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こんばんは!
年末だーー!

更新がだいぶ空いてしまって申し訳ありませんー。
今年の更新は本日が最後で、次は来年、また少し間があくかもしれませんー!




蓮と社はスタジオを離れて楽屋へと戻ってきていた。
社が花束を机に置き、蓮はその前に置かれたソファに腰を下ろす。

結局また最上さんに強制するようなことを言ってしまっているよな…

キョーコが見上げてきたその表情で、直感的に光のところへ話をしに行くつもりなのだと悟った。
だけどだからと言って、「俺の楽屋へおいで」と言うなんて、断って戻って来いと言っているに等しい。キョーコは最初からそのつもりだったのか特にそれを不思議に思う風でもなく頷いていたのだが、改めて自分で考えてみるととんでもないことを言ったものだ。

だけどそうだ…彼女を傷つけるくらいならば、みっともないくらい足掻いてみる方がまだマシだろう。

これも自分に対する言い訳かもしれないけど、と思ったところで楽屋のドアがノックされた。
一瞬キョーコかと思った蓮は腰を浮かしかけるが、それにしては早すぎる。すぐに社が返事をして、開けられたドアの向こうから顔を出したのは甲子だった。
「や。お疲れ、敦賀君」
「ああ、三谷さんお疲れさまでした」
蓮は笑みを浮かべてソファから立ち上がった。甲子はそのまま「お邪魔します」と楽屋に入ってくると、蓮の向かいのソファに腰を下ろす。その手には先ほど渡された花束があり、甲子は先に置かれていた蓮のと並べるように自分の花束を置いた。

「無事に撮影が終わってよかった。敦賀君のおかげだね」
「いや、俺は何も。このドラマの撮影チームの力ですよ」
「ふふ、謙遜しなくていいのに」
甲子はちらりと社の方に目線を走らせた。社は部屋の反対側で手帳を手にして素知らぬ顔をしている。

「でも、さすがに編集の時間ぎりぎりだって。これからすぐに入るみたい」
「すぐに放映日ですよね。俺のスケジュールのせいで申し訳ないです」
「えええ?いいんだよぉ。だって急に敦賀君にオファー出したのってこっちなんだし」
「そうかもしれませんけど…」
「まあ、終わったその日にぱーっと打ち上げできないのが残念ってくらいかな?」
編集の作業がつまっているため、ドラマの打ち上げは日を改めて設定されていた。そのためこの日はクランクアップと同時に解散になったのだ。
「それは残念でしたね」
蓮は穏やかに返した。甲子のキャラクターは飲み会では場の盛り上げに一役買って重宝されるらしい。他の共演者から蓮はそう聞かされていたのだが、どうやら甲子自身もそういう場が好きらしい。

「ねぇ、敦賀君。今日この後予定がなかったらさ、ご飯食べに行かない?」
甲子に上目がちに言われ、蓮は申し訳なさそうに答えた。
「すみません、今日はちょっと都合がつかないんです」
「仕事?」
「いえ、仕事ではないのですが」
プライベートだと告げる蓮の微笑みは、柔らかくはあるがこれ以上聞くなという壁の存在も見せるような器用なものだ。
甲子は顔から笑みを消すと、ふう、とため息をついた。
「…そう……残念だなあ。私、敦賀君ほど真剣にお芝居の話できる人他にいないんだけどな。映画の話、したかったのに」
「申し訳ありません。あ、そういえば、この間偶然ですけど田村監督にお会いしたんです」
田村とは蓮と甲子が共演する映画の監督だ。甲子がやや怪訝そうに蓮の顔を見る。
「三谷さんと映画の話をしたという事を田村監督にお話ししたんです。そうしたら田村監督喜ばれて、『今度は俺も混ぜろ』ってすごく乗り気でしたよ」
「ええっ?」
「だから今度、田村監督とご一緒しませんか?きっとその上で役作りしたら、いい作品が作り上げられると思うんです」
「田村監督と?」
「ええ。是非に、とのことでしたが」

むーー、と口をつぐんだ甲子はじっと蓮を見つめた。蓮も微笑みを貼り付けたまま「なにか?」と言わんばかりに無言で返す。
甲子は大きいため息を吐き出すと、ソファにもたれた。
「じゃあ分かった。田村監督とのは別にして、2人でまた食事に行かない?」
「2人でですか」
「うん。この間はお芝居の話しかしなかったけど、敦賀君の普段の事とか、興味あるなって思って。映画撮影前に親睦を深めると思ってさ?」
「そうですね…ですが、今の状況ではちょっとそれは」
「なんで?」
不満そうに肘をついて聞き返してくる甲子に、蓮はにっこりと笑ってみせた。

「先日の週刊誌記事が出たので、うちの事務所でも気をつけるようにと注意を受けてるんですよ」
「光君と京子ちゃんの事?」
「ええ。うちの社長は愛の伝道者を自称するだけあって、あまりうるさくは言われないんですけど」
「じゃあいいじゃない?光君と京子ちゃんだってなんかあれ以来いい感じだし」
「あの日は三谷さんの都合が悪くなったから2人で食事に行くことになったと伺いましたけど」
「ああ…うん、そうよ。光君から聞いたの?」
甲子は軽く笑うと素直に認めて聞き返した。

蓮は首を小さく横に振った。
「いえ。それにしても最近の週刊誌ってどこから情報仕入れてるんでしょうね。2人が行った店は住宅街の中の分かりにくい場所で、繁華街からも少し離れたところだったとか。ああ、確か三谷さんのお勧めだったんですよね」
蓮の言うことは確かに間違っていないのだが、甲子は何を聞かれているのかと少し警戒心を持つ。何より、先ほどから蓮の表情が全く変わらないのが少し怖いくらいだ。しかし甲子は平静を保って頷いた。
「私もびっくりした。あんなところで写真なんて撮られたら、気軽に出歩けないよね。たまに行く店なんだけど、逆に2人には迷惑だったかな」
「いいえ、そんなことはないと思いますよ。お店自体はとてもいいところで料理もうまいと聞きました。先日の麻布の店といい、三谷さんはさすがいい店をたくさん御存じですね」
「いや、そうでもないけど…」
「ともかくあの件以来、真剣な交際は禁止しないが事実と違う報道をされて誤解を生むような行動は避けろ、ということを社長から言われているんです」
「誤解って、マスコミに?」
「はい。事務所からの注意はそういう意味ですね。でも俺にとって避けるべき誤解はそれだけではありません」
「好きでもない女とご飯食べに行って、相手に誤解されるって?」

笑いながらも探るような甲子のセリフに、蓮は静かに首を横に振った。
「それも全くないとは言いませんが…それよりもっと、誤解されたくない相手がいるんです」
「ああ、なんだ。敦賀君の恋人の話?」
甲子は髪をかきあげながら笑った。今まで聞いたことはなかったが、いたとしてもおかしくはないだろう。しかしそんな事を言われたら存在を確かめない訳にはいかない。

「いいえ、俺には恋人はいませんよ。なかなか近付けない上に、少しでも誤解を与えればあっという間に距離を取られる、そんな人がいるだけです」
「もしかして片想いって…こと?」
「そうですね。そういうことです」
「うっそ、信じられないなぁ」
「どうしてですか?」
即座に驚いた声をあげた甲子に蓮は笑みを浮かべて聞き返した。甲子は両手を広げてソファにもたれかかる。
「だって敦賀君だよ?声かければ、どんな女の子だって拒否なんてしないでしょ」
「そんなことありませんよ」
「ええー?やっぱり信じられない」

蓮は肩をすくめると少し目を伏せた。
「それが事実なので仕方ないですね」
「なんで?敦賀君の事好きな人の方が多いのに!なんでまた、そういう大変な方にいっちゃうのかな」
軽く放たれた甲子の言葉に、蓮は真面目な顔で真っ直ぐに甲子を見つめる。
「簡単にうまくいくとか、何かの条件が合うとか、そんなことで人を好きになる訳ではありませんからね…」
「…本気なんだ?」
少し首をかしげて耳に髪をかける甲子に、蓮ははっきりとうなずいた。

「はい…これ以上無いほどに」
「ちなみに、相手って私が知ってる人?」
意地悪な笑みを浮かべて甲子は尋ねた。蓮は困ったように首を横に振る。
「それは秘密にしておきます。砕け散った時に恥ずかしいですから」
「またまた」
甲子は茶化しながらソファーから立ち上がった。
「敦賀くん、流行りの草食系ってタイプかと思ったら違うんだね」
「草食と言う訳でもないですよ」
「ふふ。単純に獲物が決まってるから他に見向きもしないってだけでしょ?」
「…ああ、そういうことになるんですかね」
「思ったより真面目だなあ」
「真面目じゃないですよ」

苦笑した蓮に、甲子は尋ねた。
「真面目じゃなくて遊び慣れてるなら、その経験で攻めればいいじゃない?」
蓮は遠くを見る目で呟くように答える。
「経験とか駆け引きとか…そんなの、通用しない相手なんですよ。相手の気持ちを自分に向けてもらうには、真剣に向き合うしかないんでしょうね」
甲子はしばらく蓮を見つめていたが、ひとつ息を吐きだすとテーブルに置いた自分の花束を手に取った。
「さて、行くね。これ、敦賀君の花束の方が私の好みだな」
甲子の受け取った花束はキョーコと同じ、ピンクが基調の可愛らしいものだが、隣に置かれた蓮の花束は落ち着いた深い色合いのものだ。
「京子ちゃんはすごく気に入ってたみたいだけど、子供っぽいよね」
その甲子の言葉に蓮がくすりと笑う。
「何がおかしいの?」
「いや……」
「やだ、思い出し笑い?」
「いえ、最上さんならその花束のバラを『王女様』って言いそうだなと思いまして」
「あはは、京子ちゃんメルヘンチックだね。じゃあ、また来月の撮影、よろしくね」
甲子はそう笑って言うと、軽く手を上げて蓮の楽屋から出て行った。

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コメントコメント


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すごくお上手ですね。

こんばんわ。とても面白かったです。甲子さんはオリジナルキャラクターとしては如何にもいそうで、今までいなかったタイプですね。大成功の存在感です。調子が良くてずるそうで応援したくなりました。←すみません、変な趣味ですね。つい、ドラマなどでも悪役に肩入れするのが好きなもので。彼らのおかげで物語が盛り上がるわけですから、悪役さまさまです。このお話での蓮様との会話は二人の表情が見えるような臨場感でした。この次も楽しみに致しております。ありがとうございました。

Genki | URL | 2013/12/31 (Tue) 00:09 [編集]


Re: すごくお上手ですね。

> Genki様

あけましておめでとうございます になってしまいましたー!
コメントありがとうございます。
スキビの原作にはずるくて調子がよくて主役の2人をかき回すようなキャラは出てこないんですよね。(モー子さんにちょっとだけ絡んだ彼なんかはちょいと当てはまるかもしれませんが)
悪役というには悪さが足りない気がしますが、盛り上げてはくれているかな?
今年も、次までは少し間が空きそうですがよろしくお付き合いくださいー!

ぞうはな | URL | 2014/01/01 (Wed) 19:29 [編集]