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まどろみから覚めて(1)

こんばんは!ぞうはなです。

すっかり御無沙汰してしまいましたー。
お話を決めるのにうんうん唸っていたのと、1日ですが熱出してうんうん唸ってたのと、それ以外にもあれこれありまして遅くなってしまいましたが、本日から新しいお話です。

今回は4万ヒットのリクエストにお寄せいただいた中からねここ様のリクエストを元にさせていただきました。とっても素敵なリクエストありがとうございます。

今回は「まったりのんびりほんわか」を原則に進めていきたいと思っておりますー。あ、このお話はパラレル話となりますのでご了承くださいませ。
いただいたリクエスト内容はお話の主題なので終わってからのお楽しみ公開とさせていただきますね。

ではでは早速、どうぞー。




都心の朝は慌しい。

ターミナル駅に電車が到着するたびたくさんの人が吐き出され、たくさんの人が飲み込まれていく。
ぎゅうぎゅう詰めに見える車内やホームでも、毎日の慣れがあるのか人々は平然とした顔でさしたる混乱もなくそれぞれが目的地に向かっていくのだが、一年の内にその秩序が乱れる時期がある。

それは、それまでこの混乱を経験したことがない人間が一度に増える4月。それでもそこらに大量にいる先輩たちがしかめっ面や咳払い、肩によるプレッシャーなどでその新人たちを指導し、2週間もすればまた元の秩序が訪れる。

そして、時期はちょうど秩序が戻ってきた4月の下旬。
朝だと言うのにぼんやりと疲れた顔をした1人の若いOLが混み合った電車に揺られていた。

OLはまだ幼いと言うほどの顔つきで、髪は茶色のショートヘア、服装もふわりとしたニットのカーディガンに膝上のスカートと、どちらかといえば可愛らしい。しかしその顔は人生の辛酸をなめ尽くしてきたような険しい表情を浮かべていた。


どうしよう…このままじゃ仕事にも影響が出ちゃうかもしれない…


深刻なため息をはきだしたのは、この春短大を卒業して大手企業に就職した新社会人である最上キョーコだ。
キョーコは、四大卒でなければなかなか就職できないという会社に無事就職を決めて張り切って働き出しているのだが、ひとつの悩みを抱えていた。

キョーコはこの2週間ほど、まともな睡眠をとれていないのだ。

新人のキョーコは睡眠を削るほど忙しい仕事をしている訳でもなく、夜遊びをしている訳でもなくきっちりと帰宅している。食事も3食バランスよく取り、布団に入るのは日が変わる前なのだが、暗闇で目が冴えてしまってなかなか寝付けない。
ようやっとうとうとし出すのが夜明け前で、ぐっすり眠ったという感覚が得られないまま朝になる。そんな繰り返しだった。

かといって、昼休みは部署の先輩達と社員食堂にランチに行き、席に戻っても眠気は来ない。そして、日中眠気が来ない分、睡眠不足は頭痛と倦怠感という形で跳ね返ってきていた。

原因は分かるけど…解消は無理だし。

もう一度小さくため息をついたところで、電車は駅に停車した。ここは他路線との乗り換え駅のためかなり人の出入りがある。キョーコは始発駅から乗るために座れている事が多いが、この駅を越えてから車両はどんどんと混み始め、かなりの乗車率となるのだ。

キョーコの隣に座っていた男性が立ち、入れ替わりに乗り込んできた男性が腰を下ろす。毎日繰り返される光景のためキョーコは気にも留めていなかったのだが、隣の男性が座った瞬間、ほのかな香りが漂ってきた。

あ、いい匂い…

男性用のきつい香水の匂いでも主張の激しい流行りの柔軟剤の匂いでもない、ほんとうにほのかな爽やかな香り。
キョーコはなんとなく隣の男性の事が気になって、さりげなく視線をそちらに向けてみた。見上げて顔を確認する訳にもいかないので目に入るのは男性の手元と脚。
驚いた事に隣の男性はものすごく背が高いのか、膝の位置がキョーコと比べて異常に高い。そして、広げたのはアルファベットが並ぶ英語の本。ごく普通にスーツを着ている会社員らしいいで立ちなのだが、キョーコは目と鼻に入るわずかな情報だけでも隣に座った男性が普通とは少し違うのでは、という印象を持った。

発車ベルが鳴り、ドアが閉まって電車は動き出す。キョーコが下りる会社の最寄り駅まではあと15分ほどだ。今日は定例会議があって…と、キョーコは仕事の方に意識を持って行ったのだが、その思考はほんの数分で途切れた。


…体がやんわりと横からの圧力を受けた気がする。
ゆっくりと遠慮がちに押されたことで、そちらの方向にやや重心が偏っていた事に気がつき、キョーコは慌てて体を起こした。同時に意識が急速に回復する。

あれ?私もしかして…寝てた!?

気がついてばっちりと目を開けると、目の前に立っていたはずの人の数がすっかり減っている。
頭を上げて目に入る見慣れたホームの様子に、キョーコは自分の降りる駅にすでに電車が到着し、降りる人波もそろそろ切れて乗る人がドアに足をかけている事に気がついた。

「お、降ります!」
キョーコは慌てて席を立つと、膝に置いていたカバンを抱えて小走りでドアから外に出た。

あっぶない…あやうく乗り過ごすところだったわー!
私いつの間に寝ちゃったんだろう?いくら寝不足だからって、あと10分ってところで寝ちゃったら危ないわよ!

カバンから定期を出して改札にかざしながら、ふと不思議に思ってキョーコは眉間にしわを寄せた。

あれ?
でも…夜眠れなくなってから昼寝もできてないし、通勤中に寝ちゃうなんて事も初めてかも?
いよいよ寝不足も危険な域に入っちゃったかしら。会議中に寝ないように気をつけないと!
ああ、ギリギリで目を覚ましてよかった…だけど、確か横から体を起こされたわよね…あれってもしかして、私隣の人によっかかって寝てたってことかしら?

見ず知らずの人になんて恥ずかしい事を!と、キョーコは隣に座ったいい匂いの脚の長い男性に心の中で詫びながら急ぎ足で会社へと向かった。


それからも、キョーコは寝不足の体を抱えながらも頑張って仕事をこなし、毎日通勤を続けていた。電車の本数はそれなりに多いのだが、乗り換えなども考えると大体いつも同じ時刻の電車、同じ車両、同じドアに乗りこむ。

キョーコがついうっかりうたた寝をしてしまってから2日後、ふと途中の乗り換え駅から電車が動き出した時点でキョーコが顔を上げると、人混みの向こう側にぽこりと飛び出た頭が見えた。

もしかして…あれってこの間私が眠ってよっかかっちゃったかもしれない人かしら…

キョーコは隣に座った男性の膝の高さを覚えていた。あれだけ脚が長いのなら、身長も高いのだろうと想像がつく。けれどこの日、キョーコが見つけた背の高い男性は反対側の列の方に立っていて、結局どういう人なのかは全く分からなかった。

さらに数日後。
キョーコが男性の事をすっかり忘れ、相変わらず寝不足で少しの頭痛を覚えながら電車のシートに座っていると、途中駅で隣に誰かが座ってきた。途端に覚えのあるいい香りがふわりとかすかに漂う。

あ…あの匂い…!


慌てて少し横を向けば、数日前と同じ、窮屈そうに折りたたまれた長い脚が視界に入る。
キョーコは少し気になって、頑張って隣の男性の様子を伺おうと試みた。

んん~~~~。やっぱり思いっきり向くのも不自然だし…少し見上げる位置だから顔を見るのは無理…!
グレーのスーツに白いシャツにダークブルーのネクタイってことは…分かったけど。
分かったけど、だからなんだって言うのよキョーコ?

自分に鋭く突っ込みを入れてから、それを忘れたかのようにキョーコは思い立った。

あ、そうだ。
この間私が降りる時、隣は誰も座ってなかったわよね?
てことは、この人は先に降りるってことだから…その時にそっと見ればいいのよね。


いい事を思い付いた、と心で喜んでから2分後、次の駅に着く前に、キョーコはすっかり心地よい眠りへと落ちていたのだった。


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