SkipSkip Box

まどろみから覚めて(14)


こんばんは!
ぞうはなですよ。

早速ですが、更新ですよ。





「じゃあ、6ケース、30個だね。いつも通り社君ちに送ればいいかな」
「はい、お願いします」
「新入部員が入ったんじゃ、社君も張り切ってるだろ」

伝票に書き入れながら言う椹に、蓮は苦笑気味に笑って返事をする。
「そうですね。筋がいいって喜んで、あれこれ詰め込んで教えてますよ」
「今の子だろ?初心者なのかい?」
「ええ、もう1人入ったんですけどそっちは経験者で…今日来た最上さんは初心者です」
「そうかそうか。しかし驚いたね」
「何がですか?」
蓮は不思議そうに椹の顔を見た。
「いや、敦賀君が女の子と一緒に来るってのがさ」
予想外の返答に蓮は言葉に詰まってしまった。特に深い意図があってこうなった訳ではないが、どこか自分でも不思議に思っている部分があったらしい。

「敦賀君ってすごくもてそうだけど、なんか恋人を連れてくる気がしなくてね。ああ、俺が勝手に思ってるだけだよ」
椹は片手をぶんぶんと振ってフォローを入れた。
「いえ…彼女と付き合ってるわけでもないですし、社さんにも頼まれてたまたま一緒に来ただけです」
「ああ、見てて分かったから納得したよ。いや悪い、今言ったことは忘れてくれ。はいこれ、2~3日で届くと伝えて」
椹は戸惑った様子の蓮に笑いかけると、書き終わった伝票の控えと領収書を蓮に渡した。
「ありがとうございます。またお願いします」
「こちらこそ、毎度どうも。あと新しいお客さんの紹介もありがとう」
蓮は軽く頭を下げると店を出た。階段へ向かいながら椹に言われたことを思い起こす。

確かにな…いつもの俺なら、社さんに頼まれたって女性と2人でどこか行こうなんて考えないな。

周りの女性と均等に接するためには、どんな名目であっても誰かとの距離を縮めることはできない。
特に今回、キョーコには奏江という存在がいるのだ。テニス経験者の彼女ならキョーコの買い物へのアドバイスも出来るだろうし、何よりキョーコは奏江と出かけるのを喜ぶに違いない。
それを分かっていてなお、自分は社の頼みを特に反論することなく受け入れた。なんらかの自分の思いがそこにあったのだろうか。考えてみるが、漠然としすぎて良く分からない。

気まぐれは…よくないよな。気をつけないと…

首をひねりながら階段を下りた蓮の目に、キョーコの後姿が入る。
声をかけようとして蓮は気がついた。キョーコは誰かと会話をしているようだ。蓮は一度足を止め、ゆっくりとキョーコの後ろに近づいた。


時は数分さかのぼる。

道路に出た瞬間びくりと動きを止めたキョーコを、通りかかった金髪の男はちらりと目をくれてそれでも足を止めずに通り過ぎようとした。
「ショータロー……」
ほぼ無意識で口から滑り出た言葉が男の耳に入ったらしい。男は通り過ぎたところで足を止め、ゆっくりと振り返るとキョーコの顔をまじまじと眺めた。

「お前…もしかしてキョーコか?」
男がキョーコに声をかけてきたが、キョーコは固い表情で黙って男をにらむように見つめるだけだ。男は口元をゆがめるように笑うとバカにした声を出した。
「こんなところまで押し掛けて何の用だよ」
キョーコはこわばった表情のままそっけなく返事をする。
「誰が。今さらあんたなんかに用ないわよ」
「はっ。じゃあなんで…」
「自意識過剰なんじゃないの?私は全然関係ない用事でたまたまここに来ただけよ」

言葉を遮られて男もむっとした顔をキョーコに向ける。
「こんなところに用事なんてねーだろ。ったくよお、ストーカーかよ、お前」
「冗談じゃないわよ。誰があんたみたいなバカに!」
言い返そうと男が口を開いたところに、ビルの階段を下りてきた蓮が声をかけた。
「最上さん、お待たせ」

キョーコはびくっと体を震わせると慌てて体ごと後ろを振り返る。
「あ、いえ!」
「友達?」
聞かれたキョーコは露骨に嫌な顔で金髪の男に一瞥をくれた。
「いえ、単なる知人です」

ふん、と男は鼻で笑う。
「まあそうだな。俺にとっちゃお前は単なる知り合いだ」
「私にとったって同じよ」
「へえー、そうか?」
「なによ、言いたいことでもあるの?」
「べっつに」

ぽんぽんと言い合う2人をしばらく眺めると、蓮はにっこりと笑った。
「じゃあ最上さん、行こうか」
キョーコが下げているシューズの入ったビニール袋をひょいと取り上げると、さりげなく肩に手を添えてキョーコを促す。
「あ、はい!」
突然の蓮の行動に驚きながらも、それがあまりに自然でさりげないのでキョーコはなすがままだ。
「じゃあ、失礼」
蓮は笑みを浮かべたまま男に向かって軽く会釈をすると、キョーコと共に駅の方向へ向かって歩き出す。金髪の男はその姿を見ていたが、大きな声でキョーコに向けて言い放った。
「キョーコ!お前、自分の顔見てから相手選べよな。髪形変えたって、お前はかわんねーんだよ」

ふぬっ!と後ろを向きかけたキョーコだったが、蓮の顔が近づいてきて耳元でこそりと囁かれた。
「放っておくんだ」
え?と思わず見上げたキョーコに蓮は微笑みかけると、キョーコの肩に当てたままだった手に少し力を込めてキョーコの体を自分に近づける。
金髪の男は2人の後ろ姿を少しの間見ていたが、すぐにくるりと向きを変え、逆方向へと歩きだした。


「わぁ、美味しそうですね」
テーブルにピザが運ばれてきて、キョーコの顔がほころんだ。
「そうだね。熱いうちに食べようか」
蓮が手際よくピザをカッターで切り分けていく。

蓮とキョーコは駅に程近いカジュアルなイタリア料理店に来ていた。ポップな色調で明るい店内はにぎわっていてほぼ満席。カップルや女性グループの多い店内をキョーコはきょろりと見渡す。
「敦賀さん、よく来られるんですか?」

この店を選んだのは蓮だった。なにせキョーコは蓮との距離の近さに戸惑ってしまってあれこれ考える余裕もなかったのだ。食べ物の好き嫌いを聞かれて「特にない」と答えたら、気がついたときには店のドアの前だった。
「よく、ではないかな。一度来てピザが美味しかった印象はあるけど」
「そうなんですか」

蓮は切り分けた一切れをキョーコの取り皿に移し、自分にも取り分けるとキョーコの前の空いたグラスにデカンタからワインを注ぐ。「最上さんは結構飲めるのかな?」
「うーん、どうでしょう。飲めなくはないですけどそれほどたくさん飲んだことはないです」
「ああそうか、まだ二十歳になったばかりか」
「ばかりって程でもないんですけどね」

いただきます、と両手を合わせてピザを口に運んだキョーコは目をまん丸にした。
「ほんとに美味しいです!こういうのは自分じゃ作れないですね」
「最上さんは料理するんだ」
「はい!料理は好きなんです」
「ふーん…なんとなく、分かるかな」
「…それってどういう意味ですか?」
「いや別に」

キョーコはピザを一切れ平らげるとワイングラスを取り上げた。
考えてみれば蓮とちゃんと会話をするのは初めてだ。何せ、2人で話す機会は何回かあったというのに、毎回もれなく自分は寝てしまっているのだ。会話が弾むわけもない。

今日は隣じゃないからか、眠くならないし!大丈夫よね。

さすがに歩いているときはどんなに近くても眠らないし、そもそも近すぎて緊張するくらいだった。そしてこの店に入ってからはテーブルを挟んで向かい合わせに座っているからか、幸いなことに眠気は襲ってこない。

しかし眠くならなくても今度は別の事態がキョーコを困らせていた。
正面から見る蓮の笑顔は美しすぎて、つい見とれてしまうのだ。あまりまじまじと見るのも失礼だし、慌てて目をそらすのももっと失礼だし。さらに店内の女性がちらちらとこちらを覗き見ているのもすごく気になる。

なんか今日は…初めてのことばかりだな。

男性と2人でどこかに出かけるのも初めてならば、こうやって向かい合って2人で食事をするのも初めてだ。

だってあのバカとはそんなこと一度もなかったし…

考えたところで店員が空いた皿を下げに来た。その男性店員の金髪に近い髪を見て、ふとキョーコの表情が険しくなる。
キョーコを見ていた蓮が静かにワインを口にして、そっとグラスを置いた。そして両腕をテーブルの上で組むようにして乗せるとキョーコにゆっくりと話しかける。
「さっき店の前で会ったのは…友達?」

はっと上げたキョーコの瞳は一瞬揺らぎ、それから少し険しい顔でぎゅっと唇を引き結んだ。



関連記事

PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する