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empty shell (24)


こんばんは!
ぞうはなです。

間がどーんと開いてしまいましたが、続きでーす。




「最上さんはさっき俺が自分を制御できてるって言ったけど、本当の俺はそんなに大人でも理性的でもない」
「本当の俺って…?」
切り出されたのはキョーコにとって意外な言葉だった。蓮はキョーコの言葉に少しためらっていたが、あぐらを組んだ脚に両腕を置いて答えた。
「普段外に見せているのは『敦賀蓮』としての俺。年の割に落ち着いていて、普段はあまり怒ることもなく穏やかで誰にでも愛想がいい…そんな感じに受け取られることが多いかな」
「……」
キョーコは言葉もなくじっと蓮を見つめている。

「本当の俺自身は感情的で攻撃的で自己愛が強くて。決して明るくもなく威圧的ですらあるよ」
「ええ…?」
「周りを見ることもできず人の忠告も聞けず、突っ走って取り返しのつかない罪を負った。おかげで俺は闇に飲み込まれ…細かいことは今は話せないけど、社長に救われてなんとか『敦賀蓮』として今ここにいる」
「社長さんにですか?」
キョーコは驚いた声を上げたが、『Tragic Marker』の撮影の時以来遭遇してきたあれこれの、断片的だったピースがぴたりと今の告白に当てはまる気がして思わずおでこに手を当てた。

敦賀さんの中の闇…感情的で攻撃的で……
普段押さえつけていたものをB.Jとして、カインとして表に出したから…だからあの時敦賀さん自身が不安定だった??
そういえば社長さんも敦賀さんの事情を知っているようなことを言ってたけど、自分を嫌っているって言うのはやっぱりそのことだったのかな…?

何かに気がついたようなキョーコの様子を見て、蓮は再び口を開いた。
「カインでいた時、それからこの間テレビ局で会った時。君に見せたあれが、俺の一番奥底にある姿だ」
「奥底…」
「そう。だけどあんなのを野放しにしたら社会生活なんて成り立たない。だから普段は深く押し込めて蓋をしてるけど…君といると、その蓋がゆるむんだ」
「私…ですか?そんな、なんで……」
「なんで、か?簡単だよ。敦賀蓮だけではなく俺自身が…君を心底欲しているからだ」
「………ひゃ?」
言葉の意味を理解はしたものの、予想外の内容は瞬時にキョーコの思考範囲を超えた。真っ白な頭でよく分からない音が喉から漏れてしまい、キョーコのまん丸に開かれた瞳を見て蓮は苦笑気味の笑みをこぼす。
「『敦賀蓮』は言ってしまえば俺の本当の姿ではない…俺自身の犯した罪も消えてはいない。そんな状態でここに来て、恋だの愛だの言っている場合でもない。そう思っていたんだけど」
「……」
ほかりと開いてしまったキョーコの口が何か言いたげに少しぱくぱくと動くが、音は出ない。

「君と会えば気持ちが揺らいで、あれほど深く刻み込まれた罪を……簡単に忘れそうになる。それは俺の望むことではないと、何度も自分に言い聞かせて押さえつけていたんだけど……結局、君を傷つける方に暴走してしまった」
「あの……どういう、ことですか?傷つけるって……?」
「最上さんは二度と恋愛をしないと、そういう感情を持たないと宣言したよね」
「あ、はい!」
なぜいきなりそこへ話が行くのかは理解ができなかったが、キョーコは大きい声で返事をした。このところの短い期間で、何度となく自分のその宣言を確認している。蓮には特に、それはちゃんと伝えなければ。そんな心理が働いていた。

「だから俺はそれにすがっていたんだ。君は誰のものにもならないと。自分のものに出来ない代わり、誰に持ち去られることもない。そうやって納得しようとしていた」
「…そんなまさか敦賀さんが?」
キョーコは弱々しく笑ってみたが、蓮の瞳に捉えられて口をつぐんだ。蓮の瞳は穏やかであるが、見つめられると逆らえないような、深い深い光を湛えている。
「本当だよ。だけどいつかは君も傷が癒えて恋をするかもしれない。それは分かっていたつもりだった。だけど」
蓮は自分の両手をじっと見つめた。ふと緩んだ口元が、笑みよりも苦しみを浮かべているようだ。

「最上さんと石橋君の記事を見た時悟った。ずっと先だと思っていることが、実はもう目前にあるのかもしれないってね」
「いいえ…私はまだ、いえ、まだというかこの先ずっと恋なんてしません」
「もし最上さんがそう言い切ったとしても、俺には他の男が君に惹かれるのを止めることはできない。遊びや軽い興味で近づく男は排除できても、君を本気で愛そうと言う男がいたら?君はその男の愛に癒されるかもしれない」
「そんなこと…!」

キョーコは ない、と言い切りたかった。
でも自分が一番よく分かっている。

『絶対なんてない』

既に自分は、ただ単に"先輩"という立場にいるだけの1人の男に揺さぶられている。二度と恋などしないという誓いを、いとも簡単に反故にしかねないほど。

「そう思ったら怖くなった。そして…思い付いたのが君を恋愛から遠ざけることだった。脅して傷つけて、男の傍に寄る気を起こさないように、誓いを破らないように刻み込もうとした」
「だから…だから私に厳しく仰った、と?」
「そうだよ。君の恋心を砕いてしまえば誰のものにもならない。だけど気がついたんだ」

口を閉じた蓮にキョーコは無言の視線で尋ねる。

何に気がついたと?

蓮は深いため息をついた。少し身じろぎして足を組み直す。
「そうしたところで、俺の飢えは満たされはしない。自分を押し込めて蓋をしているつもりだった。分厚い殻の中に閉じ込めてるつもりだった。けれど、本当に押し殺したかった俺自身の気持ちは、もうそんなところにはなかったんだ。それに気がつかず、無駄なあがきを続けていた」

「敦賀さん……」
キョーコは蓮から目をそらすことができない。
蓮は辛そうで、自分を責めているように見える。けれど、言われている内容はとても信じられず、相変わらず頭はついていかない。蓮の辛さだけを感じ取って、キョーコはすごく落ち着かない気分だった。

「社さんにも言われて、やっと気がついたんだ。自分の気持ちに蓋をして、挙句の果てに君の気持ちを踏みにじったって、誰も幸せにはなれない。誰もが満たされない想いを抱くだけだって。俺が本当に大切にしなくちゃいけないのは君の幸せだ。君の笑顔だ」
「でもあの…私は恋愛なんてしなくても幸せですよ。それに、その幸せの大部分は敦賀さんがくれています!この世界に飛び込んでから、くじけそうな時に励ましてくれて道を示してくれたのは敦賀さんなんです。仕事だけじゃなくていろんな事で…だからその、踏みにじられたとか、そんな風には思ってません」
キョーコは懸命に気持ちを伝えようとした。蓮に言われたことをまだ全て消化はできていないが、自分にとって蓮が道しるべのような、灯台のような存在であることは確かだ。尚への復讐心や憎しみだけで生きていこうとしていた自分に、もっと大切なものを示してくれたのは間違いなく蓮なのだ。

「そう言ってくれるのは嬉しいんだけど…『敦賀蓮』ではない俺は…もっと欲張りで、我儘なんだ」
「へ?」
「君が幸せなだけでは足りない。君の幸せの中に、俺がいなくてはいやだと、そう考えている」
「ええ?」
「もっと言うなら、俺はこう解釈してる。君が俺に誓った『二度と恋愛をしない』という誓いは、『俺以外には』っていう但し書きがつくんだとね」
「つ…るが…さん…?」
キョーコは目をまん丸くしてごくりと唾を飲み込んだ。
先ほどからの蓮の言葉を頭が理解する時に、都合のいい解釈をしないようにと自分に言い聞かせているのに、蓮の言葉が重なるたびに違う解釈ができなくなっていく。そして、「もしかして」という期待に、胸が勝手にどきどきと鳴ってしまう。

蓮は背筋を伸ばして正面からキョーコの顔を見据えた。
「ちゃんと言うよ。最上さん、俺は君が好きだ。君が恋愛をしないと誓ったとしても、そんなことは関係ないくらい」
「……う…そ……じょ、冗談ですよね?」
蓮は思わずキョーコの口からこぼれ出た言葉に苦笑した。
「ひどいな…俺の決死の告白を、冗談にしようとするの?」
「なんで…?だって敦賀さん、最初私のこと嫌いでしたよね?私ただの鈍くさい後輩で」
「なんで……?そうだね、俺も説明は難しいかな。でもそうだな、あえて言葉にするとすれば、魂のレベルで惹かれてるから?」
「な…なんですか、魂のレベルって!」
「君はきっと無意識だと思うんだけどね。俺はもう何回も、君に救われてるんだよ。きっと君なしじゃ、これから先も生きていけない」
「またなんてことを仰るんですか!」
「ほんとだよ」
真顔で答えた蓮は、じっとキョーコの目を覗き込むとふわりと笑った。

「ほんとだよ。嘘は言わない」

ずるい……!

蓮のこの笑顔で微笑まれて、心を揺らさない女がいるはずがない。キョーコは顔に熱が集まるのを自覚しながら心の中で地団駄を踏んだ。

すると蓮がふいと表情を改めて、少し不安げに眉をしかめた。
「最上さんは…どうかな?二度と恋愛をしない、と誓ってるけど、その誓いを破る気持ちはない?」
蓮に問われてキョーコの目がきょどきょどと落ち着きなくさまよう。
しばらく広い部屋の中に視線を泳がせたキョーコは、やがてひとつため息をついた。


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コメントコメント


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いいところで切れましたねぇ〜(涙)

こんばんわ。とてもワクワクの展開ですね。そしてぞうはな様らしい丁寧な敦賀さんの心理描写、とても説得力がありました。『敦賀蓮だけでなく、俺自身が君を欲している』この言葉を読んで、そういえば蓮さんは久遠さんと同じ人だけど、本当の顔の上にかぶったマスクのような存在だったんだっけ、と改めて実感しました。しかし、ここで切れるとは!先が読みた〜いと激しく叫んでしまいます。すみません。更新をとても楽しみにしています。どうもありがとうございました。

Genki | URL | 2014/01/16 (Thu) 20:53 [編集]


Re: いいところで切れましたねぇ〜(涙)

> Genki様

こんばんは!
おおお、嬉しいお言葉をありがとうございます。
そう、蓮さんってある意味久遠の上に作り上げられた人格なんですよね。
100%別人格という訳ではないのですが、性格はすこしちがいそうですね…。キョコさんのまではだいぶ本性が出ているような気もしますが。
何にしても2人にはやっぱりハッピーエンドが似合うのよね!と1人で納得しているぞうはなです…。

ぞうはな | URL | 2014/01/18 (Sat) 00:12 [編集]