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まどろみから覚めて(15)

こんばんは!ぞうはなです。
お話を更新しようとしてタイトル入力しててふと気付く。

え、もう(15)まできちゃった?

のんびり進めようとしたらそういうのんびりになったようです。
ごめんなさい、ゆる~~くお付き合いくださいませ…






「さっき店の前で会ったのは…友達?」
男の話題に触れた途端表情を変えたキョーコを見て、蓮は少し後悔した。

ただ、あの男を見ていたキョーコの目も、あの男と別れてこの店に来てからたまに見せる表情も、普段のキョーコの屈託ない笑顔とは違う、なにやらおどろおどろしいオーラに包まれているとすら思えるほど負の感情に満ちていた。
単なる友達ではないだろう、ということは想像に難くない。

気になってもあえて触れないというのが優しさや気遣いだと思うのだが、今自分と2人でいる時であってもキョーコは思い出してあの男への思いに囚われている。なぜだか蓮はそのことにもやもやして触れずにはいられなかった。

「友達……」
はあ、とキョーコはため息をついた。
「なんて言うんでしょうか。ああ、世間で言うところの幼馴染ですね」
なんでもないというように笑顔を作るが、ややぎこちないのが逆に痛々しい。
あのお互いに全く遠慮しない言葉のやりとりは長い付き合いによるものか、と蓮はとりあえず1つ納得した。

「幼馴染ね…なるほど」
キョーコは緊張した顔で様子を伺うように蓮を見ている。あまり深いことを聞かれたくないのか、と蓮は心の中で自分の気持ちに折り合いをつけた。

「久しぶりに会ったの?」
「そうですね…でもまあ、数ヵ月ぶりってところでしょうか」
「ああそうなんだ、交流はあるんだね。親しそうだったし」
「…親しいとは言えませんけど、付き合いだけは長いので」

キョーコの返答は当たり障りのない内容に終始した。しかし状況だけでも分かった事はいくつかある。

おそらくキョーコはあの店の近くに来たことがあったはずだ。きょろきょろしていたのは珍しいからではなく、自分の知っている方へと蓮が歩いていくことに驚いたか戸惑ったかだろう。
そして、あの男はギターを背負っていた。ということは、あの店の先にあるライブハウスにきた可能性が高い。

キョーコはあの男と親しかったのだろう。
そして、よくあのライブハウスに男のライブを聞きに行っていた。

おそらくそんなところだろうと蓮は結論付ける。
しかし、今日見た限りではキョーコはあの男のことを恨んでいるか嫌っているか憎んでいるか、いずれにしても負の感情を抱いているように見えた。そして相手の男のあの表情も…。

不安そうに自分を見ているキョーコに気がつくと、蓮はにっこりと笑ってデカンタを取り上げた。
「こんな人が多いところで知り合いに会うなんて、偶然って面白いね」
「ほんとにそうですね」
「ピザまだ食べるよね?パスタもそろそろ来るだろうし。ワインのおかわりは?」
「敦賀さんもまだあまり召し上がってませんよね!わ、ワインはあとちょっとだけにしておきます」
「そう?ああ、最上さんが好きなだけ食べていいんだよ」
話がそれてキョーコはほっとしたようにワインに口をつけた。

まあ、俺が首を突っ込むことじゃないよな…

気が少し楽になるかと思ってアルコールを勧めてみたが、酔う気分でもないらしい。いや、もしかしたら自分に対して警戒しているか、様子を見るに緊張しているのだろうか。ぎこちない笑顔を作るキョーコに答えながら、蓮は心の中でそう思った。


「あの、本当にすみません。ご馳走様でした…」
店を出て、キョーコは蓮に頭を下げた。当然のように会計を蓮が持ち、少しでも払うと申し出たのだがにっこりと断られてしまったのだ。
「これくらい、払わせてもらわないと先輩として立場がないよ」
「それでも、買い物にまで付き合ってくださったのに」
「俺も君もあの店に用事があって、一緒に行っただけのことだ」

キョーコは蓮につられて笑顔になるともう一度頭を下げた。
「ありがとうござます。本当にご馳走様でした。すごく美味しかったです!」
「口にあってよかった」

2人は駅に向かって歩き出した。
「それにしても、敦賀さんあれで足りましたか?私と同じくらいしか食べてなかったような…」
「ああ、俺あんまり量食べないから」
「ええっ!食べないって…こんなに背が高いのに大丈夫なんですか?」
「大丈夫。これでちゃんと生きてきてるよ」

信じられない、と頭を振ったキョーコだが、駅が近づくとその周辺の様子がおかしいことに気がついた。
「なんだか…ものすごく人が多くないですか?」
「そうだね。何かあったのかな」
2人は少し歩調を速めて、ハンドマイクでなにやらアナウンスしている駅員へと近づいていった。


『運転再開のめどはまだ立っていません!振り替え輸送をご利用ください!』
駅員は繰り返し繰り返しハンドマイクで叫ぶ。周囲は人が押し寄せごちゃごちゃに混み合い立ち止まっているのも難しいくらいだ。中には駅員に詰め寄るサラリーマンの姿が見えたりもして、群集の精神状態はあまりいいものではない。

キョーコと蓮は人々が押し合う場所から少し離れたところでぽつりと並んで立っていた。スマホをいじっていた蓮が画面から顔を上げてキョーコのほうへと視線を向ける。
「うん、今日は復旧は難しそうだね」
「…そうなんですか……」
キョーコは腕を組んでむむむと考え込んでいる。

キョーコが通勤に使っている路線は運休していた。
つい数十分前に、踏み切りで立ち往生していた車と電車が接触したという。幸いけが人は出なかったものの、電車にぶつかった車がそのまま線路へ押し出され大破して破片が散乱し、電車も破損しているため、片づけが終わって運行再開するまでにはかなりの時間がかかると予想されている。
既に時刻は21時を回って、終電までの短い時間に電車が動き出すとは思えなかった。

キョーコから聞きだした自宅の最寄り駅はここから8つ目。
他の路線の駅がそばになく、ここから歩いて帰るのも困難だ。かといって。

蓮は視線をバスターミナルの方へと巡らせた。
バス乗り場もタクシー乗り場もとぐろを巻いてさらに続くくらいの人の列ができている。臨時のバスも出ているようなのだが金曜日の夜の人の多さをさばき切れるような状態ではないようだ。

「どこかで時間をつぶそうか」
事故が発生したばかりで混乱しているが、しばらく時間を置けばタクシーを捕まえる事は出来るかもしれない。幸い明日は休みだ。
考えながら蓮がキョーコに話しかけると、やや下向きに考え込んでていたキョーコははっと顔を上げて慌てて両手を振った。
「いやあのそんな!敦賀さんはちゃんとお帰りになれますよね?どうぞどうぞ、私は大丈夫ですから!」
「いや、それはできないよ」
「そんなご迷惑をおかけする訳にはいかないですよ!大丈夫です、タクシーだってバスだって列に並んでいればいつかは乗れますし」

少し腰が引けながらも必死にキョーコは蓮を帰そうとする。
確かに礼儀正しく遠慮深いキョーコの性格を考えれば、買い物に付き合わせた(とキョーコは思っている)先輩を、自分のトラブルにつきあわせる訳にはいかない、と考えるのは十分理解ができる。

理解はできるけど…だからといって放っておく訳にはいかないだろう?

蓮はふと気がついた。
この、状況的に放っておけない、というのは合宿の深夜、ロビーでキョーコに会った時とまったく同じだ。なにかそういう状況に追い込まれるような関係性なのか、と蓮は内心苦笑したが、意外とキョーコに対して巻き込まれるのは不快でもなく受け入れられる。

蓮は不安げに自分を見上げるキョーコをじっと見おろした。

この子は…男に対して甘えることを当たり前だと思わない子だな。
それに、人に対して礼儀と常識をわきまえているように思えるし…口も堅そうだし…だったらまあ、いいかな?

蓮の頭の片隅に先ほどちらりと見た男の金髪がよぎったのかどうかは定かではない。
しかし次の瞬間には蓮は自分の意志をしっかりと確認し、笑顔でキョーコに話しかけていた。

「とりあえず、今並んでも疲れちゃうだけだから時間をつぶそう」
そして、少し困惑したキョーコに構わず、先ほどと同じようにキョーコの肩に手を当ててキョーコを促し、混雑した駅を後ろにして歩き始めた。


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