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まどろみから覚めて(11)


こんばんは!
早速ですが、つづきですよ~~~~~!





驚きが収まり、まじまじとキョーコの顔を眺めていた貴島は、やがてにっこりと笑った。
「そっかーー。なるほどね、そうかそうか」
誰に言うでもなく独り言をつぶやくとようやくキョーコが差し出したままだった入館証を受け取り、キョーコに尋ねる。
「受付にいるのって何時まで?」
「はい?午前中はずっといる予定ですが…」
「ほんと?じゃあ、その間にこの入館証返しに来るからそれまでいてね」
笑顔でウインクして貴島は颯爽と去っていった。すぐ向こうのテーブルで待っていた来客ににこやかに挨拶をし、入館証を渡して応接室へと案内していく。

キョーコはしばし呆然と貴島の後姿を見送ってから、思わず愛理の方を振り返った。
「一体…?」
愛理は思わず噴き出すと、半ば苦笑気味に問い返してきた。
「キョーコちゃん、貴島君と知り合いだったの?」
「はい…あの、テニスサークルでご一緒してまして」
「ああ、そういうことね。じゃあ知ってるでしょ?貴島君がどういう人だか」

どういう人か?

すぐに思いついたキーワードはあるものの、言っていいのかどうかを少し躊躇したキョーコは面白がるような愛理の表情を見ながら恐る恐るそれを口にした。
「…女性がお好きな方だと……」
「そうそう。特にね、美人や可愛い子が大好きなのよ。受付担当の顔と名前は全員知ってると思うわ」
「はあ…」
「ふふふ、おかしいの。きっと貴島君、キョーコちゃんにこれからまとわりつくわよ」
「ええ?まさか!サークルでもいつも、私の友人や他の先輩の傍にしかいらっしゃいませんよ?」
キョーコは驚きの声を上げた。
貴島はちゃんと練習の時にはキョーコに挨拶をしてくれるし話しかけてもくるが、明らかにまとわりついているのはキョーコの親友の奏江や逸美など、他のメンバーの方ばかりだ。それは間違いないはずだった。

「あの人ねえ、まず分かりやすい見た目ありきだから」
「……?」
「ばっちりメイクしないと女の子の魅力に気がつかないってのもどうかと思うんだけどねー。ま、しつこいけど断れば無理強いはしないから適当にあしらっとけば大丈夫よ」
「?????」

キョーコは愛理の言っている事が理解できずにハテナマークを盛大に飛ばしていた。しかし愛理は「すぐに分かるわよ」と笑ってそれ以上は教えてくれなかったし、そこからは来客も電話応対も多かったのですっかりキョーコの頭からも吹き飛んでしまった。

しかし、昼の受付交代の直前に貴島が駆けてきて、入館証を返すと思いきや受け取ったキョーコの手をそのまま両手で包み込み、電話番号を教えて欲しいだのサークルの練習の後にご飯を食べに行こうだのとまくし立てたため、キョーコは再び混乱の渦に巻き込まれたのだった。


翌週のサークル練習日。
貴島は少し遅れて現れ、着替えを済ませてコートに入ると周りを見回した。2面借りているうちの向こうのコートでは蓮や他のメンバーが交代しながらラリーを続け、こちらのコートではすぐそこで社にあれこれ指導を受けているキョーコが目に入る。
キョーコの顔を見ると貴島は「ま、そりゃそうか」と呟いて近づいていった。

「おつかれー。社さん、キョーコちゃんの指導中?」
ひらひらと手を振る貴島を振り返ってキョーコはしっかり頭を下げ、社はラケットを軽く上げた。
「あっ、貴島さんお疲れ様です」
「ああ貴島。そう、だいぶ上達したからちょっとサーブをね」
キョーコはサークル練習の場で貴島が真っ先に自分に近づいてきたことに少し驚いていた。実は社も内心少し驚いた。

しかし貴島はにこにこと笑顔で話しかけてくる。
「キョーコちゃん、俺が教えたげようかー?」
「いや、多分もう必要ないよ」
社の言葉に貴島が少し怪訝な顔つきになる。社は構わずキョーコに向かって話しかけた。
「ほらキョーコちゃん、今の練習どおりにやってみて」
「はい!」
元気良く返事をしたキョーコはコートにしっかりと向くと、左手のボールを高く投げ上げた。そして体を弓なりにしならせ、同時に滑らかに右手のラケットを振りかぶるとボールが落ちるタイミングで鋭く振りぬく。
小気味いい音を立ててキョーコのラケットから放たれたボールは鋭くネットの上を越えて飛んでいった。

「うん、ナイスサーブ」
満足げに社が頷くと、貴島もラケットの面を反対の手で叩いて拍手を送る。
「すごいなキョーコちゃん、もうサーブまでできるんだ」
「は、あの、コーチがいいですから」
キョーコは少し照れながら言い、表情を引き締めると再びボールを傍らのかごから取り出すとコートに立つ。貴島は後ろに立ってキョーコの後姿をじろじろと眺めていたが、社に追い払われて隣のコートで続くラリーに参加しに移動していった。


練習の終了後、一団は近くの居酒屋へと移動した。
座敷に通されるとなぜか下座の方に座ったキョーコの隣にはいつの間にか貴島が陣取っている。

「お前なんか今日は妙にキョーコちゃんに絡むな」
しばらく経ってから少し目を細めた社が指摘した。貴島は乾杯の後もいつになく近い距離でキョーコに接し、あれこれとちょっかいを出しているので気になっていたのだ。キョーコが少し引き気味な様子なので貴島に釘を刺しておく、という意味も多分にある。

「そうですか?俺が女の子に絡むのなんていつものことですよ」
貴島は気にせず笑い、「ねえ?」とキョーコに同意を求める。
「はあ…?」
キョーコ自身、あまり今まで貴島に近づかれたことがないので非常に戸惑っていた。こうなって初めて気づいたのだが、貴島との距離がとても近いのだ。今だって、貴島が目の前に置かれたつまみを取ろうと箸を伸ばすと、その都度胡坐をかいた貴島の膝がキョーコの膝に触れるくらいだ。
その都度気づかれない程度にキョーコは少しずつ身を引くのだが、気がつけばまた触れる距離に。どう対応していいのか分からなくて、キョーコはやや落ち着きなく過ごすことになってしまっていた。

貴島はキョーコの気持ちを知ってか知らずか上機嫌で周囲と話をしていたのだが、しばらくすると震えだしたスマホをつかんで慌てて外に出て行った。キョーコは無意識に肩の力を抜いてふうっと息を吐く。
すると少し奥にいた蓮が静かに立ち上がり、空いたキョーコの隣にすとんと腰を下ろした。
「大丈夫?」
小声で聞かれてキョーコは慌てて答えた。
「だ、大丈夫ですっ」
「いちいち真剣に相手にしなくていいんだよ、適当にあしらっておけば」

社も愛理も蓮も、貴島のことを「適当にあしらえ」とか「放っておけ」という。そのことに気がついてキョーコはちょっと笑ってしまった。
「どうしたの?」
「いえ…貴島さんって皆さんにそう言われてるなって」
「ああ、まあ、仕事は真面目にやるみたいなんだけど、どうも女性が関わるとね…」
言葉を濁して蓮は後ろに手をついた。少し身動きしたことで、前にも感じた香りがふわりとキョーコの鼻をくすぐる。

「でも、貴島君と何かあったの?」
急に顔を見られて蓮と目が合ってしまったキョーコはどきりとした。それからようやく聞かれたことを心の中で反復して慌てて答えを探す。
「いえあの、何かというか…うぅん、先週受付にいるところに来られて…それ以来…ですかね……」
キョーコ自身も何があったのか全く分からないのだ。分からないが、きっかけはきっと受付にいるところを見られた事だ。

「受付?」
斜め前に座っている社が話に入ってきた。
「はい。総務部の業務で先週受付のやり方を教えていただきまして」
「あの制服着てカウンターに座ってたの?」
「はい」
蓮と社は顔を見合わせる。

「それかな?」
「でしょうね」
「しかないな」
半信半疑、という顔ではあったが社は蓮と頷き合い、キョーコはその意味が分からずきょとんと2人の顔を見た。

店の入り口から電話を終えたらしい貴島が戻ってくる。キョーコの隣に蓮が座っているのを見つけ、貴島は抗議の声を上げた。
「あ、なんだよ敦賀君ー」
「何がだい?」
「そこ俺の席」
「貴島お前、少しキョーコちゃん休ませてあげろよ」
社が横から助け舟を出し、周りがそれを聞いてくすくすと笑う。キョーコは慌てて貴島に申し訳なさそうな顔で弁解しようとしたが、貴島はすぐに笑顔を作った。

「ああいいよキョーコちゃん。おじさんたちが勝手に俺に焼き餅焼いてるだけだから」
言いながら靴を脱ぎ、先ほどまで蓮が座っていた場所へと移動する。どかりと腰を下ろし自分のグラスをたぐり寄せて中のビールをぐいとあおると、目の前にいる逸美に話しかけた。
「敦賀君がああいうことするのって珍しくない?」
「まあそれは……でもキョーコちゃん少し戸惑ってたみたいですし…」
逸美も少し返答に困って曖昧に言葉を返す。

「キョーコちゃんが男慣れしてないのは分かるけどさー。敦賀君の隣の方がかえって疲れるんじゃないの?」
そう言いながら、貴島は少し不満げに逸美からのお酌を受けてまたグラスを空にした。


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| | 2017/08/05 (Sat) 05:18 [編集]