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こんばんはー!
おおお、よかった、通常通りの更新です。でもそうやってホッとすると週明けが遅れる場合が…!





「ごめん、家のそばまで来てたのに遅くなっちゃったね」

蓮に促されて歩きながら、ようやくキョーコは気がついた。
「あの、もしかしてずっと待ってらっしゃいましたか?」
「ううん?あの後他の局で打ち合わせもあったし、それほどでもないよ。それに約束をしていたわけでもないから気にしないで。最上さんは仕事だったの?」
「あ、いえ…仕事ではないですけど……」
まさかふらふらと事務所に行ってしまった挙句奏江にとっ捕まって入れ知恵をされたとは言えない。うにゃむにゃと言葉を濁すキョーコに、そういえば、と蓮が切り出した。

「さっき社さんに変なこと言わなかった?」
「私がですか?」
追求されずにほっとしていたところに思いがけない質問が降ってきて、キョーコは本気で考え込んだ。そして、社に会ったシチュエーションを思い出すと同時にぴきんと固まる。
「うあ…すみません、あの……」
「なんで君の口から三谷さんの名前が出るの?お幸せにって、どういう意味?」
「ひえぇぇぇえええ、あの、ととと特に深い意味は…!」
「浅い意味ならあるの?」
「いえあのぉ…!」
「説明してくれるよね?」

はうっとキョーコは息を呑んでフリーズしたが、蓮も紳士の笑顔で黙ってキョーコを見ている。これは逃れられない、とキョーコは覚悟を決めた。

「あの……麻布の○○というお店、ご存知ですか…?」
「麻布の○○…?」
蓮は視線を上に上げて考え込んだが、すぐに思い当たったようではっとした顔になった。しかしそれも一瞬のことですぐに元の張り付いた笑顔に戻る。
「ああ、知ってるよ」
「あの、知り合いがそのお店で敦賀さんと三谷さんを見かけたって…」
「うん、確かに最近その店で三谷さんと食事をしたかな。だけど、もちろんその場には社さんも三谷さんのマネージャーもいたよ」
「えっ?そうなんですか?」
「そう。社さんに聞いてくれても構わないけど」
「いや疑ってる訳では」
慌てて両手を振りながら、キョーコは心の中で尚に罵声を浴びせる。

なによ適当なこと言って!2人っきりじゃなかったんだったら、ちゃんとそう言えばいいじゃないの!

「知人って誰?誰が最上さんにそんなことを?」
「え?」
キョーコの両手がぱたりと止まった。
「仮に俺が目撃されたとして、そんなことをわざわざ君に言うのも不自然だな」
「いえあの、たまたま話の流れで…」
「誰?」
「う……」
「言えないような相手?」
「ち…がいますけど……その、ショータローに…聞いて……」
途端に蓮からひやりとした冷気が流れてくる。
「ふうん…君はまだ彼と会ってるのか」
「ち!違います!この間スタジオの前で待ち伏せされたんです!!」
キョーコは冷や汗をかきながら必死で弁解した。

あの男、自分の知らないところでそんなことを最上さんに吹き込んでるのか…まったく、変なことにはマメなんだな。

キョーコの周りを相変わらずちょろちょろする男に腹が立つが、そこを追求し始めるとまたキョーコを怯えさせてしまいそうで、蓮はなんとか尚のことを頭から追いやった。
「そうなのか…でもそれだけでなぜ、"お幸せに"なんて言葉が出るんだ?」
「それは……」
黙って蓮に見下ろされ、キョーコは静かな威圧感に負けて素直に白状した。
「あいつが、敦賀さんと三谷さんがいちゃいちゃしてたって言ったのでそう思ったんです」
「いちゃいちゃ?」
ぴくり、と身じろぎした蓮は少しだけ考え込むと首を左右に振った。
「なるほど…彼はそうか、俺たちが店を出るところを見てたんだな」
「……」

探るようなキョーコの瞳の色に、蓮は笑顔を浮かべるとさらりと説明をした。
「三谷さんがね、ワインを飲みすぎて足元がおぼつかなかったんだ。腕を貸して欲しいと頼まれて貸した。ただそれだけだよ」
「はあ…」
「なんだ、まだ疑ってるの?それって最上さんと石橋君のスクープを書いた記者と同じ思考回路じゃないのか?」
「疑ってません!すみません、別に敦賀さんに弁解させるつもりは!」
「ああ、いいよ。…疑われたままよりこうやって誤解を解けたほうがいい」
「だからその、疑ってはいなかったんです……あ、ありがとうございました。こんなところまでわざわざすみません」
ぶらぶらとゆっくり歩いていた2人だったが、距離がとても短かったこともあり、すでにだるまやの裏口にたどり着いていた。

「いや、遅くにごめん。でも来てよかった。君が口きいてくれなかったらどうしようかと思ったから」
「そんなことしませんよ!」
「そう?でもこれで明日の撮影はすっきり臨めるかな」
蓮の言葉に、キョーコの目が少し大きく見開かれた。
「…そうですね!明日はよろしくお願いします」
深々と頭を下げたキョーコに対し、蓮は軽く手を上げると来た道を車に向かって戻った。蓮が車に乗り込みエンジンをスタートさせて走り去るのを、キョーコは裏口の前でじっと見つめる。

やがて車が見えなくなると、キョーコは引き戸を開けながらそっとため息をついた。

び………っくりしたあ!
まさかこんなところまで敦賀さんが来るなんて、思わなかったー!
敦賀さんももしかして、気にしてくれてたのかな…?今日の敦賀さんってあのカインの時と似た雰囲気だったしなぁ…んーでもやっぱり、なんであんなに怒ったかは分からないままなのね…もう気にしても仕方ないかな。

三谷さんのことも…腕を貸しただけって言ってたけど。うっかりほっとしちゃったけど…って、何で私がほっとするのよ!?
もう、関係ないんだから!

…でも、その時は腕を貸しただけでも、三谷さんに対する気持ちは分からないわよね。
だって、敦賀さんがなんとも思ってない時ってそういう態度とるもの。でも三谷さんが言ってた感じだと、三谷さんには好意を示してたってことだものね…

蓮がさらりと答えた言葉と、三谷が語った言葉の温度が少しずれているような気がする。キョーコは"関係ない"と言いつつ、やっぱり考え込んでしまっていた。しかし、ふと顔を上げて思いついたように携帯を取り出した。

そういえば…敦賀さん、どれくらいここにいたのかしら?

着信履歴を改めて開き、自分が気がついてとった電話の30分前と1時間前に、それぞれ蓮からの不在着信の履歴があることに気がつく。

「きゃー!もしかして、1時間も待たせちゃったの??どーしよーーー!!!」
突然の大音響の叫びに、店からちょうど引き上げてきただるまやの大将と女将は飛び上がったのだった。


蓮はハンドルを握ったまま思考の中にいた。
すでに深夜に差し掛かった道は空いていて、たまに対向車のヘッドライトが車の中を照らすのみだが、光に照らされた蓮の顔にはうっすらと笑みが浮かんでいた。

考えてみれば…俺と三谷さんのことを気にしてくれていたということだよな?

社から伝えられた直後は、キョーコが"三谷"という名前を口にしたことへの疑問と不快感しか感じなかったのだが、落ち着いてみれば少し気になるとか妬けるとかそういう感情があっての事ではないかという期待が湧いてくる。

かといって…過度な期待は禁物だな。

蓮は自分を戒める。
なにせ相手は最上キョーコだ。過去にどれだけほのかな期待をばっさりと裏切られたことか。それでも、と蓮は思い直す。

少なくとも、まったく俺に興味がないってことはないよな?

あれだけひどく当たってしまっても、謝罪をすれば素直に受け入れてもらえることが本当にありがたいと思う。過去、自分が感情的に嫌な振る舞いをしてしまった時はことごとくキョーコからの歩み寄りに救われた。
今回はなんとか自分から誤りを正せただろうか。そもそもあんな感情的に制御できない態度をきっぱりとやめられれば一番いいのだろうが。

車を走らせながら、とりあえず翌日のドラマ撮影でとてつもなく気まずい状態は回避できたことに蓮は胸をなでおろしていた。それでも、自分、キョーコ、光、甲子と、お互いの懸念の中に現れる人物が集合するのだ。仕事が第一ではあるが、それ以外では些細なことでもキョーコとの関係を悪化させるようなことは避けなければならない。
蓮は心の中でしっかりと念じ、ハンドルを握る手に力を込めた。


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コメントコメント


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馬の骨って可哀想…

今晩わ。馬の骨って可哀想ですね。敦賀さんにとってキョーコちゃんの真意を測るためのものさしみたい…甲子さんもちょっといたずらが過ぎたかもしれないけれど、敦賀さんが似非紳士だからいけないわけだし。それなのに、主役二人は天然でニブイし。自分が馬の骨側の人間だったらどんなに悲しいかしら、と考えてホロリとしていました。変な方向にばかり頭が行っていますが、楽しんで読みました。どうもありがとうございました。

Genki | URL | 2013/12/20 (Fri) 23:35 [編集]


Re: 馬の骨って可哀想…

> Genki様

確かに馬の骨って報われなくて可哀想なんですけど、とりあえずキョコさんも蓮さんもその人をたぶらかしたり利用したり惑わしたりしている訳ではないんですよね。
つまりはニブくて本命しか見えていないのが原因と言うか。
でも少なくとも蓮さんは向けられる好意には気付いてうまく回避しそうです。今回の甲子さんは蓮さんに好意を見せるだけでなく裏でなにやら動いているのが間違いの元っぽいですね…

ぞうはな | URL | 2013/12/22 (Sun) 07:50 [編集]