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empty shell (23)


こんばんは!
今日もなんとか更新です。
次は連休明け、少し間が空きます~~~!





「水の中で切るから水切りなのか」
感心したように蓮が呟く。
「そうです。こうやって水の中で斜めに茎を切ると、水を吸いやすくなるんですよ」

キョーコは花束をバケツからあげると手早く茎の下のほうの葉を取り除いていった。
「花瓶の水を毎日か、そうでなくても1日おきに替えると長持ちしますよ」
「そこまでしないといけないんだね」
苦笑いしながら蓮は中腰の姿勢でキョーコの手元をじっと見つめる。

2人はマンションとつながった高級スーパーでの買い物を終え、蓮の部屋に移動していた。
会計時にレジに表示された金額が2人分のオムライス代としては外で食べるよりも高いくらいだったのを見てキョーコはくらくらしたのだが、いつものことながら蓮は全く気にしていない様子だ。
さらに、花を生けようと花瓶の有無を尋ねたキョーコに、廊下の戸棚を探っていた蓮が持ってきたのは有名陶磁器メーカーや有名クリスタルメーカーの名前がばっちりと入っているいくつかの箱で、これまた気が遠くなる思いだった。
「使うのが恐れ多いですね…」
「もらってそれっきりしまいっ放しだから気にしなくていいよ」
「…ん?ということは、今までは花瓶に挿してもいないってことですか」
「おっと…まあ、そういうことになるかな?」
「なるかな、じゃありません!それじゃもつ訳ないですよ!」

きっぱりと言い切りながらもキョーコはガラスの花瓶を選んで綺麗に整えながら花を生けていく。花がすべておさまったところでキョーコは蓮に声をかけた。
「さ、できました!どこに飾りますか?」
「そうだね。それじゃ、リビングにしようかな」

リビングのガラステーブルに置かれた花を少し下がった位置から眺めたキョーコは満足げに頷いた。
「このお花、敦賀さんにぴったりの印象だからかこのお部屋にもすごく合いますね」
「そうかな?」
「そうですよ!」
笑顔で力強く言い切ったキョーコの顔を見つめ、蓮も笑みをこぼす。
「最上さんが綺麗に飾ってくれた花だから、なるべく長くもつようにしないとね」
「あ、ありがとうございます…」
見つめられたキョーコは少し照れたように視線を逸らしたが、蓮はそのまま言葉をつないだ。
「仕事から帰ってきてこの花を見たら、最上さんが一所懸命生けてくれたことを思い出すから。簡単には枯れて欲しくないな」

へ、と声にならない声を上げてキョーコは思わず蓮を見る。蓮は「ほんとだよ」と囁くように言うと、腕まくりをしながらキッチンの方へ顔を向けた。
「さて、食事の支度をしよう。俺も邪魔にならないように手伝うよ」


その日の蓮の部屋のキッチンはいつになく賑やかだった。
「敦賀さん、ちゃんと包丁使えるじゃないですか!」
「今日はウマイオムライスを作らなくちゃいけないんだから当然だよ」
蓮の包丁さばきはものすごく上手とは言えないまでもそこそこ普通だったので、キョーコは驚きの声を上げた。蓮は鶏肉も ちぎる事なくちゃんと包丁で切っている。

具材の入ったフライパンを振りながら、じゃあマウイオムライスの時のあれはなんだったのかとキョーコは内心で呟く。しかし、同時に悲痛とも言えるあのときの蓮の表情を思い返してその声は心にしまっておくことにした。

蓮をアシスタントに従えてキョーコがメインで作り上げたため、大きなトラブルも皿からはみ出る量になることもなく、無事に料理は完成した。蓮のリクエストによりきっちりと中身が包み込まれた黄色いオムライスはキョーコが見ても美味しそうだ。
「仕上げのケチャップはやっぱり最上さんにお願いしようかな」
「は、はい!やっぱりラッキーナンバーの8ですか?」
「んーーー…せっかくだからハートにしようか」
「んな!何がどう『せっかく』なんですか」
「いいからいいから。ほら、最上さんの愛情がこもってるって意味でね。より美味しくなりそうだ」
「味は変わりませんよ…」

花が飾られたリビングで2人はラグに直接座り、「いただきます」と食事がスタートする。
「うん、うまいな」
一口目を頬張って咀嚼した蓮が満足げに呟いた。じっと蓮を見ていたキョーコも顔をほころばせて、スプーンを手にする。

あ、よかった…ちゃんと美味しくできてる…

キョーコはほっと肩の力を抜いた。なぜだかどうしても美味しいと言ってもらいたくて少し緊張していたようだ。

なんでだろうな…敦賀さんのリクエストはできれば全部叶えたいって思っちゃう。
これってやっぱりよくない兆候よね…どうしてこう、私って学習しないんだろう?

蓮のやること言うことにいちいち反応して振り回されて、言いなりとは言わないまでも応えたいと、喜んで欲しいと思ってしまう。もちろん蓮はあの憎い幼馴染とは違い、人のことをこき使ったりはしないのだが、もう一歩蓮に近づいてしまえば視界いっぱいの蓮の姿以外見えなくなるような予感がキョーコの胸の内にある。

だめだめ、と自分を戒めてふと蓮を見れば、すでにその皿は半分ほど空いていた。
「わ、敦賀さん、速いですね!」
ん?と口を動かしながらキョーコのほうを見た蓮は笑って答える。
「すごく美味しいから仕方ないよ」
そう言うとまたスプーンをオムライスに入れた。

唖然と見守るキョーコの前で、蓮はスプーン一杯山盛りにすくったオムライスにがぶりと食いつく。
しっかりと味わいながら食べるその姿は表現するなら「むしゃむしゃ」あるいは「もりもり」だろう。マウイオムライスの時のような必死さは見えないが、いつもの蓮の食べ方とは明らかに違う。
キョーコはしばらくの間滅多に見ないその姿を見守ってしまったが、自分の皿がほとんど減っていないことに気がついて慌てて攻略に取り掛かった。

「ご馳走様でした」
しっかりと頭を下げた蓮は笑顔でもう一度感想を述べる。
「本当にすごく美味しかった。仕事の後で疲れてるのに我侭言ってごめんね。ありがとう」
「そんな!こんなことでよければいつでも仰ってください」
何せ、料理や家事でしか力にはなれないから、とキョーコは思う。蓮はあまりに自分にないものをたくさん持ち過ぎていて、してもらうばかりでしてあげられる事が見当たらないのだ。だからこそ、自分は必死になってしまうのかもしれない。

「いつでもなんて言われると、俺も調子に乗っちゃうかもしれないよ」
「またそんなこと。調子に乗ってる敦賀さんなんて見たことありません」
「そうかな」
「そうですよ。後輩の面倒は良く見てくださいますし、常にお芝居にはストイックですし、自分をしっかり制御されてるって印象しかないです」
「そうでもないよね?」
「…そうでもありますよ?」

蓮はため息を一つつくと視線を下げ、きれいに空になった皿を見つめた。
「制御なんてできてないよ…君に対しては特に」
「え?そんなこと…」
「この間もみっともない姿を見せたばかりだ」
「みっともない…ですか?」
無様な蓮の姿など見たことがない。キョーコは一体いつの、と考えたところでひとつだけ心当たりに突き当たった。

「それは…この間の……?」
「そうだよ。理不尽に君を怖がらせて、自分が制御できてたらあんな姿なんて見せる訳がない」
「でもあれは…!私が自分で立てた誓いを…」
「君が誓いを破った訳ではないよね。それに、もし君がそれを破ったからと言って君を怯えさせる理由なんてどこにもない」

床に正座していたキョーコは居住まいを正すとぴしりと背中を伸ばして両手を揃えた。真剣な表情で真っ直ぐに蓮の顔を見る。
「でも私は…敦賀さんが叱ってくださってありがたいと思っています。これまでだってお仕事のことでも、心構えのことでも、敦賀さんが厳しく叱ってくださったおかげで乗り越えられてきたんです」
ひと呼吸置くと、キョーコは膝の上の両手をぎゅっと力を込めて握った。
「今回のことだって…あのバカのことを許せないと言っているのにすぐに忘れて浮ついた気持ちを持つような、そんな軽薄な人間だと敦賀さんに思われてたら嫌だって……」
言葉につまり、唇をかんで俯いてしまったキョーコを、蓮は静かに見つめた。

「軽薄だなんて思わないよ…君が過去にどんな嫌な思いをしたって、たとえもう二度と人を好きにはならないと誓ったって、一生恋をしちゃいけないなんてことも思わない」
「でも、私はまだあいつに復讐もできてないし…!」

言い募ったキョーコに、蓮は「ふう」と軽く息を吐いた。
「もし俺が…あの時君のためを思っていたならまだよかったかもしれない」
俯いたまま蓮の言葉を聞いていたキョーコは、その言葉を理解すると不思議そうな表情で顔を上げた。
「君は、俺が君のために怒ったと思ってるかもしれないけど違うよ。あのときの感情はひどくわがままな…自分のためだけのものだ」キョーコは無言で蓮の顔を見つめた。蓮の顔には少し苦々しげな笑みが浮かんでいる。
「少し自分の話をしてもいいかな」

キョーコはごくりと唾を飲み込むと黙って頷いた。

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