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まどろみから覚めて(2)


こんばんは!ぞうはなです。
まったりなお話を目指そうと思ったら、なんでだか進みがまったりに。

さて、更新のタイミングがこれからますます不定期になりそうですが、よろしくお願いいたします。
次の更新は来週になりまーす。





昼を告げるチャイムが鳴り、キョーコはじっと見つめていたモニター画面から目を離すと ふうっと息をついた。
周りはガタガタと席を立ち始め、キョーコもいつもの先輩達と食事に行こうかと腰を浮かしかけたが、人の波に逆行して入り口のドアからこちらに向かってくる親友の姿を目にして笑顔になった。

「お疲れー!モー子さん!」
「お疲れ、キョーコ。ねえ今日外に行かない?」
「あ、行く行く。どこ?」
「ワゴン村で買って公園ってのはどう?」
「今日天気いいから気持ちよさそうだね」
「早く行かないとベンチ埋まるわよ」
それもそうね、と納得し、キョーコは先輩たちに声をかけると小さなバッグを手にいそいそと会社の外へ出た。

「一緒にご飯食べに行くのちょっと久しぶりだね」
キョーコはにこにこと笑顔で隣を歩く親友に声をかける。暖かい風と青空が気持ちよく、少し暑いくらいだ。
「って言っても、先週も行ったわよ」
「そうだけど…」
キョーコの隣で長い黒髪をなびかせるのは"モー子"、いや琴波奏江、キョーコの同期入社の親友だ。はっきりとした少し冷たい印象すら与える美人で、見た目と同じくクールな性格で人とべたべたするのを好まない。
キョーコと同じく短大卒で、営業部に配属された奏江はなぜかキョーコから尊敬の眼差しで見られてやや居心地が悪いのだが、奏江自身も仕事に対するキョーコの姿勢や根性を気に入っていた。

2人は弁当屋やカレー屋などバラエティに富んだ店のワゴンが集まっている広場に到着した。ここでランチを調達してすぐそこの公園で食べる、というのがキョーコと奏江のランチパターンの1つだ。

それぞれ適当なものを買い求め、公園のベンチに座る。ちょうど目の前には水しぶきを上げる噴水が見えて気持ちがいい。公園内は周りの会社の社員と思しき人々に混じって子供連れの母親の姿も見られる。
キョーコと奏江のベンチの前を、数羽の鳩の群れがきょろきょろしながらゆっくり進んでいく。

紙コップに入ったスープをふうふうと冷ますキョーコの顔を見ながら、奏江が口を開いた。
「相変わらずちょっと顔色悪いみたいだけど、大丈夫なの?」
スプーンをくるくる回す手を止めて、キョーコは顔を上げた。
「うん、まあなんとかなってるかな」
「まだ眠れないのね」
先週一緒に食事をしたときに目の下のクマを見咎められ、キョーコは奏江にあまりよく眠れていないことを白状していた。今日はしっかりコンシーラーで隠してきたのだが、寝不足が表れるのはクマだけではないようだ。

「全然って訳でもないのよ」
「病院行った方がいいんじゃないの」
「そこまでじゃないって」
キョーコは軽く笑うが、奏江は眉間に少し皺を寄せた。
「あんまり軽く見ないほうがいいわよ。深刻な病気ってこともあるんだし、ストレスだって怖いんだから」
「んーーー…」

キョーコは返答を濁す。
自分自身、ここのところ眠れていない原因は分かっているのだ。
分かっているが、それを素直に奏江に話す気にはなれない。くだらないことだし、自分のバカさ加減を暴露することになるし、なんだそんなこと、と呆れられるかもしれない。

けれど今のキョーコにはその不眠原因が心に重くのしかかってきているのは確実だ。
夜中ウトウトと眠りかけても、急激にフラッシュバックして飛び起きてしまうほど。
目をつぶるとすぐにそのことをぐるぐると頭が勝手に考え始めてしまうほど。

ううん、きっと時間が経てばそんなのどうってことなくなるのよ。
それとも、あのバカを見返せればすっきりするのかな…

ぼんやりとスープを見つめたままクルクルとスプーンを回し続けるキョーコを、奏江は野菜たっぷりのホットサンドに噛み付きながらちらりと見る。

まったく…何か悩みがあるんだったら相談してくれればいいのに。

とはいえ、キョーコと奏江はまだ出会ってからそれほど時間が経っているわけではない。
眠れないほどの悩みを抱えているのだとすれば、それを話せるのは余程気を許せる親密な相手だろうし、無理に聞き出して傷口を広げるようなことがしたい訳でもない。
本人がその気になるのを待つしかない、と奏江は結論付けると、「いつまでかきまわしてんの?」とキョーコに突っ込みを入れつつ食事を続けた。

2人の食事が終わる頃、奏江は公園の目の前の通路を歩いている2人連れに目を留めた。ちょうど同じくらいのタイミングで、向こうも奏江に気がつく。

「社さん、敦賀さん、お疲れ様です」
「あー、琴南さんお疲れー。ここでお昼してるの?」
にこにことスーツ姿のメガネの男性がこちらに近づいてくる。後ろからついてくるのはその男性よりかなり大きいもう一人の男性だ。
「はい。いい天気だったのでたまには。社さんは外回りですか」
「うん。今戻ってきたところ。今の時間だと食堂もう何も残ってないよね」
「そうですね…何か買っていった方がよさそうですよ」

奏江と社と言う男性の会話をキョーコは黙って聞いていたが、ぐるりと奏江が首を回すとキョーコに2人の男性を紹介した。
「社さんと敦賀さん。営業部の先輩よ」
「あ、はじめまして。総務部の最上と申します」
キョーコは慌てて膝の上のものを脇によけるとぴしりと立ち上がってしっかり頭を下げて挨拶する。キョーコと奏江の会社は規模が大きく、入社したばかりのキョーコにとっては知らない人間の方が多い。

「ああ、こちらこそ。俺は社。と…」
斜め後ろを社が振り返ると、それまで黙って立っていた男性が軽く頭を下げた。
「…営業部の敦賀です」

キョーコは2人をしっかりと確認して驚いていた。
社はシャープな仕事のできそうな美形の男性で、メガネがきりっとした印象を与えるが口調は柔らかく笑顔は人懐っこい。
その後ろに立つ敦賀という男は、男性としてはそこそこ大きいと思われる社が小さく見えるほどの長身で、頭が小さくて、そしてその顔のつくりと言ったら。美術の教科書で見た、大理石の彫像を思わせるような深い彫り。まず滅多に見ないほどの美形だ。

営業の人ってやっぱり見た目が大事なのかしら…それにしても…

ふと、キョーコは男性の服装に目を留めた。
グレーのスーツに白いYシャツ。そして深い青のネクタイ。手に提げている黒いカバンは革で、無駄な飾りのないシンプルなつくり。

あれ?どこかで…

「最上さんも今年の新人さんかな?」
「はい!よろしくお願いいたします」
「そうかそうか、いいね新人さんは初々しくて。なー、蓮?」
「そうですね…って、俺の時はそんなこと言ってくれませんでしたよね」
「だってお前初々しくなんてなかったもん。最上さんはもう通勤には慣れた?琴波さんはまだラッシュで疲れちゃうみたいだけど」

社はあちこちへと話を振りながらにこやかに問いかけてくる。キョーコはその笑みにつられて懸命に受け答えをしようとした。

通勤…。通勤……? あああああああ!まさかっ!?

「あの…つかぬ事を伺いますが」
しばらくビックリ顔で固まってから、キョーコは意を決して社の後ろに立つ蓮におそるおそる声をかけた。
「俺?」
話しかけられると思っていなかった蓮は驚いて返事をする。キョーコは頷くと、ごくりと唾を呑みこんで、慎重に尋ねた。
「もしかして、通勤に○○線を使ってらっしゃいませんか?」
「え…?あ、いや使ってるけど」

やっぱり、と口の中で呟いたキョーコは一度大きく深呼吸をした。そして。

「大変失礼なことをしまして、申し訳ありませんでしたー!」

かなりの声量で一気に言い切り深々と頭を下げたキョーコを、残りの3人は呆気にとられて見守ってしまったのだった。



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