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まどろみから覚めて(18)


こんばんは!ぞうはなです。
今週来週、仕事の山がエベレスト級です… 心の余裕もないため、少し更新が停滞すると思われます。
ちゃんと生きてますのでしばらくお待ちくださいませ~~~。





『お前今、どこにいんだよ』

キョーコの頭の中が一瞬で沸騰する。
電話を通して聞こえてくるのは聞き間違えようがない、先ほど久しぶりに会ったばかりの幼馴染の声だ。キョーコは携帯を耳に当てたまま凍りついたように立ちすくんだ。

『おい、聞いてんのかキョーコ!なんとか言えよ!』
向こうは電話を取ったキョーコの状況や気持ちなど丸っきり考慮の外に置いた苛立ったような声を上げる。

「…何時だと思ってんのよ」
やっとのことで絞り出した声はいつもより低い。
『お前、人の聞いてることに答えろよな!今どこだよ』
「どこでもいいでしょ。そんなの聞いてどうしようって言うのよ」
『家じゃねえな』
「……」
どこまでも勝手な男だ。キョーコは怒鳴りたい気分を抑えて相手の言葉を黙殺した。いつだってそうだった。いつだって自分の事はそっちのけで振り回されて傷つけられて…

『電車、終電まで止まってただろうが。けち臭いお前のことだからタクシー使うなんて考えもしねーだろ。どこにいんだよ。さっきのあのチャラ男と一緒か?』
「チャラ男って何よ、私の事はともかく先輩のことまで悪く言わないでくれる?ああ、ご自慢のルックスで勝ち目がないからひがんでるのね」
『そんな訳ねーだろ!話を逸らすなキョーコ、お前今家じゃねーところにいるだろ!』
「だからなんなのよ」
キョーコの、電話を持たない方の手は固く固く握りしめられてふるふると小さく震える。
「こんな非常識な時間に電話してきたと思ったらそんなくだらないこと聞いてどうするつもり?私はもう、あんたには関わらないって決めたの。あんただって地味で重い女は嫌いなんでしょ?そんあ私がどこにいようとあんたには関係ないでしょ?わざわざ電話してくるなんて頭おかしいんじゃない?」

一息に言い切ると、キョーコは躊躇なくぷちりと通話を切った。
しばらく険しい顔で立ち尽くしていたが、やがてその手の中で再び携帯がぶるぶると震え始める。「んもう…!」と吐き出して着信を切ろうと携帯を開いたところで、戸口から急に声がかかってキョーコは飛び上がった。
「最上さん、どうした?」

がばりと振りかえってドアの方を見ると、ドアからは廊下の明かりが漏れてその中に蓮のシルエットが浮かんでいる。
「ひゃっ、ひゃい!な、なんでもありません!」
蓮は静かに薄暗い室内に入ってくるとキョーコがわたわたと電話を切るのを見守った。
「なんだか怒鳴るような声が聞こえたけど大丈夫?」
「はい!大丈夫です!すみません、非常識なバカが電話かけてきて…!」

言っているそばから再び携帯が震える。蓮はちらりとキョーコの携帯画面に目を走らせた。
「もう!電源切っちゃいます」
キョーコは宣言して携帯の電源を落とした。とりあえずほっと息をつき、そういえば、と思い出す。トイレに行こうと、部屋のドアを開けたまま電話してしまっていたのだ。しかも途中でエキサイトして大声を上げてまでいる。

「申し訳ありません、泊めていただいているのにこんな真夜中に大声上げて起こしてしまいまして!」
キョーコは深々と頭を下げたが、蓮は穏やかな声で言葉を返す。
「いや、起きてたから大丈夫だよ」
そしてベッドサイドに歩み寄ると、そこに置かれているライトのスイッチを入れた。ライトは柔らかな黄色い光を灯し、寝室の中がほのかに照らされる。
「もしかして最上さん起きてたの?」
「…すみません……その、よく眠れなくて」
「ああ、まだ眠れないのは続いてるのか」
蓮はさっきまでキョーコが寝ていたベッドの端にゆっくりと腰を下ろす。キョーコが少しベッドに近づくと、蓮は自分の横を示してキョーコを座らせた。

「でも最近は…少しましになってたんです」
「そうなの?」
「はい…少しは、なんですけど、合宿以来少しずつ眠れるようになって」
「そうか、それはよかったけど…やっぱり枕が変わると落ち着かないかな」
「はあ…」

キョーコは曖昧に答えた。しかしその迷いを見透かしたように蓮はキョーコに問う。
「今の電話は恋人から?」
「違います!恋人なんていません!!」
滅相もない、とキョーコは全力で否定した。
「そう?ここに泊まったことを誤解されたら申し訳ないんだけど…」
「だからあの、誤解される相手なんていませんから!」
「じゃあ」

蓮はキョーコの言葉が終わる前に言った。
「今の電話は誰から?」
「ただのおさ…知人です!」
「知人が今君がどこにいるかをそれほど気にするもの?」
「私もそれは訳が分からないんです」
「そして君も…ただの知人に怒鳴りつけるの?」

んぐ、とキョーコは黙った。

「もしかして、今のは今日会った君の幼馴染からじゃないの?」
蓮の口調は相変わらず穏やかで何も変わっていないはずなのに、なぜかキョーコは尋問されている気分になる。
「……」
嘘をついて否定の返事をすることも潔く肯定の返事をすることも出来ず、キョーコは沈黙を保った。

「やっぱりそうか」
ふう、とひとつため息をついて蓮は足を組んだ。
「…君は今日のあの店のあたりに行ったことあるだろう?」

キョーコは自分の手をじっと見つめていたが、やがて口を開く。
「…そうですね。私、あそこに通ってました。ちょっと前まで」
「あの先のライブハウスだよね?」
「はい」
「さっきの彼のライブを聞きに?」
「…はい」
「単なる幼馴染ではない…かな、彼は」
「いえ…もう、私の中ではあいつは単なる他人です」
キョーコは語気強く言い放った。蓮が伺い見た表情も、瞬時に険しくなったようだ。

「"もう"…ね…」
蓮はキョーコの表現をとらえて呟いたが、キョーコは怒りが募ってきたのか耳に入らないようにぶつぶつと続ける。
「あんな奴と関わり合いになんてなりたくないのに、電話かけてくるなんて…全くもう、何考えているのかしら」
いい加減にしてほしいわ、とキョーコは蓮の存在を忘れてしまったようだ。

「誰のおかげで毎日頭痛と戦ってると…」
キョーコのセリフに、黙って聞いていた蓮の眉間がぴくりと寄った。
「そうか…君の寝不足もあの男のせいなのか」
静かな声に、キョーコは慌てて口をつぐんでおそるおそる横に座る蓮を見上げた。自分を見おろしてくる蓮はいつもの笑顔のようにも見えるし、黄色く照らされているからかいつもよりも作り物のような印象も受ける。

しまった…うっかり怒りにまかせて…ばか、キョーコ!
こんなみっともないこと暴露してどうするのよ…!

「いえあの…」
焦って取り繕おうと口を開いたキョーコだったが、あっさりと蓮はそれを遮る。
「さて、いくら明日が休みだと言ってもこんな時間まで起きてるのは女の子の体にも肌にもよくないね」
「え?は…はい…?」
「さ、どうぞ」
言うなり蓮はキョーコを軽々と抱きあげてベッドへ転がした。
「きゃっ…つ、つるがさ……?」
キョーコはころりとベッドに投げ出されると慌てて体勢を直して起き上がろうとした。しかし、上半身をなんとか起こして蓮の方を見た瞬間に動きも言葉も凍りつく。

蓮はキョーコの隣に腰を下ろして両足もベッドに乗せ、うすい掛け布団を2人の体に引っぱり上げようとしている。
「敦賀さん一体…?」
「君は俺の隣にいるとよく眠れるみたいだから、隣で寝ようか」

にこりと作られた蓮の笑顔は、ますます作り物のようだった。


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コメントコメント


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蓮さん、まさかの無自覚嫉妬でそんな大胆な!←とかいってほんとに寝るだけー…な気がしないでもないw
なのに、キョコさんは動揺するくせにあっさり寝落ち→そんなキョコさんに悶々として蓮さんの方が寝不足とか、ふたりしていつの間にか爆睡とか…?

妄想が広がりますー

霜月さうら | URL | 2014/03/18 (Tue) 09:17 [編集]


お仕事お忙しいんですよね!エベレストなんですよね!
エベレスト。。。

わかっています。無理なさらないでくださいませ。

でも、でも、でも、、、、
続きが読みたいです(>_<)

ゆうこ | URL | 2014/03/18 (Tue) 09:33 [編集]


なんだか蓮さん壊れてきていませんか?

こんにちは。大変お久しぶりにコメントを書かせていただいています。実はぞうはな様のオフィス系パラレルが大好きなので、お話がある程度溜まるまで待っていました。ここ数日でまとめて読ませていただきましたが、二話前くらいまでは「いい先輩の敦賀さん」だったのにこのお話は性格崩壊?していませんか。ますます楽しみです。エベレストを早く下山していただいて、続きの更新を是非お願いします。←読み専門のわがままでございます。どうもすみません。ありがとうごさいました。

Genki | URL | 2014/03/19 (Wed) 19:02 [編集]


Re: タイトルなし

> 霜月さうら様

出ましたよ、無自覚嫉妬。
そしてでも、お互いに無自覚なのでよく分からないシチュエーションです。
ふふふ、様々なパターンの妄想ありがとうございます。さて、どれだ・・・!

ぞうはな | URL | 2014/03/19 (Wed) 21:36 [編集]


Re: タイトルなし

> ゆうこ様

ありがとうございますー!
続きをお待ちいただいてありがとうございます。
なんとか、なんとか遅くても更新はどこかでしますので、しばらくお待ちくださいませーー!

仕事の方は手を差し伸べていただいて、エベレストがキリマンジャロくらいになりました……
はふう…

ぞうはな | URL | 2014/03/19 (Wed) 21:39 [編集]


Re: なんだか蓮さん壊れてきていませんか?

> Genki様

溜めていただいた割には話の進みが遅くてすみません…(^^;
蓮さん、キョコさんの事情が明らかになるにつれて挙動がおかしくなってきています。
これで無意識なのだから恐ろしいですね。

とりあえずは下山に向けて黙々と頑張ります。
すみません、しばしのお待ちを…!

ぞうはな | URL | 2014/03/19 (Wed) 21:41 [編集]