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まどろみから覚めて(8)


こんばんは!ぞうはなです。

たびたび中断しておりますが、本日は連載の続きと参りますー。
早速どうぞ。





敦賀蓮、24歳。
190㎝を超える身長を持つ、男性だ。

男らしいが美しい顔と、長い脚を持つその男は柔らかい微笑みと穏やかな物腰で周囲の女性を骨抜きにするのだが、決してプレイボーイではない。
もちろん蓮は見た目とたがわず中身もしっかり男なので、女性に興味がない訳ではない。いや、ない訳ではなかった。
興味も好奇心もその他もろもろもあって、十代の頃には見た目通りのもてもてっぷりを発揮していた。特に、父親の仕事の都合で思春期をアメリカで過ごしたせいか、日本の同年代の少年青年たちよりはよほど早熟だったと言える。

しかし早熟な分、そしてその恵まれ過ぎたルックスのせいで、恋愛や女性に対して「こりごりだ」と思えてしまったのも同年代の男たちより早く。日本に戻ってきた大学時代にはすでに女性に対してはやんわりと薄らと壁を作り、深い仲になったりということは一度もなかった。

そして就職すると、職場の"仕事仲間"というある意味ドライな、それでいて同じ目標に向かって日々精進する関係にすっかり馴染み、仕事の面白さにも目覚めて蓮はここまでやってきていた。
深すぎず浅すぎずある一定の距離を持って付き合える大人の仲間。それは容姿だけで人を引き寄せてしまう蓮にとっては居心地のいい場所だった。たまに、周りが見えなくなる愛華のような女の子もいるはいるのだが。

そんな蓮だから、たとえ同じ部署の先輩や後輩であってもサークルのメンバーであっても、特定の女性だけを特別扱いすることは特に注意して避けていた。
周りも皆大人だから蓮の意思を酌み取ってくれることが多く、それでも構わず近づかれる事は少ないが、もちろん自分に好意を持ってくれる人は分かる。そういう人たちと問題を起こさずにうまく付き合っていくには、誰であっても同じ距離を保つ事がとても重要だった。
もちろん男性の場合は少し異なり、新人の自分を教育してくれた社にはもう少し近い距離で接していたのだが。

ここまでそうやって社会人生活を送ってきた自分にとって、この状況というのはどうなのだろうか、と蓮は水を飲みながら考えていた。いや、キョーコは蓮にとっては特に付き合いが浅い相手だし、特別扱いをしているつもりはない。深夜の薄暗いペンションのロビーで会ってしまった以上、眠れない女の子を置いて「じゃあお休み」と自分だけ部屋に帰れるだろうか。

この時間にぼんやり座っていたという事は、きっと自分の部屋で何とか眠ろうとしばらく格闘した挙句どうにもならなくて抜け出したのだろう。そして蓮が自分の部屋に帰ってからも、また眠れずにここで夜が明けるまでの時間を1人で過ごすのかもしれない。

自動販売機の取り出し口からペットボトルをつかみ上げる間にそんなことを考えた蓮は、少し疲れたようなキョーコの顔を見て思わず話をしようと持ちかけてしまったのだった。


それにしてもなんだか、面白い子だな。

昼間コートであれこれと指導して、そして今話してみて、蓮はキョーコの人間像を自分の中で作り上げていた。

何事にも一所懸命で真面目で、人の話を素直に聞き、考えている事が表情に出やすくおそらく嘘をつくのが下手。
そして蓮に対して何かを期待する事もなく、何かを誤解する事もなく、見事に会社とサークルの後輩として礼儀正しく接してくる。今までに会った大部分の女性達は蓮に対して自分を作っていいところを見せようと頑張っていた気もするが、そんな気配もない。

なにせ、話してる最中に寝ちゃうくらいだからな…

くすりと笑ったところで、蓮は腕になにか触る感触を感じた。
まさか、と思ってキョーコの方を見ると、キョーコの頭がふらり、ふらりと揺れている。どうやら本人は少し抗うつもりらしく、たまに気がついたようにぴくり、と頭を起こすのだが、目が既に閉じかかっており、すぐにまたふらり、ふらりと揺れてしまう。

蓮が少し興味を持ってみていると、キョーコの頭の揺れが大きくなって とすん、と蓮の腕に当たる。そして「頭の位置が決まった」と言わんばかりにキョーコの頭は蓮の腕で止まり、すぐに規則正しい呼吸音が聞こえてきた。

しまった。つい見守ってしまった…

蓮はおのれの行動の間抜けさに心の中で舌打ちをした。寝入る様が面白いな、と見ていたら、相手は自分の腕を枕と定めてしっかり寝に入ってしまったのだ。

寝られるならちゃんと布団で寝た方がいいだろうが…もしかして、今起こしたらまた眠れなくなるか?

考えている内にも腕にかかる重みは段々と増してくる。寝かせたまま抱きあげてそっと布団に下ろせば、と思ったが、蓮はキョーコの部屋がどこだか知らない。女性の部屋は2部屋あるはずだが、どちらにキョーコが寝ていたのか、更に言えばその2部屋のドアが2階に並ぶうちのどれかも曖昧だ。
かといって男性が寝る自分の部屋に連れて行くわけにもいかない。皆が目を覚ましたら余計な騒ぎが起こるだろう。

それにしても…こんなに気持ちよさそうに寝てるのにな。

寝不足のせいだろうか、キョーコの眠りはあっという間に深くなったようだ。呼吸が深くゆっくりになり、肩が呼吸にあわせて微かに上下している。普段布団で寝られないなら、この場でだけでも少し眠れた方がいいか、と蓮は思い直した。

ゆっくりとキョーコの頭を支えたまま自分の膝へと倒す。姿勢が変わったためかもぞりと身動きしたキョーコの呼吸がまた整ったのを見計らい、今度は下におりている両足になんとか手を伸ばしてソファの上へと横たえた。素足に触れることになって少し躊躇したが、変な姿勢だと体が痛くなるだろうと自分に言い訳をする。

ふう、と蓮は息をついた。ぐにゅぐにゅとキョーコは身動きしたが、どうやら起こさずにうまくソファに横たえることが出来たようだ。ほっとしてから蓮は自分の行動と思考に苦笑する。

何で俺はそこまでしてこの子をここで寝かせておこうと思ってるんだ?

蓮の膝を枕にしたキョーコは、少し動いて向こうを向いていた顔を心持ち上向きにした。同時にむにゅむにゅと何かを呟くように口を動かしてからまた眠りに沈み込む。

なんて幸せそうに眠るんだ……?

キョーコの様子をじっと観察していた蓮は、噴き出しそうになるのを必死にこらえた。しかし、そのあどけない表情を見るだけで自然と笑みがこぼれてしまう。
すっかり力を抜いた子供のような表情で、キョーコは無防備にその頭を蓮の膝にまかせっきりだ。出会って間もないまだそれほど親しくもないはずの自分の膝で寝られるのは、信頼されているようでくすぐったくもあるし、誰に対してもこんな姿を見せるのかとその危機意識のなさに心配にもなる。

蓮はキョーコの顔にかかった一筋の髪をそっとすくうと、静かに梳いた。そしてふと、キョーコのTシャツの襟もとから、下に着ているのであろうキャミソールの肩紐が見えてどきりとする。少しの罪悪感を覚えて目線を逸らすと、今度はハーフパンツから伸びる白い足に目がいってしまい、思わず天井を仰ぎ見た。

さてと…どうしたもんかな……
ある程度寝かせておいて、眠りが浅くなったタイミングで……

蓮は暗い中で1人ぼんやりと考えていた。


外はすっかり明るくなり、鳥のさえずりが微かに聞こえてきている。
とはいえまだまだ早い時刻。宿の朝食作りが始まるまでもう少し、というあたりで、2階の1室のドアがかちゃりと開いた。
タオルを首にかけて廊下に滑り出したのは石橋光だった。普段から健康的な生活を送っている光は、ペンションから歩ける距離に海岸があることを知って、軽くジョギングがてら海を眺めてこようと早い時間に起き出していたのだ。

廊下は窓からの光ですっかり明るくなっているが、周りの部屋はまだ寝静まっている。
光は足音が響かないように注意しながらロビーへの階段を下り、その途中でロビーのソファに人がいるのを発見した。

「あれ?」
思わず出してしまった小さな声に、ソファに座っていた人物がピクリと反応する。
「ああ、おはよう石橋君」
うつむいて眠っていたと思っていた蓮は顔を上げるとにっこりと笑って光に挨拶してきた。

「おはよう…」
寝てると思ったけど起きてたのかな?と疑問に思いながらも光は挨拶を返す。しかし、光はそれよりも何よりも、目にしている状況にかなり困惑していた。もしかしたらまずいところに出くわしたのかと思うが、いやいやそんなはずは、と思い直す。
「えと、どう…したの?キョーコちゃん……」

光はなんとか勇気を振り絞って聞いてみた。
光の目の前では、ソファに座った蓮の膝に頭を預けたキョーコが、やや丸まった子猫のような姿勢でこちらを向いてすやすやと眠っているのだ。見なかったことにしろという方が無理な話だろう。

しかし、蓮は軽く笑うとさらりと質問に答えた。
「ああ、最上さん眠れなくてここにいたらしくて、夜中水を買いに来たときに偶然会ったんだ。少し話してたら寝入っちゃって。起こしてまた眠れなくなったら可哀想だと思ってたら、朝になってしまったね」
「ああ、そうなんだ……」
光は半分納得して半分混乱したままなんとなく相槌を打つ。

えと、それってつまりは別に何もないってことだよね?

光はなんとなくキョーコのことが気になっていただけに少しほっとした。同時に、蓮は常に女性に人気がありながらも必ず一定の距離を置いていて誰とも噂になったことがないことを思い出す。
「ごめん、ちょっとびっくりしちゃって」
えへへ、と頭をかきながら光が笑うと、蓮もうなずいた。
「ああ、驚かせてすまない。すぐに起こして部屋に帰るよ」
「うん。じゃあ」
光は軽く手を上げると玄関に向かい、靴を履いて表に出て行った。

しばらく静止していた蓮は、光の姿が完全に見えなくなってしばらくしてから は~~~~~~~~~ と深くため息をついた。
どうやらキョーコが起きそうな気配を見せたら部屋に帰そうと思いながら自分もウトウト寝てしまったらしい。光に起こされてかなり驚いたのだが、なんとか動揺は隠すことが出来たようだ。

改めて膝の上のキョーコに目をやると、だいぶ周りは明るいし蓮と光は会話をしていたのに、起きる気配もない。
「君はホントに不眠なのか…?」
ぼそりと呟いて壁の時計に目をやってから、蓮は軽くキョーコの肩を揺らして覚醒を促した。


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コメントコメント


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うふふ…目撃されちゃいましたね!でもこれがヤッシーでもなく貴島さんでもなく光君かー。←それぞれのパターンを妄想しましたw
既に膝枕でキョコさんの睡眠に付き合ったという状態が、他の女の子と接するのとは違う特別な態度になりつつあるのに蓮さんもまだ分かっていないという感じですね。
微笑ましい2人をありがとうございましたー!

霜月さうら | URL | 2014/02/24 (Mon) 10:11 [編集]


Re: タイトルなし

> 霜月さうら様

コメントありがとうございますー!
そう、目撃したのは他の誰でもない、光君です(貧乏くじ君と呼んであげてもいい)。
普通に考えて膝枕で女の子を寝かすのは普通ではないと思うのですが、成り行き上そうなってしまったから仕方ないか、と蓮さんは思っているはずです。ふふふ。甘いな…

ぞうはな | URL | 2014/02/24 (Mon) 21:42 [編集]


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| | 2017/08/05 (Sat) 04:42 [編集]