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まどろみから覚めて(20)


こんばんは!ぞうはなです。

間があきつつありますが、どうにかこうにか!
ってことで、続きをどうぞぅ~~~。





目を閉じていても周りが明るいのが分かる。
そろそろ起きなくちゃ、と半分無意識に考えてから、今何時だろう?と思ってキョーコはぱちりと目を開けた。

視界に飛び込んでくるのは見慣れない部屋の風景。白い天井にシンプルな白い照明。
一瞬で昨晩の出来事が脳裏によみがえり、あれもしかして、と考えかけたところでその考えが間違っていないことが証明された。

「おはよう。目が覚めたかな」

至近距離からかけられた声にキョーコはおそるおそるそちらを向く。
シチュエーションは違えど、割と最近こんな寿命が縮みそうな体験をした、と思うが、それで現実がなくなることもなく。果たしてキョーコは朝から心臓に悪いが異様に爽やかな、神々しい笑顔と対面したのだった。


「すごいね、美味しそうだ」
テーブルの向こうから声がかかり、キョーコはいえいえ、と恥ずかしそうに頭を振った。テーブルの上にはトーストとスクランブルエッグ、サラダとシンプルだが美味しそうな朝食が湯気を立てている。夕べコンビニに行った際に買っておいた食材はキョーコの手により鮮やかに姿を変えていた。

「とんでもないです。簡単なものばかりで」
「そう?でも俺こんな朝食自分の家で食べたことないよ?」
「普段はどうされてるんですか?」
「コーヒーを飲むくらいかなあ」
「それは朝食とは言いません」

キョーコの目覚めから数十分後、2人はすっかり身支度を整えてテーブルを挟んで向かい合っている。
蓮はもう少しのんびりすればいいのに、とベッドから出るのを渋ったのだが、結局はキョーコのきっぱりとした主張に折れる形となった。

キョーコはだいぶ蓮に慣れてきたようで、ぽんぽんと交わされるテンポのいい会話がなんとなく心地よい。そう思って蓮は少し笑みをこぼしながらコーヒーに口をつけた。
「折角の休みなんだからもう少しのんびりしてもいいのに」
「だから敦賀さんはまだ寝ててくださいって申し上げたじゃないですか」
「1人で寝ててもつまらないよ」
「つまらないって…」

言葉に詰まるキョーコを見て、蓮は楽しそうに笑う。しかしキョーコは眉間に皺を寄せて言い募った。
「大体敦賀さんの方が先に起きてたじゃないですか。すぐに起こしてくださればよかったのに…」
キョーコが不満げなのは蓮に近くで寝顔を見られていたからに他ならない。

寝顔が可愛かったから見ていたかったんだよ、という言葉は飲み込んで、蓮は問いかけた。
「いや、気持ちよさそうに寝るなって思ってね。よく眠れた?」
「はい…おかげさまで」
キョーコは表情をゆるめず、けれど素直に肯定の返事を返した。

認めてしまうのは悔しいが、結局昨夜は蓮がすぐ隣にいるというのにあっという間に寝入ってしまった。そしていつも起きる時刻を過ぎてからようやく目が覚め、先に起きていた蓮に明るい中で寝顔を正面から見られていたと気づき呆然としてしまった。
さすがにこの危機感のなさと言うか緊張感のなさと言うか学習能力のなさには自分の頭を殴りたくなるが、"睡眠薬"としての蓮の存在の効果には心底驚かされる。

「でもなんで俺の隣だと寝られるんだろうね」
「…私が聞きたいくらいなんです、それは」
「…じゃあどうして、君は眠れなくなったの?」

キョーコの動きがぴたりと止まった。
そろりと顔を上げると真顔で自分を見つめてくる蓮と目が合い、心臓がどきりと跳ねる。

複雑な表情のまま唇を引き結んだキョーコに、蓮は軽くため息をついた。
「詮索したいわけじゃないんだ…眠れないと聞いてからもう結構長いからね。解消の手伝いが出来るなら、と思っただけだ」
「あの…ありがとうございます。けど、これは自分の問題なんです」
「彼との問題じゃないの?」
「彼…?ああ、奴との問題…というより、私が復讐を果たせれば、それで解決するんです」
「復讐?それは穏やかじゃないね」
穏やかに無言で見つめてくる蓮の顔を、キョーコは真っ直ぐ見返した。バカにされるかもしれない。いや、間違いなくくだらないと笑われるだろう。けれど蓮は自分の睡眠不足を心から心配してくれるように見える。話してみようか、という気持ちが湧いてきて、とうとうキョーコは重い口を開いた。

「あいつは…ほんとにただの幼馴染なんです。物心ついた頃からの…」

男の名は不破尚、いや本名は不破松太郎という。
幼い頃から尚と兄妹のように過ごしてきたキョーコは、いつからか尚に恋心を抱くようになっていた。母親が自分を不破家に預けっぱなしで仕事に打ち込んでいたため、愛情が欲しくて一番近い存在の尚に依存していたのかもしれない、と今は思うこともある。

尚は小さな頃から格好良くてやんちゃで人気のある存在だった。思春期を迎えると尚は学校内外関係なくもてまくり、ファンクラブが出来る頃の人気っぷりに。そんな尚のすぐ傍にいられる事はキョーコの喜びでもあったが、取り巻きの女の子たちに妬まれ恨まれ、ひどいいじめを受けたりもした。

それでも、ミュージシャンを目指す尚と共に全てを捨てて東京に出てきて、短大に通いながらバイトをこなし、尚の夢を支える。それがキョーコにとって何よりの生きがいで、自分の生活すべてを尚に捧げることに何の疑問も持たなかった。
生活費を稼ぎ、身の回りの世話を焼き、ライブには時間が許す限り駆けつけて、後ろのほうからそっと見守った。

尚のメジャーデビューが決まったのはキョーコが就職する少し前のことだった。
お互いの夢が叶ったのが嬉しく、またこれから本格的に尚のスターへの道を支えられる、とキョーコが期待に胸を膨らませて決意を新たにした頃。キョーコはライブ上がりの尚を待つ間に、尚の取り巻きの少女たちの会話を聞いてしまったのだ。

「あああん、尚が遠い存在になっちゃいそうでちょっと悲しい!」
「でもさ、うちらの尚がスターになったら嬉しいじゃん」
「だけど…今までみたいに一緒に飲んだり出来なくなるかも~」
「そうなんだよねぇ…あーん、私もお持ち帰りして欲しかったのに」
「あー、ダメだよ抜け駆けは!」
「抜け駆けしたくても尚って祥子さんと一緒に住んでるんでしょ?」
「マジで?」
「うん。だってメジャーデビューにこぎつけたのも祥子さんのおかげだって尚言ってたもん」
「うう~~~悔しい!でも祥子さんって尚好みの大人の女の人だからな…悲しいなぁ」
「他にお持ち帰りされたって自慢してる子も巨乳の子ばっか。まあ、尚は遊びみたいだけど」
「なに人の胸見てんのよ!どーせあたしは胸ないもん!…あ、でもだったらあの女は?」
「あの女って?」
「いるじゃん。地味ーなさ、いっつも尚の後ろにいるキョーコって女。一緒に住んでたんじゃないの」
「ああ」
「尚も結構普通に話しかけてるみたいだし」
「家政婦みたいなもんだって」
「え?」
「前にさ、他の子が尚に直接聞いたんだ。そしたら、家政婦みたいなもんだって言ってた。女とは思ってないってさ」
「なーんだ。そうなの?」
「うん。前はあの子と一緒に住んでたらしいんだけど。もう捨てたって笑ってたよ」
「えーー。なんかそれ、ちょっとひさーーん」
「ね。でもまああんなのが尚の周りにいたらさ、ちょっと不気味じゃん」
「まーね」

頭が真っ白になり、自分の心臓の音だけが体中に響き渡る。確かにここしばらく尚は2人が住む部屋に戻ってきてはいない。いや、たまに戻ってきている形跡はあるのだが、単純に荷物を運び出しているだけのようだ。尚の荷物はもうほとんど部屋には残っていない。
キョーコは非難の声を上げる周囲も耳に入らず、ふらふらと尚の控室に入っていた。

「お前、なんだよ勝手に入ってくんなよ」
周りにバンドメンバーもいる状態で、戸口に立ち尽くすキョーコを尚はなじった。尚の横には祥子が足を組んで座り、不思議そうにキョーコを見ている。
「わたしは…ショーちゃんの家政婦なの?」
キョーコの普段出さない低い声に尚は少し気圧されたが、すぐに口の端をゆがめると平然と答えた。
「家政婦以外だったらなんだって言うんだよ。最近俺はあの部屋に帰ってもいねーだろ。家政婦って言うかもう他人じゃねーの」
「祥子さんがいるから…もういらないの?」
「もうっつーかさ、大体お前が勝手についてきて好きで俺の世話を焼いてたんじゃねーか。俺は頼んだことねーよ」
「……」
「これからメジャーデビューしてスターになるって俺の周りにお前みてーな地味で色気のねー女がいても場違いだしな。お前就職決まってんだろ?お前はお前らしく1人で地味にやれよ」

じゃあな、と言い捨てると尚はギターを担いで部屋を出て行く。祥子や周りのバンドメンバーも少しキョーコを気にしながらも部屋を後にし、キョーコは1人そこに残された。


「私、そうされてようやっと気がついたんです。自分1人で空回りしてただけだったんだって」
「そうか…」
蓮はバカにするでも呆れるでもなく、最後まで静かに話を聞いてくれた。それだけでキョーコは少し胸のつかえが取れた気持ちになる。
考えてみれば、尚との間に起きた事を人に話すのはこれが初めてだ。自分で振り返ってもあまりに馬鹿げていて、人に話すつもりなどなかった。けれどそうやって自分の内側に抑えている事が、ごちゃごちゃとした感情を抱えてどこにも発散できない状況を作っていた。


「いやってほど思い知って…バカだった自分が本当に情けなくて……眠れないのはきっと、自分のバカさ加減に呆れて怒りを覚えているからかと」
「それが復讐ってことにつながるの?」
「そうです。一番バカだったのは私ですけど…やっぱりあいつにはほえ面かかせてやらないと気が済みません」

キョーコはめらめらと燃え立つ炎を背中にしょって、きっぱりと言い切った。


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