SkipSkip Box

まどろみから覚めて(5)


こんばんは!
今日はちょっとだけ短めですが、できたところまで載せちゃいます。
すすみがゆっくりですが、のんびりどうぞー。





電車が駅に近づき、速度が徐々に落ちる頃。
「最上さん、最上さん」
軽くとんとんと腕を叩かれてキョーコはふっと目を覚ました。
「もう着くよ」
見慣れたホームの風景が窓の外を流れていくのを見て、キョーコはがばっと体を起こす。

「ひやっ!す、すみません!!私…寝ちゃって!?ごめんなさい!また失礼なことを…!!!」
頭の横に残っている感覚が夢でなければ、自分は隣に座る蓮にもたれかかってぐうぐう寝ていたことになる。背中をどーっと汗が流れるような気がして、キョーコは朝から泣きたい気分だ。
しかし蓮はくすくすと楽しそうに笑っている。
「ああいいよ、気にしなくて。俺が一緒にいれば寝過ごさないからちょうどいいよね」
「そんな、叩き起こしてくださってよかったんです…ああでも、寝ちゃうこと自体が…」

電車のドアが開き、蓮はゆったりと、キョーコは慌てて立ち上がる。
「眠れないって言ってたよね?ちょっとでも睡眠取れるなら、取っておいた方がいいよ」
「でも…」
2人は人の波に乗って改札へと歩いていく。
「社さんが体動かした方が寝られる、なんて言ってたけど、昨日も寝られなかったの?」
「いえあの、眠ったのは眠ったんですけど夜中に目が覚めちゃってそれ以降が…」
「ああ、そうだったのか。でも通勤で眠れるんだったらそこで補うのも手ではあるよ。乗り過ごしに気をつければ」
「そうなんですけど…」

蓮の言う通り、夜に寝られなくてその分電車で寝られるという事情ならば割り切るのもありだろう。
けれどこの朝、キョーコはなんとなく思っていたことがかなり確信に変わるのを感じていた。

ここ数日は通勤の時も眠くならなかったもの。

蓮に会わない日には電車で座れたとしても、寝ようと思ったって眠くならないのだ。それがピンポイントで蓮が隣に座った時のみ気がついたら寝入っている。それも瞬時にぐっすりと。あの、ふわりと漂ういい香りが眠りを誘うのか?それとも他に要因があるのか?理由ははっきりとは分からないが、そういうことなのだろう。

何よそれ!失礼だし恥ずかしいし、そんなのいい訳ないじゃないのよ!
ああ、どうしよう…敦賀さんに変な女だって、どこででも寝るだらしない女だって思われてるわよね…

「今度は隣に座ってなくても、寝てるの見かけたら起こしてあげるよ」
「だ、大丈夫です!もう寝ませんから」
「会社で仕事中に寝るよりはいいと思うよ?」
「いえ、会社では眠くなりませんし、何より先輩の隣で寝ちゃうなんて、よくないです!」
「俺は気にしてないけどな」
「いいえ!だめですよ」
蓮は本当に気にしていないようで穏やかな表情だが、キョーコは険しい顔で前を見すえた。

2人は改札を抜けて駅前の通りを会社に向かって歩いていく。
「それでも、ずっと眠れていないんだったら医者に行くことも考えた方がいいよ」
「はい…モー…琴南さんにも言われたんですけど」
「うん。眠れないのはかなり健康にも日常生活にも支障があるからね」
「気をつけます」

しゅんと肩を落としてしまったキョーコを少し励ますように蓮は微笑んだ。
「非難してる訳じゃないんだ。だから電車でも、見も知らない人によっかかるのに抵抗があったら俺が隣にいる時に寝ていいからね」
「いえあのっ」
2人は会社の通用口に辿り着いていた。フロアも違う2人は出勤時の混んだエレベータの中では無言で、そのまま会釈で別れる。

うううう…
やっぱり変な印象もたれちゃったわよね、恥ずかしい…
でも仕方ないか。寝ちゃったのは私の方だもんね。でも電車で敦賀さんの隣に座ると絶対寝ちゃうのかしら?それもそれで困るわ…

仕事では何の関わりもなく、内勤のキョーコと外回りも多い蓮とでは社内ですれ違う事もない。
キョーコは蓮に抱かれたであろう印象を払拭することもできず、本当に蓮の隣だと確実に寝てしまうのかも確かめるすべもなく日々は過ぎていく。

新入社員のキョーコは新人研修のためにたびたび別の場所にある研修所に通ったこともあり、蓮が忙しく練習に顔を出さなかった事もあり、結局5月のテニスサークルの合宿までキョーコと蓮は顔を合わせることはなかった。

そして5月のとある土曜日、合宿当日。
キョーコと奏江は社の割り振りにより、石橋という同じ姓を持つ先輩3人に同乗させてもらって合宿所となるペンションに到着していた。海に近いそこは学生のサークル合宿にも使われる場所らしく、宿のすぐ前には数面のテニスコートが並んでいる。

キョーコが荷物と借りたラケットを持ってきょろきょろと周りを見回していると、運転してくれた石橋光が声をかけてきた。
「先に荷物を置かせてもらえるって。着替えもできるみたいだから行こうか」

返事をして宿の方に歩きかけたところで1台の車が駐車場に入ってきた。ぴたりと枠におさまった車からは4人の男女が降りてくる。運転していたのは蓮、助手席には社。そして後部座席からは逸美ともう一人、ショートカットの若い女性。

「お疲れ様です、敦賀さん!!やっぱり運転も素晴らしく上手ですよね!さすがですぅ!!」
「そうかな…いや、普通だよ?」
蓮はまとわりついてくる女性ににこやかに笑いかけながら荷物をおろしている。

「ほらこれ、愛華ちゃんのだよね?さ、早速着替えてコートに集合しようか」
目がハートマークになってしまっている女性にラケットを渡しながら社はてきぱきと周りに指示を出す。そして突っ立って見ているキョーコと奏江に気がつくとニコニコと話しかけてきた。
「ああ、最上さんと琴波さんもお疲れ様!」
「お疲れ様です」
「もう先発隊は着替えてるみたいだし、俺たちも行こう」
「はい!」
社に促されて宿に向かって歩きながら、キョーコはちらりと蓮の車の方を振り返った。
荷物を全て下ろして車の施錠をしている蓮に、相変わらず愛華はまとわりついて話しかけている。蓮も笑顔で愛華に返事をしているようだ。

やっぱりあれだけ格好いいと、放っておいても女性が周りに寄ってくるわよね。
誰にでも穏やかに紳士的に接してるみたいだけど彼女なんているのかしら?いるわよねやっぱり。
うーーん、私のことなんて悪い印象どころかあんまり気にも留めてないかもしれないわよね。

大部分はほっとした気分で、でもどことなく寂しい気分で、会話を続ける蓮と愛華から視線を外すとキョーコは先に歩いて行った奏江の後を慌てて追った。

関連記事

PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する