SkipSkip Box

まどろみから覚めて(13)


こんばんはー!
なんとなく、出来たので、珍しく連ちゃんの更新です…(こそっと)





なんだろう、ものすごく緊張してきた…!

目の前を行きかう人の波を眺めながら、キョーコは酸欠の金魚のように浅い呼吸を繰り返していた。
社の爆弾発言を受けたのはほんの数日前。なにやらあっさり予定が合ってしまい、金曜日であるこの日、キョーコは駅の改札傍の待ち合わせスポットで蓮を待っている。
蓮からは会社で待ち合わせればと言われたのだが、総務部でもそのルックスで女性社員の話題に上がるほどの蓮と一緒に会社の周りを歩ける訳もない。キョーコはあれこれと理由をつけて駅での待ち合わせを蓮に了承させていた。

あの美貌の長身がここに来て一緒に歩くことを考えるだけでも緊張と恥ずかしさで帰りたくなる。キョーコは片手を胸に当てると何回か深呼吸をして懸命に気持ちを落ち着かせた。

一緒にって言っても、社さんが提案してくれたからお店に同行してくれるだけじゃないのよ…!

キョーコが今蓮を待っているのは、キョーコの通勤路線の途中にある駅。蓮が朝乗り込んでくるターミナル駅だ。
実はキョーコにとってこの駅は、かつては少し特別な駅だった。しかも、2人が待ち合わせているのは繁華街のある表の方ではなく、にぎわうこの街の中でも少し人の少ない裏側。今では思い出しても忌まわしい感情しか湧いてこないが、少し前まではこの裏側の改札をよく通ったものだとキョーコは改めて周りを見回した。

自分の立っている場所から見える街並みも、少し来ない間に何軒か店が入れ代わったりして様子が変わっている。数ヶ月来なかっただけでこの変化なので、きっと1年も経てばだいぶ変わってしまうのだろう。

周りは変わっていくのに私は…いつまで同じところに立ってるのかな……?

少し考え込んだその時、「ごめん、待たせたね」という低いがよく通る声が降ってきた。
慌てて顔を上げると、すでにそこには蓮が立っている。サマースーツに黒いシンプルなカバンを提げた蓮は腕時計を見るとにこりと笑った。
「ああそれでも連絡した時間には間に合ったか。ごめんね、急に電話が入っちゃって」
キョーコが会社を出る頃、緊急で顧客から電話が入ったので遅れる、というメールが蓮から届いていたのだ。
「いいえ、お仕事お疲れ様です。いつもお忙しそうですよね」
「今日は大丈夫なはずだったんだけどね。さて、早速行こうか」

蓮は先に立って歩き出す。人ごみを抜けて歩いていく背中を見ていると、キョーコは少し不思議な気分になった。

なんか…変なの。
こうやって男の人と2人で歩くことがあるなんて、想像もしてなかったな…

蓮は先を行ってしまうように見えるが、たびたび振り返ってキョーコがちゃんとついて来ているかどうかを見てくれているようだ。集団で歩く人々が来ればやり過ごし、はぐれないようにと気を遣ってくれている。

数分進んだだけで蓮とキョーコの行く道には少しずつ人が少なくなってくる。
キョーコは周りをきょろきょろと見回し、進むにつれ内心の落ち着きをなくしてきていた。

こっちの方って……やだな、なんでだろう。
ううん、関係ないんだから、全然関係ないんだから…

ふと振り返った蓮がキョーコの様子を察知したのだろうか、声をかけてきた。
「この辺って来た事ないかな?表のにぎやかな方とはちょっと雰囲気が違うよね」
「あ、はい!いえ、前に通った事はあるんですけど」
「そう?お店はすぐそこなんだ」
蓮が指し示した方には1階に中古楽器店が入るビルがあった。そしてなるほど、興味がなければ全然気がつかないが、2階の店舗の看板には大きくラケットの絵が描かれている。

「こんなところにテニスのお店があるんですね…」
「そう。なかなか気がつかないけど、結構知られてる店なんだ」
へえ、と感心したように呟いたキョーコは、ちらりと視線を2つ隣のビルへと走らせた。そのビルには地下に下りる階段があり、その前には大きめの黒いボードに何枚もカードが留められ、派手な色であれこれと書きつらねられている。そして、地下階から低く響くような楽器の音がキョーコのところまでかすかではあるが伝わってきていた。

「お先にどうぞ」
キョーコは蓮に促され、はっと視線を戻した。慌ててビルの狭い階段を登ると、思ったより明るい店内の様子が入り口のガラス戸から伺える。
蓮は先に立ってドアを開けると中のカウンターにいる男性に声をかけた。
「こんにちは。ご無沙汰してます」

男性は顔を上げるとにっこりと微笑んだ。口ひげをたくわえた、愛想のいい中年男性だ。
「おお、敦賀君。いらっしゃい」
それから蓮の後ろに立つキョーコをちらりと見て軽く頭を下げる。
「今日はボール?張替えもそろそろじゃないのかな」
「そうですね、練習用のボールと…それから彼女、新入部員なので道具を揃えたくて」
蓮に促されてキョーコもぴしりと背筋を伸ばして深くお辞儀をする。
「よ、よろしくお願いします!」

蓮はキョーコに男性を紹介した。男性は椹といい、蓮とキョーコの先輩社員の兄ということだった。その社員自身はすでにサークルには顔を出さなくなってしまっているが、サークルで必要なボールなどはたいていこの店で揃えているという。
椹は頷きながら蓮に答える。
「ああなるほど。そうだね、じゃあ早速ラケットからかな?敦賀君が見立ててあげるんだよね」
「役に立つか分かりませんが…」

大量のラケットがディスプレイされたボードの前でキョーコは蓮からあれこれとアドバイスを聞いて頷きながら渡されるラケットを握って振ってみる。
「こんなにたくさん種類があるんですね…」
「そうだよ。その人の好みとかショットの傾向で選ぶんだ。最上さんは女性だから軽いのがいいかな」
「重さも違うんですね」
「うん。でも結構力いっぱい打つから柔らかすぎない方がいいね」
「そんなに力いっぱい打ってます?」
「…渾身の力込めて振りぬいてるように見えるけど」
「えええっ?」
本気で驚いたキョーコに、蓮はくすくすと笑う。
「無意識なのか。上達したらかなりのハードヒッターになりそうだ」
「あれが普通だと思ってました…」
あれこれ言いながらもラケットとシューズを決めてキョーコの買い物は終了した。

「ラケットだけじゃなくて靴にもいっぱい種類があって…その上ガットの種類も張り方もなんて、目が回りそうです」
「テンションをちょっと変えるだけで同じラケットでも打った感触は変わるからね。慣れたら試してみるといいよ」
ぼやくように呟くキョーコに対し蓮は笑いながら答えると、椹の方に向き直ってサークルの買い物の用件へと取り掛かった。

ちょうどその時、高校生らしい制服の団体がそれぞれラケットを抱えて大勢で店に入ってきた。
部活かな?と思いながらもキョーコは邪魔にならないよう、蓮に一言告げて先に店を出て先ほど上がった階段を1人で下りる。

今日持って帰れないとは知らなかったけど…次の練習の時には新しいラケットを試せるのかー。
なんかちょっと楽しみだな。
それにしてもやっぱり敦賀さん、詳しいなー。でも会社に入ってから始めたって言うのに、すごいなぁ…
ガットって張り替えなくちゃいけないなんて知らなかったー。モー子さんも知ってることなのかしら?

あれこれ考えながら階段を下りていく。
キョーコはテニスのことばかり考えていて、先ほど店に入るまでに気にしていたことを失念していた。今度モー子さんに新しく買ったラケットを見せなくちゃ、などと思いながらビルの階段を下り切って道路に出たところで、キョーコの足と思考は急停止した。


店にいる間に日はすっかり暮れ、あたりは暗い。
しかし歩道を歩く人々の姿は看板や街灯の光で明るく照らされている。

息を呑んだキョーコの目の前でキョーコを一瞥したのは、ギターケースを背負った金髪の若い男だった。


関連記事

PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する
 

来ましたね!

ヤツがっ…!

霜月さうら | URL | 2014/03/06 (Thu) 18:06 [編集]


Re: 来ましたね!

> 霜月さうら様

来ましたよ!やっぱり!!

ぞうはな | URL | 2014/03/06 (Thu) 22:45 [編集]


気になる(>_<)

続き、気になる(>_<)
蓮さんはやくキョーコちゃんのとこに行ってあげてぇ(;o;)

ゆうぼうず | URL | 2014/03/07 (Fri) 12:11 [編集]


Re: 気になる(>_<)

> ゆうぼうず様

コメントありがとうございます!
蓮さん、のんびりしてる場合じゃない…のか?
会う時は会ってしまう2人です…。

ぞうはな | URL | 2014/03/07 (Fri) 22:43 [編集]