SkipSkip Box

マッチ売りの少女

今朝はちょっと肌寒いなぁ、と思ったところからなぜか妄想しました。
題材が題材だけに同じネタでのお話をすでにどなたかが書かれていたらごめんなさい、です。



夕暮れの街は暗くなる空にも負けずに鮮やかに彩られ、クリスマスムード満点です。
道を行きかう人は家族連れも恋人たちも皆楽しく幸せそうに見えます。

道の端っこにぽつんと立つ少女は、その存在を行きかう人々から忘れられてしまったようでした。
粗末な服に薄いショールを羽織って、路地の入り口で寒そうに震えています。腕にかけた大きい籠には、マッチの箱がたくさん入っていました。少女は最上キョーコと言いました。マッチを売り切るまで帰ってくるな、と同居人のショータローに家を追い出されてしまったのです。

(ううう、寒いなあ…)
キョーコは両手に息を吐きかけて温めようとしましたが、路地を吹き抜ける風の冷たさのほうが勝っていました。

(早くマッチを売って、ご馳走を買って帰らなくちゃ!ショーちゃんが待ってるわ!)
体は冷え切っていましたが、キョーコの胸は温かくなっていました。
マッチを全部売り切ったら、売り上げでご馳走を買って帰って、一緒にクリスマスパーティーをしようとショータローと約束したからです。

でも、なかなかマッチは売れません。
全部買ってくれる、というオジサンはいましたが、キョーコごとお買い上げしようとしたので、丁重にお断りしたのでした。ショータローのところに帰れなければ、マッチが売れても意味はありません。

「マッチはいりませんかー」
声を上げてみるものの、マッチを買ってくれそうな人はいません。こちらを見る人はいても、怪訝そうにチラリと目線をくれるだけでした。

(マッチに火をつけたら、少しは温かいかなあ)
どんどんと冷えてくる体を震わせてキョーコは考えましたが、慌てて頭を振りました。
(だめよキョーコ!これは大事な売り物なんだから!!)
真面目なキョーコにはマッチを自分のために使うということは出来そうにありませんでした。

(ショーちゃん、心配してるかな…)
空は真っ暗になっていました。あまりにマッチが売れないので途方に暮れたキョーコは、俯いてため息をつきました。そのまましばらくぼーっとしていましたが、ふと気がつくと、視界に黒い男物の靴が入っていました。靴の先端はこちらを向いています。
(お客様かしら?)
キョーコは慌てて顔を上げました。普通に顔を上げても、お客様の胸しか見えません。見上げるほどに首を上げて、ようやく前に立っている人の顔が見えました。キョーコはお客様の顔をしげしげと見つめてしまいました。街の明かりに照らされたその顔は整っている上に妖艶な雰囲気がありました。着ている外套は真っ黒でしたが高級そうです。
(なんて綺麗な顔をした男の人なのかしら)
気がつくと、お客様もキョーコの顔をじっと覗き込んでいます。キョーコは慌てて声をかけました。
「あ、あの、じっと見てしまってすみませんっ。マッチを、ご入用ですか?」
「あ、ああ…」
お客様はハッと気がついたように返事をしましたが、片手で口を覆って目線をそらすとまた黙り込んでしまいました。
「あの、お客様…?」
「うん、ごめんね?こんな寒いところで1人でマッチを売っているの?」
お客様は何もなかったかのように優しい笑顔でキョーコに話しかけてきました。
「あ、はい…全部売れないと帰れないので…」
優しい瞳に見つめられると、キョーコの口からぽろぽろと言葉がこぼれてきてしまいます。
お客様はキョーコの返事を聞いてその美しい眉を寄せ、長い腕を伸ばして、大きい手でキョーコの頬にそっと触れました。
「可哀想に…そんなひどいことを君にさせるのは誰なんだい。ほら、こんなに冷えてしまっているよ」
キョーコはその手の柔らかさと温かさに一瞬ポーッとなりかけましたが、慌てて弁明しました。
「あ、いえ、ショーちゃんは家で待っててくれてるんです!…ぶっきらぼうですけど、本当はいい人なんです」
キョーコはうっすらと頬を染めて、幸せそうにショーちゃんのことを思い浮かべています。
「ふぅん、いい人がこんなこと、させるのかな…」
お客様はポツリと呟きました。キョーコはただでさえも寒かったのに、更なる冷気がお客様のほうから吹いてくる気がして、思わずぶるりと身震いをしました。

「君のマッチを、一つ買おう」
お客様がそう言って、コインを差し出しました。キョーコは慌ててコインを受け取ると、籠の中のマッチを一つ、両手でお客様に渡そうとしました。すると、なぜかお客様はそれを受け取りません。不思議に思ってキョーコがお客様を見上げると、お客様はにっこりと笑いました。さっきの優しい笑顔とは違う笑みに、なぜかキョーコは少し恐怖を感じました。

「そのマッチを1本、擦ってごらん」
キョーコは首を捻りながらも、おずおずと箱を開け、マッチを1本取り出すと箱にこすり付けて火をつけました。マッチはその先端に揺らめく小さな炎を上げました。

すると、マッチの炎に照らされて、ふんわりと空中に薄黄色い光の球が浮かび上がりました。中に、何かが見えます。
キョーコは思わず球の中を覗き込みました。
(これは…うち?)
球の中に見えていた景色は、キョーコの部屋の中のように思えます。すると、マッチの火がふっと消えてしまいました。黄色い球もかき消すようになくなりました。
「あっ…」
キョーコは思わず声を上げてしまいました。慌てて口をつぐんでお客様のほうを見ると、お客様は笑みをその顔に浮かべたまま、キョーコの手の中のマッチを見て、黙って頷きました。そこで、キョーコはもう1本マッチを取り出して火をつけました。風が当たらないように手で囲いながらマッチを慎重に掲げると、また黄色い球が浮かび上がりました。

やはり、見えたのはキョーコの部屋の中でした。
(ショーちゃん、いるのかな?)
キョーコが同居人のことを思い浮かべると、景色はリビングから動いていって、寝室の方へと移動していきます。
(待ち疲れて、寝てるのかな)
キョーコが不安になると、閉じているドアをすり抜けるようにして、寝室の中が見えました。

そこにはキョーコの大好きなショータローの姿がありました。
しかし、ショータローの横にはキョーコの知らない女の人の姿。二人はベッドの中にいて、女の人はショータローの胸に頭を預けています。
「ねぇ~、大丈夫なの?ショーの言ってた同居人、そろそろ帰ってくるんじゃないの?」
甘えたような女の人の声が聞こえてきました。
「はっ。あいつにはマッチが売れるまで帰ってくんなって言っといたから、今日は帰ってこねーんじゃねーの?」
せせら笑うようにショータローが答えます。
「いまどきマッチなんて売れるわけねーのにな。ホントあいつはおめでたい頭してるぜ」
マッチは燃え尽きて消えました。黄色い球も、またかき消すようになくなりました。

キョーコは無言で立ち尽くしていました。
その表情は呆然としています。しかし、しばらくするとその顔は悲しみに変わっていきました。涙がこぼれるかと思いましたが、じっと耐えています。それから、その表情は段々と怒りに変わっていきます。今までの色々なことを思い出したのでしょうか。

すると、黙ってキョーコを見ていたお客様が、キョーコが落としたマッチの箱を拾い、キョーコに差し出しました。キョーコは箱からマッチを一掴み取り出すと、それらに一気に火をつけました。マッチの束からは高い炎が上がりました。

ひときわ大きい黄色い球が浮かび上がるや否や、キョーコはそこに向かってありったけの大声で叫びました。
「こんんの、バカショーーーーーーー!!あんたなんて、地獄に落ちればいいんだわー!!!」
ショータローの部屋には大声とともに冷たい突風がごごうっと吹き込み、二人はパニックでベッドから転がり落ちました。

「なっ、今の声、キョーコ…?」などという声が聞こえた気がしましたが、キョーコは構わず手を広げてマッチの束を地面に落とすと、「ふんっ」と靴で火を消しました。

火が消えると、キョーコの怒りも収まったようです。ふぅ、とため息をついて肩を落としました。
ずっと見ていたお客様が、おもむろに口を開きました。
「では、そのマッチを全部売ってくれるかな?」
「え?」
キョーコはびっくりして顔を上げました。お客様の顔には先ほどの優しい笑みが戻っています。…いや、優しいですが、なんかちょっとさっきとは違うかも。目がそらせず、そして答えられずにキョーコが黙っていると、お客様はキョーコの前に片膝をつきました。
「この籠の中全部と、それからこのマッチを、俺に売ってくれませんか?」
そう言って、お客様はキョーコの手を取りました。
「え?え?私は…マッチじゃないですよ?」
「いや、俺の心に火をつけられるのは君だけだよ」
そう言ってお客様はキョーコの手の甲にキスを一つ落とすと、思考停止に陥ったキョーコの体を抱き上げました。

「…きゃあ!いやちょっと待ってください!!」
「待たないよ。君だって、帰るところないんだろう?」
「だ、だからと言ってお客様!!」
「そんな他人行儀な…蓮って呼んで」
「じゃ、じゃあ、蓮さん……って、そーじゃなくて!きゃーーだれかーひとさらいーー」
「人聞き悪いなあ。買ったんだってば」
「売ってませんーーーーーーー非売品ですーー」

二人の声は、街の喧騒の中に消えて行きました。

関連記事

PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する