかな表情で相槌を打ちながら女性の話を聞いている。

「さてと、あっちも仕事の話は終わりそうだよ。ねえ、早く着替えておいでよ。何がいい?ピザとかお寿司とかエスニックとか、俺結構この近所の店には詳しいんだ」
反論する隙を与えずまくし立てる貴島だったが、キョーコは少し黙りこむと口を開いた。
「…すみません、貴島さん。私今日ちょっと用事がありまして」
「えーーー」
「ごめんなさい。またの機会に…」
「じゃあ、明日は?」
言いつのったところで貴島の後ろから別の声がかぶさってきた。
「最上さん、ありがとう」
キョーコと貴島は揃って貴島の後ろに視線を向けた。先ほどまで取引先の女性と話をしていたはずの蓮は2人のすぐそばまで来ており、女性はといえばちらちらとこちらを見ながらも社に送り出されて帰ろうとしている。

「遅くなってすまなかったね。終業時間が過ぎてしまって申し訳ない」
蓮に頭を下げられて、キョーコは慌ててぴしりと背筋を伸ばした。
「いえ、とんでもないです!これが私の仕事ですから。敦賀さんこそ、わざわざ戻ってこられてお疲れ様でした」
「ああいや、俺はもともと戻るつもりだったから」
「そうなんですか?お忙しいんですね」
「見積もりを明日までに、と言われちゃったからね。これも俺の仕事だよ」
蓮が笑いかけると、キョーコもつられてふわりと笑った。蓮と貴島は揃ってその笑顔を見つめて一瞬動きを止めた。

「ほら2人とも、キョーコちゃんも片付けたりしないといけないんだからさ」
女性を送り出して戻ってきた社に声をかけられ、蓮と貴島ははっと動きを取り戻す。
「キョーコちゃん、じゃあ今日の夜連絡してもいい?都合のいい日を教えてよ」
「あの…ですが……」
「ね、メールするからさ!じゃね!」
貴島は今日の約束が無理と見るとそそくさと姿を消した。キョーコが否定や拒絶をする前に言い含めればあとで連絡したときに無視をしないだろうと、そこまで見込んでの行動だ。

「ごめんねキョーコちゃん、貴島の奴迷惑だったらきっぱり言っちゃっていいからさ」
「いえそんな、迷惑と言うわけでは…」
「いいんだよ、先輩だからって許してたらあいつはつけあがるばっかりだからさ。…っと。蓮、俺先に戻ってるな」
普通にキョーコと話していた社だったが、急にはっとして蓮とキョーコを交互に視界に入れると、慌てて時計を見てこちらもそそくさと立ち去っていった。
「え、ちょっと社さん…」
蓮は社を呼び止めようとしたが、ちらりと振り向いた社が蓮にだけ見えるように不敵な笑みを浮かべたのを見てがくりと肩を落とす。

「社さん急にどうされたんですか?」
「いや…俺にも良く分からないんだけど…」
偶然にばちりと2人の視線が合ってしまい、不自然な沈黙がその場に満ちた。


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コメントコメント


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馬の骨さん出てきましたね!

こんばんわ。貴島さんを含め、二人に纏わり付く馬の骨さんが出てきて、楽しいですね。是非とも色々掻き回して欲しいです。尚が一番の爆弾であることは間違いないのでしょうが、彼だと暗黒方面に行き過ぎる可能性もありますから…。ゆっくりとした展開ですけど、私本人がバイトも含めてオフィスなるものに勤めたことがないのでとても楽しめています。どうもありがとうございます。

Genki | URL | 2014/04/01 (Tue) 21:35 [編集]


Re: 馬の骨さん出てきましたね!

> Genki様

馬の骨さんが出てこないと2人はのんびりしすぎてなかなか進みませんもんね。
少し刺激を受けて自覚すれば!と思いつつ相変わらずのんびりなお話です…過去最長になっちゃったらどうしましょう。
私もたくさんの職場を体験した訳ではないのですが、虚実とりまぜて楽しんでいただければ幸いです!

ぞうはな | URL | 2014/04/02 (Wed) 22:10 [編集]