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empty shell (26)


こんばんは!
外は冬の雨です。

かなり遅い時間となってしまいましたが、なんとか"empty shell"最終話です。

次のネタがまだもやりとした形のままなので、少しお時間いただいて形にしてからまた更新をさせていただきたいと思いますー。

ではでは最後の一話、どーぞ!




これは夢なのではないだろうか?
でもオムライスはちゃんと美味しかったし、蓮の手は温かかったし、先ほどこっそりつねってみた手の甲は痛かった。

キョーコはキッチンで洗い物をしながらも、地に足がついていないような、どこか自分の外側から自分を眺めているような、若干居心地が悪いとも思える不思議な気分を味わっていた。

泡まみれのスポンジを握ったままふと顔を上げて横を見れば、そこにはキョーコが洗ったお皿を丁寧に布巾で拭いている横顔が見える。
通った鼻筋、意外と長いまつげに縁取られた切れ長の目、やんわりと微笑みを湛えた形の良い唇。短い時間ながらじっと見つめてしまうと、キョーコの視線を感じたのかその顔の持ち主がこちらに視線を移してふわりと笑う。
「どうしたの?」
笑いながら聞かれて、キョーコは慌てて視線をシンクに戻すともごもごと答えた。
「いえ、なんでもありません」

蓮は拭き終わった皿を重ねながらくすくすと笑っている。
「さっきからどうしたの?何か聞きたい事があったら遠慮なく聞いて」
「いえ別に、聞きたい事があるって訳でも…」
「そう?」
「はい、すみません」
「謝らなくていいよ。俺の事を見てほしくない訳でもないから。ただ、さっきからなんか上の空のようだから気になっちゃって」
蓮は布巾を置くと完全にキョーコの方に体を向けて言った。そちらを見なくても、蓮の視線が自分に注がれているのが分かってキョーコは肩に力が入ってしまう。

「上の空…ではないんですけど、なんだかその、実感がわかないというか……」
ちらり、と蓮と一瞬だけ目を合わせたキョーコはまた手元に視線を落とした。
「…ほ、ほんとかなって思っちゃって」
口にしてしまってから少し失礼なことを言ってしまったかと口ごもり、ごしごしごしと必要以上に力強く皿を磨く。
「実感がわかないって、俺が君に告白した事?」
軽くかがんだ蓮の顔がキョーコに近づき、キョーコは視線を落したまま無意識に少しだけ身を引いた。
「…だって……」
「実感が湧くまで何度でも言おうか?」
「ひぃっ。い、い、いいですっ。その都度心臓が止まりそうになりますから!」
「止まりそうにって…そんなにびっくりしなくても。それとも、やっぱり嫌なの?」
キョーコは慌てて引いた体を戻して蓮の方を向く。
「嫌な訳ないじゃないですか!」

見上げた蓮の顔は笑っていて、わざと言われたと理解したキョーコは赤面しながら抗議した。
「そうやってからかうのはやめてくださいー!」
蓮はくしゃくしゃとキョーコの髪をかき回し、それから大きな手の平でキョーコの頭をそっと包み込むようにして少し自分の方へ引き寄せる。
「からかってないよ。実は俺も最上さんに拒絶されなかったってことが嘘みたいで。こうやって確かめたいんだ」
「う、嘘じゃないですよ?」
「うん。だから、最上さんも何度でも言って?」
「それは無理です!」
食器を洗い終わって手をぬぐったキョーコを、今度は蓮はしっかりとふんわりと抱きしめた。

「じゃあ言葉にできなかったら行動でもいいから」
「それはもっと無理です…」
言い返しながらも、キョーコはしばらくの間蓮の腕の中におとなしく収まっていたのだった。


こうして、蓮とキョーコの交際はゆるやかにスタートした。
お互いが忙しい身で付き合い始めたからと言ってそうそう頻繁に会えるわけでもなく、付き合い始めたからと言ってキョーコの純情乙女な思考と経験不足がすぐに埋まるわけでもなく。

それでも蓮の行動や表情の変化で、社はすぐに異変に気がついた。自分のマネージャーに隠しておいても不都合が多いと考えていた蓮はその時点であっさり白状、社は喜びつつも蓮をいじることを忘れなかったのだが。

2人の距離が縮まってから3ヶ月ほどたったある日。
テレビ局の楽屋に蓮が戻ってきた途端、社は声をかけた。
「なんだ、機嫌悪いな。キョーコちゃん電話に出なかったのか?」
蓮はごくごく一瞬動きを止めたが、表情を変えることなくドアを閉めて部屋の中へと進む。
「機嫌悪くなんてないですよ」
「今日はキョーコちゃんもここで仕事だろ?予定通りならもう収録も終わってるはずだ。違うのか?」
「違いませんが…」
ずばずばと言い当てられて、蓮はため息をつきながら首を振った。キョーコほどではないにしても、社も蓮の機嫌や気分の変化を非常に丁寧に読み取るのだ。携帯をこっそりと内ポケットに忍ばせてから楽屋を出たのを見られていたのかも、とも考えてみる。

「まあ延びてるんだろ。折角近くにいるのに会えないのは残念だけどさ。そろそろ行かないと」
「分かってます」
蓮はハンガーにかかっていたジャケットを羽織ると、再びドアに向かう。ちょうどドアを開けたところでドアの向こうに立っていた女性と鉢合わせた。
「きゃっ。ごめんなさい」
「失礼…と、おはようございます、三谷さん」
ノックしようとしていたドアが開いた事で小さく声を上げたのは、甲子だった。蓮と甲子はこの日、映画の宣伝のために揃って情報番組に出演することになって、甲子はスタジオ入り前に蓮の楽屋を訪ねてきたところだったのだ。

「おはよう敦賀君。今日はよろしくね」
「こちらこそ」
軽く頭を下げて歩き出した蓮のすぐ後ろから、甲子もぴったりとついて歩き出す。
「ね、最近どうなの?」
2人が共演した映画の撮影はすでに終わっており、顔を合わせるのは2週間ぶりくらいだった。撮影中もやたらと蓮の近況を知りたがっていた甲子だったが、蓮は紳士の笑顔でやんわりと誤魔化し、キョーコとのことを語る事はなかった。

「何も変わりはありませんよ」
「またそうやって誤魔化して」
甲子の軽口に無言の笑顔で答えた蓮は、ふと視線を上げて廊下の先の方を見据えた。
そちらからは、収録を終えたらしい一団が割とにぎやかに移動してくる。蓮の目はその中にいる一人の女性の姿を瞬時に捕捉していた。

女性は少し可愛らしいふわりとしたパステルカラーのミニワンピを身につけている。丈がやや短く、襟ぐりも大きめに開いているため、健康的な色気が内側からにじみ出るような印象を受ける。メイクも派手ではないが、目元がさりげなく強調され、グロスで光る唇が艶めかしい。
女性のすぐ横には、女性の背中に腕を回し、あわよくば引き寄せようとしている男がいる。女性は愛想よく対応しながらも、少し身を引いてさりげない警戒心を見せているようだ。

集団の中でも目を引く可愛く美しい女性の姿に甲子も気がついた。

会った事ある気がするんだけど…誰だっけ?

考えている内に、女性と人目もはばからず女性に誘いをかけている男が近づいてくる。すると、低く抑え目であるがよく通る声が響いた。
「キョーコ!」

自分に絡みつこうとする男性をどうにか牽制しようと視線を横に向けていた女性が弾かれたように顔を上げる。そして100%の笑みで自分を見ている長身俳優に気がつくと、その表情は驚愕へと変わった。

蓮の一言に、女性は青ざめ、甲子は驚きに目を見開き、蓮の後ろでは社がやれやれとため息をつく。
そして何故か、女性にまとわりついていた男だけではなくその場に居合わせた多くの人の視線が蓮へと注がれた。

「キョーコ、撮影終わったの?」
「うあ!はい、あのお疲れ様です!少し押したんですけど、終わりました!」
「そう、お疲れ様」
蓮が笑顔のまま女性の横に立つ男に視線を流せば、男は気圧されたようにキョーコから離れてこそこそと立ち去る。
「あの、敦賀さんはこれからですか?」
「うん。でも生放送の情報番組だからすぐ終わるよ」

蓮はするりと女性に近づくと、耳元で一言こそりと囁いた。それからふわりと笑うと、手を上げて再び収録スタジオへと進む。囁かれた女性はと言えば、一瞬動きを止めて固まったが、やがてあわわと慌てて振り向き、赤い顔で蓮の後ろ姿を見送った。

呆気にとられていた甲子はハッと気がつき小走りで蓮に追いついた。
「ね、敦賀君!今のもしかして京子ちゃん?」
「もちろん、そうですよ」
「うっそぉ。この前のドラマ収録の時と全然雰囲気違うよ!あんなに色っぽかったっけ」

すると真正面を向いて歩いていた蓮がぴたりと足を止めた。
「キョーコは前から可愛くて色っぽいですよ」
一緒に足を止め、思いがけない言葉に目と口を丸くしている甲子に構わず、蓮はまた長い脚を動かし始めた。
「あ、ちょっとまった敦賀君。いつの間に京子ちゃんのこと呼び捨て…?あ、ねえったら!」


ばたばたと去っていく2人を見送り、社は はあああ、とため息をついた。そしてキョーコの方を向いて謝る。
「ごめんねキョーコちゃん。あいつ、今日はキョーコちゃんに会えないかもって思ってたからなんかはじけたかな」
「いえいえ社さん!ただ、ちょっとひやっとしました」
「まったく、キョーコちゃんがしきりに"バカにはなりたくない"って言ってたのにね…今じゃあいつの方がよっぽどおバカだ」
心底呆れた様子で社はぼやくが、バカの前に"お"がつくあたりにキョーコは社の蓮への愛情を感じる。

「でもそのおかげ、というのも変ですけど、私が割と冷静でいられるんです」
「ああ本当に蓮がごめんね…見捨てないでやってくれる?」
「そんな、当たり前じゃないですか!」

キョーコはだいぶ遠ざかってしまった恋人の背中の方を見た。

「すぐに終わるから待っててくれる?」

囁かれた言葉がよみがえる。
図らずも、甲子に言われた"追いかけられる恋愛"を体験してしまっているような気がする。しかし、好きな人が自分だけを見て自分だけに囁いてくれるのは決して嫌な事ではない。
あれほど頑なに「もう恋愛なんてしない」と思って殻に閉じこもっていたのに、なんてことはない、殻を破ってみればこれほどに胸が温かくなる感情が湧きあがってくる。

いやもしかしたら。
もしかしたら、殻に閉じこもっているつもりで、もうだいぶ前に自分の恋心は殻の外にあったのかもしれない。守っていると思っていたものは実は空っぽで、恋心はずっと前から順調に育っていたのかもしれない。

それでも、いいか。

キョーコは社に丁寧に別れを告げると、スキップをしそうなほど軽い足取りで自分の楽屋へと向かったのだった。


(おしまい)

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コメントコメント


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面白かったですー!!

もうずっとどうなる?!どうする?!とドキドキ楽しみましたー!!
最後はほっこりで良かったです♪

ぞうはなさんのお話大好きなので、これからも楽しみにしてますー!!

風月 | URL | 2014/01/22 (Wed) 14:39 [編集]


Re: 面白かったですー!!

> 風月様

コメントありがとうございます!
少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。
原作沿い、と思うと自分でも驚くほどもどかしい話になるのですが、甲子さんを書くのは意外に楽しかったです。

これからも、楽しんでいただけるよう精いっぱい頑張りますのでよろしくお願いいたします!

ぞうはな | URL | 2014/01/23 (Thu) 22:52 [編集]


キョーコちゃんが開花し、蓮さまは頭に花を咲かせた。

こんばんわ。本日も楽しく読ませていただきました。最終回はまとめという感じでしたね。開花したキョーコちゃんは今の数倍増しで笑顔が輝いていそうです。頭に花を咲かせた蓮さまは温目の神々しい笑顔を振りまきそうですし、一足先に春を感じた最終回でした。次回も楽しみにさせて頂いています。どうもありがとうございました。

Genki | URL | 2014/01/24 (Fri) 01:04 [編集]


全話、読みましたー♪

ぞうはなさん、こんにちは♪
ご無沙汰してます。
待ってました最終話!!
ホクホクと1話目から最終話まで一気読みさせていただきました。
きゃー楽しかった♪(*^-^*)
そしてそして、甲子さんが私が想像してた100倍ちゃんとした良い人で嬉しい誤算でした。
もちろん、色んな画策を目論見た人ではあるんですけれど、持ち前のサバサバしたアネゴ肌が厭らしさを感じさせないというか。
なんかもう最終回以降はすっきりと割り切って蓮さんをキョコちゃんのことでからかってみたり、キョコちゃんの相談事にまで乗ってあげたりしてそうです。(笑)

私、何か勝手に昼ドラ並みにドロドロした陰気な企み事をする甲子さんを想像しておりました。
甲子さんゴメンナサイ。m(_ _)m

最後の蓮さんの嬉しそうなこと嬉しそうなこと。
そして微笑ましい『キョーコ』呼び。
確実に周りにバレるの時間の問題ですね。(笑)
ある日偶然とあるテレビ局でユルユルに顔が緩みきった蓮さんと嬉しそうにハニかむキョコちゃんを見て呆然と立ち尽くすショータローが頭に浮かびます。ざまーみろ。フフン。

楽しいお話ありがとうございました!!
また次のお話を楽しみにしてます♪

花 | URL | 2014/01/24 (Fri) 17:50 [編集]


Re: キョーコちゃんが開花し、蓮さまは頭に花を咲かせた。

> Genki様

「頭に花を咲かせた」っていうの、本当におバカな感じがしていいですね!万年お花畑みたいな。
でもたまに嫉妬でそこに雷雲が…?
最後までお付き合いいただいてありがとうございました!

ぞうはな | URL | 2014/01/24 (Fri) 22:55 [編集]


Re: 全話、読みましたー♪

> 花様

お待たせいたしましたー。
一気読みありがとうございました!
甲子さん、あれこれ策を弄しはするのですが、何せプライドがあるので自分からは言い寄れず。そしてそう、いい意味でざっくりとした性格のため、それほどねちっこい事にはなりませんでした。
いや、もしかしたら2人のお互いを想う気持ちが強すぎて、入り込めなかったのかもしれません。
そして、仲村先生のお話にはあんまりどろっどろの悪役が出てこないような気もします。皆さまどこか憎めないというか。

同じ業界にいる限り、尚が事実を知ってぽかんとする日はそう遠くないですね…

またよろしければ次もお付き合いくださいませ!

ぞうはな | URL | 2014/01/24 (Fri) 23:00 [編集]


楽しかったですO(≧∇≦)o

二人らしい恋愛事情が!!
もどかしかったり歯痒かったり・・・・
素敵なお話ありがとうございました!

イズミ | URL | 2015/06/17 (Wed) 13:39 [編集]


Re: 楽しかったですO(≧∇≦)o

> イズミ様

コメントありがとうございます。
どうも原作が歯がゆくて歯がゆいので、やっぱり歯がゆくなってしまいます。
それでもやはり、最後は幸せになってほしいなーと思います!

ぞうはな | URL | 2015/06/17 (Wed) 22:37 [編集]


こんばんわ!

こんばんわ!先日はお返事ありがとうございました!とっても嬉しかったです。
empty shellもとっっても面白かったです!蓮さんとキョーコちゃんどっちもピンチでハラハラやきもきしました。
でも最後蓮さんが怒濤の追い上げ!かっこよかったですーったまらず一気読みしてしまいました(笑)攻めの蓮さんの続きがよみたくなっちゃいました。それはきっと私だけではないはずっ
いつもステキなお話ありがとうございます!

chimaris | URL | 2015/10/13 (Tue) 01:39 [編集]


Re: こんばんわ!

> chimaris様

コメントありがとうございます!
empty shell、外乱があると2人の仲って荒れるけど進むよね~~なんて思いながら書いておりました。
一気読みありがとうございます。
どうも蓮さんってスマートで女性慣れしてて言いくるめるのもうまくてそれなりに押しが強いのに、なぜかキョコさんに対して気持ちを出すのだけ超消極的じゃない?と思ってしまいます。


ぞうはな | URL | 2015/10/14 (Wed) 23:15 [編集]