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empty shell (22)


こんばんは!
あと何回くらいで終わるかなー。





「お邪魔します」

キョーコは小声で呟いて、低いシートに腰を下ろした。外から助手席のドアが静かに閉められ、シートベルトをしている間に回りこんだ蓮が運転席にするりと座る。そしてがさがさと音を立てて後部座席に2つの花束が置かれた。
キョーコがちらりと後ろを覗くと、運転席から声がかかる。
「さっき三谷さんと話してた?」
蓮はシートベルトを引き出しながら正面を向いていて、その横顔からは感情を読み取ることができない。
「あ、はい…挨拶だけでしたけど……」
「そうか」
シフトノブに右手を置いたまま蓮はしばらく黙って正面を向いていたが、くるりと顔をキョーコへと向けた。
「三谷さんが俺の楽屋から出てったのを見たよね」
「は、はい!」
「実は今日、三谷さんからまた食事に誘われたんだけどね」
「え、またって…?」
聞き返したキョーコの言葉に蓮は不思議そうな表情になる。
「不破君が見たって言う、麻布の店に行ったときだよ。あの時は今度共演する映画の役作りの事で相談があるって言うから行ったけど」
「その時って敦賀さんが三谷さんを誘われたんじゃないんですか?」
「いいや?」
あっさりと答えながら蓮はエンジンをかける。

「三谷さんが俺に誘われたって言ってたの?」
キョーコにそんなことを言いそうなのは甲子本人しか心当たりがない。確信はないが投げかけてみると、キョーコは考え込むように視線を上に向けた。
「あーー…いや、はっきりと聞いた訳では……」
歯切れが悪いが否定はしないキョーコの答えに なるほどね、と蓮は納得した。
おそらく自分のキョーコに向ける感情を甲子は敏感に察知したのだろう。だからこそ、キョーコと光の距離を縮めるよう誘導し、一方では自分と蓮の仲をにおわせるようなことをキョーコに伝えた。はっきりと言わなかったのはキョーコから蓮に話が漏れた場合に対しての予防線だろう。

回りくどいことしたもんだな…

キョーコや光を巻き込まず、自分だけに意思を示してくれていたら、これほどごちゃごちゃすることはなかった。甲子のプライドがそれを許さなかったのだろうが。まあ、どっちにしても自分の意思は揺らがないだろうから結果は同じことだ。

いや…結果はともあれ全てが同じではないかな……

車は地下駐車場からゆっくりと滑り出し、夜の道を走り始めた。ちらりと覗き見たキョーコの横顔は夜道の照明にうっすらと照らされて、いつもと違う陰影の中やや大人びて見える。

三谷さんが引っ掻き回してくれたから…俺は意図的に目を背けていたものとちゃんと向き合えたのかもしれないな。

「あ、でもよかったんですか?三谷さんとのお食事…」
「なんで?俺が君と約束したんだ。もちろん他の誘いはなんだって断るよ」
なにやら考え込んでいたキョーコがはっと気づいて聞いてきたが、蓮は笑って答える。軽く言っているがそれは紛れもなく本心だ。
「う、すみません」
「なんで最上さんが謝るのかな」
「だってこんな花束のために…」
キョーコは後部座席に再び目線をやった。仲良く並んで揺れている2つの花束は、1つはある意味幼くもう1つは落ち着いて大人っぽく、まるでキョーコと蓮を表しているようだ。

これがなければ自分は今日このシートに座ることはなかったかもしれない。そんなことを考えているところに声が聞こえてキョーコは現実に戻る。
「理由をつけたかっただけだよ」
「え?…どういう意味ですか?」
「いや、なんでもない」
ぽそりと呟くように落とされた蓮の言葉にキョーコは反応したが、微笑みと共に誤魔化されてしまった。

なんか今日の敦賀さん…いつもと違う?

ぼんやりと考えてみたキョーコの脳裏に、ふと三谷の顔が浮かんだ。
「そういえばさっき、三谷さんと話したとき変なこと聞かれたんです」
「変なこと?」
「はい。三谷さんも私と同じ花束をもらってたんですけど、ピンクのバラのイメージを聞かれて」
「…イメージね。それで、最上さんはなんて答えたの?」
「小さくて可憐だけど気高いって思ったので、『王女様』みたいだって答えたんですけど…」

「くっ」と、何かをこらえたような音が蓮ののどから漏れた。
「どうしたんですか?」
「いや……それで三谷さんは何か言ってた?」
「すごく変な顔してましたけど…メルヘンチックだって言われて、そのまま行ってしまわれました」
「そう。なんでそんなこと聞いたんだろうね」
車は赤信号で止まる。蓮はハンドルに両手をかけると、俯いて少し肩を震わせた。

すごいな俺…どんぴしゃだ。
だいぶ、思考が読めるようになったな…色恋関係以外は。

「ど、どうしたんですか、敦賀さん?」
どこか具合が悪いのかと、キョーコはおろおろと蓮を覗き込む。蓮は長く息をはいてこみあげる笑いを逃すと、しれっと表情を戻して顔を上げた。
「どうもしないよ。その花束、どうするの?」
「どうするって…家に飾ろうかと思いますけど」
「ああ。でも花って飾ってもそれほどもたないだろう?」

キョーコは蓮のセリフに驚いて目を丸くする。蓮はちらりとその表情を横目で見ると青信号を確認して車を発進させた。
「え、結構持ちますよ?」
「そうかな?いつも2、3日で枯れちゃうけど」
「えええ?ちゃんと水切りして花瓶にさしてますか?」
「水切りって?」
「え…?」

さらに目をしばたかせてしまったキョーコに、蓮は苦笑気味に弁解した。
「もらった花は大抵事務所に持って行っちゃうんだ。部屋に置いても見る人間がいないし。たまに持って帰ってもすぐに枯らしてしまうけど…そうか、ちゃんとやり方があるんだね」
「はい。あの…もしよろしければ、敦賀さんのお花、もつようにしましょうか?」
「え…いいの?」
「はいあの…えっと……ご迷惑じゃなければですけど」
蓮はふわりと笑みを深めた。
「迷惑だなんて。ぜひお願いしたいけど…本当に甘えていいのかな?」
「はい!この際なので敦賀さんも覚えてください!」
「…いつもお願いできると助かるんだけどな」
「そ、そんな訳にもいかないですよ!」

慌てたように言い返してきたキョーコだったが、その声や表情に嫌悪の色は見えない。蓮はそれを確認すると話題を変えた。
「ついで、と言うには申し訳ないけど…もうひとつ、お願いしてもいいかな」
「なんでしょう?私にできることでしたら!」
「うん、ウマイオムライスが食べたいなあって…」



「具はエビがいいですか?それとも鶏?」
「ああ、鶏がいいな」

短い会話を交わしながらカートを押してスーパーを歩いているとまるでカップルか新婚夫婦のようだ。

そんなことを一瞬考えてしまったキョーコはその考えをぎゅむむと頭の外へ押しやりながらぼやいた。
「"ウマイ"オムライスってリクエストされるとちょっと緊張しちゃうんですけど…」
「大丈夫だよ。最上さんが作るものはいつだって美味しいんだから」
「またそんな」
「本当だよ。それに、"マウイ"オムライスよりひどいものは作りようがないだろう?」
「あれを比較対象にされるのも逆に困ります」
「ははは」

カートを押しながら「米もないな」と陳列棚を物色する蓮を、キョーコはこっそり観察した。

さっき車の中ではなんかいつもより考え込んでるみたいだったけど…今は機嫌がいいかしら?

一緒にいる相手の機嫌を常に窺ってしまうのはキョーコに染み付いたクセのようなものだ。親しい間柄の相手ほど敏感に察知してしまい、いまやその筆頭にいるのが蓮なのだが、キョーコは完全に無意識でセンサーを働かせている。

ま、機嫌がいいのはいいことよね!

考えながらふと見ると、蓮は普段キョーコが買う10個入りのパックの倍以上の値札がついた6個入りの卵パックを無造作に掴み取ってカートに入れている。

使う素材がどれもこれもいいものだから…おいしく作れなきゃ失格よね…


上機嫌の蓮とは対照的にキョーコの頭は痛くなる。それでも、単に送ってもらうだけと思っていたこの時間が少し特別なものになりそうで、弾むような気持ちも湧き上がってきてくるのだった。


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コメントコメント


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いい感じになってきましたね。

おはようございます。珍しく朝に読んでしまいましたが、爽やかな展開で楽しく拝読させていただきました。キョーコちゃんは明暗どちらも持っているキャラクターで、どちらも微笑ましいこともありますが、あまりにグルグル暗い方向に考えている時はこちらがやきもきしてしまいます。そこに蓮さんの冷気が吹き込むと寒さ倍増!というかんじですが、今回は春風ですね。私もオムライスが食べたくなってしまいました。どうもありがとうございました。

Genki | URL | 2014/01/11 (Sat) 08:20 [編集]


Re: いい感じになってきましたね。

> Genki様

コメントありがとうございます!
おお、朝読んでも大丈夫そうな状況でよかったですー。
そうですよねー、キョコさんは基本明るいのにどうにも恋愛に関することには暗く内向きで。
それもこれもショータローのせいなのですが、蓮さんもそれを引き上げる術を持たないという…。前向きになれば素敵なカップルなのに!と身もだえする思いです。

ぞうはな | URL | 2014/01/14 (Tue) 23:04 [編集]