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まどろみから覚めて(7)


こんばんは!
ううーーん、書きたいところまで入らなかった!





ははは話って…何を話せばいいの?
敦賀さん、寝なくていいのかしら?
しまった、こんなところで会っちゃったから気を遣わせちゃって…ど、どうしよう……

キョーコは申し訳なさに顔面蒼白でおろおろしてしまう。
暗くて顔色までは良く見えなかったもののキョーコの異変に気がついた蓮は、予想外の反応に驚いて慌てて声をかけた。
「最上さん大丈夫?」

途端にびしっと背筋を伸ばしたキョーコは無理に笑顔を作って答えた。
「も!もちろん大丈夫です!……けどあの、敦賀さん寝なくて大丈夫ですか…?」

段々と尻つぼみに語尾が小さく自信なさげになっていくのを聞いて、蓮はキョーコの心情を理解した。
「ああ、俺のこと気にしてくれたのか。大丈夫大丈夫。そうじゃなかったら部屋に戻ってるよ」
笑いながら蓮はソファに腰を下ろし、自分の隣を示してキョーコを座らせる。おずおずとキョーコがソファに腰を下ろすのを確認して、蓮はべきべきっとペットボトルの蓋を開けて口をつけた。
「もともと睡眠時間は短い方だから、3時間も寝れば十分なんだ」
それは羨ましい、という顔でキョーコは蓮を見た。暗がりの中でもほのかに照らされて蓮が笑っているのが見える。
「眠れないで困っている人にそういうこと言っちゃいけないね。…ところで最上さんはテニスやってみてどう?楽しい?」

話題が変わってようやくキョーコは落ち着いた。
「はい。久しぶりにスポーツをした気がしますけど、すごく楽しいです」
「そうか、よかった。今日見ただけだけど、まだ始めたばかりなのに上達早いね」
「そうですか?」
キョーコはきょとんとした顔で聞いてしまった。上達が早いどころか、どれくらい経ったら奏江たちと一緒に練習が出来るのか、まだまだ果てしないとため息をついていたくらいなのだ。
「そうだよ。だって今日一緒に練習した愛華ちゃんはもう1年もやってるんだ」
「はあ…」
「最上さんは短距離走得意?」
「あ、はい、まあまあ速い方ではあると思います」
「そうか。運動全般できるほうなのかな」
「どうでしょうか……」

キョーコは答えながら考えてみた。

小学校からずっと、学校の成績は全般的によい方だったと思う。
ただ、厳しかった母親は満点以外は認めてくれない人だったため、そこそこいい点を取ったとしても自分が勉強ができるとはこれっぽっちも思っていなかった。さらに体育や音楽などは母親の評価対象外だったため、自分の成績についても頓着していなかったと、改めて思い当たる。

そして、詳細に学生生活を思い起こし始めたキョーコの脳裏にうっかり嫌な思い出が蘇ってきてしまった。

バトミントン以外は勝つことが出来なかった幼馴染の男の、自分を馬鹿にした表情。
人目につかない教室のゴミ箱に捨てられた体育着。

むかむかとこみ上げてきた嫌な感情をもてあまして目を閉じた瞬間、隣から穏やかな声がかかる。
「最上さん大丈夫?眠くなったなら布団に入って寝た方がいいよ」
「あ、いえ!眠くはないんです!ごめんなさい、ちょっと思い出してて…」
「そう?」
心配そうに覗き込まれた蓮の顔を見ていたら、嫌な感情はするっと収まってしまい、キョーコは「おや」と不思議に思った。同時にキョーコはようやく気がついた。

あ、今日は敦賀さん…あの香りがしないんだ……

そう、電車内で隣に座った時には必ず感じていた蓮から漂ういい香り。
緊張しすぎていたのか今の瞬間まで気がつかなかったが、今日はその香りがしないのだ。通勤時と違い、今は入浴も済ませてついさっきまで寝ていたのだから当然のことだとキョーコは納得した。
しかし、香りはしないが蓮と話していると穏やかな気分になる。それは改めてしっかり感じた印象だった。

「敦賀さんは会社に入ってからテニス始められたと伺いましたが」
「あー、そうだね。遊びでは何回かやったことはあったけど、ルールも含めてちゃんと始めたのは入社してから」
「それであんなにお上手なんて、すごいですよね…」
「そうかな?俺から見たら、最上さんもすごくセンスがいいと思うけど」
「センス…ですか?」
きょとりと目を丸くしたキョーコに、蓮は笑いながら頷いた。
「うん。自分とボールとの距離を測りながら移動していい位置でラケットを振る。簡単そうで、できない人はなかなかできないんだ。それに今日も驚いたけど、ボールが前に落ちたら瞬時にダッシュする瞬発力。真面目にやったらきっと上手になるよ」
「ほんとですか?」
「こんなことで嘘ついたってしょうがないよ」
「あ…そうですね…えと、ありがとうございます!」
キョーコは笑顔になってぺこりと頭を下げた。それを見て思わず蓮も笑みをこぼす。

「お礼を言われるのも変だな…でもそうか、社さんが必死に勧誘したのがよかったのかな?迷惑だったら可哀想かなと思ったけど」
「あ、いえ。迷惑なんかじゃありませんでした。もうずっと、サークル活動とかスポーツなんて縁がなかったので」
「そうなの?最上さんは学生時代部活とかサークルやってなかったの?」
キョーコが一瞬しまった、という顔になったのを薄暗い中でも蓮は見逃さなかった。しかしキョーコはすぐにその表情を消し去ると、にこにこと返事をする。
「残念ながら帰宅部だったんです。何がやりたいのか良く分かってませんでしたし、バイトばっかり精出しちゃって」
「ああ、そうだったんだね」
「はい!だから今はとても楽しいです。もともと体動かすの好きだったんですよね。忘れてました」
てへへ、と笑ったキョーコを蓮はじっと見つめ、そう、とぽつりと呟いた。

少しの間2人の間に沈黙が落ちる。
自動販売機から聞こえる低いうなりだけがその場に満ちて、蓮は静かにペットボトルのキャップを開けると冷たい水を喉に流し込んだ。

一方のキョーコは少し自分の学生時代を思い出していた。

キョーコが物心ついた頃にはキョーコの家には父親と言う存在がなかった。母は完璧を求める人でキョーコにも厳しく、いつしか仕事に打ち込んで家に帰ってこなくなった。
小さい頃からちょくちょく預けられていた先の旅館を営む夫婦がキョーコの育ての親のような存在で、その家にいた同い年の幼馴染が兄弟のような存在だった。

キョーコが部活だのサークルだのに縁がなかったのはその環境のせいだ。
お世話になっている旅館の手伝いを積極的にしているキョーコには、遊んでいる暇などなかった。そして、その旅館を離れて東京に出て短大に進んでからだって…。

プラスチックのこすれる小さな音にキョーコはうつむいていた顔をちょっとだけ上げた。
隣の蓮はペットボトルの蓋を静かに閉めているところだ。何回かこうやって並んで電車のシートに座っていたときは蓮はスーツを着ていた。だけど今はTシャツに薄いスウェットズボンをはいている。

昼間も思ったけど…敦賀さんの腕って思ってたよりがっちりしてるな…

がっちりとして筋張った腕とその先にある大きな手。
力強いその腕は昼間ラケットを振っていた時はしなるように、けれど鋭く動いていた。愛華と一緒に休憩している間に社と打ち合っていた、その姿に思わず見入ってしまったくらいだった。

大きい手…比べたら、私の手とどれくらい違うんだろう?

骨ばった男性らしい手。
でもその手はなんだか優しく見えた。
こんな暗いペンションのロビーで、ソファに隣り合って座っている。そのシチュエーションがなんだか他人事のように思えてくる。


男の人とこうやって2人っきりでしゃべってるって……なんか緊張するはずなのにな……


キョーコは無言の間を気にする事もなく、ぼんやりと思考をあちこちに飛ばしていた。


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コメントコメント


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わーい♪

ワクワク覗いた甲斐がありましたー!
更新されてるぅー!と大喜び♪
キョーコと蓮がこれからどうなって行くのか楽しみですー!!

風月 | URL | 2014/02/17 (Mon) 22:34 [編集]


Re: わーい♪

> 風月様

うっかり直接予告してしまいましたが、なんとかなりましたー(^^;
覗いていただいて嬉しいですー!
これから段々と…さあどうなるか?乞うご期待!なーんて、風呂敷広げると回収が…

ぞうはな | URL | 2014/02/18 (Tue) 20:02 [編集]