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まどろみから覚めて(21)


こんばんは!ぞうはなです。
よし、今週2つ目の更新ができました!

来週もこんな感じで…うううう……




「なるほどね…」
蓮は呟くように言うと、組んでいた両手の指をほどいてコーヒーカップへと右手を伸ばした。
深夜の電話の相手が特定できた段階で大筋のストーリーを想像はしていたのだが、意外と外れていたようだ。恋愛関係にあった男にこっぴどく振られたか裏切られたかだろうと思っていたが、どうやら2人の関係はそれ以前だったと推測できる。

しかしそれにしても"復讐"とは。

「復讐って言うけど、どうなったら気が済むの?」
静かに聞かれて、両手で握りこぶしを作ってぎりぎりと力を入れていたキョーコは全身から力を抜いた。しかしまだ険しい顔できっと蓮の顔を見据えてはっきりと答える。
「参りましたって、恐れ入りましたって土下座させられれば本望です!」
「土下座ね…どうやって?」

さらりと尋ねられ、キョーコはふと表情を曇らせると目を伏せた。
「…それは……まだ…」

まあそうだろうな、と蓮は思う。相手にバカにされる形で突き放されたのだ。余程のことがない限り向こうから謝ってくる事はないだろう。ぱっと見ただけでも相手はかなりナルシストで自信のあるタイプに見えた。プライドも高そうだ。キョーコも相手の人となりを分かっているから考えあぐねているのだろう。

「最初は…同じ業界であいつより上に行ってって、思ったんです」
「最上さんもミュージシャンになるってこと?」
「はい。ミュージシャンでなくとも芸能界で…」
そりゃまた無茶な、と蓮は思ったが、キョーコも同じように考えたようだ。
「けど…私には何の芸もありませんし、なにより就職活動も終わって内定もいただいていて…さすがにそれをそんな私的な理由で反故にするのも迷惑極まりないかと」
キョーコの真面目で義理堅い性格がキョーコを押しとどめたらしい。

「就職してすぐあいつと住んでた部屋を解約して、今はバイト先だった居酒屋さんに下宿させていただいているので…もうあいつとは接点がないから、どうやって復讐してやろうかって悩んでるとそれだけでも眠れなくなってしまって」

やれやれ、と蓮は小さくため息をついた。
「復讐って、面と向かって相手に謝らせなくてもいいんじゃないの?」
「へ?どういうことですか?」
キョーコは思いがけない蓮の言葉にきょとりと聞き返す。
「反省、というか後悔させればいいんだよ。君を突き放したことを」
「後悔…ですか……それはそのでも、あいつは私の事地味でつまらないって言いましたから、たとえば私が別人のように色っぽくなるとか美人になるとかがないと…」

それはどう考えても無理だし、とごにゃごにゃ呟くキョーコを蓮は笑い飛ばした。
「そんな必要ないよ。君は今のままでいい。それで、めいいっぱい今の生活を楽しんで幸せになればいいんだ。あの男のことをすっかり忘れてしまうくらいね」
「え?そんなこと…ですか?」
「そんなこと、だよ」
あっさりと、しかし自信ありげに言い切られてキョーコは怪訝な表情になってしまう。
「そんなのじゃあいつには何も影響なさそうですけど」
「そうかな。少なくとも、偶然会って『まだあなたのことを考えてます』って顔をさらすよりいいんじゃないのかな」
「う……」

昨日の尚とのやりとりを思い出したのか黙ってしまったキョーコを眺めながら、蓮は口には出さなかった尚についての推測を思い起こした。

あの男は確かに最上さんを放り出したかもしれないけど…関心を失ったわけじゃ無い。
自分が一番だって顔してたからな。自分を好きだった女は、どんな捨て方をしたっていつまでも自分のことを想い続けるって当たり前のように思ってる。特に、最上さんとは付き合いが長い分ある意味別格なんだろう。
だから他の男と一緒にいたこの子を見て、不安になって電話をかけてきたんだ。自分勝手もいいところだが…昨日あの形で会ったからこそ最上さんのことが意識の上にのぼったとも考えられるな。

「最上さん。携帯の電源は切ったまま?」
ふいに聞かれてキョーコはあっと気がついた。
「そういえば、昨日切ってそのままです」
キョーコは立ち上がり、寝室から運んであったカバンを探ると携帯を取り出した。電源を入れると途端に通知が入ってぶるぶると震える。

「げ」
通知の内容を見て思わず声を漏らしたキョーコに、蓮はにこやかに問いかける。
「彼からの不在着信…あの後もいっぱいあっただろう。留守電もたくさん入ってるはずだ」
「その通りですけど…なんなんでしょう、あのバカは突然…何考えてるのか全然わかんないです!」
言葉の最後には怒りの波長が乗り、キョーコは留守電を確認することなく携帯をかばんに戻した。

「そういう勝手な男には、忘れてあげるのが一番の復讐になるんだよ」
「そうなんでしょうか…?」
まだ懐疑的なキョーコを蓮が促して、2人は朝食を終えた。


「本当にありがとうございました」
車から降りたキョーコは深々と頭を下げた。
「いや、なんだか無理やり泊らせてしまって悪かったね」
「そんな、とんでもないです!おかげであの長い行列に並んだり、夜中に歩いたりしなくて済んだんです。本当に助かりました!それに、せっかくのお休みなのに送っていただいてしまって申し訳ありませんでした」
「いや、別に何も予定はなかったし、俺が勧めたんだからいいんだよ。こちらこそ美味しい朝食をご馳走様」
蓮は軽く笑うとキョーコの頭を軽くぽんぽんと叩いた。
「最上さんが少し眠れたみたいで良かった。また眠れなくて悩んだらいつでも言って」
キョーコはあわあわと手を振って顔を少し赤らめる。
「そ、そんな、だ、大丈夫ですから、もうちゃんと1人で寝られますから!!」
「そう?…でもさっき言った事、本当だよ。眠れなくなるほど悩むなんてもったいない。君は他人を気にせず幸せになるべきだ。自分のために自分の人生を生きる…今まで、できなかったんだろう?」
「はい…」
少し考え込みながら頷いたキョーコの頭にもう一度手を当てると、蓮は「じゃあまた」と車に戻り走り去った。

幸せになる事……そんなんで本当にバカショーを後悔させることになるの?……あいつは私のことなんて……

「おやキョーコちゃん、帰ったのかい?」
キョーコが突っ立ったまま考え込んでいると、だるまやの入り口の引き戸が開いておかみさんがひょこりと顔を出した。
「あっ!おかみさん、ただいま帰りました!」
「よかったねえ、親切な先輩さんと一緒にいる時で。本当、夜中に苦労して帰ってくるより泊めてもらった方がよっぽどいいよ」
「はい、そうですね…」
"親切な先輩"が男性だとも、泊めてもらっただけでなく同じ布団で寝たとも言える訳もなく、キョーコは少し気まずい思いを抱えながらもおかみさんと一緒にだるまやの中に入って行った。


週明け月曜日の午後。
訪れる人が途切れた広いロビーの受付カウンターの中で、キョーコは小さくため息をついた。

眠れなかったなあ……

蓮の部屋に泊まった翌日の土曜日は、前夜にぐっすり寝たせいか快調だった。しかしその夜と昨日はさっぱり眠れなかったのだ。
単純に今までと同じ、ではなかった。布団に入って電気を消し、暗がりの中で見慣れた天井の木目を眺めながら最初に思い起こしたのは蓮の笑顔。慌てて打ち消して布団に包まり、周りが静まり返っていることを改めて認識してふと寂しくなったのは同じ布団に人の気配がなかったからだった。

キョーコ、さすがにそれはどうなのよ…呆れてものも言えないわ。

自分を叱ってみるものの、結局夜通し蓮のことばかり考え、蓮の言葉を反芻し、明け方に少しうとうとしただけで週明けを迎えてしまった。眠れないことに変わりはないと言えばないのだが、自分でも呆れてしまうほどの状態だった。

「どうしたのキョーコさん。なんか疲れてない?」
隣で一緒に受付を担当している天宮千織が話しかけてきて、キョーコは慌てて笑顔を作った。
「だ、大丈夫です天宮さん!昨日までのんびり休んでたし、元気元気!」
「そう?さっきから気がつけばため息ついてるわよ。まあさっきの親父はしつこくって閉口するのも分かるけどね」

千織は先ほど受付を訪ねてきた取引先会社の社長を思い出して眉間に皺を寄せた。
「天宮さん、親父って……」
「だってもう、あれってセクハラよ、いい気になって調子に乗って。でもキョーコさんってあしらい上手よね」
「うーーん、酔っ払いを相手にすること考えたらまあ、楽ですかね?」
「酔っ払い相手?キョーコさんって今まで何してた人?」
ついぽろりとこぼした言葉に反応されて、キョーコは慌てて言い訳をした。
「あ、いや前に居酒屋でバイトしてたから!」
「ああ、そういうことね」

危ない危ない…

キョーコはそっと額の汗をぬぐう。
キョーコが世話になっていた不破家は老舗旅館を営んでいて、キョーコは小さい頃から仲居としてそこで働いていたのだ。そのため客あしらいは慣れたものだったが、そんな普通ではない経験をべらべら人に話していいことなど無い。

時刻は終業時刻まであと少し、となっていた。
受付業務は終業時刻で終了だ。もう今日は誰も来ないかな?と思った矢先に正面の自動ドアが開き、1人の女性が受付に向かって歩いてきた。千織とキョーコは静かに立ち上がり、深々とお辞儀をする。

女性はふわりとした長髪を綺麗にカールさせ、少し短めのスカートのタイトなスーツを着た派手な美人だ。女性はキョーコに向かって話しかけてきた。
「あの、営業部の敦賀さんにお会いしたいんですけど」
「お約束はされてますか?」
「いえ、たまたま近くまで寄ったので書類をお渡ししようと思って」
「それではお呼び出しいたしますのでしばらくお待ちください」

『敦賀』という名前を耳にしただけで瞬間的にキョーコの脳裏に至近距離から覗き込む蓮の姿が蘇る。キョーコは動揺をむぎゅりと心の奥底に押し込め、にこやかな営業スマイルで女性に対応した。


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コメントコメント


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ご無沙汰してます!

気付けば沢山更新されてるぅー!!とウキウキ一気読みしちゃいました♪

眠れない原因は復讐の内容を執念深く考えていたからなんですね!!
最後に現れた女性は何か進展のキッカケをもたらしてくれそうー!とか勝手に妄想しつつ続きも楽しみにしてます♪

風月 | URL | 2014/03/29 (Sat) 19:15 [編集]


Re: ご無沙汰してます!

> 風月様

お返事遅くなりましたー!お忙しい中ご訪問いただき、コメントまでありがとうございます!
のんびり更新のため、まったり進行になるはずがのんびりしすぎて皆様をやきもきさせることにならぬよう、ちょっとずつでも進展させねばー!と思っておりますが、相変わらずの無意識無自覚がどう転ぶのか…

ぞうはな | URL | 2014/03/31 (Mon) 22:17 [編集]